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現代文化学基礎演習II（2004年度前期：永井）

新書で読む現代世界・現代文化

大塚英志『「おたく」の精神史』講談社新書、2004年

担当者：岡泰規、籠池由浩、織田暁子、山埜義弘、丹羽昌人

司会：亀山映子、東海林裕

記録者：三澤佑佳、古谷佑輔、田中慎一郎

岡の報告（書物の内容紹介）

第一部

○おたく…自給自足を始めるまでに貪欲なサブカルチャーの消費者

第二部

○新人類…サブカルチャーの消費者としての主体性と商品選択能力に関しての優位性を感じる人、「おたく」とは異なる点をもつ

○性表現が記号化し、その主体が女性の場に移行
　　　→女性の自意識と強く結びついた作品（岡崎京子etc）
　　　→少女マンガ風の「記号絵」から古典的なポルノグラフィー的作品へ（レディース、やおい）
　　　　　　　　　　　　　　↓
　○男の性意識が女性の身体から逃走

○女性の側の過度の記号性への願望。過度の虚構の中で自己実現し、主体を獲得した女性たち、それがサブカルチャー（消費文化的）に影響

籠池の報告（書物の内容紹介）

第三部　物語消費の時代

○虚構（フィクション）の現実化（ex.ディズニーランド、ガンダムetc.）
　　仮想現実が商品化するが、完全に現実から隔離されず、安易に現実を求める限界が発生（ex.コレクションの流行、UWF、都市伝説）

○広範囲にサブカルを消費した80年代的「おたく」に対して、記号的価値に集中する90年代的「オタク」の登場

第四部　90年代の中の80年代

○湾岸戦争　→　80年代にボーダレス化した知とサブカルチャーの仕切り直し

○オウム事件　→　現実を補足するはずの言説が現実を支えられず、「虚構」が｢現実｣を支える骨格として流用（マンガではなくサリンを作ったオタク）

○エヴァンゲリオン　…　自己実現への欲望を抑止し続けるが、自己確認の欲求は渇望

○神戸児童連続殺傷事件　…　自己実現手段としての殺人を行い、メディアの中に自己実現の完結を見出す
＝主体をめぐる欲望をついに解き放った点で戦後サブカルチャー史の終着点

織田のコメント

○ポルノ　…　性的能力が無限な男性による、サディスティックな女性の性的制服（女性は何も言わずにそれを受け止める）

○男性の性的欲求対象でもある記号的美少女⇔写実的美少女

○男性中心主義のエロマンガにはお約束が存在⇔現実との違い
　　→男性は女性を傷つける性であることを自覚
　　　内面的な恋愛という理論武装によって、男性のマッチョな欲望に根拠を与える
　　→ロリコンブームへ

○日本における美少年趣味（ex.やおい）
　　対象が、女性→美少年へと単純に移行
　　フェミニズム的には、進展はなく、評価できないのではないか。

山埜のコメント

１、物語消費の時代

74年・サンリオが「ハローキティ」などの商品開発→同年・仮面ライダースナックのおまけのカードの流行→87年・ビックリマンチョコレート

２、物語消費の特徴と背景

特徴

○＜物語ソフト＞ではなくモノないしサービスが消費の直接あるいは見せかけの対象となる。

○そのモノ及びサービスは＜物語＞によって秩序付けられているかあるいは秩序付けられるべく方向が与えられている。

○消費者は消費行動を通じて＜物語＞を擬似的に創作するか体験ないしは演じる。

背景

○共同体を失った事による飢餓感

○＜物語＞と＜共同体＞の分離による飢餓感

３、物語消費とその後　～　「動物化するポストモダン」（東浩紀）　より　～

○中心となる大きな物語の存在しない「データベース・モデル」

○＜大きな物語＞の凋落

○＜大きな物語＞を必要としない世代の登場

丹羽のコメント

大塚英志と東浩紀の「大きな物語」の差

○　80年代　…　イデオロギーの不在。それに代わってメディアによって大衆は動員

　　↓（影響）

○　90年代　…　福田和也「サブカルチャー化したナショナリズム」（ex.サッカー日本代表の応援）

○　大塚は「現実」「虚構」を大量に使用（＝物語）　…　ボードリアールを引用するも感覚は異なる？

○　オウム真理教　…　現実を補足するはずの想像力が暴走し、「物語」に捉われている。
　　　＝仮想現実をベタに消費（ex.同時多発テロ）

○　大衆の現在　…　共同体消失への飢餓感→戦後民主主義的共同体の再構築（→安直で共同体幻想ではないのか）

質疑応答と討論

Q1：「おたく」と「オタク」の違いとは何か？

A1：「おたく」とは主に80年代においてサブカルチャーを消費して楽しむ人を指し、「オタク」は90年代になって情報そのものより、イラストや物語設定を単独消費する人。主に男性を指す。

Q2：「鉄道オタク」や「歴史オタク」などの言葉は今回の「オタク」の定義にあてはまるのか？また「プロレスオタク」はどうか？

A2：鉄道や歴史といったものはサブカルチャーの範囲の中には入るだろうが、今回の著書の中では触れられていない。しかし、90年代的オタクの意味は強いように思われる。例えば阪神ファン、巨人ファンといったものと野球オタクといったものは区別しうるであろう。また「プロレスオタク」というよりはプロレスファンといった方がより一般的であるように思う。

（永井）：著者・大塚英志氏は最初から批評家であったのではなく、80年代にコミック雑誌の編集者などをつとめ、実際に「おたく」の文化を作り出す現場にいた人である。当時ロリコンマンガのようなジャンルもなく、ちょうどマンガ消費のパターンが変化してきていた時代であり、その「おたく」の文化がマイナーからメジャーへと移行する現象を彼は目前で見てきた。

「おたく」は、マンガ消費パターンを作り出し、受容し、要求することで、新しい文化を生み出していった世代の人々であり、80年代の新しいサブカルチャーである「おたく」の文化が固定化され、メジャー化したことで、90年代よりも微分化した方向に進んだのが「オタク」ではないだろうか。

大塚氏があくまでも「おたく」に固執するのは、自らがその出現の担い手であった、それ（「おたく」文化とそれが生み出したもの）に必ずしも全面的に賛成できず、その方向を是正したいと願ったためであろう。ここで「おたく」文化が生み出したものというのは、宮崎勤→オウム真理教（地下鉄サリン事件）→神戸連続児童殺傷事件という一連の流れをさしている。しかも、大塚氏はそれを他人事ではなくて、自らもその一員であると自覚している「おたく」の精神史の必然的帰結と見なして、これを書いたのである。

80年代に登場した新たな文化である「おたく」の文化はリアルよりもヴァーチャルなものにリアリティを見出していく。それは「成熟」というものへのこだわりであり、永遠に成熟するに至らないものへの憧れ、すなわち成熟への拒否へと行き着いていく。それは、「おたく」たちのコミケから引きこもりへと変化する行動からも伺える。

付録：戦後の若者文化と世代についての見取り図（永井）

時代	特徴	世代	事件
戦争の時代（1937‐45）	軍国少年・少女、特攻	1920‐30生まれ	敗戦
焼跡・闇市・GHQ
共産党の時代（1948‐56）	左翼	1930‐40	武装共産党・六全協
60年安保
新左翼の時代（1960‐72）	新左翼・全共闘	1940‐52	大学闘争・連合赤軍事件
経済大国
「おたく」の時代（1982‐95）	マンガ・アニメ・オウム真理教	1955‐75	地下鉄サリン事件
「プチ・ナショナリズム」の時代？（1995以降）	ゴーマニズム、２ｃｈ、携帯	1975以降	イラク戦争？

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