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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）

新書で読む現代世界・現代文化

木宮正史『韓国』ちくま新書、2003年

担当者：中村雄一、井出　　、梅田義久、新出幸宏、姫野哲明

司会：中條真梨絵

記録者：工藤春華、氏家久恵

中村の報告（一章と二章の内容紹介）

第一章　朝鮮半島における冷戦とその変容

1984年に朝鮮半島において南北分断国家が成立し、南北両側で金日成と李承晩が非妥協的単独政府を樹立した。

1950年には朝鮮戦争が勃発し、南北両政府は敵対感情を利用して体制を固め激しく対立した。この戦争は内戦と国際戦の両面を持っている。このとき日本は直接参戦はしていない。

休戦後、1950年代はソ朝中陣営が米韓日陣営に対して実質的に主導権を有していた。またこの時期、北朝鮮は日韓間に存在する植民地支配に起因する葛藤に着目し、対日接近に比較的積極的であった。この例として、在日朝鮮人の帰国事業が挙げられる。

1960年代には南北対立は、中ソ対立とベトナム戦争というより大きな国際対立の前に相対化され、変容していく。つまり、朝鮮半島はもはや国際冷戦の主たる舞台ではなくなった（国際冷戦と南北対立の遮断）。中ソ対立において、北朝鮮は韓国や西側との対立関係を強調することで、自立性を保つも、50年代とは異なり、中ソ両国が団結しての支援を得られなくなる。いっぽう、ベトナム戦争期に、日韓国交樹立が行われ、米韓日の結束が強化された。そのため韓国支援を日米が分担して行うようになる。ベトナム戦争は、韓国のベトナム派兵に見られるように、当初は南北対立を国際冷戦に拡大させたかに見えたが、じっさいには、南北対立を国際冷戦から遮断する効果をもっていた。

1970年代、国際的冷戦緩和の動きの中で、それまでの南北の外交政策上の違いが、徐々に接近へと向かいはじめ、南北対話の開始の動きがみられたが、これはすぐに挫折し、南北とも独裁体制を一層強化した。このことを、米ソ中ともに静観していたのである。国際冷戦緩和の動きは南北対立の緩和にはつながらず、逆にその影響を遮断するために、南北対立は局地化されつつ存続させられた。その結果、1980から90年代にかけて、冷戦終焉後も朝鮮半島冷戦は崩壊しないまま残ることになった。

韓国はこの時期（1980年代から90年代にかけ）に経済発展を遂げ、それを武器に北方外交を展開する。中ソと国交を樹立し、北朝鮮を外交的孤立に追い込もうとした。そしてこれにより北朝鮮は、瀬戸際外交をせざるをえなくなった。北朝鮮は自らの体制保障を目的とし核疑惑をカードに対米外交を進めたのである。

1990年から92年にかけて、国連への南北同時加盟など関係改善の動きが一時的に起こったが、長くは続かなかった。この時期、北朝鮮は核疑惑によってアメリカに北朝鮮の体制保証を迫ることで、朝鮮半島の情勢を国際化しようとしていた。一方で韓国は平和共存を重視する太陽政策を実行し、南北対立の改善に国際的枠組みを活用しようとした。

2000年から現在にかけては、南北首脳会談・共同宣言により日朝、米朝関係が進展した。しかし、ブッシュ大統領就任後、それまで進展していた米朝関係が悪化し、このことは南北、米朝関係にも影響を与えた。一章のまとめとして、朝鮮半島における冷戦の特徴として、局地化と国際化という二つの方向の力の拮抗および国際的枠組みと南北関係の両枠組みによって規定されるものであったことが挙げられる。

第二章　経済発展と経済危機

1980年代の民主化の時代まで、「光と影」という語にあるように、輸出指向型で発展してきた韓国経済には、驚異的な成長の陰に大きな問題があると、つねに悲観的に評されてきた。韓国は当時独裁体制の下におかれており、経済面でもその対外的脆弱性と財閥中心の経済である点が主な批判対象となっていた。しかしこの批判のあった経済構造および経済政策が結果的に経済発展に寄与したのである。

韓国の経済発展と戦後日本の経済発展には類似点も多いが、植民地化の経験の有無や、財閥の構造にちがいがあり、さらに韓国がより輸出中心の経済発展であったのに対し、日本の輸出は国内需要の延長にすぎなかった点など、全く同じとは言えない。

冷戦と経済発展の関係においては、朴正熙は冷戦や対日関係改善などを利用して経済発展に貢献したといえる。例えば、日韓国交正常化においても、歴史的過去の清算よりも実利を優先した。その後、アメリカが冷戦を緩和すると対米信頼が動揺し、韓国は防衛、経済両面で自立化をめざし、その結果、重工業化が進んだ。経済発展と政治体制の関係においては権威主義時代に開発独裁で経済が発展したため、権威主義体制を正当化することもできる。

しかし、経済発展に関しては、特定の政治体制よりも、予見に応じた適切な対策や柔軟な対応がより重要であるといえる。朴政権下においては独裁が強化されるにつれて、その経済政策から柔軟性が失われていった。朴政権の後半は開発独裁は必ずしも経済発展につながらないことを示唆している。

1980から90年代にかけては、順調な経済発展を果たし、先進国の仲間入りの可能性も出てきた。しかし、これには、市場開放、規制緩和、政府支援の撤廃などの経済的責任が伴う。金泳三主導でグローバル化の中の生き残りを図る「世界化政策」が行われたが、この政策のリスクが1997年に通貨危機として現れた。これについてはその約十年前の民主化との関係をめぐり様々な見解がある。

金大中大統領はこの経済危機の克服のために、経済における４大改革（財閥改革、金融改革、公企業改革、労使関係改革）を行った。また開発独裁の陰で遅れた市場主義と民主主義の並行発展を目指した。しかしこれにより労使関係で葛藤が生じた。社会民主主義的政策を期待されながらも、金大中は結局、新民主主義、市場民主主義的路線へと進んだ。

韓国では現在、国際化と情報化が著しい。国際化の側面では教育分野において高等教育以上外での海外留学が増加している。また情報化の側面では新しい環境への対応を優先しており、インターネットの普及によるIT大国化を目指している。一方情報化社会に対する日本の対応は韓国とは異なる。既得権益、システムの温存､保護を優先する日本では、インターネットの普及より規制が優先されるのである。また新自由主義への韓国の対応が個人にとっての幸福を必ずしも保障するとはかぎらない。

井出の報告（第三、四章の内容紹介）

第三章(政治の面)

李承晩政権の評価
- 李承晩政権は今まで低い評価を受けてきた。しかし、90年代に入り再評価もなされた。　　　　　　　
- 李承晩は、アメリカの定めた、日韓の国際分業を活かした経済発展の構想・圧力に対して抵抗した。これは日韓の国際分業が植民地的であるという考えに基づいていたが、その点が再評価の根拠となっている。　　　　　　　
朴正熙政権の評価―「民主」・「民族」・「民衆」の観点から。
- 「民主」：第三共和国から維新体制への転換は明らかに民主主義の退行であった。　　　　　　　
- 「民族」：対米自立の必要性を強調。しかし、南北統一には熱心ではなかった。
- 「民衆」：朴正熙は国民生活の向上をもたらしたが、しかし財閥との癒着、貧富の差の拡大といった負の面も存在する。　　　　　　
1987年民主化抗争
- 運動の過激化→より広範で大衆的な運動への広がり。　
- その中で、大統領直接選挙への憲法改正要求。
政党と政治家
- 民主化後、政治は政治抗争の時期から政党・政治家中心へと展開された。現代は党内民主主義が定着しつつある。
金大中政権の評価
- 経済危機を克服し、南北会談を実現したことの評価は高い。が、批判も多い。とくに人事政策と言論改革についてそうである。
日韓政治比較
- 日本が議院内閣制であるのに対し、韓国は大統領制を採用しており、この点で制度上おおきな違いがある。
- しかし選挙制度に関しては似ている面が多い。韓国において比例代表制は縮小傾向だが、小選挙区制での多党制が維持されてきた。だが現在二大政党制への移行という見方も有力である。

第四章(文化・社会の面)

韓国政治文化
- アメリカのヘンダーソンによる「渦巻き型」政治文化という考え方。
- あらゆる勢力や価値が中央権力を志向したり、中央権力に吸い寄せられたりする傾向のこと。
日韓の近代化
- 日本と韓国の近代化の分岐は西洋のインパクトへの対応差であった。
- 日本は「攘夷」に失敗したために、その後の改革が進んだのに対し、韓国は一時的成功を収めたがために近代化への圧力が弱くなった。
儒教文化と近代化
- 儒教文化は資本主義・民主主義の妨げと考えられてきたが、それを見直す動きがある。
市民運動
- 1987年の民主化抗争までと、その後民主化が達成されてからの市民運動とは大きく異なる。新しい市民運動は市民社会の民主化そのものを要求する。その中心が経実連であったが、それへの批判から参与連帯を中心とした落選運動が効果を挙げた。しかしそれは消極的な戦略で限界がある。
インターネットと政治
- 韓国では現代政治においてインターネットの影響力は大きい。またネット世代の政治関心が日本と比較して格段に高い。
日韓政治文化比較

結びに代えて

5つの点の指摘のうち、最後の5つめに著者の主張が述べられている。それは、南北の関係改善には韓国の北朝鮮に対する寛容さと外交手腕が必要であるというものである。

梅田のコメント

まず、著者は開発独裁が韓国経済を発展させたことに懐疑的であるが、１９６０年代の韓国においては軍部が唯一近代化を牽引できる存在であり、アメリカにならって作られた韓国陸軍士官学校は、政治、経済、軍事、国土開発に携わるエリートの供給源であった。強権的政権であるがゆえ、既得権益の廃止が容易であり、また、安定した政治体制化で国際競争に参入し外資導入による軽工業中心の輸出が増大し韓国経済が発展したのは確かだ。これは他のアジア諸国でも見られる。しかし確かに民主主義人権に関するマイナスイメージが生まれ易く、開発独裁が個人によって支えられる場合は後継者が育ちにくく、公によって支えられる場合には野党が育ちにくいといえる。

次に朴政権が民主主義に制限を課したことに関してであるが、これは当然である。当時、韓国は国家存立のイデオロギーにおいて北朝鮮に遅れをとっていた。また北朝鮮が、日本の植民地統治を徹底的に否定、排除したのに対し、韓国は植民地時代の法律、制度や漢字交じりのハングル表記をそのまま使用していたため、民族主義的に北朝鮮側に正当性があるようにみえ、韓国側には北朝鮮に対する劣等感、傀儡という批判などがあった。そのため韓国政府はイデオロギーではなくて経済的豊かさにより北朝鮮と同じ土俵に立ち、国民をひきつける必要があった。そのための外資を日本などから導入するためには、イデオロギー闘争を封じ込むための反共主義や言論統制といった民主主義抑圧による政権安定と、韓米同盟による軍事的優位が不可欠であった。

次に、韓国の民主化はナショナリズムが原動力になったのではないかということに関してである。著者は「民主主義の理念だけでは民主化は実現できず、より急進的なイデオロギーを必要とした」と述べている。民主化運動が民主化の一翼を担ったことは確かだが民主主義理念がその原動力になったとは上記の著者の弁からも考えにくい。１９８０年代は経済発展により韓国に愛着と誇りを持った韓国人ナショナリズムが発揮されやすい環境であった。ソウル五輪、反日、反米運動などの外向きのナショナリズムが韓国国民の政治的関心を高め、民主化への原動力になったといえる。

最後に、著者は北朝鮮に対する現状認識が甘いと思われる。そもそも南北統一は本当に可能なのか。著者は日朝国交正常化を通じて北朝鮮が体制の危機を乗り切れると考えている。しかし、人、金、もの、情報の交流拡大は北朝鮮の幹部が望んでいなくても、体制崩壊につながりかねない。そうなった場合、大量の北朝鮮からの難民が３８度線をこえ韓国に流入すると考えられる。これらの難民の生活保障、教育、雇用に関する対策、また南北の経済格差の是正や社会保障の拡大、均等な医療の実現はどのようにすすめるのかということが本書では全く想定されていない。３８度線は韓国経済の防波堤であり、北から大量に難民が流入した場合、韓国経済が崩壊するおそれがある。

新出のコメント

＊韓国生ゴミ餃子のニュースから、韓国はメディアの力が強い国という印象を受ける。

本書で述べられていること

インターネットの普及が韓国の民主化を最もよく表している。
盧武鉉の当選のインターネットによる効果＝20代、30代の支持。
日本と比べてのネット力の強さ。

なぜこの日韓差が生じるのか？

→若い世代の政治関心の差。
韓国は脱植民地後、国民の政治関心が高い。
一方日本はアメリカに戦後与えられた政治制度。

＊韓国の儒教

儒教は他の宗教に寛容だから西洋の民主化の受け入れに成功したという意見に対し、それは結果論にすぎないとする意見がある。
本書にはどちらとも言えないという記述が多く、この点に関しても言及しづらい。

儒教に関連して

韓国には礼儀･伝統尊重といった面が見られる。
これは南北分断の経験から出たナショナリズムではないか。

ここ十数年の間に韓国の文化・経済は大きく変化した。そしていまや反日感情は若い世代を中心に薄まってきた。文化交流の深まりがそれを表している。(都市間交流等)

しかし未だ政治経済面でのわだかまりは残っている。東亜経済圏と呼べるものは作られていない。

韓国が輸出を中心に発展してきた国であり、日本が新しいものへの関心が非常に高い文化社会であることに注目して、日韓は文化面からの交流をもっと深めることによりひいては政治経済の協力も推進すべきである。

姫野のコメント

本書における日韓関係に関する記述に注目したい。最近の日韓間の大衆文化面での交流、盛んな人の行き来、また地理的、文化的背景の近さ、歴史上の類似点などから、日本人は一般的に韓国に親近感を抱いているといえる。日韓関係は韓国を考える上で重要な要素である｡しかし本書において日韓関係の記述は非常に少ない。例えば韓国政府の大衆文化開放について述べられていないのである。本書では日韓関係より日韓の比較に重点が置かれているといえる。

本書の記述を見ていくと、まず一章では、冷戦対立の構造について、中ソ朝対日米韓であったと書かれているが、韓国は日本と同じ陣営にいながら、反日感情を抱いており、60年代の日韓国交樹立も、アメリカ主導で実利の為に行われたと述べられている。ここではやや立ち入って日韓関係について述べられている。しかし次の二章では、日本は韓国との比較対象にされている。国交正常化についても歴史の清算は建前で実利が優先されたと述べられており、それ以降の記述は存在しない。この実利優先に関しては、国際批判はあったが著者は評価している。

つづく三、四章でも日韓の比較のみが行われている。また結びにおいても、理念理想が述べられているに過ぎない。全体を通して、多面的で、慎重、客観的で中立的な叙述といえる。ていねいに分析がされており、結論を急がない著者の姿勢がうかがえる。

日韓関係について考えてみると、これは国交正常化以降も希薄であったといえる。日本と韓国は第二次世界大戦中［正確には日露戦争以降］に支配被支配の関係にあり、戦後もアメリカに対する姿勢に大きな相異があった。韓国がアメリカを解放者ととらえ、圧倒的に支持していたのに対し、日本は敗戦国であったため、支持は表面的であった。韓国が反日、親米であったのに対し、日本は韓国には無関心であり、対中、対ソ関心が高かった。

現在とられている文化開放措置により、お互いに理解が深まるのは望ましいことであるが、これは韓国にとって、経済的、文化的リスクが非常に大きい。また歴史問題がうやむやにされてしまう可能性もある。結論としては、日韓の親密化は重要な要素であるが、本著は客観的に一通りカバーしているにすぎないと言える。

質疑応答と討論

Q1（三原）：(井出さんへ)渦巻き型政治文化とはどういうことなのか？

A1（井出）：本書に書いてある範囲で答えると、あらゆる勢力や価値があたかも「渦巻き」のように中央権力を志向したり、または中央権力に吸い寄せられたりする傾向のこと。

Q2（発言者不明）：（中村さんへ）レジュメの最後の行「新民主主義への適応･･･個人にとっての幸福必ずしも保証せず。」について説明してください。

A2（中村）：「新民主主義」は「新自由主義」の誤り。言いたいことは、新自由主義の現れである年俸制や契約職の増大は不安定な雇用形態が増大しクビにしやすくなるなど、人々の不安が増大する。また、子供の初期留学は家庭崩壊の危険をはらんでいる、ということ。

Q3（発言者不明）：つまりは自由化された反面、ケアがなされないということか？

A3（中村）：そうだと考える。

（永井）：金大中政権下の韓国にかぎらず、新自由主義政策の一番の問題は、雇用をめぐる問題。新民主主義はハイリスクハイリターン、成功するかしないかで差が大きい。成功しなかった層のケアに必要なコストとそれを放置することによってもたらされる社会不安のバランスをどうとるかが、新自由主義以後の世界的問題といえよう。

Q4（永井）：（梅田さんへ）レジュメの１の１行目「著者は開発独裁が韓国経済を発展させたことに懐疑的だが」についてだが、必ずしも著者（木宮氏）はそう考えているわけではないのではないか？必ずしもあのような政権でなければ、韓国経済は発展できなかったとは、言ってないと思う。

A4（梅田）：韓国は当時一枚岩ではなく世論も分断していた。あのような政権になるのは、やむをえないし、その下で経済発展が進んだもことも事実。

Q5（永井）：木宮氏は、朴政権時代を２つに分けているが、それは重要な論点ではないか。開発独裁といっても、ソフトとハードの２つの時期があった。朴政権時代をひとまとめに単純化できないと木宮氏は言いたいのではないか。

Q6（永井）：（梅田さんへ）レジュメの２について。民主主義優位のイデオロギーは韓国ではほんとうに通用しなかったのだろうか？

A6（梅田）：日本での理論（民主主義尊重）を韓国に押し付けるのは乱暴ではないか。

Q7（永井）：（梅田さんへ）レジュメの３について。87年の民主化は広範な支持を得たのは事実と書かれているが？これは、民主主義が韓国でも支持されていることのあらわれではないか。

A7（梅田）：そうは思わない。

Q8（永井）：（梅田さんへ）レジュメの４について。むしろ経済封鎖をして北朝鮮が内部崩壊したときにこそ、最悪の事態が起こるのではないか？　北朝鮮の経済を支えながら、徐々にソフトランディングしていくのが金大中以来のいわゆる太陽政策、すなわち現代の韓国の包容政策を木宮氏は基本的に支持しているのではないか。

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