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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）

新書で読む現代世界・現代文化

原武史『皇居前広場』光文社新書、2003年

司会：武田裕藝

記録者：林宏子、田村祐樹

佐藤の報告（書物の内容紹介）

皇居前広場＝｢何もない空間｣

現在の皇居前広場は、他国の広場（例えばパリのコンコルド広場など）に比べ圧倒的に人が少なく、全くといっていいほど活用されていない。が、皇居前広場は初めから人が集まらない場所だったわけではなく、戦前には様々な天皇制儀礼がそこで行われ、｢国体｣を可視化する最も重要な舞台であった。戦後の占領期にも、占領軍の軍事パレードや左翼勢力による集会などが頻繁に開催された。皇居前広場はかつては人の集まる「政治空間」だったのである。だが１９５２年の４月２８日～５月１日～５月３日の１週間を境に広場のありようは大きく変わってしまった。筆者は、昭和の思想や、戦後独立期の人々の天皇に対する考え方などをはかるの手がかりとして、皇居前広場に注目した。

第１章　皇居前広場とは何か

京都紫辰殿南庭(京都御所)や大極殿前庭(平安神宮)が、韓国や中国などの建物といった｢モデル｣をもっているのに対し、皇居前広場はいわばなし崩し的に偶然成立したものである。

第２章　｢無用の長物｣・・・第Ⅰ期(１８８８年～１９２４年)

・奠都３０周年祭(１８９８年)

京都にこだわる明治天皇が出席して、宮城前広場(皇居前広場は１９４８年までこう呼ばれた)で行われた唯一の儀式

・関東大震災(１９２３年)

宮城前広場を罹災民に開放、約３０万人を収容

このことで宮城前広場は一般民衆にかなり近づいたはずであったのに、裕仁皇太子の結婚を前に次々と罹災民たちが自主的に去り、広場は｢昭和天皇の広場｣となる。

第３章　天皇制の儀礼空間として・・・第Ⅱ期(１９２４年～１９４５年)　

・１９２８年１２月１５日の親閲式

←宮城前広場の発展を象徴的にあらわす事件

雨の中、至近距離から天皇を見るという体験・天皇と八万三千の｢臣民｣が一体に。
　｢君民一体｣の｢国体｣を可視化する最大の政治空間へと変容しはじめる。

・戦中の天皇の神化

・二重橋の象徴性

天皇がいなくても、二重橋そのものが｢拝む対象｣に

・敗戦、国体の瓦解

第４章　占領軍・左翼勢力・天皇・・・第Ⅲ期(１９４５年～１９５２年)

占領軍・左翼勢力・天皇の三勢力が広場をめぐって攻防

・占領軍の進駐(１９４５年１０月)、観閲台の設置(１９４６年３月)、軍事パレード

一時的に｢何もない空間｣から｢観閲台のある空間｣へ

・メーデーの開催(１９４６年５月)、左翼勢力の台頭

天皇制を支える最大の政治空間だった広場が、反対に天皇制打倒を叫ぶ最大の政治空間に変容。
　言葉を媒介とする政治が広場に初めて導入された。

・二・一ストの中止、｢人民広場｣という言葉の登場

｢人民広場｣・・・天皇のためでも占領軍のためでもない、人民のための広場だという意味

・国民公園へ、｢宮城｣を｢皇居｣に改称、一般参賀(１９４８年)

・メモリアル・デーと五・三〇事件人民決起大会(１９５０年５月３０日)

占領軍と左翼勢力が真っ向から対立、皇居前広場での左翼勢力の集会の禁止

・独立回復(１９５２年４月２８日)　ＧＨＱ撤退

・血のメーデー(１９５２年５月１日)

神宮外苑で開かれていた｢統一メーデー｣のデモ隊が皇居前広場に結集・デモ隊６千人と警官隊５千人が衝突
　皇居前広場における左翼勢力の完全な自滅
　　　→３勢力のうちＧＨＱと左翼が消えて残ったのは天皇のみ

・｢平和条約発効並びに憲法施行５周年記念式典｣(１９５２年５月３日)

天皇が肉声で退位を否定←言葉を媒介とする政治を持ち込んだ左翼勢力の遺産

第５章　空白と復興と・・・第Ⅳ期(１９５２年～１９８６年)・第Ⅴ期(１９８６年～現在)

・皇太子の登場、結婚(１９５９年４月１０日)

皇居前広場がつかの間の熱狂の渦に包まれる。

・天皇在位６０年記念式典、天皇制儀礼の復興(１９８６年)

３４年間の空白を破り、広場が再び天皇を主体とする大規模な儀礼の舞台として復活させられる。

・昭和天皇の死、『記録・天皇の死』(１９８９年１月７日)

記帳に来た人々との対話・占領期の演説のように１人の人間が不特定多数に向かって語りかける形式とも違った、市民同士の対等なコミュニケーション　

第６章　再論・皇居前広場とは何か

・｢公共性｣の問題

　｢言語性｣の不在による公共性の不在、話しづらい空間

・永続的な威風堂々の建築物の不在

・類似的空間・伊勢神宮

｢故殿地｣非永続的な社殿(２０年ごとに作り変えられる)と空き地になった後の何もない空間

・２１世紀の皇居前広場

広場がこれまで果たしてきた政治的役割を過小評価してはならない
　集会やそれに類するものが開かれることにより｢ぷちナショナリズム｣があおられる危険性
　｢何もない空間｣を｢公共的空間｣にできないか？
　組織を主体とした、あるいは同じ目的を持った人たちだけが会合する集会という形式にこだわらない、１人１人の市民同士による多様なコミュニケーションの場するべきだ。もっと気楽に立ち寄れる場所にしよう。

周東のコメント

第一期

明治＝ナショナリズムの時代＝「天皇の国民」

天皇があまり人前には姿を現さなかった。御真影（宮内省から一部の学校などに交付された天皇、皇后の写真。1930年代にはほぼすべての学校に普及）などの形が一般的であった。

⇒天皇が抽象的で神的な存在に。

大正＝デモクラシー、民本主義の時代＝「天皇なき国民」

民本主義…「主権がどこにあろうと、政治の目的は国民の利福にある」、「政治の決定は、国民全体の意向に基づく」

⇒天皇をいただいた民主主義、天皇が不在のように振舞える。
　⇒国家の重要性が薄れる。明治以上に天皇が抽象的になる。大正天皇の希薄化。

第二期

昭和＝ウルトラナショナリズム＝「国民の天皇」

ウルトラナショナリズム…普通天皇が格上げ、神格化を受けたと考えられる。

⇒しかし実は逆の見方もできる。天皇は神としてだけ扱われていたわけではない。
　　　ex北一輝が天皇のことを「くらげの研究者」と呼んでいる。

昭和天皇は何度も身体を人前にさらす（距離が近いときも）。＝人々は天皇との隔絶性よりも親近感を感じる。

また神格化と親近感をは必ずしも対立するものではなく、ウルトラナショナリズムと天皇への親近感は同時に成り立ちうるものである。

※今でもW杯で勝ったときに天皇が現れたら、戦前の光景が繰り返されるかもしれない。

最近のニュース（皇太子の重大発言）に対して人々が親近感を感じる。

→昭和期と似ている。現在が必ずしもファシズムから遠ざかっているわけではない。

遠藤のコメント

一都民である自分（遠藤）から見た皇居前広場

…なじみがない。何もないのでいく機会がない。
　地理的にも中に道が通っていて「広場」として成り立っていないのではないか？
　警官がいて近づきにくい。
　公園でも広場でもない、どっちつかずの空間。

そのような空間の生まれた経緯は？

東京奠都（奠都＝都を定めること）は奠都という形では行われておらず、事実上は（法令、布告、通達、詔がない）遷都である。またきちんとした公式な形では言われていない。

←財政難（新しい都をつくるには、施設の整った江戸が好都合）
　　　天皇自身の意思（あまりこだわっていない）
　　　京都市民、公家の反対

※日本人の心性、天皇制のあやふやさを象徴する空間としての皇居前広場（機能的に無意味）

「皇居前広場とは『広場』という概念になじまない、日本に固有の空間」

田後のコメント

松下圭一の大衆天皇制論

絶対天皇制に於いて、天皇は「万世一系ノ天皇コレヲ統治ス」に表される「威嚇型君主、畏怖される存在、超人的存在」であった。一方、大衆天皇制においては、「国民の総意による国民の象徴」と規定された「平民的、スター的存在」となった。かくして脱政治家、脱軍事化した天皇は政治批判の対象とならぬばかりか、家庭的、庶民的イメージを前面に押し出す結果政治の「悪」をも大衆から隠す役割を果たすに到った。

鶴見良行の戦後天皇制の存在と意味論

戦前の天皇制の存在背景は、

１）氏族制的祖先崇拝の根源　
２）国を家、天皇を家父長として見立てる忠孝精神の対象
３）故に国民が臣民（subject）として服従する存在ではなく家父長的情緒、ナジミの概念を感じる非抽象的・原理的な対象

の三つが挙げられるとする。

松下圭一との見解の違いは、大衆天皇制は新憲法制の下で突如現れたものではなく、戦前から受け継がれるこれらの思想背景に基づいており、天皇を身近にする点で復古と言えるもの、と解釈する点にある。

→絶対天皇制と大衆天皇制は対立概念ではない、とする立場。

昭和和天皇崩御から見える皇室

天野恵一の指摘

自粛ムードを一番作り上げていたのはマスコミである。昭和天皇の容態悪化につれ、マスコミの報道合戦は激化。崩御に際しては「国民は悲しみに包まれている」と報道した。

しかし、現実には、新宿歌舞伎町の人手それ自体は普段となんら変わる所はなかった。

栗原彬らの皇居前広場での記帳者へのインタビューは、強烈なジェネレーションギャップを明らかにし、同時に今後の天皇制の行く末を暗示するものと考え得るのではないか？

また、栗原に行為が警官によって阻止されたことは、一方で皇居前広場の「政治的空間」としての再認識を意味するものと言えるだろう。

質疑応答と討論

Q1：広場を特別な意味を持つ空間としてみることは必要なのか？

A1：確かに今までの発表やコメントは「皇居前広場」の存在、機能自体を疑うものが多かった。しかしそうは言っても。「皇居前広場」で政治的な活動が行われていたというのは事実である。そのため皇居前広場を意味のある政治空間としてみることは意味があると考えられる。

Q2：1948年に「宮城」を「皇居」に改称したことの意味は？

A2：「城」と言う言葉は戦いなどのイメージを含んでいて戦前のイメージと直結しやすいと考えられてのではないだろうか。そのためそのイメージをなくすため、ただ天皇の住んでいる場所というイメージにするために改名したのだと思う。

Q3：東京奠都は非公式な形で行われたと言ったが、そもそも遷都には法令を出す必要があるのか？代が変わったときに天皇が住んでいる場所が都ではないのか？

A3：今はそのことに対して正確な資料がないので分からない。しかし当時、東京遷都については京都市民、公家の反対が激しかった。その中できちんと奠都をするとその反対が大きな障害になりかねなかった。それなので政府はそれに対処するためにあえて詔を出さず、曖昧な形で奠都を行ったと考えられる。

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