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最終更新：2005年6月22日
作成者：永井 和、冨永 望,、李 昇、川嵜 陽、鹿雪瑩、Janusz Mytko
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、原文にはない句読点を適宜おぎなった。さらに、読者の便宜を考え、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。
著者が備忘のために日記帳の上欄に付した小見出は、翻刻にあたり、本文のいちばん関連が深いと思われる部分に記入した。また、その小見出しを抽出して、目次を作成し、冒頭においた。また、欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、JＩＳ第１、２水準にない一部漢字の表示に、e漢字プロジェクト
の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
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○十一月一日午前八時後、高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。両耳ニ風ヲ通ス。
明後三日午後一時ヨリ平田東介〔東助〕平山信成〔成信〕等ト倶ニ皇室財産ニ 関スル方針ヲ議セント欲ス。其議ニ参スル者ハ経済会議ニ参列スル者位ニ致シ度、君 モ之ニ加ハリ呉ヨト云フ。
予先頃ハ内大臣府ニ御用掛ヲ置ク様ノ話ナリシニ、平田ハ宮内省御用掛トナリタ ルハ、内大臣府御用掛ハ止メタルヤト云フ。石原、初メ西園寺公望カ仏蘭西ニ行ク前、御用掛トナルコトヲ相談シ、其時ハ西園寺モ之ヲ諾シ居リタルモ、帰朝後之ヲ諾セサル コト〔ヽ〕ナレリ
其理由トスル所ハ、洋行前ニハ幾分貢献スヘキ希望ヲ有シタルモ、帰朝後拝謁シタ ル処ニテハ、洋行前ノ模様ト異リ貢献ノ見込ナシ。又自分（西園寺）モ講和条約ノ関係ニテ、今後一年間位ハ政事ニ関係セサルヲ得サル事アルヤモ計リ難ク、其ノ為メ累ヲ皇室〔ニ〕及ホス様ノコトアリテハ済マサルニ付、旁之ヲ引受ケ難シト云ヘリ。西園寺カ諾セサルニ付テハ、別ニ内大臣府御用掛ヲ置クモ仰山ナル故、宮内省御用掛トシテ平田ノミヲ入レ、平山ハ是マテ通リ内大臣府御用掛トシテ其侭ニ置キタルナリ ト云フ。
予、波多野ガ皇族処分ノコトヲ躊躇スル原因ハ何処ニ在ルヤ、矢張リ伊東巳代治ニ話スコトヲ憚リ居ルヘキヤト云フ。
石原、其原因ハ分ラス。先日抔ハ制度審議会カ余リ面倒ナルコトヲ云フ様ナラハ之ヲ廃シテモ差支ナシ ト云ヒ居リタルモ、今日ニ至リテ之ヲ廃スルコトハ出来難シ。昨年一ト思ヒニ之ヲ廃
スレハ宜シカリシニ、惜シキコトヲ致シタリト云フ。
予、伊東ガ総裁ヲ辞シタルトキ之ヲ廃スレハ何事モナカリシニ、残念ノコトヲ為セリ。其頃ハ平素控ヘ勝チナル清浦奎吾抔モ余程強硬ナル意見ヲ吐キ居リ。此方ニハ十分ノ味方アリタル故、伊東等カ反抗的体度ニ出テヽモ心配ナカリシナリト云フ。
石原又昨日ノ勅語ノ模様ハ拝シタルナラン。昨日マテハ幾分ノ望ヲ属シ居リタルモ、到底開院式ノコトハ望ミ難シト云フ。予、御臨幸アリテ勅語ナキ訳ニハ行カサルヘシト云フ。石原夫レハ出来ス。開院式前ヨリ御避寒ニナルヨリ外ニ方法ナカルヘ シト云フ。予、左スレハ新年式モ御止メニナリ、宴会場ノ狭キコトモ心配ナクシテ済ムヘシト云フ。石原其通リト云フ。
予、尹徳栄モ辞爵ト同時ニ恩賜ノ公債ヲ返スコトヲ申出テ居ルヤト云フ。石原申出テ居ルト云フ。予、朝鮮ニテハ寺内正毅ヨリ長谷川好道ヲシテ李太王ニ説カシメ
タルコトアリ。太王カ之ヲ諾セサリシ為メ其口ヲ塞ク手段トシテ太王ヲ毒殺シタル様ニ言ヒ触ラシタル趣ナルモ、寺内ヨリ説カシメタリト云フ事柄ハ分ラスト云フ。
石原右ノ如キ風説アリヤト云フ。予、閔等ハ毒殺云々ノ風説ノ無根ナルヲ明カニスルコトヲ望ミ、辞職ハ其本意ニ非サリシニ、予期ト違ヒ免官トナリタル為メ非常ニ不満ヲ懐キ居ル趣ナリト云フ。
石原或ハ然ラン。然レトモ閔等ヲ免シタルハ好都合ナリ。斎藤実モ閔等ノ術計ニ陥ヒル程愚ニモ非サルヘシト云フ。話スルコト十分余ニ シテ石原去ル
予明後三日ノ協議会ノ時刻ヲ確認セス。石原ノ話ノ中ニ協議スヘキ事項ハ山崎四男六カ調ヘタリトノコトアリシ故、三時頃山崎ノ事務室ニ到リ、時刻ヲ問ハントス。石原正ニ其室ニ在リ。予乃チ之ヲ問フ。石原既ニ去ル。予、山崎ト大正九年度予算 ノコト等ヲ話シ三四分間ニテ局ニ返ル
十一月二日午前十時頃片岡久太郎、電話ニテ東久邇宮妃殿下ハ愈々明三日金沢ヲ発シ、四日午前十時十五分ニ上野ニ着セラルヽコトヽナリ、侍医鈴木某ハ昨夜出発御迎ノ為メ金沢ニ赴キタリ。四日ニハ貴官ト金井四郎鈴木ト同乗スル様ニ自動車ヲ備ヘ置クヘシト云フ。予、予モ上野ヨリ宮邸ニ行ク積リナリト云フ。
○午後一時ヨリ愛宕下青松寺ニ赴キ、将ニ明石元次郎ノ追悼会ニ列セントス。会ハ二時ヨリ始マル。予ガ青松寺ヲ距ル一丁許ノ処ニ到リタルトキ、尚ホ一時二十五分ナリ。乃チ時ヲ費ス為メ愛宕山ニ登リ、一時三十七分ヨリ之ヲ下リ寺ニ赴ク。
佐竹義準、荒井賢太郎、向井巌、山根正次、奥宮正治、藤田嗣章、山根武亮、大屋権平、俵孫一、井上雅次［二］、山縣伊三郎、高橋是清等在リ。三時後式終ル。香ヲ焼テ帰ル。帰途ハ虎門マテ徒歩シ、虎門ヨリ赤坂見附マテ電車ニ乗リ見附ヨリ徒歩シタリ。
○午後五時後、内子昨夜眠ラサリシトテ寝ニ就ク。
○午前ト午後トニ陪審ニ関スルコトヲ調査ス。陪審ヲ設クルモ憲法第二十四条ニ牴触セサル工夫ヲ得タリ。
○十一月三日午前八時後ヨリ高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。今朝ハ洟多シ。
○午後一時ヨリ波多野敬直、平田東助、平山信成［成信］、石原健三、山崎四男六、南部光臣ト倶ニ波多野官房ノ隣室ニ会シ、皇室経済ノ方針ヲ議ス。波多野ヨリ一応ノ挨拶ヲ為シ、山崎ヨリ十一個ノ問題ヲ説明〔セ〕シム。之ニ対シ平田ヨリ二三ノ質問ヲ為シ、各自談話ヲ交ヘ午後四時散会ス。
○内子尚ホ褥ニ在リ。
○午後一時頃石原健三ノ事務室ニテ田中遷ニ遇フ。予、田中ニ朝鮮ニテハ尹徳栄等ガ李太王ヲ毒殺シタリトノ風聞アリタル由ナルカ、其原因ニ付テハ如何ナルコトヲ云ヒ居ルヤト云フ。田中或人カ李太王ノ署名捺印シタル文書ヲ得テ巴里ノ講和会議ニ赴キ、独立ヲ図ラントセシニ、閔丙奭、尹徳栄、宋秉畯等カ太王ヲシテ署名捺印セシメサリシカ、愈々独立カ出来ル様ニナレハ、閔等カ立場ナキコトニナル故之ヲ殺シタリトノ風説アリタリト云フ。
○十一月四日午前八時前、橋爪慎吾ニ電話シ、境豊吉ノ長男ノ結婚ニ付境ヨリハ贈答ヲ断ハリ来リ居レトモ、橋爪等カ何カ贈ルナラハ予モ之ニ加ヱ置クコトヲ依頼ス。又有馬邸改築、水天宮神楽堂改築ノ模様ヲ問フ。橋爪、大分出来タルモ年内ニハ竣工シ難シト云フ。又松田正之結婚ノコトヲ問フ。橋爪万事予定ノ通リ運ヒ居リ。家モ本月七日ニ取引ヲ了翌日引移ルコトヽナリ居ルト云フ。
橋爪又頼寧ヨリ羽二重ニ護謨ヲ引キタルモノ海軍ニ需用多ク、之ヲ製造スル株式会社ヲ設立スル計画アリ。其計画ハ農商務省ニ奉職シ居ル者及勧業銀行ニ勤務シ居ル者之ヲ為シ、農商務省ニ奉職シ居ル者ハ初メ辞職シテ其事ニ当ル積リナリシモ、自己ノ名義テ出サスシテ之ヲ営ムコトヽナリ。其者ヨリ株式千株ヲ引受クルコトヲ頼寧君ニ相談シ、既ニ之ヲ諾シ置タル故、其事ヲ君（予）等ニ内談シ呉度旨先頃ヨリ度々頼寧君ヨリ話サレ居ルモ、今日マテ其侭ニ致シ置タリ。是迄取調ヘタル所ニテハ其事業ハ宜シカルヘキ模様ナリ。千株ハ過多ナルモ二百株位ハ引受ケラレテ宜シカラント思フト云フ。
予イツモ承諾シタル後ニ相談セラルヽ故拒絶スル余地ナシ。好キ事ナラハ二百株引受ケテモ宜シカルヘキモ、予約スルコトハ止メル様ニ致シ度ト云フ。橋爪同感ナリト云フ。
○午前九時ヨリ上野停車場ニ行キ、東久邇宮妃殿下、盛厚王、師正王ノ金沢ヨリ帰ラルヽヲ迎フ。仙石政敬、折田有彦、橋本某（元第七師団長）、山下亀三郎、前田利為ノ使某、武田宮附事務官某、他ノ宮附御用取扱婦人某々等来ル。十時十五分ニ汽車達スヘキ予定ナルモ、遅延シテ十一時少シ前ニ達シタリ。予、金井四郎、鈴木某（侍医）ト自動車ニ同乗シテ宮邸ニ至ル。少時ノ後妃殿下ニ謁シ退テ金井鈴木ト倶ニ午喫ス。
寺内正毅ヲ弔ス。増上寺ノ僧正ニ読経ス。予其室ニ到リ焼香ス。読経終ハリタル後出テヽ応接室ニ到リ、江木千之、秋山雅之介、有松英義等ニ面ス。既ニシテ正ニ帰ラントス。帽ヲ捜スモナシ。蓋何人カ誤リテ持チ去リタルナリ。
帽ヲ戴カスシテ帰リ、東久邇宮邸ニ電話シ予カ宮邸ヲ辞スルトキ帽ヲ間違ヘ居ラサリシヤヲ問フ。片岡久太郎帽ヲ著ケテ帰リタル者ハ鈴木ト金井ノミナリ。電話ニテ之ヲ問ヒ然ル後之ヲ報スヘシト云フ。少時アリテ片岡電話ニテ、鈴木モ金井モ帽子ハ違ヒ居ラスト云ヒタル旨ヲ報ス。寺内ノ家ニテ予カ帽ナキ故、或ハ宮邸ヲ辞スルトキヨリ間違居ラサリシヤト思ヒ之ヲ問ヒ合セタルナリ。
今朝上野ニ行キ、帰途ハ自動車ニ乗ル予定ナル故直ニ車夫ヲ返シ、東久邇宮邸ニ到リ待チ居ラシム
○上野停車場ニテ、仙石政敬ヨリ松田正之ヲ宗秩寮ニ入ルヽコトニ付テハ井上勝之助ニ大臣次官同席ノ処ニテ之ヲ話ス様呉々申シ置タルモ、井上ハ夫ニ拘ハラス東京駅ニテ次官ノミニ話シタルニ、次官ハ果シテ反対シ、何人カ之ヲ推薦シタリヤト云ヒ、井上ハ自分（仙石）ヨリ申出シタリト云ヒタル趣ニテ、次官ヨリ自分ニ対シ松田ヲ本省ニ入ラレサルコトハ君（仙石）ハ承知シ居ル筈ナルニ、之ヲ薦ムルハ不都合ナリト云フ故、自分（仙石）松田ヲ本省ニ入ルヘカラサルコトハ承知シ居ラスト云ヒ、次官ハ松田ハ入レ難シト云ヘリ。
井上ハ其後大臣ニ話シタル処、大臣ハ宗秩寮ニテ異議ナケレハ之ヲ入レント云ヘリ。次官ガ彼ノ如ク云フ故如何セント云フ故、自分ハ斯ノ如キ結果ニナル故、大臣時間同席ノ処ニテ話シ呉度旨ヲ依頼シ置タル次第ナリ。兎モ角今一応大臣ニ話シ呉ヨト云ヒ置タルカ、君（予）ヨリモ一応井上ニ話シ呉ヨト云フ。予之ヲ話スヘシ。次官カ反対スルハ理由貫徹セス。大臣ハ松田ノ寡婦等ニ約束シ居ル故松田ヲ採ルラサレハ大臣ノ面目立タスト云フ。
○上野停車ニテ山下亀三郎ヨリ妃殿下避寒セラルヽ様ナラハ、大磯ノ別邸ハ昨年ノ侭致シ置タルニ付、使用セラレ度ト云フ。予只今ノ処ニテハ避寒等ノ話ナシ。未タ決定シタルコトニハ非サルモ、妃殿下ハ御目出度事アル模様ナル故、当分御転地等ナカルヘキヤト思ハルト云フ。
予又山下ニ対シ園田格ノコトヲ話ス。山下其名ヲ記セス。予其職務ヲ話ス。山下然ラハ合名会社ノ方ナラン。予、三菱ヨリ転任シタルコト園田ヲ推薦シタルハ早稲田学校ニ居リタル人ナル趣ナル等ノコトヲ話ス。山下然ラハ生徒ヲ監督シ居ル者ノ中ニテモ二番目位ニ居ル人ニテ、時ニハ自分（山下）等ニ接スル人ナラント云ヘリ。
○鈴木ヨリ自動車ニテ妃殿下ハ妊娠ノ模様ハアルモ、確カトハ云ヒ難キ旨ヲ話ス。
○宮内省ニ出勤セス。
○内子尚ホ褥ニ臥ス。
○十一月五日朝読売新聞ヲ閲ス。東久邇宮稔彦王殿下不例ノ記事アリ。金井四郎ニ電話シ其状ヲ問フ。金井金沢ニテ漸ク感冒ノ気味アルコトハ聞タルモ、服薬セラルヽ程ニハ非サリシナリ。早速金沢ニ問合ハスヘシト云フ。予本日午後ハ司法大臣官舎ニ在リ様子分リタラハ私宅ニ通知シ呉ヨト云フ。
○午前八時前堀部広〔平壌地方法院判事〕来ル。堀部ハ先頃内地ニ転任シ度旨下條康麿ヨリ本人ノ希望ヲ予ニ伝ヘテ周旋ヲ依頼シ、又蜂須賀正韶ノ園遊会ノトキ井上孝哉ヨリ同様ノコトヲ依頼シタルモノナリ。堀部ハ朝鮮騒擾事件取調ノ為メ暑中休暇ヲ得サリシニ付、十月ニ至リ三週間ノ休暇ヲ与ヘラレ上京シタリト云フ。予希望ハ聞キ居ルモ、差向工夫ナシト云フ。堀部来年三月頃マテニハ俸給令並ニ恩給法等モ改正セラルヘキ模様ナルニ付、兎モ角夫迄ハ朝鮮ニテ奉職スル積リナリト云フ。堀部ハ騒擾事件ニ関係シテ刑ノ言渡ヲ受ケタル米国人モリーノコトヲ話シ高等法院ニテ原判決ヲ破毀シ、京城覆審法院ニ移シタル処、京城ニテモ有罪ノ判決ヲ為スヘキ模様ニテ、公判ヲ幾度モ延期シ居レリト云フ。
○午前ヨリ鈴木重孝ノ博物館実況審査ニ関スル推問ニ対スル弁明ニ付審査官会議ヲ開キ、午後二時前之ヲ議了シ、更ニ林恭次郎ノ札幌支局ノ実況審査ニ関スル推問ニ対スル弁明ニ付審査官会議ヲ開キ、午後二時頃議了ス。
○午後三時前ヨリ司法大臣官舎ニ赴ク。臨時法制審議会主査委員会ニ列ス。花井卓蔵、江木衷主トシテ陪審制度ヲ設クルコトハ政府ニテ既ニ之ヲ決定シ居リ。問題ハ其可否ヲ論スヘキモノニ非サル旨ヲ論ス。結局可否論ハ姑ク之ヲ捨キ、各自ノ意見ヲ述フルコトニ申合ハセ、花井ハ刑事民事商事公用徴収租税ニ関スル行政訴訟及ヒ刑事ノ起訴ニ陪審ヲ附スルコトノ意見ヲ述ヘ、美濃部達吉ハ陪審制度ハ憲法第五十七条ニ抵触スル疑アルヲ以テ、陪審ヲ以テ諮問機関ト為シテハ如何トノ趣意ヲ述ヘ、江木ハ憲法ニ陪審ノコトヲ定メサリシ事情ニ付伝聞ヲ述ヘ、憲法ニ云フ所ノ裁判トハ刑事ニテ云ヘハ刑ヲ適用シ又ハ無罪ヲ言渡スコトニテ事実ノ判定ヲ含マストノ趣意ヲ述ヘ、横田国臣ハ美濃部ニ対シ憲法抵触論ヲ為サヽル様ニシ度トノ希望ヲ述ヘ、陪審ヲ証拠論トスルノ意ヲ述ヘ、裁判官ヲ覊束スル証拠アルモ、裁判官ノ裁判トナスニ妨ナカルヘシトノ意ヲホノメカシタリ。午後六時閉会ス。
○内子褥ヲ出ツ。
○午後三時頃、鈞本日午前十一時四十分発ノ電信達シ、藤子本月四日午後九時三十分安産女子出生シタルコトヲ報ス。予帰宅後其電報ヲ見タリ。
○午前十一時後、金井四郎宮内省ニ電話シ、王殿下ノ病状ヲ金沢ニ電問シタル処、返電達シタルカ、金沢ニテハ何事モ承知セス。殿下ノ出張先ニ電問シ置タル故、返電アリ次第再報スヘシト報シ来リタル旨ヲ報ス
○十一月六日午前八時後鈞ニ返電ヲ発シ、且書状ヲ発ス。
○午前八時後島田義太郎来リ、有馬家ヨリ久留米素盞烏神社ノ修繕ニ付寄付金額五百円ヲ増シテ千円ト為スコトヲ依頼ス。予相談会ニ千円ノ議案ヲ出スコトヽナリタラハ異議ハ述ヘサルモ、千円ノ原案ヲ出サシムル様ニ周旋スルコトハ出来難シト云フ。
島田又赤松社ノ毎年ノ益金ノ半額ヲ引別ケテ、十年後ニ旧士族ニ分与スルコトハ相談会ニテモ可決セラレタル趣ナルモ、昨日水天宮ニテ有馬秀雄ニ逢ヒタルニ、頼寧君ハ単ニ内輪ニテ半額ヲ引別ケ置ク丈ケニテ、十年後ニ至ラサレハ旧士族ニハ之ヲ知ラセサル様ニ説明セラレ、倉富氏モ其事ニ承知セラレ居ルヘシ。然ルニ三谷有信ヨリ頼寧君ニ請求シタル趣意ハ左ニ非ス。一年毎ニ引分ケタル金額ヲ士族ニ公示シ、之ヲシテ権利ヲ有セシメントスル趣旨ナリト云フ。是ハ三谷ノ趣旨ハ有馬ノ云フ通リニテ頼寧君ノ方カ間違ナリト云フ。
予、予カ頼寧君ヨリ聞キ居ル所ハ有馬ノ話トハ違ヒ居レリ。今後其行違ヲ正シテ更ニ相談会ヲ開カルヽコトアラハ更ニ考慮スヘシト云フ。
島田将ニ去ラント〔ス〕。島田玄関ニテ自分（島田）カ上京スルニ付、林田守隆ヨリ水野正名等ノ贈位ノコトヲ野田卯太郎ニ話シ置クコトノ依頼アリ。野田ニ話シタル処、野田ヨリ君（予）ニ話シ置タルコトアル様ニ云ヒ居リタリト云フ。予何モ聞タルコトナシ。今後話スヘシトノコトナリシニハ非サルヤト云フ
○午前九時頃、安ヲ遣ハシ故寺内正毅ノ葬儀ニ付香一箱ヲ贈リ、且先日予カ失ヒタル帽ノ有無ヲ問ハシム。
○午前十時頃西野英男ニ嘱シ百円札ヲ小札ニ交換セシム。
○午前十時後井上勝之助ヲ其事務室ニ訪ヒ、松田正之ヲ宗秩寮ニ入ルヽコトニ関スル是マテノ成行ヲ話ス。井上、波多野ニ昨日モ其事ヲ話シタル処波多野ハ既ニ石原ニ命シ置タリ。尚取計ハサルナラハ更ニ命スヘシト云ヘリト云フ。話スルコト二十分間許。
○午前十一時後内子ヨリ電話ニテ、林田守隆ヨリ電信達シ久留米勤王家贈位ノコトヲ野田卯太郎ニ依頼シ置タル故、尽力シ呉ヨト申来リタルコト及ヒ先日予カ失ヒタル帽子ハ寺内ノ家ニ在リ、安カ持チ帰リタルコトヲ報ス。
○午後一時頃金井四郎来リ、御用取扱永山某カ瘰癧ニ罹リ辞職ヲ申出タルコトヲ報シ、且王殿下ノ土産調査書ヲ交シ、之ヲ閲シ置呉ヨト云フ。
○午後一時後ヨリ審査官会議ヲ開ク。三時後ニ至リ議了ス。
○午後四時後金井四郎電話ニテ王殿下ノ容体ニ付金沢ヨリ返電アリ。風邪軽快ニテ本日午後四時頃金沢ヘ帰ラルヽ予定ナルコトヲ報シ来リタル旨ヲ報ス。
○十一月七日午前八[時]後ヨリ高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。両耳ニ風ヲ通ス。左耳ハ僅ニ通ス。両耳ノ聴力ヲ験ス。格別ノ差ナシ
○午前十一時頃蜂須賀正韶代人ヨリ電話ニテ正韶ノ二女ト松田正之トノ婚姻ハ本月四日宮内大臣ヨリノ許可ヲ得タリ。依テ結婚披露ノ案内ヲ発スヘキ処
昨日橋爪慎吾ヨリ案内ハ松田静子松田正之蜂須賀正韶及正韶二女ノ四人連名ニテ発スルコトニ致スヘキ旨申シ来レリ。右ニ付御意見ナカルヘキヤト云フ。予其事ニ付テハ何ノ話モ聞キ居ラサルモ夫レニテ宜シカルヘク予ハ別ニ意見ナキ旨ヲ答フ
○午後零時十分ヨリ寺内正毅ノ葬ニ会スル為メ麻布笄町ニ行ク
仁田原重行ニ逢フ。予今年兵庫付近ニテ行ハルヽ陸軍特別大演習ニハ久留米ノ第十八師団モ参加スルヤヲ問フ。仁田原参加セスト云フ
予林田守隆ヨリ電信ニテ故水野正名其他ノ者ノ贈位ノコトヲ申来レリ。第十八師団カ参加セサレハ贈位ノコトハナカルヘシト云ウ。仁田原、水野等ニハ是迄贈位ナカリシヤト云フ。予水野等ハ一度処刑セラレタル為メ未タ贈位セラレ居ラスト云フ。仁田原然レハ古松幹[簡]二モ同様ナラント云フ。予然リト云フ。仁田原、林田ヨリ申来リタルハ何カノ間違ナルヘシト云フ
穂積陳重陪審制度ノコトヲ談ス
○一時出棺。予等歩シテ之ヲ送ル。二時増上寺ニ達ス。休憩所ニテ穂積陳重ヨリ陪審制度ニ関スル委員会ノコトヲ談シ前日ノ委員会ノ模様ニテハ主査委員長ハ余程面倒ナラント云フ。
又仲小路廉ト寺内死去ノコトヲ談ス。二時後式場ニ至リ三時後式終ル。予場ヲ出テ車夫ヲ捜カス。
車夫内子ハ未タ出テ来ラサル旨ヲ告ク。予之ヲ待ツ。車夫行キテ内子ヲ捜カス。既ニシテ車夫内子ヲ伴ヒ来ル。乃チ倶ニ帰ル。四時後家ニ達ス。此日内子ハ午後一時ヨリ直ニ増上寺ニ行キ葬ニ会ス。故ニ式場ニテハ相見サリシナリ
〔欄外に追記〕
(水口敏子七月ヨリ予カ家ニ在リ今日辞シ去リ麹町八丁目某家ニ一室ヲ借リテ此ニ移居ス)
○十一月八日午前十時後西野英男来リ、昨日予カ退省シタル後総務課ヨリ藤波元忠ノ生母死去シタルニ付、御含マテ通知スト云ヒ来リタル旨ヲ報ス。予生母ナラハ別ニ弔意ヲ表スルニ及ハサルヘシト云フ。
○午前八時後自ラ浴室ノ火爐ノ扉ヲ修ム。
○人力車屋杉野ハ其挽子某ハ盗癖アリ、予カ家ノ袱一枚モ某カ洋服修繕ノ為メ洋服ヲ包ミテ西化屋ニ持チ行キ、袱ヲ持チ帰リタル後之ヲ盗ミタル事実ヲ知リナカラ、今日予カ宮内省ニ出勤スルトキ、某ヲシテ予ノ車ヲ挽カシム。杉野ニ注意スル必要アルヘシ。
○十二時前金井四郎来リ、昨日上原勇作ヨリ稔彦王殿下ヲ侍従武官室ニ入ルヽ様ノコトヲ計画シタルモ、種々ノ故障アリテ自分（上原）ノ意見ハ行ハレサル故、之ヲ承知シ呉度旨ノ談アリ。依テ自分（金井）ヨリ、新聞ニテハ王殿下ハ参謀本部又ハ教育総監部等ニ転勤セラルヽ様ノコトヲ記載シ居タルガ、略ホ定マリ居ルコトナルヤヲ問ヒタルニ、上原ハ只今ノ処何モ定マリ居ラスト云ヘリ。依テ自分（金井）ヨリ、既ニ妃殿下モ帰京セラレタルコトニ付、王殿下ノ東京ヘノ転勤ハ成ルヘク速ニ運フ様取計ヒ呉ルヽコトヲ嘱シ置タリ。
上原ハ昨夜ヨリ陸軍大演習地ニ向フ筈ナル故、自分（金井）ノ所在ヲ処ニ問ヒ合セタリトノコトナリト云フ。
金井又妃殿下ハ今日参内セラレタル旨ヲ報ス。予一昨日金井ヨリ預リ置タル王殿下ノ金沢ヨリ帰ラルヽトキノ土産調書ヲ金井ニ返シ、予ニ対スル土産ハ他ニ対スル分ヨリ厚キニ過キル様ナル故、之ヲ減スヘキ旨ヲ告ク。金井献上品ナキモ此位ノ土産ハ当然ナルニ、金沢ヘ行カルヽトキ若宮殿下ヘノ献上品モアル故、此位ハ已ムヲ得サルナリト云フ。
金井又宮内省ニテ判任官ノ五十五円以下ノ者ノ恩賜金ヲ増シタルニ付、宮家ハ侍女以下ノ手当ヲ増ス必要アリトテ其調書ヲ示シ、意見ヲ問フ。予意見ナキ旨ヲ答フ。
○内子午前十時後ヨリ三越呉服店ニ行キ、安ノ衣類ヲ買フ。
○内子ノ出テタル後、水口敏子来リタル由、予ガ家ニ帰リタル後内子外出ノ事トトモニ婢徳ヨリ之ヲ報ス。
○午後一時後橋爪慎吾電話ニテ往訪セント欲ス、差支ナキヤト云フ。時ニ予正ニ婢モトヲ遣ハシ、理髪者ヲ召ハシム。而シテ理髪者カ直ニ来ルヤ否未タ知ルヘカラス。故ニ婢徳ヲシテ橋爪カ何処ヨリ来ルヤヲ問ハシム。橋爪橋場ヨリト云フ。予、橋爪ノ来ル前ニ理髪ヲ了スルナラント謂ヒ、差支ナキ旨ヲ答ヘシム。既ニシテ婢モト帰リ、理髪者ハ三時頃ニ非サレハ来リ難キ旨ヲ報ス。
二時後橋爪来、予正ニ之ト話ス。理髪者亦来ル。
予乃チ橋爪ヲシテ待タシテ髪ヲ理ス。終リテ橋爪ト話ス。
橋爪、頼寧カ日本加工織布株式会社ノ株二百株ヲ申込ムコトニ付、予ノ承認ヲ求ム。予之ヲ諾シ、議案ニ捺印シテ之ヲ返ス。
橋爪又有馬家々職ノ給与規定改正案ヲ交シ、之ヲ閲ミシ置呉ヨト云フ。予之ヲ諾シ、案ヲ預リ置ク。
予、昨日蜂須賀正韶ヨリ電話ニテ、松田正之ノ結婚披露案内状ニ松田正久ノ寡婦静子、正之、蜂須賀正韶及新婦苗子四人ノ名ヲ記スルコトニ付、予ノ意見ヲ問ヒ来リ。予ハ此事ニ付何事モ聞キ居ラサルモ、差支ナカルヘキ旨ヲ答ヘ置タルコトヲ告ケ、且蜂須賀ハ多分静子ノ名ヲ加ユルコトヲ懸念シタルナラント思フ旨ヲ告ク。
橋爪其通リナリ。実ハ初メハ蜂須賀ト正之ト二人ノ名ヲ記スル積リナリシモ、静子カ其名ヲ加ユルコトヲ主張スルニ付、此ノ如キコトニテ衝突スルモ面白カラスト思ヒ、四人ノ名ヲ記スルコトニテ自分（橋爪）ヨリ蜂須賀ニ相談シタルナリト云フ。
橋爪又寡婦静子ガ結婚ニ干渉シタガルコト、有馬秀雄カ正金銀行ノ配当株ノ一部ヲ貞子ニ分配スルコトハ絶対ニ反対スル故、其侭ニ為シ居ルコト、有馬正頼ハ立教中学ヲ転校シタルコト等ヲ話シ、予ヨリ境豊吉長男ノ結婚ニ付、境ヨリ祝品ヲ贈ルコトヲ拒絶シ居レトモ、簡略ニ祝意ヲ表スル物ヲ贈リテハ如何ト云ヒ、橋爪モ同意ニ付其取計ヒヲ橋爪ニ嘱シ、又本月十四日ハ故頼匡ノ一周忌ナルモ予ハ或ハ行キ難カルヘキニ付、承知シ置呉、且予ノ名義ニテ供物ヲ取計ヒ置クコトヲ嘱ス。橋爪之ヲ諾ス。
又先日島田義太郎カ来リテ久留米素盞烏神社修繕ニ付、有馬家ヨリノ寄付金額ヲ増シテ千円ト為スコトヲ謀リタレトモ、予ハ相談人トシテ千円ノ議案ヲ出スコトノ周旋ハ出来難キ旨ヲ告ケ置タルコトヲ告ク。
橋爪又福島県ニ在ル有馬家ノ所有地ハ之ヲ売却スルコトハ相談会ニテ決定シ居ルモ、之ヲ売却スル前ニハ一応之ヲ検分スヘキコトニナリ居リ。頼寧君ニ行クコトヲ勧メタルモ、承知セサル故自分（橋爪）カ先日行キ見タルニ、是迄有馬家ニ分リ居ラサル地所カ四五歩斗リアリ、其外山林モ隠シ居ル所アリ。其他管理ハ全ク行届キ居ラス。幸ヒ是迄ノ管理人ハ辞退ヲ申出テタルヲ以テ之ヲ止メ、新ニ管理人ヲ嘱託シ来リタリ。此人ハ適当ト思ハルヽ様ナリト云ヒ、又鐘ヶ淵紡績会社ノ株ハ三百五十株ヲ売却スル積リニテ、第一回ノ百株ハ三百九十円宛ニ売リ、第二回ノ五十株ハ四百円ニテ売リ、其次ニ百株ハ同シク四百円ニテ売リタルカ、残リ百株ハ中々四百円ニテ売ルコトヲ得サル故、境ト相談ノ上三百八十五円ニテ之ヲ売リ、此次ノ配当ハ有馬家ニテ之ヲ受取ルコトヽナシタル故、実収ハ四百三円斗リトナル旨ヲ話シ、午後五時頃帰リ去ル。
○予家ニ帰リタル後、婢徳ニ今日ノ車夫ハ袱ヲ盗ミタルモノナリヤト云フ。徳然ラスト答フ。予カ誤リ認メタルモノナリ。
○十一月九日天皇陛下陸軍大演習ノ為メ今日午前七時御発輦アリタルモ、予ハ之ヲ奉送セサリシナリ。
○午前八時後高成田渉ノ家ニ行咽喉ヲ療ス。両耳ニ風ヲ通ス。
○午前ヨリ午後マテ宮内省ノ予算書類ヲ調査ス。
○午後三時頃上野道也来ル。話スルコト十四五分許ニシテ去ル。
○十一月十日午前九時三十分ヨリ宮内省会議室ニテ、大正九年度宮内省予算ニ付会議ヲ開ク。午後零時後閉会ス。
○午後一時ヨリ審査官会議ヲ開キ、鈴木重孝カ為シタル主馬寮ノ実況審査ニ関シ主馬頭ヨリ提出シタル弁明書ニ付討議ス。三時後議了ス。
○午前十一時頃金井四郎電話ニテ只今ヨリ宮内省ニ行キ面会セント欲ス差支ナキヤト云フ。予差支ナキ旨ヲ答ヘシム。
既ニシテ金井来リ、東久邇宮殿下カ木寺真蔵ニ対シ、妃殿下カ帰京後参内セラレタルコトニ付、金井四郎、永山某カ不都合ナリトテ其事情ヲ取調フヘキコトヲ命セラレタル旨木寺ヨリ書状ニテ申越シタル為メ、永山ハ辞職ヲ申出テタルコトヲ告ク。予、永山ハ兼テ辞職ノ意アル趣ニ付、辞職ハ強ヒテ之ヲ止メサルモ、些細ノ事ノ為メ感情ヲ悪クシテ辞職スルハ宜シカラス。予ヨリ円満ニ辞職スヘキ旨ヲ永山ニ勧メタルコトヲ伝フルコトヲ金井ニ談ス。金井之ヲ試ムヘキ旨ヲ答フ。
〔欄外追記〕予岐阜云々ノ一段ハ、翌十一日ノコトナリ誤テ十日ノ処ニ記ス。
（予岐阜ヨリ到来ノ御所柿アリ。之ヲ東久邇宮ニ献セント思フカ、妃殿下ハ之ヲ食セラレサルヘク、若宮殿下方ハ之ヲ用ヰラルヽハ不可ナラント思フガ如何ト云フ。金井、妃殿下モ少々ハ之ヲ食セラル。又金沢ニ送リテモ宜シト云フ。予然ラハ之ヲ献スヘシ。但予自ラ行キ難シ、使ヲ遣シテ之ヲ届クル故、然ルヘク取計ヒ呉ヨト云フ。金井之ヲ諾ス。予乃チ内子ニ電話シ、使ヲシテ柿実ヲ東久邇宮邸金井宛ニ送ラシムヘク、之ヲ送ル前念ノ為メ試食シテ味佳ナルナラハ之ヲ送ルヘキコトヲ命ス。内子之ヲ諾ス。）
○午後三時後野田卯太郎ニ逓信大臣官舎ニ電話シ、林田守隆ヨリ水野正名等贈位ノコトヲ君ニ依頼致シ置タル旨電信ニテ申来リタルモ、其意味詳ナラス。電話ニテ申来リタルハ或ハ此節陸軍大演習ノ機会ニ贈位ヲ願フ積リナランカトモ思フモ、大演習ニ付贈位セラルヽハ参加師団関係ノ地方ニ限ル例ナルニ付、若シ其積リニテ電信ヲ発シタルモノナラハ間違ヒ居ル旨ヲ談ス。
野田、林田ヨリ話ヲ聞キ居レリ。此節ノ演習ヲ機トシテ願フ趣旨ニ非ス。君ハ何時頃家ニ帰ルヤト云フ。予四時頃帰ル旨ヲ告ク。野田四時頃ヨリ四時三十分頃マテニ往訪スヘシ、差支ナキヤト云フ。予差支ナキ旨ヲ答フ。
○午前宗秩寮ニ往キ属官某ニ対シ、大演習ノ時ノ贈位ハ参加師団ノ関係ナキ地方ニモ及フヤヲ問フ。某内閣ニテ御裁可ヲ仰キタル後移牒スルコトナル故宮内省ニテハ分ラス、一応内閣ニ問合セタル上答フヘシト云フ。予之ヲ依頼シテ去ル。
午後某来リ、参加師団関係地方ニ限ル旨ヲ告ク。
午後三時頃予宗秩寮ニ行キ某ニ謝シ、且贈位ヲ申請スル手続ヲ問フ。某県庁ヨリ内務省ニ書面ヲ出シ、内務省ヨリ内閣ニ出ス順序ナル様ナリト云フ。
○午後四時後野田卯太郎来リ、林田守隆ヨリ野田ニ致シタル水野正名等二十五名ノ略歴ヲ渡シ、之ヲ閲ミシタル上、自分（野田）ヨリ話シ置ク故之ヲ高橋光威ニ渡シ呉度。且林田ノ子宛ニ自分（野田）ト君トノ連名書状ヲ出シ、林田ノ略歴ヲ送ル様申遣ハシ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。
野田時事ヲ談シ、板垣退助カ老後伊東巳代治ニ篭絡セラレタルハ末路ヲ汚シタルコトヲ話ス。話スルコト二十分許ニシテ去ル。
○予正ニ野田ト話ス。金井四郎電話ニテ先刻配慮ヲ煩ハシタル永山某ノコトハ都合ヨク折合ヒタル旨ヲ報ス。予婢徳ヲシテ承知シタル旨ヲ報セシム。
○十一月十一日午前九時ヨリ札幌支局ヨリ提出シタル推問ニ対スル弁明書ニ付審査官会議ヲ開ク
十一時後金井四郎来リ
永山某カ辞職ヲ申シ出テタルコトニ付テハ昨日種々慰諭シタル末結局金沢ヨリ永山并ニ自分（金井）ヨリノ書状ニ対シ返書来リタル後ニ進退ヲ決スルコトニ談ヒ合ヒタリ。多分一時ハ折合フコトナラント云フ
昨十日ノ日記ニ記シタル予カ金井ニ対シテ柿実ノコトヲ談シタルハ此時ノコトニテ予ヨリ内子ニ電話シタルモ亦此時ナリ昨日ノ日記ニ記シタルハ誤ナリ。柿実ハ岐阜大垣ノ堀部広ノ留守宅ヨリ送リ来リ昨十日ニ達シタルモノナリ
○午後一時ヨリ宮内省会議室ニテ予算会議ニ列ス。四時閉会ス
○家ニ帰リタル後内子ヨリ午後一時頃柿実ヲ金井四郎ニ届ケタリ試食シタル処渋味ナク上品ナル甘味アル旨ヲ報ス
○午前八時後高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。両耳ニ風ヲ通ス
○午後六時頃水口敏子来ル。久シク予カ家ニ在リタルコトヲ謝スル為メナリ
其孫某四十度許ノ熱ヲ発シ一周間許ニナルモ解熱セス病症詳ナラサルコトヲ話ス。話スルコト一時間許ニシテ去ル
○夜予亦柿実ヲ試食ス。味美ナリ
○十一月十二日午前九時三十分ヨリ宮内省会議室ニテ予算会議ニ列ス。十二時後散会ス。今日マテニテ御資会計収支部ノ収入及ヒ通常会計ノ経常支出ノ部ヲ議了セリ。但収支部ノ収入ハ九日開会初日三四十分許ニテ議了セリ
○午後二時前司法大臣官舎ニ行キ臨時法制審議会第二号諮問ノ主査委員会ニ列シ陪審制度ト憲法トノ関係ニ付意見ヲ述フ
江木衷ハ陪審制度ヲ設クルコトニ熱狂シ其言動狂人ニ似タル所アリ午後五時後散会ス
○十一月十三日午前八時後高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス予耳ヲ療スル必要ナカルヘキ旨ヲ話ス高成田今日両耳ニ風ヲ通セス唯護謨管ヲ耳ニ挿入シ之ニ空気ヲ通ハシメ鼓膜ヲ衝動スルノミニ止ム。此療法ハ初メヨリ毎回施行スルモノナリ
○午前九時三十分ヨリ予算会議ニ列シ臨時部支出ヲ議ス。大森鍾一ノ動議ニテ桃山陵陵道整理費ヲ削除ス。十二時後散会ス
○午後零時後ヨリ審査官会議ヲ開キ大正七年度会計審査成蹟書案ノ一部ヲ議ス。二時後議了ス
○午後三時後金井四郎来リ東久邇宮殿下ノ書状ヲ示ス
書状ハ殿下ハ妃殿下ノ帰京後ハ一切外出セシメサル積リナリシニ自分（殿下）ノ言明瞭ヲ缺キタル為メ意思ノ貫徹セサリシハ遺憾ナル旨ヲ述ヘタルモノナリ。妃殿下ハ姙娠ナルヲ以テナリ
金井先日予ガ東久邇宮ニ献シタル柿実ハ半ハ宮邸ニテ之ヲ食シ半ハ金沢ニ送リタルコトヲ話ス
金井又主殿頭（市来政方）カ東久邇宮邸ニ配置シ居ル警守ヲ引上クルコトヲ迫ル旨ヲ話ス。予宮邸ノ外構ヲ修覆シテ堅固トナス迄ハ警守ヲ引上クルコトニ同意スヘカラサルコトヲ話シ置ケリ
○十一月十四日午前九時三十分ヨリ予算委員会ニ列ス臨時部神事費宮廷費ヲ議決シ且陵墓費ノ昨日議決シタル所ヲ再査ス
○午後一時ヨリ大正七年度会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開キ三時後特別会計ノ綱要ヲ議決ス
○午前七時後安ヨリ帰郷ノコトヲ謀ル予再考スヘキ旨ヲ命ス。午後七時後安カ帰郷セント欲スル事情ヲ問フ。安入学試験ニ合格スルコトヲ期シ難キニ付東京ニ在ルハ無益ナリト思フ為メナリト云フ。予其父ノ希望ニ反スル故熟考スヘキコトヲ命ス
○十一月十五日午前九時三十分ヨリ予算委員会ニ列ス。零時後会ヲ閉ツ
○午後帝室会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開カント〔ス〕。案未タ成ラス乃チ止ム。一時頃ヨリ家ニ帰ル
○午前西野英雄〔英男〕ニ本月二十一日ノ観菊会ニ内子カ不参スルコトヲ届ケ出ツルコトヲ嘱ス
○午後二時頃ヨリ内子三越呉服店ニ行キ真子ノ衣類、境豊吉ニ贈ル鰹節、木下源蔵ニ贈ル商品切手、荒井賢太郎ニ贈ル真綿ヲ買フ。午後五時頃帰リ来ル
○午後八時後ヨリ高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。今日モ両耳ニ風ヲ通セス
○十一月十六日午前江木衷ノ著書ヲ閲ミス。之ヲ閲ミスルコトハ昨日ヨリ始メタリ。陪審ニ関スル江木ノ所論前後矛盾スル所アリ其証跡ヲ著書中ニ求メント欲スル為メナリ。江木ハ憲法ニ所謂司法権ノ行使及ビ裁判トハ法律ノ適用ノミヲ指スモノニテ事実ノ判定ハ与カラスト主張スルモ其著陪審談等ニハ反対ノ説アルヲ以テナリ
○午前十一時頃気倦乃チ江木ノ著書ヲ検スルコトヲ止メ自ラ箱ヲ作リ朗子ノ手游ヲ秋成ニ送ル
○内子午後二時頃ヨリ目黒ニ行キ渡辺驥ノ寡婦ヲ訪ヒ藍胎漆器ノ盆一ヲ贈ル四時前帰リ来ル
○夜又雨フル
○十一月十七日午前八時前ヨリ高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス療法常ノ如シ
○午前九時ヨリ帝室会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開キ午後一時頃議了ス残部ハ案未タ成ラス
○午後一時頃留守宅ニ電話シ内子カ（ニ）家ニ在ルヤ否ヲ問フ婢徳、内子ハ家ニ在ラス多分三越呉服店ニ行キタルナラント云ヒ且三越呉服店ヨリ鰹節ノ箱ヲ届テ来リタル旨ヲ告ク予内子ガ帰リタラハ予ガ今日境豊吉ノ家ニ行クコトヲ告クヘキ旨ヲ命ス
○午後二時頃退省将ニ直ニ境豊吉ヲ訪ハントス途ニシテ謂フ一タヒ家ニ帰リ鰹節ヲ持シテ行クニ若カラスト乃チ家ニ帰リ鰹節ヲ（ヲ）持チ人力車ニ乗リ境ヲ訪フ車夫境ノ家ヲ過キ神楽坂ノ附近ニ到ル予車ノ幌内ニ在リ地理ヲ弁スヘカラス車夫ヲシテ田町ヲ人ニ問ハシメ田町ハ既ニ経過シ居ルコトヲ知リ後退シテ境ノ家ニ到ル境在ラス其婢ニ鰹節ヲ交シ、予ノ来意ヲ告ク婢之ヲ境ノ妻ニ報ス妻出テヽ予ニ面ス鰹節ハ先日境カ予ニ贈リタル海老ニ酬ヒタルナリ
帰途順天堂病院ニ過キリ車夫ヲ返シ林恭次郎ノ病ヲ問フ林正ニ眠ル乃チ看護婦ニ就キ林ノ病状ヲ問フ看護婦漸ク快ク近日ハ少シク歩スルコトヲ得ト云フ直ニ帰ル
○内子三越ニ行キタルハ十二時後ヨリニシテ其帰リタルハ四時前ナリ予カ帰リタルトキハ内子ハ既ニ帰リ居リタリ
○予算会議休会
○十一月十八日午前九時三十分ヨリ予算会議ニ列ス零時後閉会ス
○午後零時後ヨリ審査官会議ヲ開キ学習院及女子学習院ヨリ提出シタル弁明書ヲ議シ午後四時頃ヨリ通常会計審査成蹟書案ニ付審議シ五時後閉会ス
○午後零時後金井四郎来リ永山某家計上ノ紛議モ是迄ノ通リ永山ヨリ親族ニ補助スルコトトナリ其金額ヲ増サスシテ済ミタル模様ナリ永山ノ瘰癧モ之ヲ切開セスシテ治療スヘキ見込アリ其ノ為メ永山モ辞職ヲ思ヒ止マリタルコトヲ報ス
予其後上原勇作ニ逢ハサルヤヲ問フ金井東京駅ニ皇太子殿下ノ御帰京ヲ奉迎シタルトキ上原ニ面会シタルカ東久邇宮東京御転任ノコトハ少シモ決シ居ラス十九日ニ陸軍大臣ガ帰京シタル上ニ非サレハ様子分ラスト云ヒタル旨ヲ報ス
○午後内子電話ニテ三越呉服店ニ一昨日命シ置タル真綿ヲ届ケサルコトヲ詰リ其後之ヲ届ケ来リタルモ注文ニ違ヒ居リタル由ナリ
○十一月十九日午前八時後高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス
高成田左耳ニハ光線映セサル旨ヲ告ク予其事由ヲ問フ高成田慢性カタルノ為機能ニ故障ヲ生シタル為ナルヘシト云フ
予又昨夜ハ将ニ眠ラントスルトキ咽喉ノ塞カル様ノ気味アリタリト云フ高成田、咽喉ノ機関中障碍ヲ生シ居ル所アルヘシ自分（高成田）ノ知人ニ睡眠中非常ノ苦悩ヲ感シ自呼吸ノ塞カル様ニ思フト云フ人アリト云フ今日モ両耳ニハ風ヲ通セス
○午前九時三十分ヨリ予算会議ニ列シ特別会計中林野管理局予算ノ歳出ノ部ヲ議ス
予算会期（十五日間）将ニ尽ントスルヲ以テ午後モ会議ヲ継続スルコトヽナリタルモ予ハ午後二時ヨリ臨時法制審議会主査委員会アルヲ以テ出席セス
○午後零時後ヨリ会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開キ僅ニ二葉許ヲ議ス時既ニ一時三十分トナリタルヲ以テ会ヲ閉チ司法大臣官舎ニ赴キ臨時法制（制）審議会主査委員会ニ列ス
富谷鉎太郎陪審制度反対意見ヲ述ヘ花井卓蔵憲法ト陪審制度トハ抵触セサル意見ヲ述フ五時後閉会ス
○午後零時後金井四時［郎］電話ニテ午後三時頃宮内省ニ往訪セント欲ス差支ナキヤヲ問フ予給仕ヲシテ司法大臣官舎ニ行ク旨ヲ答ヘシム
○午後一時頃境豊吉ニ電話シ明廿日其長男一郎ノ結婚披露会ニ列スルコトヲ約シタルモ出席シ難キコトヽナリタル旨ヲ告ク明日ハ午後ヨリ夜マテ予算委員会ヲ開クコトヽナリタルヲ以テナリ
○午後内子荒井賢太郎ノ家ニ行ク
○夜水口敏子来ル
午後零時三十分頃国分万次郎来リ咸興監獄ニテ製シタル香爐ヲ贈ル
宮崎亦来リ松実入飴ヲ贈リ且深沢新一郎ノ依頼ヲ受ケ朝鮮人参粉茶ヲ贈ル主人在ラス
○十一月廿日午前九時ヨリ会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開ク
○午後一時ヨリ予算委員会ニ列ス五時後閉会ス今日マテニテ予算ヲ議了ス
○十一月二十一日午前八時後ヨリ高成田渉ノ家ニ行キ咽喉ヲ療ス。昨来咽喉ノ工合宜シカラス
今日ハ午後二時ヨリ観菊会ヲ催サヽル筈ナリシモ午後ヨリ雨フリタルヲ以テ之ヲ止メラレタリ
○午前ヨリ午後三時頃ニ至ルマテ会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開ク
人力車夫ヲ待タシム
○観菊会ニ赴ク積リニテ午後一時ニ車夫ヲ召ヒ置タルモ会ニ赴カサルヲ以テ空シク待タシメ三時後ニ至リテ家ニ帰リタリ
○午後予カ審査官会議ヲ開キ居リシトキ石原健三来リテ戸外ヨリ窺ヒ視直ニ去リタリ
会議終ハリタル後予石原ノ室ニ到リ何カ用事アリタルヤヲ問フ。石原格別ノ用事アルニ非ス。先日山県有朋松方正義宮内省ニ会シタルトキ波多野敬直ニ対シ何故ニ皇族処分ノコトヲ遷延スルヤヲ詰リ波多野ハ之ヲ処置スヘキ旨ヲ答ヘタルカ如何ニスル考ヘナリヤ分リ難シ。山県ハ制度審議会委員カ彼此故障ヲ云フナラハ之ヲ召附ケテ厳ニ命シテモ宜シキニ非スヤトマテ云ヒタリ
波多野ハ東伏見宮ニテ久邇宮ノ子ヲ預リ居ラルヽコトハ決シテ養子ノ趣意ニテ同意シタルニ非スト云ヒ実際其考ヘナルヘキモ宮家ニテハ何トカナルマシキヤトノ問ニ対シ波多野ヨリ何トカ成ルヘシトノ趣意ニテ答ヘタル故高松宮カ有栖川宮ノ跡ヲ御続キ成サレタル位ノコトハ出来ルモノト思ヒ居ラルヽ模様ナルカ如シ川島令次郎抔モ其様ニ思ヒ居ル様ナリ。波多野カ皇族処分ノコトヲ躊躇スルハ或ハ右等ノ行違アルコトモ幾分関係シ居ルニハ非サルヤトモ思ハルヽ様ナリト云フ
予其事ニ付テハ予モ幾度カ波多野ノ話ヲ聞キ波多野ハ決シテ養子類似ノ趣意ニテ承諾シ居ルコトニ非サルハ明瞭ナレトモ波多野ノ語明瞭ナラサルコト多キヨリ或ハ誤解ヲ招キ居ルコトアルヤモ計リ難シト云フ
○石原又此前ノ議会ノトキ議員選挙法ノ通過ヲ援ケタル為メ床次竹次〔二〕郎ヨリ水野直ヲ内大臣府御用掛トナスコトヲ波多野ニ談シタルコトアリ。又学習院ノ委員ヨリ宗秩寮ニ学課〔務〕課ヲ置キ徳川頼倫水野直等ヲ入ルヽコトノ要求アリ。自分ハ右等ノ必要ナキノミナラス。政府ノ便宜ノ為メ人ヲ採ルコトハ物議ヲ招ク恐アル故久保田譲徳川頼倫等ニ宮内省官制等ノコトヲ話シ之ヲ実行シ難キ旨ヲ述ヘ孰レモ之ヲ領承シタル様ナリシモ其後更ニ議論ヲ生シ終ニ福岡秀猪ヲ宗秩寮ニ入レ夫レニテ水野直ノコトハ解決シタリト信シ居リタル処其後平田東助ニ話シタル者アリ。平田ハ石原カ彼此云ヒテモ波多野承諾シタルコト故之ヲ実行セサルヘカラスト云ヒタル由ニテ今尚ホ之ヲ主張シ波多野モ之ヲ入ルヽコトヲ欲スル様ナルカ政府ノ為メニ之ヲ入ルヽハ実ニ懸念ナリ。
某ヲ日本銀行ニ入レ某ヲ正金銀行ニ入レタルコトニ付テモ銀行カ政府ノ手伝ヲ為シタリトノ非難アル際ニ付宮内省ニテハ尚更困ルト云フ
石原又陸軍省ヨリ予後備軍人在郷軍人等救護ノ為五百万円ノ恩賜ヲ願ヒ出タルモ只今陸軍ノミニ対シ五百万円ヲ支出スルコトハ他ノ議論ヲ招ク恐アル故自分（石原）ハ波多野ニ断ハラスシテ田中義一ニ面会シ事情ヲ述ヘテ兎モ角一時ノ延期ヲ相談シ田中モ之ヲ承諾シタルカ波多野ハ大分不気済ノ模様ナリト云フ
予此事ハ山県ノ熱心ナル主張ニテ先頃経済会議ノトキモ其話アリタルカ其時ハ五百万円ニハ非サリシ様ナリ。先頃平田ヨリ経済整理ノ出来ルマテハ御下賜金ノコトハ当分見合セ度ト意見モ出テ居ル故其理由ニテ断ハリテ宜シキニ非スヤト云フ
石原平田モ此事カ山県ノ主張ナルコトヲ知リ居ル故先日モ約束済ノモノハ致方ナシト云フ様ナルコトヲ云ヒ居リタリ。兎モ角非常ニ困ルコトノミト云フ
石原又御脚ノ運ヒ宜シカラス。介添ヲ附クルハ不体裁ニテ観菊会ノコトハ苦心シ居リタル処幸ニ雨天トナリテ仕合セタリ。時ニ因リテハ御飛ヒニナル様ノコトモアリ御容体一定セス矢張神経ノ作用ナルヘシト云フ。話スルコト二十分許ニシテ去ル
○十一月二十二日午前九時三十分ヨリ会議室ニテ予算委員会ニ列シ大正八年度追加予算ヲ議ス。午後零時後ニ至リ議了ス
予審査局ニ返ル。給仕大臣官房ニ来リ呉ヨト電話ニテ通知シ来リタル旨ヲ告ク。予往ク。波多野在ラス。木村甚三郎ニ逢ヒ電話ニテ召ヒタル故来リタルモ大臣在ラサル故予カ来リタルコトヲ伝ヘ呉ヨト云フテ去ル
既ニ午喫ヲ終リ復タ官房ニ之ク。尚ホ在ラス。乃チ食堂ニ之ク。波多野正ニ食シ終ハリタル処ニテ予ヲ誘ヒ官房ニ返リ田中義一ヨリ東久邇宮殿下転任ノコト今日御裁可ヲ経タリ御転任先ハ陸軍大学ナリトノコトナリト云フ。予田中ニ逢ヒタル日時ヲ問フ。波多野今少シ前ナリト云フ。予又此事ハ殿下ニ申上ケテ宜シキヤト云フ。波多野宜シキ旨ヲ答フ。
波多野又久邇宮殿下梨本宮殿下軍事参議官ニ転任セラルヘキコトヲ話ス。予皇族ヲ武官ト為スコトハ太平ノ時ハ宜シキモ有事ノトキハ困ルコトアリト云フ。波多野其通リナリト云フ
波多野明後日ノ松田正之結婚ノコトニ付話スルコトアリ。予松田ヲ宗秩寮ニ入ルヽコトハ石原ハ尚ホ反対ノ模様ナリト云フ。波多野先日石原ニ之ヲ入ルヽコトヲ話シ置タルカ尚ホ執行セサルヤト云フ。予未タ執行セスト云フ。波多野石原ハ一タヒ云ヒ出シタルコトハ中々承知セスト云フ
○午後一時ヨリ会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開キ五時頃ニ至リ閉会ス
○午後六時頃金井四郎ニ電話シ今日波多野敬直ヨリ東久邇宮殿下御転任ノコト御裁可アリタル旨田中義一ヨリ通知シタルコトヲ予ニ伝ヘタリ。御転任先ハ陸軍大学トノコトナリ。此事ハ殿下ニ申上ケテモ宜シトノコトナリト云フ。金井承知ノ旨ヲ答フ
○午前秋山源蔵ニ嘱シ明二十三日ノ新嘗祭ニ参拝セサル旨ノ届書ヲ作リ一応予ニ示シタル後之ヲ出サシム。午後秋山之ヲ示ス。直ニ之ヲ出サシム
○午前内子第一銀行ニ行キ預金ノ証書ヲ替ヘ利子ヲ記入ス
○十一月二十三日新嘗祭ナルモ予参拝セス。
○午前八時後高成田渉ニ行キ咽喉を療ス。咽喉ノ工合尚ホ悪シ。
○午前九時後永島巌来訪ヒ家ヲ売ルコトヲ約シ、住屋ヲ得サル為メ売約ヲ取消シ、違約金ヲ出シタルコトヲ話ス。又詩二三首ヲ示ス。
話スル三十分許、永島未タ去ラス。宮崎速任来訪フ。之ヲシテ応接室ニ待タシム。永島去リタル後之ヲ引見ス。宮崎東京ニ転任スルコトヲ謀ル。予転任ハ必シモ利益ナラサルヘキ旨ヲ話ス。話スルコト二十分余ニシテ去ル。
○午前十一時後金井四郎ヨリ電話ニテ東久邇宮殿下ノ転任先ハ陸軍大学ナリトノコトナルヤト云フ。予、予ハ昨日波多野其様ニ聞キタルト云フ。金井自分(金井)ハ今日モ引蘢リ居ルカ、先刻金沢ニテ殿下ニ接シタルコトアル某カ御殿ニ来リ、殿下カ士官学校ニ転任セラルヽコトヽナリ其旨ヲ陸軍省ヨリ殿下ニ内報スル都合ニナリ居ル旨ヲ話シタル由ナリト云フ。
予、予ハ陸軍大学ト聞キタルモ、波多野ノ語気ハ少シク確カナラサル様ニモアリタル故、或ハ間違ヒ居ルヤモ計リ難シ。殊ニ某ガ士官学校ト云フナラハ幾分ノ疑アリ。成ルヘクハ一応確メ見呉ヨト云フ。金井既ニ殿下ニハ陸軍大学ト申上ケ置タルモ明日ニモ参謀総長(上原勇作)ニデモ面会シテ尋ルコトヽスヘシト云フ。
○午後零時後深沢新一郎来リ訪フ。深沢ハ司法省ニテ監獄官会議ヲ開クニ付本月十七日ニ上京シタリト云フ。朝鮮ノ近事ヲ話ス。話スルコト三十分許ニシテ去ル。
○内子三越呉服店ニ行キ玩具ヲ買フ。
○午後書ヲ松寺竹雄ニ贈ル。本司義足ノ依頼ニ応ジタルナリ。
○午後五時前田中収来リ、本月三十日荻窪ノ有馬家別邸ニテ催フス同学会大会ニ出席スルコトヲ依頼ス。予之ヲ断ハル。
○十一月二十四日昨夜何人カ予カ家ノ門標ヲ取リ離シ之ヲ向側尾崎某方ノ塵芥箱ニ入レタリ今朝婢徳門標カ牛乳箱ノ上ニアリタリトテ之ヲ予ニ致シタル故之ヲ門柱ニ掲ケントシ居ルトキ尾崎某ノ妻出テヽ昨夜自家ノ塵芥箱ニ入レアリタリ之ヲ出シ見タルニ汚レ居リタルヲ以テ仮リニ牛乳箱ノ上ニ置タリト云フ予之ヲ謝ス
門標ノ墨色薄クナリ居ルヲ以テ更ニ之ヲ染メ予ガ前ニ門標ノ高処ニ穴ヲ穿チ置タル処ニ安ヲシテ之ヲ掲ケシム安誤テ従前掲ケ居リタル低処ニ之ヲ釘シタリ婢徳ヲシテ尾崎某家ニ到リ謝意ヲ致サシム
是ヨリ先一ヶ月斗リ前ニモ門標ヲ取リテ尾崎某方ノ塵芥箱ニ入レタル者アリ蓋シ同一人ノ所為ナルヘシ或ハ郵丁カ往々他家ニ配達スヘキ書状ヲ予カ家ノ郵便箱ニ入ルヽコトアリ其都度誤配ノ附箋ヲ為シテ之ヲ返戻シ郵丁ノ過失トナル為メ郵丁カ報復ノ考ニテ之ヲ為スモノナルヘキカ
○午前十時後波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ一昨日話ヲ聞キタル東久邇宮殿下ノ御転任先ハ陸軍大学トノコトナリシカ夫ニ相違ナキヤト云フ波多野頗ル惑フ所アルカ如ク陸軍ノ学校ニハ相違ナカリシカ大学ノ外ニモ学校アリヤト云フ予士官学校モアリ陸軍省ノ官吏ニテ殿下ノ赴任先ハ士官学校ナリト云フ者アル由ニ付疑ヲ生シタリト云フ波多野学校ト云フ丈ケニテ校名ハ確カナラスト云フ予然ラハ金井四郎ヲシテ陸軍ニ就キ取調ヘ見セシムヘシト云フ波多野今日当リ陸軍大臣カ来ルヤモ計リ難シ今暫ク待チ居ルヘシト云フ
談松田正之結婚ノ事ニ移ル波多野今日ハ誰カ挨拶ヲ為スヤト云フ予挨拶ヲ為スコトヲ君ニ依頼シ居ラサルヤト云フ波多野依頼ヲ受ケ居ラスト云フ予一応有馬家ニ交渉シ見ルヘシト云フテ去ル
○午前十一時頃金井四郎ニ電話セントス通セス乃チ東久邇宮邸片岡久太郎ニ電話シ一昨日予ヨリ金井ニ電話シタルコトニ付今朝金井ニ電話セント思ヘトモ電話通セサルニ付君ヨリ左ノ趣旨ヲ金井ニ伝ヘ呉度（一昨日話シタル事ハ今朝出勤ノ上確メ見タル処如何ニモ曖昧ナリ多分当方ノ話カ間違ナラント思ハル依テ為念一応其筋ニ就キ確メタル上間違ニ相違ナキナラハ急ニ殿下ニ訂正ノ言上ヲ為シ呉度）片岡之ヲ諾ス
○午前十一時頃橋場有馬伯邸ニ電話シ橋爪慎吾カ在ルヤ否ヲ問フ邸員橋爪在ラス又其所在ヲ知ルヘカラスト云フ予松田男ノ結婚ニ関係シ居ル者在ラサルヤヲ問〔フ〕邸員津留崎某カ関係シ居ル旨ヲ答フ予今日結婚披露ノ席ニテ主人ヲ代表シテ挨拶ヲ為ス人ハ定マリ居ルヤト云フ津留崎之ヲ知ラスト云フ予今朝波多野敬直ニ逢ヒタルニ同人ニハ挨拶ノコトヲ依頼シアラサル由ナリ急ニ橋爪ニ電話シ依頼スルナラハ其事ニ取計フ必要アルヘシト云フ津留崎橋爪ハ多分松田正之ノ家ニ行キ居ルヘシト云フ予松田ノ家ニハ電話ハナキヤト云フ津留崎ナシト云フ予兎モ角急ニ橋爪ニ交渉スル必要アルヘシト云フ津留崎間モナク橋爪ハ宴会場ナル帝国ホテルニ行クヘキニ付其上ニテ交渉スヘシト云フ
○午前十一時後仙石政敬ヲ宗秩寮ニ訪フ他ニ人アリ予乃チ仙石ヲ総裁室ニ誘ヒ（総裁ハ出勤シ居ラス）先日井上勝之助ニ松田正之ヲ宗秩寮ニ入ルヽコトニ付話ヲ為シ井上ヨリ答ヘタル模様并ニ其事ニ付予ヨリ波多野敬直ニ話シ波多野ヨリ答ヘタル模様ヲ話ス仙石此事ニ付テハ井上ト波多野トノ間ニハ確カニ約束アル模様ニ付明後日位更ニ井上ニ話スヘシト云フ
尹徳栄辞爵ノ話予閔丙尹徳栄ノ辞爵ノ事ハ其侭ニナリ居ルヤト云フ仙石其侭ニナリ居レリ金嘉鎮カ上海ニ行キタルカ李
公カ上海ニ行カントシテ新義州ニテ押ヘラレタルコト等朝鮮ハ中々多事ナリト云フ
公逃走ノ話予李公ノコトハ少シモ之ヲ知ラス是ハ懲戒問題ナルヘシト云フ仙石只今ハ政務総監官邸側ニアル小ナル家ニ監禁シアル由ナリト云フ予東京ノ新聞ニ朝鮮ノ事ハ新聞ニ記載スルコトヲ許サストテ妙ナルコトヲ出テ居リタルカ右等ノコトヲ指シタルモノナラント云フ仙石然ルナラント云フ
仙石又東久邇宮殿下カ陸軍士官学校ニ転任セラルヽコトニ内定シタル旨陸軍省ヨリ通知シ来レリト云フ予実ハ其事ニ付一昨日波多野ヨリ陸軍大学ニ転任セラルヽコトニ内定セリトノ話アリタル故其趣ヲ金井ニ通知シ金井ヨリ殿下ニ言上シタル処其後ニ至リ間違ナル模様アリ只今取調ヘント思ヒ居ル所ナリト云フ仙石宗秩寮ニハ書面ニテ通知シ来リタル故間違ナシト云フ
○予仙石ノ話ヲ聞キタル故更ニ片岡久太郎ニ電話シ先刻ハ一応取調ヘタル上殿下ニ言上スヘキ旨ヲ告ケタレトモ既ニ宗秩寮ニ内報アリタル趣ニ付直ニ殿下ニ間違ヲ言上スル様金井ニ告ケ呉度旨ヲ報ス片岡之ヲ諾ス
○午前十一時後更ニ波多野ヲ其官房ニ訪ヒ東久邇宮殿下ノ任所陸軍士官学校ナルコトハ既ニ陸軍省ヨリ内報アリタル趣宗秩寮ニテ聞キタルコトヲ報ス予又皇族処分ノ事ハ如何スルヤヲ問フ波多野近々伊東巳代治ニ相談スヘク宮号ヲ称スル位ノコトハ伊東ヲシテ承諾セシメ急ニ決定スル様処置スヘシ
本月廿六日ハ松田正之ノ妻ノ里帰リナル趣ニテ自分（波多野）ニモ来リ呉ヨト申来リ居レリト云フ波多野カ之ヲ話シタルハ右様ノコトニテ往テ伊東ヲ訪フコト出来サルコトヲ告クル趣意ナラン予又松田正之ノ結婚披露ノ時ノ主人側ノ挨拶ヲ為スコトニ付有馬家ニ電話ヲ掛ケタレトモ橋爪ノ所在不明ニテ用弁セスト云フ
波多野正之ノ学歴ヲ問フ時ニ白根松介在リ宗秩寮ニ到リ之ヲ調査スヘシト云フ波多野之ト同時ニ蜂須賀笛子ノコトモ取調ヘ呉ヨト云フ少時ニシテ白根返リ来リ正之ハ大正五年七月京都帝国大学法科ヲ卒業シ居レリ笛子ハ学習院女子部ノ卒業者名簿ニ記載セス新聞ニハ女子部ハ中途退学シ下田歌子ニ就学シタル旨ヲ記シ居レリ右様ノコトナルヘシト云フ
○午後一時ヨリ会計審査成蹟書案ニ付審査官会議ヲ開キ四時前ニ至リ閉会ス予カ将ニ松田正之ノ結婚披露宴ニ赴カントスルヲ以テナリ
○午後四時前帝国（ホテル）ニ赴キ松田正之ノ結婚披露宴ニ赴ク
野田卯太郎ニ逢ヒ予ガ林田守隆ノ子岩太郎ニ書ヲ贈リ守隆ノ履歴書ヲ送ルコトヲ申遣ハシ置タルモ未タ送リ来ラス之ヲ送リ来リタル上先日君ヨリ預リ置タル水野正名等ノ履歴書ト共ニ之ヲ高橋光威ニ届クル積リナリト云フ野田既ニ高橋光威ニハ話シ置タリト云フ予然ラハ先ツ水野正名等ノ分ヲ送リ置キ林田ノ分ハ届キタラハ更ニ送ルコトニスヘシト云フ
仁田原重行上田有沢福井準三〔造〕原田十衛等話ス上田トハ朝鮮ノ近状ヲ話シ福井等ハ松田正之ノ結婚済ミタル為メ一段落附タルモ今後ノ面倒少ナカラサルヘシト云フ予今後ノ事ニ付テハ君等ノ援助ヲ請フト云ヒタルニ原田ハ何トモ手ノ附ケ様ナシ寡婦ハ何事モ自分（原田）等ニハ相談セスト云フ福井ハ予カ間接ニ正之ヲ助ケ呉ルヽノ趣ニテ高意ヲ謝スト云フ
又蜂須賀正韶ハ上田有沢ニ対シ笛子ノ縁談ニ付倉富君ノ世話ニナリタル旨ヲ告ク上田ハ徳島ノ人ナル由ナリ午後七時後辞シ帰ル
○昨夜ヨリ雨フル近日雨多シ
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