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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）中西寛『国際政治とは何か』

新書で読む現代世界・現代文化

中西寛『国際政治とは何か』中公新書、2003年

担当者：高尾正道　岸谷貴之　前田高志ニコラス

司会：岡泰規、籠池由浩

記録者：織田暁子、丹羽昌人

高尾の報告（書物の概要紹介）

国際政治は、大きく三つの枠組みに分けられる。

１．主権国家体制（ウエストファリア・システム）

主権国家は国際政治の唯一の基本単位である。
主権は、不可分かつ不可譲であり、主権の部分的破棄はできない。
個人の自由は国家から与えられるものであり、自らが同意する主権国家を持つことで初めて実現する。
主権は国内では至高の存在であり、国内における中間的組織は、国家に付随したものであるにすぎない。
主権国家に優劣はなく、国際社会においては相互に対等である。これは一見

無秩序に思われるが、法や慣習といった最低限のルールは守られる。

２．国際共同体

現実には様々な社会集団や個人が存在する。
主権国家のみが基本単位ではなく、国際機構、社会集団、個人も単位となりうる。
主権は、部分的に分割や委譲が可能である。たとえば国家間で条約を結ぶ際、互いに主権の一部を放棄している。
単位間では、一定の価値、目的の共有が可能である。たとえば富の公平な分配などが挙げられる。

３．世界市民主義

基本単位は個人。国家の存在は認めない。
国家は擬制であり、フィクション的な存在である。
世界が統一されたときに、平和が達成される。
国家を批判するための論であり、非現実的だとの批判もある。
世界市民主義が達成されると国際社会が国内社会となり、むしろ｢国際共同体｣のイメージが強化されるという矛盾もはらんでいる。

しかし現実の国際政治においては、ひとつの論理だけで行動するのは不可能である。現実を見た上で、その都度妥協しながら最善の選択をしていくことが求められる。

＜国際政治の来歴＞

国際政治という概念は、つい最近まで使われてはいなかった。

1６世紀　近代政治の誕生

教皇・皇帝といった普遍的な権威を否定しながらも、結集した集団としての秩序を求める。
国家を超える権威を否定する。
たとえばマキャベリは、｢実力｣が政治を支配すると唱えた。

１７世紀

グロティウスなどの法学者を中心に、主権者の支配を法的権威によって正当化しようとする動きが起こり、国際法の概念が生まれる。
自国に何が望ましいかではなく、他国との関係の中で何が望ましいかを探るといった国家理性論が、政治家間で広まる。

１８世紀半ば

人間こそが自然と人事の中心だとの考えがおこる。
｢個人｣の集合としての｢社会｣を重視し、｢社会｣から見て｢良い｣国家・政治を目指す。
領域国家から、社会の承認の下に統治を行う国民国家へと変化する。君主の都合による領土をめぐる戦争はなくなるものの、戦争それ自体は激化した。
法学者たちは、より強固な国際秩序を構築しようと考える。

２０世紀

｢国際政治｣が意識され始める。
２０世紀前半、国際政治の三つのイメージは、互いに競合していた。

権力政治の世界版。ヴィルヘルム２世の｢世界政策｣のように、ヨーロッパで行われていた権力政治が世界全体へと広まる。
越境的行政。国際機構を設置するなどして、国際的な交流を管理・統治する。
世界市民意識の普及。これにより、世界政府の成立に至る。

1914年　

第一次世界大戦が総力戦となる。世界市民意識の高まりで、戦争がなくなるのではないかという期待が生まれる。
しかしヴェルサイユ条約で世界市民主義は挫折。

1920年代

不戦条約は、日本やイタリアの武力行使に対して効力がなかった。
世界恐慌で、各国は国際経済よりも国内経済を優先させた。
国際機構が破綻する。

1930、40年代

ブロック経済が、結果的に自国にとってもマイナスになることが分かる。
国際秩序の再構築が目指され、国連などが整備される。

冷戦期

国連があらゆる問題の解決につながるわけではなくなる。
主権国家体制を基盤とした、あらたな国際共同体に対する意識が生まれる。

1957年

スプートニクから、宇宙競争が始まる。
はじめて外から地球を見つめたことで、世界の捉え方が変化する。｢世界はひとつ｣、｢宇宙船地球号｣という認識が生まれる。

しかし、伝統的な主権国家体制に基づく国際政治は根強い。

長い過程を通じて、人類が理想的ではないにせよ、ある程度満足できる政治秩序として選択してきた結果生まれたのが、主権国家体制を基礎としてその欠点の改善を図るという秩序のあり方であった。
｢国家｣という制度は、巨大な環境変化にかなりの適応力を示してきた。
以上の理由により、著者は｢伝統的国際政治は安易に否定できない｣という結論を導く。

岸谷のコメント（書物の内容に即したコメント）

著者の中西氏は非常に現実的な人である。

一般に言われている以下の過程を、夢物語にすぎないとして否定する。

グローバル経済が進む
国を超える交流が生まれ、人と人とのつながりが盛んになる。
国家が意味をなさなくなり、その存在理由がなくなる。
世界市民主義の意識が高まる。
１ヶ所の戦争でさえ世界を壊しうるので、戦争はなくなる。

主権国家体制は、国際交流が盛んになると、ますます高らかに唱えられるようになる。

なぜなら、主権国家は、内政干渉を排除するための論拠、たてまえにすぎないものだから。
そもそも主権国家は、それだけでは未完成であり、国際政治がなければ存在しない。｢何が主権国家であるのか｣という問いの答は、国際社会からの承認・合意を経てはじめて得られるものである。そして｢国際社会からの承認｣それ自体が内政干渉にあたるともいえる。たとえば中国と台湾、韓国と北朝鮮のどちらかのみを唯一の国家として認めることも、ある意味内政干渉である。

ここで、主権国家体制の利点をまとめる。

内政干渉の制御
自国の行動の制御

もし国際政治をひとつの政府が行うとしたら、世界中で起こったあらゆる問題を一手に引き受けなくてはならなくなる。
たとえば、イラク人質事件。日本は日本人の人質解放だけに全力を尽くせばよい。イタリア人等、他国民の安全については責任を負う必要がない。
すべての責任を負う必要がないということは、政治を行う上で非常に便利である。

EUが成功していることを根拠に、このまま統一の動きが進み、最終的に世界がひとつの国になるのではないかとの考えもある。

EUは、ひとつの経済ブロックを形成している。そして共同体内で主権が相対化している。
EU内では通貨統一が実施されている。これは主権の一部を放棄しているともいえる。
しかし現在EUが協調しているのは、対アメリカなど、いわば｢共通の敵｣がいるためである。外への視点があるためにまとまっている。敵がいなくなれば、内部対立は避けられない。
もし世界がひとつになれば、外への視点はなくなり、内部対立・内部紛争が起こるであろう。

以上の理由により、現状維持を肯定する。世界が統一されることはない、という中西氏の意見は安易に否定できない。

前田のコメント（報告者の報告・コメンテータのコメントに対するコメント）

思想史や国際法の観点から批評する。

ポストコロニアル・カルチュラルスタディーズの多くの方々が描くようなコスモポリタニズムをリチャード・ローティは非現実的として批判する。
リチャード・ローティ「近代国家には限界がある。しかし世界市民主義にも限界がある。限界があるのならば、国家という資源をぎりぎりまで使い尽くせ。」
そもそも国際法というのは、基本的に拘束力が弱い。例外として、ナチスのホロコーストなどから始まった「ジェノサイド条約」は拘束力が強い。
ハンナ・アーレント「国民として生きていた人が、いつ何時国籍を剥奪され、難民となるか分からない。すなわち我々は、潜在的難民である。」
難民の観点から見ると、日本の難民受け入れ数は、非常に少ない。しかし難民条約には拘束力はないので、国際法に違反しているわけではない。

なぜEUは成功しているのに、アジアにはそのような共同体が存在しないのか。

｢アジア主義｣という言葉は、｢大東亜共栄圏｣、征服主義、植民地主義と結び付き、批判される。
EUは、表向きは盟主をたてていない。これがEU成功の大きな理由であるともいえるので、｢盟主のいないアジア主義｣をめざす動きもある。
しかし、共産主義国家は、資本主義国家とは連合できない。
日本人年長者には、いまだ他のアジア諸国に対する差別意識が根強く、アジアでの連帯を拒否。アメリカに追従しようとする。フランクフルト学派の｢不安になった者は声を大きくする｣にあてはまる。
しかし若い世代では、文化交流が進んでいる。

日本は、アジアの繋がりより、アメリカとの繋がりを重視しているようにも思われる。その象徴とも言える日米安保について。

そもそも吉田茂が日米安保条約に調印したときから、日本世論では反米意識が強かった。しかし彼は｢あえて｣日米安保を選択するしかなかった。当時考えられた選択肢は、アメリカ、ロシア、中国のどれかにつくか、非武装中立で通すかしか残されていなかった。
最終的には対米自立を目指していた。その後継者として田中角栄らがいたが、ロッキード事件で失脚。もはや後継者はいなくなった。

これからは、なお一層アジアに目を向けていくことが求められるのではないだろうか。

永井教授による論点の整理

主権国家体制というものは、そう簡単にはなくならない。
コスモポリタニズムへの懐疑。
主権国家は擬制にすぎない。
しかし、世界がそう簡単にひとつになることはない。
なぜコスモポリタニズムというある種のユートピアが強い支持を受けるのか。
広域的な共同体、国際共同体が主権国家を超えるものとして存在している。

質疑応答

Q:中西氏は、民族や宗教と関連して国際政治を論じる事はしていないのか？

Answer

下位文化に関してはあまりふれられていない。
1960年代から、エスニシティをたてまえとした主権国家が乱発された。
そもそも民族というものは曖昧な存在である。主権国家と同様、他に認められてはじめて成立するものである。
単一民族・単一宗教だけで国家を作ることは、実質的に不可能である。必ずマイノリティが存在することになる。民族単位での行動では、政治に影響を及ぼす事はできても、それだけが政治の場に現れることはない。
現在、宗教は趣味的なもの、オプション的な存在になりつつある。もしくは、権力への抵抗手段として宗教が用いられる。この場合、宗教もともとの教義というよりは、原理主義化する傾向がある。
たとえばイスラームでは、イスラーム法を超える法律があってはならない。これを近代国家にあてはめることはできるのか、という問題もある。
この本『国際政治とは何か』には、下位文化や宗教についての記述が薄い。

Q:アジアとヨーロッパで、共同体をつくる上での違いは？

Answer

アジアでは、国境を境とした｢～人差別｣がある。ヨーロッパでは、ユダヤ人差別など、国民国家レベルではなく、市民レベルの国境を越えた差別が存在する。
アジアには、国家間に戦後補償などの問題がある。ヨーロッパでは歴史認識は多国間に渡り、また国家は誰のものでもないとの意識が強い。
EUが経済単位で連携したのは、東欧に対する脅威があったから。安全保障はNATOがうけおい、アメリカの支援を受けていた。その後｢仮想敵国｣であるソ連がいなくなったことで、EUが崩壊するのではないかとの説もある。
EUに似た組織として」ASEANが挙げられる。ASEANフォーラムには中国やアメリカを含めるなどして、うまく機能している。
アジアで連帯しようとすると、中国や日本が大きな力を持っていることを無視できない。そのため、いわゆる｢弱い国｣が脅威を感じ、うまくいかない。
EUで力を持っているのはドイツとフランスであるが、両国は冷戦下に同じ陣営に属していた。米ソにはさまれていたので、対立は避けなくてはならなかった。さらに両国が戦争をした場合に被害を免れないベネルクス３国の協力もあった。戦争を繰り返さないという共通の目的の下、各国が連帯した。
日本と中国は、冷戦下に対立陣営に属し、戦争を繰り返さないための話し合いや戦後補償が不十分なままであった。

Q:EUは統合ではなく、経済的な問題ではないのか？

Answer

経済の問題は、結果的に主権や安全保障の問題と関わってくる。たとえば、通貨統一が実施されると、各国は自由な金融政策が行えなくなる。

Q:文化を軽視しすぎてはいないか？

Answer

軽視しているかもしれない。
文化や民族のちがいは、歴史的・政治的思惑による便宜上のものにすぎず確固たるものがあるわけではない。

付録：メーリングリストでの議論

１．永井教授の疑問（2004/04/27）

永井です。　今日の報告は、なかなか面白かったですが、時間がなくて、質問できなかったことが２点あります。

　以下に、書いておきますので、よければ皆さんも考えてみて下さい。

１．序章のところに国際政治における「偽善」と「独善」の例が出てくる。　「偽善」も「独善」も悪徳ではあるが、国際政治においては、「独善」よりも「偽善」の立場を選択する方が好ましい、というのが中西氏の国際政治学者としての立場のようですが、この国際政治における「偽善」と「独善」のちがい（どういうのが「偽善」で、どういうのが「独善」なのか）が、もひとつよくわかりません。

中西氏があげているのは、戦前日本の外交（満州事変と国際連盟脱退）が「独善」の例、イギリスの帝国主義外交やアメリカの門戸開放・機会均等主義が「偽善」の例です。

なぜ、日本は「独善」で、なぜアメリがやイギリスは「偽善」なのか。また、なぜ「独善」よりも「偽善」が好ましいのか。うまく説明できますか。ついでに言えば、今回のアメリカのイラク侵攻は、「独善」なのか、「偽善」なのか。あるいはそのどちらでもないのか。

２．第一章で、主権国家が生まれた頃には、じつは「国際政治」という概念はなかった。「国際政治」という概念が生まれ、広まるのは１９世紀末から２０世紀初めだと主張されています。

たしかに、「国際政治学」といった学問が成立するのは、法学や政治学に比べて遙かにおそいですが、しかし主権国家体制が生まれると同時に、現実の現象としての「国際政治」も動き出しています。主権国家体制は国際社会を作り出し、国際社会が存在すれば、その内部に政治が生まれ、「国際政治」も機能している。１７世紀のウエストファリア条約は当時のヨーロッパの「国際政治」の産物以外の何者でもない。

私は歴史学者なので、こう考えるのですが、中西氏のような国際政治学者はそうは考えないらしい。この辺に、私はいちばん違和感を感じました。

どうやらこの「違和感」は「政治」というものについての捉え方に大きな違いがあるためだと思われます。中西氏にとって、「政治」とはどのようなものなのでしょうか。誰か説明してくれませんか。

あるいは、中西氏のような捉え方が一般的であって、自分は少しも違和感を感じなかった。永井のほうが「政治」についてよほど特殊な捉え方をしているのだ、という意見でもかまいません。その場合は、一般的な「政治」の捉え方について説明していただけるとありがたいです。

２．独善と偽善　2004/04/29　堀内

2回生の堀内亜紀です。

先生の疑問に答えられるだけの知識はないのですが、メールを読んで自分なりに考えたことを書いてみようと思いました。的外れな主張になってしまったら、すいません。

独善と偽善の違いというのは私にもはっきりわかりません。感覚的にわかる気はしますが。ただ思ったのが、たとえばイラク戦争に関して言えば、もしアメリカが国連の採決を待ってイラク戦争をはじめていたとしたら、それは偽善の部類に入ったのではないかと思いました。ただ、実際はそうではなくて「大義なき戦争」だと言われているのを考えると、また話は変わってくると思います。

「イラク国民のため」というスローガンを見れば偽善といえる気がしますが、国際社会が納得できるような形式を整えなかったという点では独善であるかもしれません。

偽善か独善かは国際社会によって判断される面もあるのではないか、と思いました。その時代で了解されている範囲というのがあって、それを逸脱してしまうと、ほかの国から反発を買って独善だと思われるかもしれません。

と、こんな風に思いました。考えがまとまっていないので書いているうちによくわからなくなってきました。いつもは思っても口にしないタイプなのですが勇気を出して意見を言ってみました。

３．独善と偽善　2004/04/30　永井

勇気を出して意見を言ってくれて、ありがとう。堀内さんも指摘しているように、「独善」と「偽善」のちがいは、

>ただ思ったのが、たとえばイラク戦争
>に関して言えば、もしアメリカが国連の採決を待ってイラク戦争を
>はじめていたとしたら、それは偽善の部類に入ったのではないかと
>思いました。

>「イラク国民のため」というスローガンを見れば偽善といえる気が
>しますが、国際社会が納得できるような形式を整えなかったという
>点では独善であるかもしれません。 >

このあたりにあるようですね。まとめなおすと、

> 偽善か独善かは国際社会によって判断される面もあるのでは
> ないか、と思いました。その時代で了解されている範囲というのがあって、
> それを逸脱してしまうと、ほかの国から反発を買って独善だと思われるかも
> しれません。

とあるように、「国際社会から妥当ないしは受入れられるものとみなされているかどうか」が、その分かれ目のようです。

ただ、問題になるとすれば、はたしてどのような行動や主張ならば国際社会から受入れられ、どのような行動や主張なら国際社会から受入れられないのか、その基準はいったい何なのか、でしょう。

ところで、堀内さんが指摘してくれた上記のような「偽善と独善」の区別は、『国際政治とは何か』で、中西さんが立てている「偽善と独善」の区別と同じものと見てよいのでしょうか。それとも、中西さんの区別は少しちがっているのか。たとえば、中西さんの区別からすれば、国連採決なしでおこなわれた今回のイラク戦争は、それでもアメリカの「独善」とは言えないという意見は成り立つでしょうか。

４．主権国家体制成立以前に「国際政治」はないのか？2004/04/30　岸谷

2つ目の問題提起について。

永井先生。私もそのような疑問を抱いていました。

しかしはっきりした答えがが得られなかったので、発表の時は「あまりにも西洋中心史観」とか、「主権国家は国際政治上の合意による」とか適当な言葉でお茶を濁して、あえて触れない戦略？に出ました。

発表前に心中に浮上した考えをいくつか羅列します。

中西氏の主張は「『国際政治』はなかった。」ではなく、「『国際政治』という概念はなかった。」「『国際政治』という概念が積極的に否定された＝主権性が強調された」ではないか？つまり過去の文献その他に「国際政治」等の単語やそれに類する概念が確認される時期を重視しているだけなのか。というのも氏も言及している中世的な普遍権威はそれだけで一種の国際政治体制であるといえ、また東亜に於ける華夷秩序も国際政治体制とよんで差し支えないと思われるからです。しかし、そのような国際政治は現在の国際政治とは必ずしも同一のものでないかもしれない。そこで、
「現代の『国際政治』の原形がはっきりした形で(つまり法律・条約等で明文化された形で）現れた時期のことをいっているのか？これはつまり「国際政治」の定義の違いによります。おそらく中西氏の文脈からすると、外交の存在＝国際政治の存在とは述べていないようです。これだ考えると、某先生の｢世界初の国際条約は?淵の盟｣というテーゼは中西氏によれば土俵違いの話になるかもしれません。しかしながら、ヨーロッパが歴史上非ヨーロッパ世界と完全に隔絶された時期を見つけるのは容易ではなく、ウェストファリアにおける｢国際？｣交渉も、辺境ヨーロッパにのみ通用する独自作法ではなく、やはり当時の世界に最低限一般的な作法や慣習にいくらかでも則ったものである確立が高いのではないかと思われます。根拠なく。勿論そんなものがあればの話ですが。そうだとすれば中西氏のいう国際政治の起源がその起源とされる要素は何なのか、
現代の覇権秩序が形成されたということを言っているのか。華夷秩序が中国覇権であり、中世普遍秩序が教皇･皇帝覇権であり、他にもモンゴル覇権、イスラーム覇権が歴史上存在したと至極単純馬鹿正直に考えるならば、英米覇権(独仏露を含めるかは別として)確立の片鱗が歴史の中で確認された時期を重視しているのか。還元すれば英米中心に国際秩序が展開する現代の情勢の淵源を求めたのではないか。(あまりに西洋中心史観のようですが)

勿論、上の3つとも穴だらけの考えですし、たとえ中西氏の考えが上の3つのどれかだとしても、それはそれで中西氏の論に疑問がさしはさまれるのですが。

恥ずかしながら愚身の浅学を披露しました。参考になるかは分かりませんが。

５．主権国家体制以前の「国際政治」と「国際政治」概念成立の遅れ　2004/05/02　永井

　岸谷君ありがとう。岸谷君が提示してくれた３つの問題は、私が前のメールで提出した疑問点の２について、核心にふれるものなので、少し丁寧に返事をします。

takashi wrote:
>1. 中西氏の主張は「『国際政治』はなかった。」ではなく、「『国際政治』
>という概念はなかった。」「『国際政治』という概念が積極的に否定され
>た＝主権性が強調された」ではないか？つまり過去の文献その他に「国際
>政治」等の単語やそれに類する概念が確認される時期を重視しているだけ
>なのか。というのも氏も言及している中世的な普遍権威はそれだけで一種
>の国際政治体制であるといえ、また東亜に於ける華夷秩序も国際政治体制
>とよんで差し支えないと思われるからです。しかし、そのような国際政治
>は現在の国際政治とは必ずしも同一のものでないかもしれない。

中西氏の主張が「『国際政治』はなかった。」ではなく、「『国際政治』という概念はなかった。」であるのはそのとおりです。

しかし、この「『国際政治』という概念はなかった。」という主張は、表現をかえると、次のようになります。

Ａ：「国際政治学において『国際政治』と呼ばれるべき対象はそれまで存在していなかった。仮に「国際政治」らしき現象があったとしても、それは国際政治学が対象とする『国際政治学』ではなかった。」　あるいはこう言ってもよいかもしれません。「国際政治学が対象とする『国際政治』なるものは、ある時代以降に出現した特定の歴史的現象であって、どの時代のどの社会にも存在していた超歴史的現象ではない。」

Ａの「仮に「国際政治」らしき現象があったとしても」の「仮に「国際政治」らしき現象」の例として、岸谷君が言及しているのが、「中世的な普遍権威」であり、「東亜に於ける華夷秩序」です。これらは、歴史学や社会学では「帝国」あるいは「帝国的秩序」と呼ばれていますが、この種の「帝国的秩序」もまた、ある種の国際政治体制といってよいのではないかというのが、上記の引用における岸谷君の立場です。

しかし、中西氏のよって立つ国際政治学は、その種の過去の「帝国的秩序」はある種の「国際政治体制」かもしれないが、それは国際政治学の対象となる『国際政治』体制ではないという立場をとっているのです。

この国際政治学の立場は、近代の国際政治秩序こそが国際政治学の対象とする『国際政治』であり、それ以前のものは対象としないということにほかならないわけですが、その点をさして岸谷君は「西洋中心史観」と言っているのだと思います。

ただし、岸谷君が例をあげてくれた「華夷秩序」やヨーロッパ中世のローマ教皇と皇帝を中心とした「普遍秩序」などの「帝国的秩序」と言われても、ピンとこない人も多いでしょう。もし可能ならば、それについてもう少し説明があれば、そういう人たちには親切だったと思います。もちろん、その説明は、岸谷君以外の他の方からなされても、かまいません。

さて、上記Ａの命題は、さらに表現をかえると、

Ｂ：「国際政治学の対象とする『国際政治』とは、「主権国家体制」が出現してのちに成立する概念であり、「主権国家体制」の成立後に出現するある種の国際的関係および国際的秩序をさしている。」

となります。つまり『国際政治』とは「主権国家体制」と切っても切れない関係にあり、それが産みだしたものである。

ここまでは、常識でも理解できます。しかし、中西氏の主張の特徴は、「主権国家体制」の成立と同時に『国際政治』と呼ぶべき現象が出現したのではなくて、さらにもっと遅れる（１９世紀から２０世紀初頭）と言っている点にあります。

『国際政治』はたしかに「主権国家体制」によって生み出されたものであるが、しかし「主権国家体制」のもとで、主権国家が外交を展開しつつひとつの「国際社会」を形成するだけでは、まだ『国際政治』とは言えないのであり、それにさらに＋αが付け加わった段階で、はじめて国際政治学の対象となる『国際政治』が登場する、あるいは『国際政治』と呼ぶべき現象が存在するようになると、中西氏は主張しているわけです。

私が前のメールで問題にしたのは、この点であったわけです。『国際政治』を『国際政治』たらしめた＋αとはいったい何であるのか。それを問題にしたかったわけです。

以上まとめると、私が前のメールであげた第２の問題について、岸谷君のコメントが出されたことによって、問題はさらに次の二つに分節化されることが判明したわけです。

２－１：「主権国家体制」出現以前のさまざまな「帝国的秩序」は国際政治体制とは言えないのか。あるいは、国際政治学がそのような近代以前の国際政治体制を『国際政治』の概念の外において研究対象とはしないのは、問題ではないか。

２－２：「主権国家体制」の成立と『国際政治』の成立との間には、時間のズレがあるとするのが、中西氏の主張である。言い換えれば、『国際政治』＝「主権国家体制」＋αが中西氏の立場である。この＋αとは一体何なのか。そしてなぜ「主権国家体制」だけでは、「国際政治」が成立したとは言えないのか。その理由を中西氏はどう説明しているのか。

　以上、議論を整理してみました。さらにコメントあるいは質問が追加されるのを待ってます。

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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）中西寛『国際政治とは何か』

新書で読む現代世界・現代文化

中西寛『国際政治とは何か』中公新書、2003年

高尾の報告（書物の概要紹介）

１．主権国家体制（ウエストファリア・システム）

２．国際共同体

３．世界市民主義

＜国際政治の来歴＞

1６世紀 近代政治の誕生

１７世紀

１８世紀半ば

２０世紀

1914年

1920年代

1930、40年代

冷戦期

1957年

岸谷のコメント（書物の内容に即したコメント）

前田のコメント（報告者の報告・コメンテータのコメントに対するコメント）

永井教授による論点の整理

質疑応答

付録：メーリングリストでの議論

１．永井教授の疑問（2004/04/27）

２．独善と偽善 2004/04/29 堀内

３．独善と偽善 2004/04/30 永井

４．主権国家体制成立以前に「国際政治」はないのか？2004/04/30 岸谷

５．主権国家体制以前の「国際政治」と「国際政治」概念成立の遅れ 2004/05/02 永井

1６世紀　近代政治の誕生

1914年　

２．独善と偽善　2004/04/29　堀内

３．独善と偽善　2004/04/30　永井

４．主権国家体制成立以前に「国際政治」はないのか？2004/04/30　岸谷

５．主権国家体制以前の「国際政治」と「国際政治」概念成立の遅れ　2004/05/02　永井