最終更新：2003年12月22日
作成者：永井 和、冨永 望、李 昇
、川嵜 陽、菊地隆之、松山幸二、鹿雪塋
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、文中の文の切れ目には句点を適宜おぎなった。さらに、読者の便宜を考え、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。
著者が備忘のために日記帳の上欄に付した小見出は、翻刻にあたり、本文のいちばん関連が深いと思われる部分に記入した。また、その小見出しを抽出して、目次を作成し、冒頭においた。また、欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、JＩＳ第１、２水準にない漢字の表示は、e漢字プロジェクト
の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
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○八月一日午前八時後木下源蔵ノ婚談ヲ断ハル為メ内子、水口敏子ヲシテ書状ヲ作ラシメ使ヲシテ之ヲ本多某ノ妻ニ致サシム
○午前十時後調査課ニ到リ武某〔宗太郎〕カ出勤シ居ルヤヲ問フ。課員武ハ日光ニ行キ居ル旨ヲ告ク。予課員ニ対〔シ〕先頃武ニ後見令議註案ノ菎蒻版ヲ命シ置タルカ君等ハ其事ヲ知ラサルヤト云フ。課員菎蒻版ハ既ニ出来居ルモ未タ之ヲ印刷シアラストテ其原書ヲ示ス。予之ヲ返シ之ヲ預リ置クヘキ旨ヲ告ク
○各新聞社ノ工場員過当ノ増給ヲ要求スルニ付各社申合セ今日ヨリ休刊スル旨ヲ通知シ来リ。東京中一ノ新聞紙ナシ
○十二時五分前ヨリ蜂須賀正昭〔韶〕ノ約ニ華族会館ニ赴ク。十二時三四分ノ頃達ス。蜂須賀未タ来タラス。待ツコト五分計ニシテ来ル。一二語ヲ交ヘタル後共ニ午餐ヲ喫ス。
食間蜂須賀ヨリ二女ヲ松田正之ニ嫁セシムルコトヲ約スル前一応君ニ面会シテ話ヲ聞クヘキ旨注意シ呉レタル人モアリタレトモ婚約前ニ話ヲ聞クコトハ御迷惑ナラント思ヒテ差控ヘタリ。何トナレハ君ノ話ニテ約ヲ成スカ否ヲ決スルコトヽナレハ其関係重キ為メ御話ニモ斟酌ヲ要スルコトヽナレハナリ。然レトモ既ニ婚約ヲ成シタル上ハ兎モ角一応御話ヲ聞キ置度ト思ヒ御苦労ヲ願ヒタル訳ナリト云フ。
予予ハ有馬家ノ事ニハ関係致シ居ルモ松田ノ方ニハ無関係ナル故別ニ話ヲ為スコトモナカラント思ヒタルモ用談ノ趣意モ分カラサル故兎モ角来リ見タル訳ナリ。如何ナル用事ナリヤト云フ。
蜂須賀、末広重雄ハ宇和島ノ人ニテ伊達家ニ関係アリ。末広ノ話ニ松田ノ未亡人ハ極端ナル性行ナル様ニ云フトノコトニテ懸念ナキニ非ス。先日末広ハ上京シタル趣ニ付自分（蜂須賀）ト面会スル積リナリシモ遂ニ其機会ヲ得サリシナリ。種々ノ話ヲ綜合スレハ結局未亡人ハ利慾ノ念ノ強キ人ノ様ナルガ如何ト云フ。
予ハ是マテ一回本人ニ面会シタルノミニテ其性行等ヲ悉クス訳ニ参ラス。而シテ之ヲ非評スルハ不都合ナレトモ要スルニ利慾心ノ強キ人ノ様ナリ。然ルニ本人ハ実子アル訳ニ非ス。且多額ニハ非サルヘキモ相当ノ資産モアル模様ニ付此上ニ夫程金銭ヲ欲スル原因ハ了解シ難シト云フ。
蜂須賀、本人ヨリ伊達某（男爵ニテ蜂須賀ノ女ト松田トノ媒酌ヲ為シタル者）ニ対シ嫁ノ候補者ナキヤト云ヒタル由。是ハ松田正久ノ親族勇ト云フ者ノ嫁ヲ捜カス為メナル様ナリ。未亡人カ金ヲ蓄ユルハ勇ニ贈与スル為メナラント思ハル。伊達ニ対シテ嫁ノ話ヲ為ス抔ハ面白キコトニハ非サルモ自分ハ左程念頭ニ置キ居ラスト云フ。
予松田正久ノ存生中一旦実子トシテ入籍シ居リタル者ヲ戸籍ノ誤ナリトテ裁判上ノ手続ヲ為シ除籍シタルカ其原因ハ未亡人カ其人ヲ嫌ヒタル為ナル様ニ聞キ居レリ。其人ノ為メニ今更嫁ヲ捜カシ金ヲ蓄ユル理由ナキ様ニ思ハルヽモ彼ノ人ノ心理状態ハ何トモ判断出来難シ。波多野敬直モ正久死後ハ無資産ナリトノ理由ニテ三万円ノ御下賜金モアリタル位ニ付遺産アルヘシトハ思ヒ居ラサリシ処未亡人ヨリ上野公園内ニ正久ノ追福ノ為メ地蔵ヲ建テ度故許可ヲ得ル様尽力シ呉ヨトノ依頼アリ。是ハ勿論許可セラルヘキコトニ非サルモ仮リニ許可アリトスルモ費用ハ如何スル積リナリヤト云ヒタルニ費用ハ十万円計ニテ夫レハ工夫アリト云ヒタルコトアリ。案外金ハ蓄ヘ居ル様ナリトテ驚キ居リタルコトアリ。
有馬家ト未亡人トノ間ハ一時ハ非常ニ烈シキ衝突ヲ起シタルコトアリ。其時ハ前家令有馬秀雄カ交渉ノ任ニ当リ。同人ハ結局マテ争ヒテ覚書テモ作成シテ解決シ後日ノ紛議ヲ絶タント計画シタルモ其事ハ局ヲ結ハス。其後頼寧ト未亡人トノ談合ニテ一応解決シタル次第ナリ。予等ハ最初ハ一図ニ正之ヲ抑ヘ如何ナル事情アリテモ一旦松田家ヲ継キタル上ハ忍耐シテ未亡人ト仲好クセサルヘカラスト思ヒ幾度カ其趣意ニテ正之ヲ抑ヘタルコトモアリタルガ段々事情ヲ聞キタル上一概ニ正之ヲ抑ヘル訳ニ行カサルコトヲ発見シ自分ハ秀雄ノ意見ニ賛成シ居リタルナリ。
衝突ヲ起シタル当初ノ原因ハ未亡人ヨリ某家ニ対スル負債アリ。之ヲ返済スル為メ有馬家ヨリ出金シ呉ヨトノ相談アリ。然ルニ某家ニ対スル負債ト云フハ成ル程一時ハ負債アリタルモ其債金ニ対シテハ無理ニ半額ニテ打切リ其当時ハ負債ナキ事実明瞭トナリ。有馬家ハ其請求ニ応セサリシコトヨリノ紛紜ニテ結局女ノ浅薄ナル考ヘト云フノ外ナシト云ヘリ。
蜂須賀ハ波多野モ有馬家ヨリ持参ノ五万円ト御下賜ノ三万円トヲ正之ノ有ト為シタラハ兎ヤ〔モ〕角生計ヲ立ツルコトヲ得ルナラントノ話ヲ為シ居リタルコトアルモ三万円ハ勿論五万円ヲ取戻スコトモ容易ナラサルヘシ。然ルニ正之モ右等ノ事ニ付非常ニ気ヲ揉ミ居ル模様ナルガ自分トシテハ右様ノ事ニハ頓着セス一意ニ今後ノ活動ヲ心掛クル様ニ致シ度ニ付其方向ニ誘ヒ呉ヨト云フ。
予正之ハ極メテ柔順ナル性質ニテ場合ニ因リテハ勇気ノ乏シキコトナキニ非ス。成ルヘク勇気ヲ出ス様ニ奨励セラレ度ト云ヘリ。
其他松田カ松田家ヲ継クコトヲ止メ度ト云ヒタルコトアルコト。頼寧カ玉姫学校ノ卒業者ノ補修科ヲ設クルハ有馬家ノ事ニ非ス頼寧一己ノ思立ナルコト。正之カ博物館ニ勤務シ居ルハ石原健三カ宮内本省ニ入ルヽコトヲ承諾セサリシ為メナルコト等ノ話ヲ為シ蜂須賀ヨリ頼寧ヨリ松田ノ為メニ邸宅モ設ケサルヘカラストノ話アリタルモ自分ハ右様ノコトハ如何様ニナリテモ頓着セス。娘ニモ出来ル〔ママ〕得ル丈其辺ノ覚悟ハ為サシメ居ル積リナリト云フ。
予有馬家トシテモ只今直ニ松田ノ為メニ建築スル様ノコトヽ事情出来サルヘク。若シ只今ノ住居ニテ間ニ合ハサルナラハ当分借家デモセサルヲ得サルヘシト云ヒ蜂須賀ハ夫レニテ結構ナリト云ヘリ。此時予ヨリ正之カ選定相続ヲ為シ麻布ノ邸宅ハ正久存生中ヨリ妻ノ所有トナリ居リ。正久死後モ妻ハ相続セス。正之ニハ何モ相続スヘキ財産ナキコトヲ話シタリ。蜂須賀ハ頼寧カ蜂須賀ヨリ持参スル金アリテモ其金額等ハ未亡人ニ明カサス。且当分元資ハ蜂須賀家ニ留メ置キ利子丈ヲ正之ニ渡シ呉ルヽ方好都合ナリトノ話アリ。其事ニ致ス積リナリト云ヘリ。
予ヨリ婚期ヲ問ヒタルニ松田ノ未亡人カ十月頃ニ致シ度旨話シ居ル趣頼寧君ヨリ聞キタルコトアリ。其丈ノコトニテ未タ決シ居ラスト云フ。予先頃結納ハ松田家ニテ取計フ事トナリタルカ頼寧ハ松田家ノ取計ニハ大層困リタリトノ話ヲ為シ居リト云ヒタルニ蜂須賀モ実ニ非常ニ困リタリ。然シ自分ハ何トモ考ヘ居ラス。但結納ヲ持チテ松田家ニ行キ呉レタル伊達ニハ実ニ気ノ毒ニ思ヒタリ。婚儀ノコトハ有馬家ニテ取計ハルヽ趣ニ付最早安心致シ居レリ。近日中自分ノ家職ト有馬家ノ家職ト協議セシムル積リナリ。婚約カ決定シタルニ付テハ其内有馬家ノ人々ト会合シ度事ニ考ヘ居ルガ右様ノ時ハ松田ノ未亡人ハ除クカ宜シカルヘキヤ一緒ニシテ伯爵抔困ラルヽコトハナカルヘキヤト云フ。
予ハ之ヲ除クコトハ適当ナラサルヘシ。松田トノ交渉ハ頼寧カ担当シタルニ付同人ノ意見ヲ問ヒタル上決スル方宜シカラント云ヒ置ケリ。午後二時頃辞シ帰ル
○午後四時後中山勝之助女ニシテ久宗米次郎ノ妻トナリタル金子来リ。玄関ニテ立談シテ去ル。近日出発其夫ト倶ニ朝鮮ニ赴クト云ヘリ
○旧稿四枚ヲ写ス
○八月二日午前八時頃片岡久太郎ヨリ電話ニテ東久邇宮殿下立山ニ登ラレタル処昨夜無事金沢ニ帰ラレタル旨昨夜深更電信ニテ報シ来リタル旨ヲ告ク
○午前九時頃片岡久太郎ヨリ電話ニテ今日午前七時五十五分朝香宮妃殿下分娩女王出生セラレ母子トモ安全ニアラセラルヽ旨報知アリタルコトヲ報ス。予朝香宮ハ尚ホ芝離宮ニ住セラルヽヤヲ問フ。片岡然リト答フ
○午前九時前内子ヲシテ電話ニテ土肥慶蔵カ患者ヲ診察スルヤ否ヲ問ハシ〔ム〕。其家人未タ診察セサル旨ヲ答ヘタル由ヲ報ス
○旧稿八枚ヲ写ス
○木下源蔵他家ニ宿ス
○八月三日午前十時頃芝離宮ニ行キ朝香宮妃殿下ノ王女子ヲ分娩セラレタルヲ奉賀シ帳簿ニ署名ス。朝香宮殿下先日ヨリ芝離宮ニ転住セラレ居ルヲ以テ同宮ニ行キタルナリ
○旧稿八枚ヲ写ス
○八月四日午前十時後調査課ニ至リ浅田恵一ニ逢ヒ伊藤公爵家ヨリ宮内省ニ引継キタル記録ノ目録ヲ借覧ス。憲法ニ関スル記録ヲ調査セント欲シタル為メナリ。陪審制度ハ憲法中法律ニ定メタル裁判官云々トアルニ抵触セサルヤトノ疑アリ。之ヲ調査セント思ヒタルモ適当ナル記録ヲ見出サス
○午後三時頃園田乕野来リ訪ヒ故伯父ノ十三回忌故茂栄ノ周忌祭ヲ行ヒタリトテ菓子一箱ヲ贈ル。話スルコト二時間弱ニシテ去ル
○旧稿五枚ヲ写ス
○午前十時後伊夫伎準一今日ハ自分ノ実況審査報告書ニ付審査官会議ヲ開クコトヲ請フ積リナリシモ青山操カ昨日ヨリ腹痛ニテ今日出勤セサルヲ以テ之ヲ延ハシ度明日ハ（即チ五日）鈴木重孝差支アルヲ以テ矢張リ会議ヲ開キ難シト云フ。予青山病気ノコトハ先刻鈴木ヨリ電話ニテ之ヲ報シタル旨ヲ告ク
古詩賞析巻十魏詩嘲熱客詩ノ注（夏至後第三庚為初伏、第四庚為中伏、立秋後初庚為三伏謂陰気将起迫於残陽而未得升故謂之伏）
〔日記裏表紙の裏に明治憲法第二十三条及び第二十四条の英文の抜き書きあり〕
○八月五日午前十一時頃西野英男ヲシテ調査課ニ行キ大坂毎日新聞本月一日以後ノ分ヲ借ラシム。同新聞ニ京都帝国大学助教授宮本英修ノ陪審制度ニ関スル論文ヲ掲載シ居ルヲ以テナリ。西野新聞ハ石原健三ノ処ニ持チ行キ居ル旨ヲ報ス
○午後一時頃金井四郎電話ニテ只今金沢ヨリ帰リタリ。両殿下并ニ王子トモ御無事ナリ。先日来侍女ト御用取扱トノ間ニ紛紜アリシモ只今ハ折合ヒ居レリ。貴官ハ明日出勤セラルヽヤト云フ。予出勤スル旨ヲ答フ。金井然ラハ明日更ニ宮内省ニテ詳報スヘシト云フ
○午後六時頃橋爪慎吾電話ニテ只今青山ノ有馬邸ニ在リ。今ヨリ二三十分ノ後往訪セント欲ス。差支ナキヤト云フ。予差〔支〕ナキ旨ヲ答ヘシム
午後八時前ニ至リ橋爪始メテ来リ。青山ノ岩波稲子ガ有馬家ヲ去リ度ト云ヒテ種ヽ不平ヲ鳴ラスニ付之ヲ慰諭シ居リタル為メ遅刻セリト云フ
橋爪、先頃頼春ノ病気ニ関スル費用千六百許、久米子ノ婚儀ニ関スル費用ノ不足千円余、雑費ノ不足若干等アリ。予算ノ補助ヲ要スル処自分（橋爪）ハ相談会ニ提出スヘキ書類ノ調整方ヲ知ラス。自分ノ考ヘニテ此ノ如キモノヲ作リ見タリ。一応内覧致シ呉ヨト云フ。
予一覧ノ上病気費用ノ如ク既ニ支出済ミノモノハ支出ノ追認ヲ求ムルモノニテ原案ノ体裁ニテ宜シキモ未タ支出シ居ラサルモノハ追加ノ予算ノ形式ニ改ムル方宜シ。而シテ久米子ノ結婚費予算ハ調度費一万円、宴会其他ノ雑費三千円ナリシ処調度費カ不足セリトテ雑費ノ内ヨリ式服費千円弱ヲ支出シ置ナカラ更ニ雑費ノ補足ヲ求ムルハ適当ナラス。矢張リ其分ハ一応雑費ノ方ニ繰リ戻シ調度費カ不足シタルタメ已ムヲ得ス支出シ置タリトテ其追認ヲ求メ且雑費ノ方ハ式服費ヲ繰リ戻シテモ尚ホ不足スルナラム。此方モ其不足額丈ノ追加ヲ求ムル事ニナスヘキ旨ヲ告ケタリ
橋爪又渡辺竹次郎ナル者カ発起スル貸家会社ニハ頼寧君ハ顧問トナリ居ル処其株式五十株ヲ引受クル必要アリ。此事ニ付貴君ト境トノ意見ヲ問フヘキ旨ヲ命セラレタリトテ関係書類ヲ示シタル故之ヲ一覧シタルニ渡辺其他ノ発起人ハ皆三十株ヲ引受クルコトヽナリ居リ。発起人ノ内ニ一人丈五十株ヲ引受ケ居ルモノアリ。依テ此株ハ有利ナルモノトハ思ハレサルモ頼寧君ト渡辺トノ談合ヒニテ既ニ株ヲ引受ケサルヘカラサルコトヽナリ居ルナラハ已ムヲ得サルニ付之ヲ引受ケサルヲ得サルヘシ。但渡辺等ガ三十株ナレハ其以上ヲ引受ケラルヽ必要ナク一人ノ最低引受カ十株ナル故十株ト云フ譯ニハ行カサルヘキモ二十株位ニテ宜シクハナキヤ。若シ二十株ニテハ不可ナリトスルモ三十株以上ハ引受ケサル様ニ致シ度ト云フ。
橋爪自分（橋爪）ヨリ頼寧君ニ五十株ト云フコトハ約束済ナリヤト問ヒタル処然ラストノコトナリシニ付二十株位ニ話シ見夫レニテ済マサルナラハ三十株マテニ止ムヘシト云ヘリ
予水野光衛ハ未タ上京セサルヤヲ問フ。橋爪先月末マテニ上京スルナラント待チ居リタル処此ノ如キ書状達シタリトテ之ヲ示ス。其書状ハ本月十五日頃マテハ上京出来難キ旨ヲ報スルモノナリ。予十五日ト云フテモ林田守隆ニ交渉スル丈ノ時日ナキニ付夫迄待チ見ルヨリ致方ナカルヘシ。若シ更ニ延引スル様ナラハ林田ニ交渉スルコトヽナスヘシト云フ
橋爪久米子ノ持参金ハ公債証書三万円ニテ証書ハ有馬家ニ預リ置利子ヲ受取リタル都度之ヲ渡ス積リナリシ処月月ノ経費不足ナル故毎月渡シ呉度旨久米子ヨリモ電話ニテ申来リ。尚ホ稲田ノ相談人堀江某カ自分ノ私宅ニ来リ一ヶ月九十円宛渡シ呉度旨ヲ相談シタル故其都合ニ取計フコトヽナセリ。稲田ノ家計ハ僅カニ当主夫婦ノ生計費ニ充ツル丈ニテ新夫婦ノ方ニハ少シノ補助モ出来ス。
稲田昌植ノ収入一ヶ月七十円許アリ。只今ノ住家ハ借賃一ヶ月六十円ニテ夫丈ハ昌植ノ実父佐藤昌介カ補助スルコトヽナリ居リ。一ヶ月ノ費用ハ家賃ヲ含ミテ二百円トナシ昌植ノ収入七十円ト佐藤ノ補助六十円ニテ百三十円之ニ有馬ノ利子七十円ヲ加ヘ之ヲ以テ生計費トナシ残リ二十円ヲ久米子ノ小遣トナス旨堀江ヨリ話シタリト云フ
予更ニ岩波稲子カ暇ヲ取リ度ト〔ノ〕理由ヲ問フ。橋爪、頼寧カ稲子ヲ疎外シ貞子ニ対シ北白川宮家ニ関スル事ハ稲子ニ相談シテ宜シキモ有馬家ニ関スルコトハ決シテ稲子ニ相談スヘカラスト云ヒ居リ。台所ノ事ニテモ如何ナル些細ナル事モ稲子丈ケニテ処置スルコトヲ許サス。此クテハ有馬家ニ居リテモ無益ナリト云フ趣意ナリ。自分（橋爪）ヨリハ程ヨク之ヲ慰諭シ置タリト云フ
予本月一日蜂須賀正韶〔昭〕ト華族会館ニテ松田正之ノ事ニ付会談シタル事情ノ大概ヲ橋爪ニ告ケ置タリ。午後十時頃橋爪帰リ去ル
○旧稿五枚ヲ写ス
○八月六日午前十時後金井四郎宮内省ニ来リ金沢ノ事情ハ昨日電話ニテ概報シタル通リナリ
王殿下ヨリ或ル時自分（金井）ニ対シ菊枝ハ不都合ナリ。予等ノ夜具ハ是迄侍女ガ運ヒ来リ居リタルカ小使ヲシテ夜具ヲ運ハシメタリ。永山（御用取扱）ニモ注意致シ置タルカ一応汝ニモ話シ置クトノ御話アリタルニ付実ニ好時機ナリト思ヒ小使ヲシテ夜具ヲ運ハシタルコトハ例ニ違ヒタルコトナルモ是ハ菊枝モ已ムヲ得ス致シタルコトナル。畢竟他ノ侍女カ菊枝ノ指揮ヲ受ケサル為メ此ノ如ク為シタルモノナルヘク而シテ侍女等カ菊枝ノ言ヲ聴カサル様ニナリタルハ殿下方ガ人ヲ使ヒナサルル事ニ悪シキ所アル為ナリ。人ヲ取締マル責任アル者ハ自己ノ事ニ非スシテ殿下方ヨリ御叱ヲ受クルコト度々アリ。永山ニシテモ菊枝ニシテモ他人ノ為メニ御叱ヲ受ケタルコトハ度々アリトノコトナリ。此辺ノコトハ十分ニ御考ノ上御使ヒ成サルヽ様アリ度シ。
朝香宮殿下ノコトハ宮内省ニテハ御評判宜シカラス。夫レハ事務官ヲ二度マテモ御替ヘ游サレタル為メナリ。金井等カ考ヘニテハ事務官ノ更任ハ実際ハ止ムヲ得サリシコトナラントモ思ハルヽモ他ヨリハ表面ノ事ヲ見テ批評スルニ付致シ方ナシ。
侍女等ノ折合宜シカラサル事ニ付テハ宮務監督モ非常ニ心配シ此上御用取扱カ勤続出来サル様ノコトヽナリテハ殿下ノ御名誉ニモ関スルコトヽナル故右様ノコトナキ様セサルヘカラストノ意見ニテ金井ガ此節参ルニ付テハ処置方ニ付宮務監督ト相談ヲ遂ケタル上ニ参リタル次第ナリトノ旨ヲ申上ケタル処殿下ヨリ夫レハ自分カ悪シカリシナリ。倉富モ心配セサル様伝ヘ呉ヨトノ御話アリ。殿下守屋（侍女）ガ悪シキ訳ナラントノ御話アリタルニ付其辺ニ御気附アル以上ハ金井ヨリ何モ申上クルコトナシト申上ケ置タリト云フ。
金井ハ更ニ実ハ妃殿下ニ行届カサル所アリ。妃殿下ノ御承知ノ事又ハ御指図アリタル事ニテモ王殿下ヨリ御叱アルトキハ妃殿下ハ何トモ御申出ナキ故イツモ御用取扱又ハ侍女取締カ御叱ヲ受クル様ノコトヽナルト云フ。予夫レハ致シ方ナシ。妃殿下ハ御年ハ若シ御生立ハ彼ノ通リニ付其位ノ事ハ当然ニテ是ハ使ハルル者カ我慢セサルヘカラサルコトナリト云フ。
金井ハ又王殿下ニ対シ御用取扱又ハ侍女取締ニ不行届アリテ御叱リ成サルルトキモ女ハ男ト違ヒ少シノコトニテモ非常ニ神経ヲ痛ムルモノ故男ニ対スルトキヨリハ御斟酌ヲ願フ旨ヲ御話申上置タリト云ヘリ
金井ヨリ予ガ金沢ニ行ク期ヲ問フ。予九月上旬カ都合ニテハ中旬位ニナルヘシト云ヒ置ケリ。金井ハ又明日御使トシテ日光ニ行クコトヽナル〔リ〕居ル旨ヲ話ス
金井又両殿下御揃ノ処ニテ永山ヨリ侍女一同ニ対シ何事ニ限ラス事務官又ハ御用取扱ヲ経スシテ直接殿下ニ申上ケサル様ニ自分ヨリ永山ニ打合セ永山ハ之ヲ実行シタル筈ナリト云フ
○午前九時後ヨリ内子園田格ノ家ニ行キ帰途荒井ノ家ニ過キリ零時後帰リ来ル
○旧稿九枚ヲ写ス
○午前十一時頃西野英男調査課ニアル大坂毎日新聞ハ今日マテモ何トモ申来ラス。宗秩寮ニアリタルニ付之ヲ借リ来リタリト云フ。予宮本英修ノ陪審論ヲ一見ス。第一回ハ先月分ノ新聞ニ出テ居ル模様ナルモ特ニ之ヲ観ル必要ナキニ付其侭ニテ宗秩寮ニ返サシメタリ
○内蔵寮ヨリ追加予算書類ヲ配布ス。午前十一時後宮内省ニテ之ヲ受領ス
○八月七日午前八時前旧稿二枚ヲ写ス。是ニテ大正六年分ノ詩ヲ写シ終ハリタルニ付以前ノ分ト併セ表紙ヲ附ケテ之ヲ仮綴セリ
○午前十時後ヨリ伊夫伎準一ノ内匠寮ニ於ケル実況審査報告書ニ付審査官会議ヲ開ク。十二時前議了セリ
○午後四時後久徳宗昭来リ夜具ヲ預ケンコトヲ請フ。予土蔵ノ二階ナラハ差支ナキ旨ヲ答フ。久徳明日持チ来ルヘシト云フ
○八月八日午前九時三十分ヨリ出勤ス
○午前九時前婢徳ニ電話シ久徳宗昭カ夜具ヲ預ケニ来ルヘキニ付土蔵ノ二階ニ入レ置カシムヘキ旨ヲ告ク。予昨日久徳ト約シタルトキ内子ニハ一寸其旨ヲ話シ置タルモ念ノ為メ之ヲ徳ニ告ケタルナリ
○午前九時ヨリ予算会議ニ列ス。予算ハ御資会計収支部ヨリ通常会計ニ四十六万円余ヲ繰リ入レ通常会計追加予算第六号ハ田母沢改築費追加外数件。特別会計ノ追加予算ハ林野管理局博物館学習院ノ追加予算ニテ予ハ多少原案ニ不賛成ナリシコトアルモ総テ原案ヲ可決セリ。十一時後議了ス
○午後十時頃内子木下源蔵カ金百円ヲ借ルコトヲ請フ旨ヲ告ク。時ニ予既ニ寝ネ居リ。木下亦褥ニ在リ。予内子ニ木下カ金ヲ要スル事情ヲ問フ。相当ノ理由ナシ。乃チ内子ヲシテ木下ヲ起シ来ラシム。
予木下ニ対シ金ヲ要スル理由ヲ問フ。木下朝鮮ニ帰ル旅費ハ差支ナシ。友人ノ大坂ニ在ル者其妻ノ不行跡アルヲ疑ヒ其確証ヲ得ルコトヲ望ミ其手段ヲ自分ニ依頼シ居ルニ付帰途大坂ニ過キリ自分（木下）ノ友人ニテ巡査部長ヲ勤メ居ル者アリ。其者ニ探索方ヲ相談スル積リナルカ右様ノ事ヲ為スニハ金ヲ使ハサレハ出来難カルヘキニ付其用立ノ為メニ借リ度訳ナリト云フ。予右様ノ必要ナラハ予ハ之ヲ貸スヘキ理由ナキニ付承諾セスト云フ。
木下又其妻カ不行跡アリテ之ヲ去リタルカ仁川ニテハ其内情ヲ知ラサル者ガ自分ノ母カ無理ニ嫁ヲ逐ヒ出シタルモノト思ヒ居ル模様ニテ母ハ非常ニ心痛致シ居ル趣ナリ。其結果仁川ニ居リ難キコトヽナレハ先日御話アリタル如ク宮内省ヘ転任スルコトヲ願フ様ニナルヤモ計リ難シト云フ。予此事ハ勿論必成ヲ期スル訳ニハ行カサレトモ仁川ニ帰リタル上東京ニ来ルコトヲ希望スルコトヽナリタラハ兎ニ角一応其趣ヲ内報セヨ。左スレハ宮内省ノ方ニテ詮議ヲ尽クシ成否ノ見込ヲ立テヽ内報スヘシト云フ。
木下転任スルヨリモ一旦辞職シテ再任スル方便宜ナリ。然シ身元調等ノ為数ケ月間職ヲ失フコトモ困ル訳ナリト云フ。予其事ハ今俄ニ概言シ難シ。其時ノ都合ニテ成ルヘク便宜アルコトニナスヨリ致方ナキ旨ヲ話シ置ケリ
○八月九日午前九時頃木下源蔵辞シ去ル。是ヨリ東京駅ニ行キ手荷物ヲ托シ夫ヨリ岩倉熊一郎及浅草ニ在ル従兄某ヲ訪ヒ午後九時ノ汽車ニテ出発スル旨ヲ告ケテ去レリ
○午前十一時後高橋其三来リ。板倉松太郎岩田一郎カ支那政府ニ聘セラレタル条件ヲ知リ居ルヤ自分（高橋）ノ友人ニテ支那政府ニ聘用セラルヽコトヲ勧告セラレ居ルモノアリ参考ノ為メ板倉等ノ条件ヲ聞キ度ト云フニ付之ヲ問フト云フ。予之ヲ知ラサル旨ヲ答フ
○午前十時後金井四郎来リ。別ニ用事ハナキモ宮内省ニ来リタル故一寸立寄リタリ自分ハ本月十一日ヨリ避暑ノ為メ旅行スル故含ミ置呉ヨト云ヘリ
○晩間内子銀座ニ行キ万年筆ノ修繕ヲ命ス
○午後荒井カスヱ内子ニ電話シ今日木下源蔵カ来リタルトキハ髪ヲ結ヒ居リテ何人カ来リタルヤヲ問ハス。後ニ名刺ヲ見テ木下ナルコトヲ知リタリトノ話ヲ為シタル由ナリ
○午前書籍店須田某漢文大系第十八巻ヲ致ス。本年七月三十一日五月十四日ノ日記ヲ観スヘシ
○八月十日日曜午前ヨリ午後マテ書状ヲ作ル
○午後久徳宗昭来リテ夜具及ヒ衣類ヲ預リ二包トナシアリ。久徳ヲシテ之ヲ土蔵ノ二階ニ置カシム。久徳ハ本月八日ニ来ルヘキコトヲ約シ置ナカラ其約ニ違ヒ今日来リタルナリ
○八月十一日蒸熱人ヲ悩マス
○午後七時頃ヨリ内子銀座及ヒ久保町ニ行キ線香及ヒ支那焼茶碗等ヲ買フ
○八月十二日午後零時四十分頃隆本日午前六時三十五分田主丸局発ノ電信達ス。道子本日午前一時三十五分分娩女子出生母子トモ無事ナルコトヲ報スルナリ。午後一時後返電ヲ発ス
○八月十三日午前九時頃ヨリ内子三越呉服店其他ニ行キ物ヲ買フ。孫女ノ為メニスルモノ多キニ居ル
○林恭次郎カ札幌ヨリ送リタル筋子粕漬三箱梅ノ子三箱達ス。皆海産物ナリ
○八月十四日午前十時後石原健三ヲ其事務室ニ訪フ。石原正ニ食堂ニテ杉栄三郎ト話ス。予亦就■テ話ス。杉去ル。
山口鋭之助来ル。既ニシテ吉田某〔平吾〕（林野管理局主事）来ル。山口皇族墓地同葬儀及遺命遺言等ノ事ヲ話ス。
予石原ニ対シ予カ本月十六七日頃ヨリ帰郷スル旨ヲ告ク
吉田カ未タ来ラサルトキ学習院教授松井安三郎来リ。休職ヲ命セラレタルニ付石原ニ挨拶ヲ為シ予亦之ト話ス
審査局ニ返リ伊夫伎準一ニ林恭次郎ヨリノ書状達シ今日帰京スル旨ヲ報シ来リタルコト及ヒ予カ十六七日頃ヨリ帰郷スルコトヲ告ク
○西野英男来リ予ガ不在中用事アラハ遠慮ナク申聞ケヨト云フ。予牛乳代価ヲ牧場ニ払フコトヲ依頼スヘキ旨ヲ話シ置ケリ
○午前十一時後調査課ニ行キ浅田恵一ニ千代田通信ハ何人カ経営シ居ルヤヲ問フ。浅田、井深（井深ト云ヒタルヤ確ニ記憶セス）某ニテ永田町伊東（巳代治）ノ前ニ在リト云フ。予カ之ヲ問ヒタルハ先日二上兵治ノコトヲ誹譏シタル通信アリタルヲ以テナリ
○午後二時頃ヨリ内子三越呉服店及弓町ノ万年筆商福田方ニ行キ切地及万年筆ヲ買フ
○午後三時頃永富定吉ノ長女高取千代来ル。内子在ラサルヲ以テ予之ト話ス
○午後四時頃荒井賢太郎来リ隆ガ女ヲ挙ケタルヲ賀シ切地ヲ贈ル。荒井カ来リタルトキ高取尚ホ在リ。広津直人ノ住所ヲ問フ。予住所ヲ記シテ之ヲ交シ高取ヲ送リタル後荒井ニ面ス。荒井正ニ話ス。内子帰リ来ル。五時頃荒井帰リ来ル
林恭次郎ガ贈リタル海産物筋子粕漬一箱梅ノ子一箱ヲ荒井ニ贈ル
○久徳宗昭電話ニテ予ガ帰郷ノ日ヲ問フ。未定ノ旨ヲ答ヘシム
○八月十五日午前水口敏子昨夜腹痛下痢シタリトテ褥ニ臥ス
○午前八時後内子一ツ木郵便局ニ行キ預金ヲ取ラントス。局員金ノ準備ナキヲ以テ明日午前十時ニ渡スヘキコトヲ約ス
○午前十時後西野英男ニ嘱シ汽車発着ノ時刻改正ハ本日ヨリ実行スル趣ニ付午後ニ東京駅ヲ発スル第三第五列車ノ神戸及馬関着ノ時刻ヲ東京駅ニ問ハシム。西野時刻改正ハ本月廿日ヨリ実行スル趣ナルコトヲ報ス
予内子ニ電話シ其旨ヲ告ケ且乗車券ヲ購ハサルモ寝台券ハ之ヲ購フコトヲ得ル趣ニ付本月十七日ノ寝台券ヲ購フへキヤ否ヲ問フ。内子十七日ニ出発スルコトハ尚ホ決定シ難シト云フ乃チ止ム
○午前隆本月十三日発ノ書状達シ出生児ノ写真ヲ送リ来ル。写真ハ出生ノ日即チ本月十三日ニ写シタルモノナリ
○午後八時頃橋爪慎吾電話ニテ貴君帰郷ノ事ヲ伯爵ニ話シタル処伯爵ヨリ先年久留米別邸ニ（コウヱン木）香遠木カ ヲ蔵セシメ置タリ。今尚ホ保存シ居ルヤ否序アラハ田中熊蔵ニテモ問ヒ合セ見呉ヨトノコトナリ。
是ハ固ヨリ書状ニテモ弁スルコトナル故是非トモ云フ訳ニ非ス。其辺ハ含ミ置都合次第ニ為シ下サレ度又伯爵ヨリ久留米ノ菓子屋ヨリ（丸ボーロ）ヲ買ヒ求メテ持参スルコトヲ依頼セヨトノコトナリシモ是モ固ヨリ必要ノコトニ非サルヲ以テ都合次第ニ為シ下サレ度ト云フ。予之ヲ諾ス。
橋爪愈々明日出発スルヤト云フ。予明日ハ出発セス。明後日モ未タ汽車ノ都合ヲ調ヘ居ラサル故愈々出発スルコトニモ決シ居ラスト云ヘリ
橋爪伯爵ハ今日午後ヨリ避暑ノ為メ仙台ニ旅行シタルコトヲ報ス
○午後内子電話ニテ荒井カズヱニ昨日荒井賢太郎カ来リ訪ヒタルコトニ付挨拶ス
○午前十一時後石原健三来リ予カ明日ヨリ帰郷スルヤヲ問フ。予未定ナル旨ヲ答フ
○八月十六日午前十時後調査課ニ就キ故事熟語大字典ヲ借ル。課ニハ其字典ナシ。課員文書課ヨリ借リ来リテ之ヲ貸ス。（虚皇）ノ出処ヲ検セント欲シタルモ其熟語ヲ載居ラス。乃チ之ヲ調査課員ニ返ス。（虚皇）ノ出処ハ相川勝蔵ヨリ問ヒ来リタルモノナリ
○午前十時ヨリ内子一ツ木郵便局ニ行キ郵便貯金ヲ取ル
○今朝冷甚シ寒暖計七十二三度位ナリ
○午後七時頃橋爪慎吾ヨリ電話ス。時ニ予正ニ浴ス。乃チ婢ヲシテ其旨ヲ告ケシメ浴後予ヨリ電話ス。
橋爪昨日電話ニテ嘱シ置タル（コウヱン木）ノコトハ既ニ久留米別邸ニ書状ヲ出シ置タルニ付別段手数ヲ掛クルニ及ハス。又丸ボールノコトモ東京ノ麹町ニ之ヲ売ル所アル趣ニ付之ヲ買フコトヲ依頼スル必要ナキニ付之ヲ領シ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。橋爪明日出発スルヤト云フ。予未定ナル旨ヲ答フ
橋爪、頼寧カ（ミトリ）ト倶ニ土浦ニ行キ二三泊シ今日帰京シテ直ニ千住ニ行キ今夜モ帰ラサルヘキ旨ヲ話ス
○八月十七日午前九時頃金井四郎電話ニテ昨夜避暑地（千葉県）ヨリ帰リタリ一寸電話ニ掛リ呉ヨト云フ。予之ト電話シ何故ニ早ク帰リタリヤト云フ。金井暴風襲来ノ虞アリタル為メ昨夜急ニ帰リ七時頃帰着セリ。本月廿日ヨリ金沢ニ行キ王殿下ニ随テ白山ニ登リ然ル後帰京スル予定ニ付其前一応相談シ度コトアリ。明日ハ宮内省ニ出勤セラルヽヤト云フ。
予未タ汽車ノ都合モ聞キ合ハセ居ラサレトモ都合宜シケレハ明日出発帰郷スル積リニ付其事ニ決スレハ明日ハ出勤セサルヘシト云フ。金井今日午後在宅ナラハ往訪スヘシト云フ。予今日ハ外出ノ予定ナリ。明日午前八時九時頃来リ呉ヨ。若シ明日出発セサレハ出勤スルニ付其時ハ更ニ電話ニテ其事ヲ報スヘシト云ヒ置タリ
○午前十一時頃三越呉服店ヨリ有馬伯爵ノ命ニ依リ瓶代二円ノ預リ切手、銀製コップ二個及伯爵ノ書状ヲ届ケ来ル。前日伯爵ノ第二女久米子稲田邦昌〔昌植〕ニ嫁シタルトキ予カ祝品ヲ贈リタルニ酬ユルナリ
○午後一時頃ヨリ内子ト倶ニ東京駅ニ到リ明日午後四時発汽車ノ寝台券ヲ買ハントス。駅員既ニ下段ノ券ナシト云フ。乃チ明後十九日ノ券二枚ヲ買フ。予ハ直ニ帰リ内子ハ神田ニ行キ電池ヲ買フ
○予等カ東京駅ニ行キ居リタルトキ西野英男来リテ予等カ帰郷スルニ付用事アラハ処理スル積リニテ来リタリ。明日更ニ電話ニテ問フヘシト云フテ去リタル由予カ帰リタル後婢徳ヨリ之ヲ報ス
○午前内子坂田稔ノ家ニ行キ診ヲ乞フ薬ヲ求ム
○午前書籍店須田某ノ店員来リタルニ付大場茂馬カ著シタル陪審ニ関スル書籍ヲ買フコトヲ命ス
○午前内子ガ坂田稔ノ家ニ行クトキ内子ヲシテ萎縮腎ノ兆候ハ如何ナルモノナルヤヲ問ハシム。予頃来放尿ノ勢弱キヲ以テナリ。内子帰リ来リ萎縮腎ハ腎臓炎ノ終期ニ発スルモノニテ突然発スル病症ニ非スト云ヒタル趣ヲ報ス
○午後三時頃田村完二其弟行夫ト倶ニ来リ訪フ。詳カナルコトハ両人ノ名刺ニ記シ置ケリ
○午後七時頃金井四郎ニ電話シ明日マテハ出発セサルコトニ決シタルニ付明日午前十時頃宮内省ニテ面会スヘキ旨ヲ告ク。金井承知ノ旨ヲ答フ
○八月二十二日午前九時前啓二郎ノ家ニ到リ祠堂ニ謁ス。内子亦倶ニス。又強五郎ノ家ニ過キル
○午前十時頃阿礼及ヒ九一郎来ル正ニ話ス。後藤謙次郎ノ寡婦某来リテ道子ノ安産ヲ賀ス。某ハ予等カ帰県シタルコトヲ知ラスシテ来リタルナリ。話スルコト三十分許ニシテ去ル。某隆ニ香魚数尾ヲ贈ル
○午後倉富賢吾来リ訪フ。話スルコト二十分許ニシテ去ル
○午後阿礼ノ末女マサル来リ訪フ。話スルコト少時
午後一時前阿礼九一郎及ヒマサル福岡ニ帰ル
○八月二十三日予本月十八日爪ヲ截ル右ノ拇指ノ爪ヲ截ルコト深キニ過ク拇指微痛アリ数日ノ後痛漸ク軽シ此夜更ニ痛ヲ覚ユ
○八月二十四日拇指腫レ膿ヲ醸ス
午前八時後ヨリ吉井ニ行キ秦収三郎ノ診ヲ乞フ。秦之ヲ截開シ膿ヲ去リ軟膏ヲ貼ス。午前十時前帰リ来ル
○午後五時前浴ス内子ヲシテ助ケシム。右手ヲ使フヘカラサルヲ以テナリ
○八月二十五日午後三時頃秦収三郎来リテ道子ヲ診ス予亦拇指ヲ診セシム。秦今後両三日軟膏ヲ貼シ然ル後（デルマトール）ト名クル粉薬ヲ撒シ包帯ヲ為スヘシト云フ
○午前産婆中山某来リ朗子ノ浴ヲ行フ
○八月二十六日午前看護婦蓮尾某ヲ返ス
○午後書ヲ鈞ニ贈ル
○午後電信ヲ趙大鎬ニ発シ其父重応ノ死ヲ吊ス
○大工亀吉ヲシテ物置小屋ノ壁ニ板ヲ張ラシム
○夜本家ニ到ル。強五郎啓二郎隆及ヒ安久等正ニ安カ修学方針ヲ議ス。予亦其議ニ与カリ安ヲシテ上京シ予カ家ニ寓セシ〔ム〕ルモ亦妨ナキ旨ヲ強五郎ニ告ク
○八月二十七日安カ為メニ兵役ニ関スル法令ヲ検シ兵役猶予ヲ出願スル期限ヲ調査ス徴兵令ノ改正後徴兵事務条例ノ改正アリタルヤ否詳ナラス故ニ其出願期限ヲ確知シ難シ
○大工亀吉ヲシテ物置小屋ノ壁ニ板ヲ張ラシム
○小僕喜三郎田主丸ニ行ク。予之ヲシテ林田守隆ニ贈ル書ヲ致サシム。喜三郎帰リテ林田正ニ石垣ノ別邸ニ在リ答書ヲ得難キ旨ヲ報ス
○午後四時頃林田ノ使来リ答書ヲ致ス。書ハ明日午前林田ガ来リテ予ヲ訪フ旨ヲ報スルナリ
○午前隆吉井ニ行ク之ヲシテ秦収三郎ノ家ニ過キリ拇指ニ撒布スル粉薬ヲ求メシム
○八月二十八日午前八時ヨリ隆船越村役場ニ行キ在郷軍人ノ点呼ニ関スル予習ヲ為ス。十一時頃帰リ来ル
○午前九時頃林田守隆来リ訪フ。予有馬伯爵家ノ近状ヲ語ル。有馬秀雄ト有馬頼寧ト不和ナルコト秀雄伯爵居室ノ修繕ノ計画決定後伯爵ニ話シテ模様替ヲ為サシメタルコト等ヲ話ス。林田久留米別邸ノ家職ニ対スル待遇ハ東京本邸ノ家職ト同一ナルヤト云フ。予同一ナルヘキ旨ヲ答フ。林田細見保等ハ家令橋爪慎吾ノ取計ニテ待遇薄シト云ヒ居ル旨ヲ話ス。予詳細ヲ知ラス帰京ノ上橋爪ニ問合セ見ルへシ
○大工亀吉ヲシテ物置小屋ノ壁ニ板ヲ張ラシム。今日ニテ終ハル
○林田ハ話スルコト一時間許ニシテ辞シ去ル
○午後四時頃城数馬来リ訪ヒ本月十八日ヨリ久留米ニ来リ熊本等ニ行キ祖先ノ墓ヲ集メタリト云フ。之ト話スルコト一時間許朝鮮近事ヲ語リ且ツ城カ修築シタル墓ノ模様ヲ問フ。予亦将ニ共塋ヲ作ラント欲スルヲ以テ参考ニ供スルナリ
○午後三時頃古賀増吉来リ訪フ。予等正ニ之ト話ス。会々城カ来リタルヲ以テ増吉ハ啓二郎ノ家ニ行ケリ。午後七時後復タ来リテ辞シ去レリ。増吉川苔菓子ヲ贈ル
○午前産婆某来リ朗子ヲシテ浴ヲ取ラシム。産婆ニ謝金三十五円看料五円ヲ与ヘ又内子ヨリ浴衣地一反ヲ与フ
○夜啓二郎刀剣ヲ観ルトキノ帛ニ字ヲ作ルコトヲ請フ
○八月二十九日隆午前七時ヨリ村役場ニ到リ在郷軍人ノ点呼ニ関スル予習ヲ為ス。十一時後帰リ来ル
○午後草場健三郎同季彦吉田弟彦ニ吊書及ヒ香料金五円ヲ贈ル
○夜啓二郎ノ家ニ到リ墨及ヒ筆ヲ借リ来ル
○八月三十日午前八時頃内子及ヒ隆ト倶ニ先塋ニ拝ス帰途法音寺ニ過リ住僧森温奥ニ逢フ
○晩間隆及小僕生野喜三郎ト倶ニ庭上ニ撒水ス
○午前啓二郎ノ為メニ刀剣ヲ観ルトキノ帛紗ニ（吹毛切玉）ノ字ヲ書ス
○八月三十一日午前書留書状ヲ西野英男ニ贈ル
午後四時頃古賀増吉来リ訪フ。話スルコト十分許ニシテ辞シ去ル
○夜松岡ノ寡婦其女幸江ヲ訪ヒ来リ幸江ヲ託シテ去ル。寡婦鶏卵ヲ贈ル
