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マニラ会談に関する史料集

マッカーサーレポート第１巻

書誌：マッカーサー司令部（アメリカ太平洋陸軍・アメリカ極東軍）の参謀部第2部によって編纂された戦史。1950年に完成し、1953年にマッカーサーからアメリカ陸軍省に提出された。しかし、マッカーサーの意志により公刊はされなかった。マッカーサーの死後、1966年に陸軍省から出版されたが、アメリカ陸軍の公刊戦史は別に存在するので、公式のものではない。第1巻は1941年12月の日本軍のフィリピン攻撃から、1945年8月の日本降伏月までのマッカーサー麾下の米軍の作戦・戦闘の記録である。すなわちサイパン戦や沖縄戦は含まれていない。1998年に現代史料出版が復刻し、竹前栄治氏の解説つきで、東出版から刊行された。翻訳は田中泉吏がおこなった。

マニラ会談

陸軍代表河辺虎四郎中将に率いられた総勢16名の日本降伏使節団47 は8月19日朝、緑十字のマークが付いている武装解除した海軍の中型爆撃機2機に乗り込み、東京湾の東岸にある木更津空軍基地から密かに出発した。48 。伊江島に着陸後、マッカーサー元帥の指示にしたがい、日本の使節団は直ちにアメリカ陸軍の輸送機に乗り換えさせられ、同日18時マニラ南部のニコルス飛行場に降ろされた。

輸送機から出てくる日本の外交使節に会うことは、戦争時マッカーサー元帥麾下の諜報部長だったウィロビー准将に率いられた通訳スタッフ達の任務であった。必要な手続きである紹介状の提出と身分証明を済ませたあと、日本人の一行は直ちにマニラのデューイ通りにある当座の宿舎に連れて行かれた。その日の夕方に予定されている会談を待つためであった49。

到着から3時間もたたないうちに、16名の日本人降伏使節団はウィロビ少将に導かれて、同日夜マッカーサーの部下達によって開かれる2つの会議のうちの最初の会議に出席した。マッカーサー元帥自身はその会議には姿を見せなかった。厳重な行進はデューイ通りから移動し、戦争時砲撃によって破壊されたマニラの通りを抜けてシティ・ホールの広い階段を上っていったが、その時の、奇妙に尖った帽子を付け、殆ど地面につくほどの日本刀を腰からぶら提げ、飾緒などで飾り立てている灰色がかった緑色の軍服を着た無表情な軍人の風体は、いかめしく奇妙な光景を作り上げていた。21時を過ぎてすぐ、日本とアメリカの代表団はチェンバレン中将のオフィスに入り、地図に覆われた会議室50 の長くて黒いテーブルを挟んで相対して座った。

会談は19日の夜を徹して行われ、翌日に縺れ込んだ51。サザーランド中将が議論を進めていたとき、通訳スタッフ達は日本人達が持ってきた様々な報告書や地図、海図を忙しく入念に調べ、翻訳し、フォトスタット（写真複写装置）で複写した。連合国側の翻訳通訳部員は、マッカーサー元帥の要求文書を朝までに正確な日本語に翻訳するべく徹夜で働いた。降伏の準備が最低限の誤解と最大限のスピードで完遂されるように全ての文書を上手く正確に翻訳するということは極めて重大なことであった。会議は円滑に進み、全ての主要な問題は申し分なく解決された。交渉の結果、占領方法の最初の構想のうち幾つかを修正することが当を得たこととされた。日本政府とGHQの十分な共同作業に基づいて、新しい修正案では、指定された地区で軍隊の武装解除が行われた後の漸進的な占領が規定された。間接的な非武装化が連合国側の人員によって実行されることとなった。日本は連合国の監督下に武装解除と軍隊の解散を行うのだ52。

河辺中将は日本は連合国の要求を忠実に実行するだろうという彼の確信を表明したが、日本国市民と陸軍の小部隊がどのような反応を示すのか予想できないため、占領の実行段階に移行する前の準備期間を延長してもらいたいと要求した。サザーランド中将は3日の延長を許可した。初期の進駐の期日は8月25日から8月28日に延期された。先遣部隊の厚木飛行場への到着は8月26日に計画された。

会議の終わりに、河辺中将は｢連合国軍最高司令官の要求｣53 を含む文書を渡された。これらの指令は連合国軍の最初の部隊の到着と正式な降伏式典、そしてその後の占領軍の受け容れに関するマッカーサー元帥の要求を明記している。天皇がポツダム宣言を受諾し、臣民に交戦状態を終結させるように命令するという内容の天皇の布告の草案と、GHQは全ての日本陸海軍の指揮官に武器を捨て、指定された連合国軍の将校に自分達の部隊を引き渡すように命令するという内容の連合国軍最高司令官陸海軍一般命令第一号、そして最後に、後に東京湾においてアメリカの戦艦の甲板上で署名される降伏文書そのものも河辺中将に渡された。

マニラ会談は終わった。日本の降伏使節団は8月20日の13時に去り、来た時と同じルートに沿って戻り始めた。帰途の旅は、しかしながら、降伏文書を運ぶ人間にいくつかの不安な瞬間を感じさせる事故によって台無しになった。重要な使者を運ぶ飛行機は浜松付近の砂浜に強制着陸した。帰朝予定時刻から7時間後に漸く使節団のメンバーは待ち受ける首相にマニラ会談の結果を報告することができた54。今日本に残されたことは、降伏条項を実行するために、また連合国軍による平和な軍事占領を受け入れるために準備をすることであった。

マッカーサー元帥は、調印式の時に必要な、飛行機と軍艦を動かすことができる天候状態を仮定して、降伏文書調印式が10日以内に行われることを期待した。また「降伏文書が正式に調印されるまで、全ての前線で休戦状態が広がり、血の流れない降伏が実現されることが私の熱烈な希望だ」という声明を日本代表団がマニラを出発した後に発表した55。

注

47 そのほかの日本降伏使節団員　

 　　　岡崎勝男　　　　外務省調査局長
　　　 天野正一少将　　陸軍・参謀本部作戦課長（田中註；第一課長…作戦担当）
　　　 横山一郎少将　　海軍・軍令部出仕
　　　 溝田主一　　　　海軍嘱託
　　 　山本新大佐　　　陸軍・参謀本部員（田中註；第六課長…欧米情報担当）
　 　　大前敏一大佐　　海軍・軍令部作戦課長（田中註；第一課長…作戦担当）
　　　 吉田英三大佐　　海軍省員（田中註；軍務局第三課長…艦船の保存・整備担当）
　     杉田主馬　　　　海軍省書記官
　   　湯川盛夫　　　　外務省員
　     寺井義守中佐　　海軍・軍令部員（田中註；第一課員）
　     松田正雄中佐　　陸軍省員（田中註；これは実は間違いで、本当は参謀本部第一課航空担当）
　　　 南清志中佐　　　陸軍省員（田中註；軍務局軍事課資材班長）
　     高倉盛雄中佐　　陸軍省（田中註；軍務局軍務課員）
　     大竹貞雄少尉　　陸軍・参謀本部部員（田中註；第二部の通訳担当）
　     竹内春海少尉　　陸軍・参謀本部部員（田中註；第二部の通訳担当）

GHQ,AFPAC（アメリカ太平洋陸軍）,"List of Japanese Emissaries to Manila," 21 Aug 45,G-3,GHQ Admin Files．

48 会談に関係した日本の将校によると、慎重な計画を立てた後のフライトだったということだ。「計画ではマニラに赴く降伏使節団を乗せていく飛行機のコースは…その飛行機を攻撃して破壊しようとしていると噂された日本軍の航空部隊に干渉されるのを防ぐため用心されたものだった。降伏使節団の到着を保証するため、彼らを乗せる飛行機の採るコースは秘密にされ、九州まで直接行くルートにはおとりの飛行機が飛ばされることが計画された。8月19日6時11分に、ダグラスタイプの海軍輸送機一機が使節団を乗せて羽田を出発し14分後に木更津に到着した。そこで一行は2機の中型爆撃機に乗り換え、7時7分に出発した。その飛行機は海上を南東におよそ100マイル進み、（厚木の）海軍航空隊の攻撃範囲の外に出ると、種子島に向かって進んだ。11時15分に、彼らの飛行機は2機のB-24と12機のP-38からなるアメリカ陸軍攻撃部隊2部隊に種子島の南で出会った…彼らは12時40分に伊江島に無事到着した…」海軍省の横山一郎少将、海軍将校大前敏一大佐、海軍省の吉田英三大佐、海軍将校寺井義守中佐の叙述をつなぎ合わせたもの、49年11月21日、G-2 Historical Section（参謀第二部（情報担当）歴史課）, GHQ, FEC．

49 GHQ, AFPAC, Press Release（アメリカ太平洋陸軍の声明）, 19 Aug 45.

50 GHQ, AFPAC,Press Release, 19 Aug 45.会議中、日本とアメリカの代表団は以下の順番で座っていた。レスター・ウィトロック少将（AcofS, G-4（参謀部G-4部長（輸送・兵站））の向かいに吉田英三大佐、リチャード・J・マーシャル少将（DcofS（副参謀長））の向かいに大前敏一大佐、フォレスト・P・シャーマン少将（ACofS for planning for CINCPAC（Commander-in-Chief PACific）（ニミッツ元帥麾下の太平洋艦隊作戦部長））の向かいに横山一郎少将、リチャード・K・サザーランド中将（CofS（参謀長））の向かいに河辺虎四郎中将、ステファン・Ｊ・チェンバーリン少将（ACofS，G-3）の向かいに岡崎勝男、チャールズ・Ａ・ウィロビー准将（AcofS, G-2）の向かいに天野正一少将、そしてドナルド・Ｒ・ハチソン准将（CofS，FEAF（極東空軍））の向かいに松田正雄中佐。通訳はテーブルの両側に座った。

51 Ibid（＝ibidem＝同じ箇所に、同書［章、節］に）.

52 10thGHQ第8軍の情報歴史局、「合衆国第8軍の日本占領に関する研究」第1巻、45年8月―46年1月、11-12ページ。以下、「日本駐在合衆国第8軍の研究」と略記する。なお、G-2、GHQは日本軍の組織に詳しく、通訳局を管轄下においていたので、軍隊解散と武装解除のための日本の計画を監督するよう命じられた。

53 GHQ, SCAP,「フィリッピンのマニラにおいて日本代表団に手渡された連合国最高司令官の要求」,45年8月19日（最高機密）。

54 降伏使節団がアメリカの輸送機に乗っての帰途では、先ず20日の17時45分に伊江島に到着した。彼らを日本まで乗せていく日本の飛行機がそこで待っていたのだが、それらのうち1機に故障が発生していたので、使節団を2つのグループに分け、そのうち1つのグループはその飛行機が直るまで伊江島に残すことが決定された。残らない方のグループは18時40分に伊江島を出発し、種子島の付近まで12機のP-38に護衛されて飛行した。そこから彼らの乗る飛行機は潮の岬から続く海岸沿いを進んでいったが、23時45分に燃料が底をつき、天竜川の河口から東に3キロメートルほどの砂浜に強制着陸せざるを得なくなった。軽い怪我を負った岡崎勝男を除いては、怪我をした者は一人もいなかった。　徒歩と、その後トラックで、遂に21日の3時30分使節団一行は浜松航空学校のある今はもう軍隊はいなくなった司令部に到着した。彼らは7時に浜松空港を陸軍の重装備の爆撃機に乗って出発し、8時に調布の空港に到着した。もう一方のグループの方は21日の8時30分に伊江島を出発し、14時に木更津に無事到着した。横山一郎と大前敏一、吉田英三、寺井義守の叙述をつなぎ合わせたもの。G-2 Historical Section, GHQ, FEC．

55GHQ, AFPAC, Press Release, 20 Aug 45.

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