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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）

新書で読む現代世界・現代文化

坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』、ちくま新書、2004年

担当者：林　宏子、武田裕藝、田村祐樹

司会：井出

記録者：中村雄一、梅田義久、新出幸宏

林の報告

大まかな内容･･･戦前日本史の最大転換期にあたる昭和11、12年ごろの出来事を分析

第１章反乱は総選挙の直後に起こった

１．前史としてのエリートの二極分裂

陸軍皇道派　　ＶＳ　　陸軍統制派
政友会　　　　　　　　　社会大衆党（親軍）、民政党
平沼系右翼　　　　　　新官僚
青年将校　　　　　　　　天皇側近や総理大臣経験者など

２.．総選挙と２・２６事件

昭和１１年２月２０日総選挙
　　　　　　　　　　　２６日青年将校の反乱→一時的成功も鎮圧される
　　　　反乱の目的　統帥権干犯への批判、天皇機関説排撃
　　　　実は反乱より６日前の総選挙の分析が重要･･ファシズムへの注目の影で目立たず。

第２章陸軍も大きな抵抗にあっていた

１．特別議会での攻防

昭和１１年５月第６９特別議会

　　社大党麻生久VS民政党斉藤隆夫　正面から対立（陸軍パンフレットや軍拡巡り）　

以前は自由主義者の斉藤＝善玉、親軍部の麻生＝悪玉と考えられていたが、実際に民意を尊重したのは麻生の方である。

２．　「保守党」と「急進党」の「人民戦線」

　昭和１１年１１月中旬の大森義太郎の論文（昭和１１年１２月（日中戦争の８ヶ月前）の「改造」に掲載）

「（政友会・民政党両党の）少壮部はいわば自由党として人民戦線の勢力に属すべきものである」

社大党を排除した反戦勢力→検閲に引っかからず　

同論文の意義･･日本が戦争へと突き進んだ理由は戦争、ファシズムに関する報道・言論の自由がなかったからでは決してない。（筆者による痛切な批判）

第３章平和重視の内閣は流産した　

1．広田弘毅内閣の退陣　

2．宇垣一成の組閣失敗

理由１･･石原莞爾中心の陸軍中堅層が阻止

理由２･･内大臣湯浅倉平　陸軍が陸相の推薦を拒否→陸相の勅命任命を主張した宇垣に対し、２・２６の反省から流血を伴う不祥事を回避したかった湯浅がこの申し出を拒否

３．宇垣内閣構想の長期的意味

戦争と平和、ファシズムと立憲制
　政友会・民政党両党の支持を得た宇垣内閣の流産が戦争回避の失敗を招く（ファシズムへの方向付け）

第４章対立を深める軍拡と生活改善

１．「狭義国防論」の登場　陸軍の拡大のみ主張（大衆経済は無視）

２．「広義国防論」の反撃　資本主義の改善と陸軍の拡大を主張

←２・２６から日が経ち、戦時色薄まった結果

第５章戦争は民主勢力の躍進の中で起こった

←従来の歴史の誤りを指摘

１．「民主主義」と「戦争」　

通説･･２・２６以降のファシズム台頭→盧溝橋事件
　実際･･言論はまだ自由（議会や言論界での、陸軍の対中ソ戦準備に対する批判など）　　

２．　「戦争」と「民主主義」

昭和１２年４月３０日　第２０回総選挙（林内閣後）における社大党大躍進
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　→戦後政界での発展基盤に

　　　　　　　７月７日　　日中戦争勃発･･この間2ヶ月の民主主義も力及ばず･･

昭和２０年８月　　　　敗戦　

３．「戦前日本」の終焉

結論：　平和と民主主義がワン・セットというのはあくまで戦後の常識に過ぎず。民主主義は必ずしも戦争を止められるわけではない。

武田のコメント

戦前の歴史認識は戦後つくられた。例えば、歴史家は昭和十一年の二・二六事件が日中戦争につながる経緯に注目しても、その一週間前の二・二〇の衆議院選挙において民意が反映されたことに充分に関心が払われていない。また戦後の｢平和と戦争｣の二項対立の図式では戦争へ至る経緯が十分に説明できない。実際はもっと複雑で｢軍部批判対経済体制の変革｣が議会で対立軸になっていた。

加えて、戦後の歴史認識では「戦前は言論の自由がなく、世界情勢や議会での軍部批判といった情報を国民が得られず戦争に突入した」という説が一般的だが実際には大森論文や朝日（新聞）の論説委員だった武藤の論文に見られるがごとく、言論の自由はあった！！

ではなぜ戦争をおこなったのか。このことと直接関連するか不明だが、議会政治に批判的だった「天皇機関説」の美濃部が円卓巨頭会議を提唱するがこの会議は議会の存在を形骸化する。

戦争への遠因として1920年代の恐慌（震災恐慌・昭和恐慌のことか？）で貧窮した国民生活の改善が政友会・民政党といった既存の政党下では実現されなかったことが挙げられる。もし有効な国民生活の改善策がとられていたなら社大党は反資本主義的な態度を弱め、政・民との連携が可能となり、戦争を回避するための人民戦線政府が成立したかもしれない。

戦後の歴史認識では、「反軍」と唱えた民政党の斉藤が善玉で「軍拡」を支持した社大党の麻生は悪玉となっているが、斉藤を含めた民政党は国民生活の問題、失業問題などには冷淡であった。その点で麻生はより具体的に社会民主主義政策を掲げており国民生活の改善策においては麻生の方に分があった。単純極まる善玉悪玉論は戦争に向かう真の理由を覆い隠す。

最後に、戦争回復にために期待されたのが、政･民両党の団結のもとに宇垣大将を首班とする内閣構想であった。この構想では、形式として民主的でない立憲独裁と政策面で批判の多い議会制民主主義の特徴を兼ねた国政運営が予定されていた。仮に宇垣内閣が成立していたならば日中戦争は起こらなかったのではないか。しかし宇垣組閣に反対する陸軍の横車や二・二六事件の負の遺産におびえる湯浅内大臣の消極的態度が戦争回避の最後の切り札であった宇垣内閣を流産させた。　

田村のコメント

｢戦前日本においては、国民の言論の自由がなかった。｣という誤った歴史認識がある。実際には発言の自由はあった。

「戦争はファシズムの産物である」とも言われるが、現実民主主義下でも戦争は起こりうる。‥政治的な部分、民主主義、議会制を事実以上に正当化しているのではないか。

＜戦争に向かった実際の原因＞

国内の政権争い‥政党が発言力を強めるために軍部と結びついた。結果、軍部の力が強力になった。
国民の意識‥身近な経済問題　＞　戦争回避　　→戦争への切迫感の欠如

戦争という行為が無条件で悪であったというわけではない。

＜理由＞

武力があると潜在的に戦争は起こりうるものであり、近代では合法の下で起こる。
明治に取り付けられた不平等条約により、軍部の存在、軍拡が必要であった。

（国際的に近代国家として認められておらず）

では、戦争の責任はどこにあるのか？？

アジアの植民地域に対する日本の責任
　東京裁判において、軍部の一部中心人物のみが処罰された。（責任の所在は曖昧に）
　　→本当の責任を取る意味ではなく、アジア諸国との関係を円滑に持っていくために「日本が責任をとる」形式上の意味。

結果、国民に罪はないという誤った認識が生まれたとも考えられる。

これまで見てきたように、実際には、昭和１１年～１２年の間に戦争は避けられたのではないか。そこに国民に切迫感がなかったのが大きな要因であるといえよう。戦争に対する責任は国民にもあったといえるだろう。

質疑応答と討論

記録者からのお詫び

質疑応答は記録落ちでした。すみません。

Q1（永井）：発表者の皆さんに質問。この本の最重要ポイントは何であるか？

A1（林・田村）：「戦前は言論の自由がなく、また世界情勢や議会での軍部批判といった情報を国民が得られなかったため戦争に突入した」という戦前の歴史認識は戦後につくられた、ということだと思う。

A2（武田）：それに加えて、「２／２０の総選挙→宇垣内閣の組閣失敗」これが昭和史の「決定的瞬間」だったのではないか、ということ。

（永井）「民主主義は戦争を阻止できなかったが、戦争は民主主義を抑圧できた」。これが筆者の第一主張ではないだろうか。これは、現在にも当てはまることであり、イラク戦争をみてもわかるように、「民主主義だから安心」とは決して言えない。ちなみに、２／２０の総選挙の結果をどう解釈するか、という問題は以前から重要視されていたのであって、坂野がはじめて注目したわけではない。坂野氏の歴史は、過去の分析のかたちをとっているが、常に現在の問題に対する発言である。本書もイラク戦争と日本のコミットメントという現在の問題を強く意識したうえで書かれている。誤った戦前の歴史認識を正し、正確な歴史を伝える（過去の事実の正確な復元）という、アカデミックな歴史学的な意図は筆者の頭の中ではそれほど重要視されていない。

【永井の追記】

おそらく坂野氏がこの書物の執筆に着手した時点では、いちばん言いたかったのは、昭和11年～12年前半の政治的状況次第、政治選択次第では、日中戦争の勃発と拡大を避けることができたはずである、宇垣流産内閣が成功しておれば、日中戦争は起こらずにすみ、その後の日本のコースは大きくちがったにちがいない、というものであったと思われる。

この考え方の基盤には、当時の日本にも、ヨーロッパのそれとはかなり内容が異なるが、戦争とファシズムに反対するという意味では、広義の「人民戦線勢力」と呼んでよい政治勢力が幅広く存在しており、まだまだ活動できる余地が残されていたのだから、その勢力が宇垣内閣の下で結集すれば、戦争とファシズムを志向する勢力を押さえることができ、戦争を回避できたのではないかという、坂野氏の判断が下敷きになっている。

この判断を、言葉を変えて言い直せば、「日本でも民主主義が結集すれば、戦争を阻止できた」となる。つまり、この書物で著書が最初に言いたかったのは「民主主義は、戦争を阻止できた」のはずであった。しかし、上の質疑応答でも指摘したように、実際には、この書物では、「民主主義は戦争を阻止できなかったが、戦争は民主主義を抑圧できた」という主張の方が、強く打ち出されている。もちろん、この後者の主張は、本書が最初に予定していたはずの「言いたいことと」は、微妙にズレている。「戦争を阻止できた」可能性の強調が、「阻止できなかった」結果の強調へと、途中でズレが生じているのである。このズレは書物の構成からすれば、大きな齟齬をきたしかねない、危険性をもっている。

もちろん、このズレをもたらしたのが、イラク戦争と日本の参戦という目の前の現実であったことは、あらためて指摘するまでもないだろう。目の前の日本政治の現実を見れば、「民主主義は戦争を阻止できた」という線で本書をまとめることは、とうていできないと感じたからこそ、坂野氏は、構成上の危険を冒してまで、敢えて「民主主義は戦争を阻止できなかったが、戦争は民主主義を抑圧できた」という主張を、入れたのだと推測される。私が、質疑応答と討論の際に、「坂野氏の歴史は、過去の分析のかたちをとっているが、常に現在の問題に対する発言である。本書もイラク戦争と日本のコミットメントという現在の問題を強く意識したうえで書かれている」と指摘したのは、今指摘したような意味である。

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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）

新書で読む現代世界・現代文化

坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』、ちくま新書、2004年

林の報告

第１章 反乱は総選挙の直後に起こった

１．前史としてのエリートの二極分裂

２.．総選挙と２・２６事件

第２章 陸軍も大きな抵抗にあっていた

１．特別議会での攻防

２． 「保守党」と「急進党」の「人民戦線」

第３章 平和重視の内閣は流産した

1．広田弘毅内閣の退陣

2．宇垣一成の組閣失敗

３．宇垣内閣構想の長期的意味

第４章 対立を深める軍拡と生活改善

１．「狭義国防論」の登場 陸軍の拡大のみ主張（大衆経済は無視）

２．「広義国防論」の反撃 資本主義の改善と陸軍の拡大を主張

第５章 戦争は民主勢力の躍進の中で起こった

１．「民主主義」と「戦争」

２． 「戦争」と「民主主義」

３．「戦前日本」の終焉

武田のコメント

田村のコメント

＜戦争に向かった実際の原因＞

＜理由＞

では、戦争の責任はどこにあるのか？？

質疑応答と討論

記録者からのお詫び

第１章反乱は総選挙の直後に起こった

第２章陸軍も大きな抵抗にあっていた

２．　「保守党」と「急進党」の「人民戦線」

第３章平和重視の内閣は流産した　

1．広田弘毅内閣の退陣　

第４章対立を深める軍拡と生活改善

１．「狭義国防論」の登場　陸軍の拡大のみ主張（大衆経済は無視）

２．「広義国防論」の反撃　資本主義の改善と陸軍の拡大を主張

第５章戦争は民主勢力の躍進の中で起こった

１．「民主主義」と「戦争」　

２．　「戦争」と「民主主義」