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最終更新：2004年12月13日
作成者：永井 和、冨永 望
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、原文にはほとんど句読点がないが、読者の便宜を考え、適宜これをおぎなった。さらに、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、JIS第１、２水準にない漢字の表示は、e漢字プロジェクトe-漢字の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
本翻刻は、日本学術振興会科学研究費補助金による事業である。基盤研究（B)（２）課題番号：16320086
倉富勇三郎日記 大正9年1月1日〜31日
○大正九年一月一日午前六時起。先ツ祠堂ヲ拝シ一二屠蘇ヲ飲ミ餅ヲ食フコト例ノ如シ。
○年ヲ東京市赤坂区丹後町一番地ニ迎フ。予夫妻及姪安弊恙ナシ。長児鈞、婦藤子、孫富子幹郎真子ハ朝鮮京城西部中林洞朝鮮銀行舎宅ニ在リ。三児隆、婦道子、孫朗子ハ福岡県浮羽郡船越村大字秋成ニ在リ。弊恙ナシ。
○午前九時ヨリ参朝シ、十時天皇皇后両陛下ニ新年ヲ奉賀シ、十時後帝室会計審査局判任官以下ノ拝賀ヲ受ケ、其旨ヲ宮内大臣ニ申ス。
○午前十一時ヨリ女子学習院長大島義修ト共ニ宮内省ノ自動車ニ乗リ、山階宮、伏見宮、閑院宮、有栖川宮、東伏見宮、華頂宮、東宮御所、北白川宮、朝香宮、東久邇宮、久邇宮、梨本宮、澄宮御殿、皇子御殿ニ到リ、帳簿ニ署名シテ新年ヲ奉賀シテ後、三時頃予カ宅前ニテ大島ニ別レ家ニ帰ル。伏見宮、閑院宮、東宮御所、北白川宮、朝香宮、東伏見宮、東久邇宮、久邇宮、梨本宮、皇子御殿ニハ祝酒アリ。又東宮御所、皇子御殿ニテハ雉子酒及餅ヲ賜ハリタリ。
○午後三時後蠣殻町有馬家別邸ニ電話シ、今日ノ同郷人名刺交換会ハ午後何時マテ継続スルヤヲ問ハシム。別邸ノ人、只今直ニ御出アレハ待チ居ルヘキ旨ヲ答フ。予乃チ行ク。橋爪慎吾、本荘季彦、野口謙蔵、加納秀五郎、宇高浩、小倉敬止等在リ。予橋爪、本荘、加納、野口ト暫話ス。橋爪、有馬秀雄カ感冒ニ罹リ其婦等亦臥病シ居ル旨ヲ話ス。
予将ニ帰ラントス。橋爪送リテ玄関ニ来リ、近時有馬頼寧行状ヲ改メ狎婦（ミトリ）トハ関係ヲ絶チ、（ミトリ）ハ既ニ他ニ嫁シ、頼寧ハ是迄ノ如キ素行ニテハ夜学校抔ヲ開キ善事ヲ為スモ、信用ヲ損スルニ付、今後ハ人ヲ招待スルニモ日本料理ハ之ヲ止メ、大藪房次郎ノ如ク西洋料理ヲ食シ得サル者ニハ自邸ニ日本料理ヲ取寄セテ饗応スヘシト云フ位ニナリ。夫人モ是ニテ安心ト云ヒ居ル旨ヲ話ス。予夫レハ喜フヘキコトナリ。頼寧ニ不品行アリテハ安藤信昭、松田正之等ノ取締相成サル故、予ハ頼寧ノ品行ニ付非常ニ苦心シ居リタル旨ヲ告ケ、他日ヲ期シテ別ル。五時前家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○一月二日親族ニ贈ル賀年状ヲ作ル。終日家ニ在リ。
○夜有馬秀雄ノ家ニ電話シ、其病状ヲ問ハント交換手ヲ喚フコト五六回、終ニ通セス。
○午後六時頃宮内省調査課ノ武某電話シ、栗原広太ヨリ先日伊東巳代治ヨリ岡野敬次郎ニ配付シタル皇族ニ関スル議案、岡野其所蔵所ヲ忘レ、之ヲ見当ラサル故、更ニ一通ヲ得度ト云フニ付送リ呉ヨト云フ、如何スヘキヤト云フ。予予ノ処ニモ残部ナシ。殊ニ議案ハ其後修正シ来ル。四日ニハ更ニ之ヲ配付スル積リナルニ付、夫迄待ツヘキ旨ヲ答ヘ置クヘシト云フ。武岡野ハ大磯ニ行キ居リ、議案ハ其方ニ送リ度トノコトナリト云フ。予何レニシテ〔モ〕、今日之ヲ送ル訳ニ行カサル故、前述ノ如ク答ヘ置クヘキ旨ヲ告ク。
○午餐ノ時安ト共ニ先日境豊吉ガ贈リタル猪肉ヲ食フ。
○朝屠蘇ヲ飲シ、餅ヲ食フコト例ノ如シ。
【△上に戻る】
○一月三日午前九時ヨリ賢所前参集所ニ到リ、元始祭ノ儀ニ参ス。天皇陛下弁祭シタマハス。九条道実代拝ス。皇后陛下及皇太子殿下拝礼シタマフ。次テ皇族殿下及僚臣拝礼ス。予十一時拝礼ヲ終ハリ、家ニ帰リ、礼服ヲ脱シ通常服ヲ著ケ、直ニ皇子御殿ニ到ル。皇子高松宮殿下ノ御誕辰ナルヲ以テナリ。波多野敬直、内山小太郎、正親町実正ニ次テ高松宮殿下ニ謁シ、後午餐ヲ賜フ。午後一時帳簿ニ署名シテ賜餐ヲ奉謝シテ家ニ帰ル。
○賢所前参集所ニテ石原健三ヨリ皇族降下ニ関スル内規案ハ先日配付ヲ受ケ居リタルモ、昨夜始メテ之ヲ観タリ。然ルニ現在ノ宣下親王又ハ宮号ヲ有スル王ノ曽孫マテヲ皇族ト為スコトヽナリ居リ。伏見宮ノ如キハ博義王ノ子マテニテ降下セサルヘカラス。之ニ反シ華頂宮ノ如キハ親王ヨリ四世モ皇族トナルコトヲ得ルコトヽナリ。余リ不権衡ニテ此侭ニテハ到底実行シ難シ。何トカ工夫ナキヤト云フ。予其不権衡ハ初ヨリ分カリ居ルコトニテ、先日波多野敬直ノ官舎ニテ協議シタルト〔キ〕其話アリタルモ、其節ハ現在ノ曽孫マテ皇族トナスコトヽ決シタル故、予ハ其積リニテ立案セリト云フ。石原其節ハ其積リナリシモ、兎モ角余リニ不権衡ナリ。邦家親王ヨリ幾世ト云フコトヽナシテハ如何ト云フ。予此コトハ先日平沼騏一郎カ申出シタルコトナリ。現在ノ皇族中ニハ各々承リタル所アリ。総テ邦家親王ノ後ト云フヘカラサル故、該親王ヨリ幾世ト為スコトハ因ヨリ適当ナラス。然レトモ実系ハ総テ該親王ヨリ出テ居ルニ付、該親王ヨリ幾世マテヲ皇族トナスコトヽ定ムレハ不権衡ハ免カルヽコトヲ得ヘシ。兎モ角明四日今一応波多野敬直ト協議スルコトヽナシテハ如何ト云フ。石原其事ニスヘシト云フ。少時後予波多野敬直ニ其事ヲ談ス。波多野之ヲ諾ス。
○夜有馬秀雄ノ家ニ電話シ、秀雄ノ病状ヲ問フ。家人体温漸ク減シ、正ニ三十七度一分ニ下ル。最早心配ノコトナカルヘシト云フ。予他ニ患者ナキヤヲ問フ。家人他ニモ患者アリト云フ。
○午後七時頃浅田恵一電話ス。時ニ予正ニ浴ス。婢ヲシテ何事ナルヤヲ問ハシム。浅田浴後予ヨリ電話スルコトヲ請フ。予浴後浅田ニ電話ス。浅田皇族処分ニ関スル内規案ヲ成ルヘク速ニ岡野敬次郎ニ届ケ度シ。依テ明朝九時頃自分（浅田）カ貴宅ニ到リ、原稿ヲ得テ直ニ蒟蒻版ニ写シ、之ヲ岡野ニ送ラント欲ス。如何ト云フ。
予ハ、予ノ案ヲ改メ終リタルモ、今日石原トノ話ニテ明日更ニ波多野ト協議スルコトヽナリ居リ、其前ニ原稿ヲ渡スコトハ出来難シト云フ。浅田承知シタル旨ヲ答フ。
○午後皇子御殿ヨリ帰リタル後、皇族降下ニ関スル内規案ノ参考書トシテ皇族世系調書ヲ作ル。
○朝屠蘇ヲ飲ミ餅ヲ食フコト例ノ如シ
○午後皇子御殿ヨリ帰リタル後、近傍十一人ノ家ニ行キテ新年ヲ答賀ス。
【△上に戻る】
○一月四日午前九時後ヨリ宮内省ニ出勤シ、十時頃波多野敬直ノ官房石原健三ノ事務室ニ到ル。共ニ在ラス。近藤久敬ニ石原カ室ニ帰リタラハ予ニ報スルコトヲ嘱ス。近藤之ヲ諾ス。会白根松介近藤ノ室ニ来ル。予昨日高松宮ノ御誕辰ノトキ案内ヲ受ケタルヤヲ問フ。白根此節ハ部局長官及之ニ準スヘキ課長等ノミヲ案内シタル模様ナリト云フ。
○十二時頃退省ス。
○午後四時後片岡久太郎来リ、御者某ノコトヲ談ス。詳カナルコトハ五日ノ日記ニ在リ
○一月五日午前十一時ヨリ参内シ新年御宴ニ陪ス。午後一時頃宴終ル。直ニ家ニ帰ル。
昨日ノ追記
片岡久太郎来リ。本月一日東久邇宮妃殿下御妊娠中ニテ御参内出来サル故、萩原某（御用取扱）御使トシテ参内スル為、宮内省ノ馬車ヲ借リタル処、御者某酔ヒ居リタル為メ馬車ヲ電信柱カ何カニ打附ケタル由、萩原ハ別段負傷等ナカリシモ、御所ニテ車ヲ下ラントシタルニ、急ニ馬車ノ戸ヲ開クコトヲ得サリシ由、多分馬車ノ戸カ枉ヒタル為ナラン。
其事ハ夫レ限リニテ済ミ居リタル処、今日（四日）浅田恵一御殿ニ来リ、御者某ハ其ノ為ニ休職トナル由、何トカ宮邸ヨリ取成シ貰フコトハ出来サルヤト云フニ付、自分（片岡）ハ夫レハ御頼ミアルマテモナシ。宮家ニテ馬車ヲ借リ、其ノ為休職ト為ル様ノコトアリテハ宮ニテモ困ル訳ニ付、精々其方ニ手続ヲ為スヘシト云ヒ、金井事務官ハ二日ヨリ風邪ニテ引篭リ居ル故、自分（片岡）カ直ニ河原某（主馬寮事務官）ヲ訪ヒ穏便ニ処置スルコトヲ依頼シタル処、河原ハ最早休職ノ上申書ヲ出シ居レリ。然レトモ未タ決済ニ至ラス。書類ハ総務課ニ在ルヲ以テ、主馬頭ノ考ハ分ラサルモ自分（河原）ノ責任ヲ以テ撤回ヲ図ルヘシト云ヘリ。貴官ヨリ一応電話ニテ河原ニ依頼シ呉ヨト云フ。予之ヲ諾シ、河原ニ電話ス。河原之ヲ諾ス。
片岡ノ話ニテハ御者某ハ平素ノ行状悪シク、酒代ヲ強請スル様ノコトアルヲ以テ主馬寮ハ此節ノ事ヲ好機会トシテ休職ヲ命セントシタルモノナルカ、浅田ハ知リ合ノ中ニテ御者某ノ為メ奔走シタル訳ナル由。
四日ノ追記第二
四日午前宮内省ニテ杉栄三郎ニ皇族ノ降下ニ関スル内規案ノ改案ヲ蒟蒻版ニテ印刷スルコトヲ嘱ス。杉之ヲ武某ニ命ス。既ニ原稿ヲ武ニ渡ス。尚遺漏アルヲ発見シ、石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒテ修正ヲ協議シ、更ニ枢密院控室ニテ武カ浄写シタル処ニ就キ修正ヲ通知シテ帰ル。
一時前家ニ帰ル。尚ホ案ヲ修正セント欲スル所アリ。武ニ電話ス。武既ニ浄写ヲ終ハリ、貴宅ニハ原稿ト共ニ発送セリ。伊東巳代治平沼騏一郎ニモ発送ヲ了リタルカ、岡野敬次郎ハ大磯ニ行キタル故郵便ニテ送ルヤ、使ニテ送ルヤハ、伊東ニ問ヒタル上決スル積リナリト云フ。予復タ修正ノ事ヲ言ハス。午後六時後武電話ニテ大磯ニ行キ、案ヲ岡野ニ渡シ、今帰京シタルニ付之ヲ通知スト云フ。
五日ノ日記
午前十一時後宮内省ニテ伊夫伎準一ニ遇フ。予ガ明日ハ霊南坂ノ帝室制度審議会事務所ニ行クニ付、宮内省ニハ出勤セサルコトヲ告ク。
【△上に戻る】
○一月六日午前九時三十分ヨリ霊南坂帝室制度審議会事務所ニ行ク。坂下ニテ車ヲ降リ、車夫ヲシテ隆ニ送ル漬物ヲ宇都宮運送店ニ致シ、運送ヲ命セシム。予ハ徒歩シテ事務所ニ到ル。
少時ノ後、平沼騏一郎、岡野敬次〔郎〕、伊東巳代治、石原健三、波多野敬直相次テ来リ、予ガ先日起草シタル皇族処分ニ関スル内規案ヲ議ス。伊東ハ昨夜岡野、平沼ヲ招キ、三人協議シテ予ノ案ニ対スル修正案ヲ作リ、三人シテ修正案ヲ主張シ、一部ノ添削ヲ除クノ外修正案ヲ議決セリ。午後零時後、伊東ヨリ一同ニ午餐ヲ供シ、会ハ四時頃ニ至リテ閉ツ。予議決ニ不同意ナル所少ナカラス。栗原広太、杉栄三郎ハ予ニ先チテ事務所ニ在リ。議事ノ概略ハ両人ニテ之ヲ筆記シ居リタリ。
波多野散会後東久邇宮邸ニ行キタリ。予カ宮務監督ヲ解クコトヲ殿下ニ謀ル為ナラント思ハル。四時後ヨリ平沼ト宮内省ノ自動車ニ同乗シ、豊川稲荷前ニテ車ヲ下リ、平沼ニ別レテ帰ル。
○夜皇族処分案ノ修正ヲ駁スル理由ヲ思ヒ、終ニ天明マテ眠ラス。今夜ハ胃ノ工合悪シク、且考フルコトアリタル故、旁眠ラレサリシナリ。夜半後ニ至リ、田家早梅一肩ヲ得タリ。
○一月七日午前十時頃出勤。昨夜考ヘ置タル修正案ニ対スル反対意見書ヲ作リ、其浄写ヲ杉栄三郎ニ嘱ス。杉、武某ヲシテ之ヲ書セシムヘキ旨ヲ答フ。
○午後一時頃、片岡久太郎電話ニテ王殿下貴官ニ話サレ度コトアル趣ニ付、午後三時三十分ヨリ四時マテノ間ニ来邸セラレ度ト云フ。予之ヲ諾ス。
○午後一時後、波多野敬直ヲ官房ニ訪フ。波多野正ニ食堂ニ在リ。予亦行焉。既ニシテ波多野予ヲ誘フテ官房ニ返リ。昨夕東久邇宮殿下ニ謁シ、君カ宮務監督ヲ解キ、李王世子ニ関スル事ヲ掌ラシメント欲スル旨ヲ述ヘタル処、殿下ハ宮内省ノ都合ニテ倉富ヲ必要トスルナラハ、自分（殿下）異議ナキ旨ヲ述ヘラレ、後任ハ何人ニスルヤト云ハレタル故、只今竹田宮ノ宮務監督ヲ勤メ居ル村木雅美ハ武官テモアリ、適当ナラント思ヒ居レトモ、竹田宮并ニ本人ノ都合ヲ問ヒタル後ニ非サレハ決シ難キ旨ヲ述ヘタル処、殿下ハ村木ヲ知ラサレトモ、宮内大臣カ適当ト認ムル人ナラハ異議ナキ旨ヲ答ヘラレタリト云フ。
予殿下ニ対シ、大臣ハ予ニ此事ヲ話シ、予モ異議ナキ旨ヲ告ケタルヤヲ問フ。波多野少時考ヘタル後、其事ハ如何ナリシヤ確ト記憶セス。多分夫迄ハ話サヽリシナラント云フ。予然ラハ殿下ノ話ノ模様ニテ、程克ク応答致シ置クヘシト云フ。波多野昨日ハ殿下ト緩話シ、皇族降下ニ関スル内規案ヲ協議シタルコトモ話シ、殿下ノ賛成ヲ請フ旨ヲ告ケ置タリ。殿下ハ此事ニ付テハ、幾度カ倉富ニモ話シタルコトアリト云ハレタリト云フ。予案ノ内容ハ話サヽルヘシト云フ。波多野内容マテハ話サス。殿下方ヲ直ニ降下スル様ノ事ハ、ナササル旨ハ話シ置タリト云フ。
○午前白根松介審査局ニ来リ、本月九日午前十時ヨリ御講書始アリ。陪聴ノ望アラハ、其事ニ取斗ヒ置クヘシト云フ。予之ヲ嘱ス。
○午後二時後自宅ニ電話シ、三時迄ニ迎ヒノ人力車ヲ遣ハスヘキコトヲ命ス。
○午後三時後ヨリ東久邇宮邸ニ到リ、王殿下ニ謁ス。殿下倉富ハ最早承知致シ居ルヤモ斗リ難キガ、昨日宮内大臣来リテ、倉富ヲシテ王世子ノ用ヲ処理セシメント欲スル旨ヲ告ケ、予（殿下）ノ承諾ヲ求メタリ。予（殿下）ハ宮内省ノ都合ニテ倉富ヲ必要トスルナラハ、異議ナキ旨ヲ答ヘ置タル故、一応之ヲ通知ス。後任ハ村木雅美カ適当ナラント思フモ、未タ本人ニ交渉シタルニモ非サル故、確言シ難シト云ヘリ。予（殿下）ハ村木ヲ見タルコトハアルモ、之ヲ知ラサルカ、大臣カ適当ト思フナラハ、別ニ好悪ハセサル旨ヲ答ヘ置タリト云ハレタリ。
予此事ハ一寸聞キタルコトアルモ、詳細ノ話ニ非ス。大臣ハ殿下ノ御都合ヲ伺ヒタル上、決スル積リニテ、委細ハ話サヽルコトナラン。倉富ハ多年恩遇ヲ蒙リ、頂戴シ居ルハ勿論ナルモ、倉富ニ相応ナルコトニテ御用ニ充ツコトアラハ、之ニ従事スルハ当然ノコトナラント思ヒ居ル所ナリ。倉富カ先年朝鮮ニ行キ居リタル関係ニテ大臣ハ考ヘタルコトナルヘキモ、果シテ任ニ堪フルヤ否懸念ナリ。但シ世子ハ李堈 公ト異ナリ、別段邪路ニ入ラルヽ懸念ハナカルヘシ。今後朝鮮ノ野心家カ之ヲ誘導スルコトサヘナクハ、別段ノ事ナカルヘシト云フ。殿下、李堈公モ東京ニ転住スル趣、宮内大臣ハ話シ居リト云ハル。予、右様ノ話ハ聞キタルコトアリト云フ。殿下世子ハ如何ナルコトヲ考ヘ居ルヘキヤト云フ。予、世子ハ別ニ格別ノ考ナカルヘキモ、朝鮮ニハ騒擾アリ。李堈公ハ彼ノ如キ行動ヲ執ラレタル故、幾分心ニ閉スルコトモアルヘク、以前ノ様ニハ非サルヘシト云フ。殿下然ルナラント云ハレタリ。
殿下又宮内大臣ハ皇族処分問題ヲ議シタリト云ヘルカ、倉富モ列席セリヤト云ハル。予列席セリ。此事ハ殿下ノ前ニ述フルハ穏当ナラサルモ、余程困難ナル問題ニテ、是迄幾度カ案ヲ立テタルモ、未タ決定セス。此問題ハ単純ナル理論ニテ決スル訳ニ行カス。左リトテ又情実ノミニ泥ム訳ニ行カスト云フ。
予正ニ殿下ト話ス。妃殿下其席ニ入リ来ラル。妃殿下ニ礼シ、尚ホ暫話シテ退ク。事務室ニ入ル。
侍医鈴木某在リ。只今妃殿下ヲ診シタル所ナリ。妃殿下ハ妊娠六箇月目ナル処、先日迄ハ幾度診シテモ胎児ノ呼吸ヲ聴取ルコトヲ得ス。又其形体ニモ触レ難ク、唯羊水ト瓦斯ノミ多ク、自然ハ異常妊娠ニハ非サルヤト思ヒ、懸念シ居リタルカ、今日速微ナカラ始メテ胎児ノ呼吸モ分リ、其体ニモ触ハルコトヲ得、是ナラハ通常妊娠ナルコトヲ知リ得テ安心セリト云フ。鈴木又片岡久太郎ニ対シ、只今妃殿下ニ付最大ノ懸念ハ感冒ナリ、妊娠中ノ感冒ハ大概不結果ニ終ハルニ付、是丈ハ是非トモ予防セサルヘカラス。予防注射ハ未タ確実トハ云ヒ難キモ、侍医寮ニテモ注射ハ実行スルコトノ内議アルニ付、更ニ評議ヲ尽クシタル、妃殿下モ予防注射ヲ成サルヽ方宜シカラント思フト云フ。予如何ナル懸念アリヤト云フ。鈴木一時ニ多量ヲ注射スレハ発熱スルモ、隔日位ニ少量ヲ注射シ、三四回ニ注射スレハ安全ナリト云フ。
予片岡ニ対シ、金井四郎ノ病状ヲ問フ。片岡既ニ解熱シタル由ナルモ、未タ出勤セスト云フ。 四時後ヨリ家ニ帰ル。此日宮内省ニハ人力車屋ノ老父カ迎ヘニ来リ。東久邇宮邸マテ挽キ行キタルモ、予カ帰ルトキハ其第二子カ老父ト代ハリ居リタリ。
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○一月八日午前杉栄三郎来リ、昨日予カ嘱シ置タル皇族降下ニ関スル成案ニ付、予ガ草シタル意見書ノ浄写二通ヲ致ス。
○午前十一時後波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ、予ガ昨日東久邇宮殿下ニ謁シ、殿下ヨリ予ニ告ケタル状況ヲ報ス。会々石原健三亦其席ニ在リ。波多野、丁度倉富君モ来レリ、先日来計画シタルコト全ク纏マリタリト云フ。石原之ヲ解セサルモノヽ如シ。波多野、王世子ノ事ナリ、先刻村木雅美来リタルニ付、東久邇宮ノ宮務監督ニ転スルコトヲ謀リタル処、村木ハ貴族院議員ノ古顔トナリタル為種々ノ用務多ク、成ルヘクハ宮務監督ヲ辞シ度ト云ヒタルモ、自分（波多野）ヨリ実ハ閑院宮ノ別当ニ推薦セント思ヒタルモ、其方ナラハ議員ヲ辞セサルヘカラス。夫レハ余リ迷惑ナルヘシト思ヒ、其方ハ見合セタリ。宮務監督ハ是非承諾セヨト云ヒ、終ニ之ヲ承諾セシメタリ。山口鋭之助ヲ竹田宮ノ宮務監督トナスコトモ異議ナシト云フ。石原、山崎四男六ハ常々宮務監督ヲ辞シ度ト云ヒ居レリ、是ハ如何ニスルヤト云フ。波多野、山崎ノ後任ニハ衛戍部ニ居ル某ヲ以テ充ツルコトヽナリ居レリト云フ。石原、某ハ随分厄介ナル人ニ非スヤト云フ。波多野、左程ノコトハナカルヘシト云フ。山崎モ同時ニ罷ムルコトヽ為シテ宜シカルヘク、某ハ衛戍部ヲ罷ムルマテハ採用スル訳ニハ行カサルヘキモ、一時ハ欠員ニテ差支ナカルヘシ。
予、全体宮務監督ノ制ハ無益ナリ。親王家ニ非サレハ別当ヲ置カサルナラハ、今少シ官等高キ事務官ヲ置キ、宮務監督ハ之ヲ廃スル方宜シカルヘシ。事務官テモ宮務監督テモ、殿下方ノ御意ノ侭ニナラサレハ折合悪シ。宮内省ノ職員ト為シ置キテモ何ノ効モナシト云フ。石原、矢張リ以前ノ如ク家令ノ制トナス方宜シカラント云フ。波多野、何ノ為メニ家令ヲ廃シタルモノナルヘキヤ、是モ皇室一家主義ノ実行ナルヘシト云フ。
次テ予ヲ王世子ノ監督トナスニハ如何ナル名義トナスヘキヤヲ議ス。監督輔導等ノ字ヲ用ユル訳ニ行カス。予、大体ハ宮内省御用掛ト為シ、王世子ノ事務ヲ取扱ハシムルヨリ外致方ナシト云フ。波多野、李王職御用掛トシテハ如何ト云フ。予夫レニテハ李王職長官ノ指揮ヲ受ケサルヘカラス。夫レニテハ何ノ効モナカルヘシト云フ。波多野夫レハ不可ナリト云フ。予、別段ノ工夫ナシ。単ニ宮内省御用掛ト為シ、其職務ハ口頭ヲ以テ之ヲ指示シ、其旨ヲ公文ヲ以テ李王職ニ通知スルヨリ外工夫ナカルヘシト云フ。波多野夫レニテ宜シカルヘシト云フ。
予又先日霊南坂事務所ニテ協議シタル皇族降下ニ関スル内規案ハ一応議了シタル形セルモ、実行上不可ナル所アリ。アノ侭ニテ確定セサル様注意スル必要アリト云ヒ、予カ草シタル反対意見書ヲ示ス。波多野之ヲ一覧ス。石原此事ハ平沼サヘ承知スレハ他ハ承知スヘキニ付、君ト平沼ト協議スル方便ナルヘシト云フ。波多野之ヲ〔ニ〕賛成ス。予然ラハ一応協議シ見ルヘシト云フ。審査局ニ返リタル上、西野英男ヲシテ大審院ニ電話シ、予カ平沼ヲ往訪セント欲スル旨ヲ告ケシム。西野、平沼ハ今ハ出勤セス、自宅ニ在ル旨ヲ報ス。予更ニ平沼ノ家ニ電話セシム。平沼差支ナキ旨ヲ答フ。予乃チ西野ヲシテ宮内省ノ自動車ヲ準備セシメ、且予カ家ニ電話シ、迎ノ為人力車ヲ遣ハスニ及ハサルコトヲ告ケシム。
○午後零時後白根松介ヲ訪ヒ明日講書始ヲ陪聴スルトキ〔ノ〕服装ヲ問フ白根正ニ食堂ニ在リ予食堂ニ到ル白根フロツクコートニテ宜シト云フ波多野石原亦食堂ニ在リ予途ニ平沼カ今日出勤セサルニ付是ヨリ其自宅ニ行ク旨ヲ告ク
○午後一時前ヨリ宮内省ノ自動車ニ乗リ平沼騏一郎ヲ訪ヒ、皇族降下ニ関スル内規案ニ付大体予カ昨日起草シタル意見書ノ趣意ヲ以テ平沼ノ同意ヲ求ム。附則ヲ改案スルコトハ大概同意セリ。案第三条ニ付テモ幾分同意ノ色アルモ、尚ホ之ヲ明言セス。尚ホ熟考スヘシト云フ。三時ヨリ自動車ニ乗リ直ニ家ニ帰ル
○午前、西野英男ニ予カ昨日嘱シ置タル、一日ニ乗リタル自動車運転手ニ心附ヲ遣ハシタルコトヲ大島義脩ニ通知スルコトハ既ニ通知済ナリヤヲ問フ。西野未タ通知セス、今朝通知スル積ナリト云フ。午後零時後今朝之ヲ通知シ置ケルコトヲ報ス。
【△上に戻る】
○一月九日午前九時ヨリ出勤シ、総務課ニ行ク。十時前白根松介進講者及陪聴者ヲ誘ヰ、鳳凰間ニ行ク。十時両陛下臨御、富井政章先ツ仏国ギゾーノ欧州文明史ノ概略ヲ講シ、次テ三上参次、後水尾天皇ノ霊元天皇ニ贈リタマヒタル消息文ヲ講シ、終ニ服部卯之吉、尚書洪範九疇ノ第五皇極ヲ講ス。十二時前終ハル。副進講者トシテ穂積陳重、松本、土谷（号鳳洲）亦進講者ノ後ニ列シタリ。天皇陛下ニハ宮内大臣、侍従武官長、侍従長、宮内次官、侍従次長、侍従二人扈従シ、皇后陛下ハ皇后宮大夫、皇后宮職事務官（一人）、女官二人扈従シ、外ニ書記官三人、陪聴者ハ浜尾新、予、清水澄ノ三人ナリ。零時後陪聴者ニモ午餐ヲ賜フ。予食堂ニテ波多野敬直ニ、昨日予カ平沼ヲ訪ヒタル模様ヲ告ケ置タリ。
○午後零時後西野英男大島義脩ノ書状ヲ致ス。大島ヨリ予ニ、予ガ大島ニ代ハリテ自動車運転手ニ心附ヲ与ヘ置タルヲ償ヒタルナリ。
○午後二時前大島義脩来リ、先日自動車ニ同乗シタルコトニ付挨拶ヲ述フ。
○午後二時後田中某来リ、新年賀辞ヲ述フ。明日午後零時三十分ヨリ東車寄前ニテ消防出初式ヲ挙行スルニ付来観シ呉ヨト云フ。
○一月十日午後零時後将ニ往テ消防出初式ヲ観ントテ、念ノ為メ西野英男ニ消防出初式ノ時刻ヲ問フ。西野出初式ハ既ニ終リタル趣ナルコトヲ報ス。蓋予ガ昨日田中ノ話ヲ聞キタルトキ十時三十分ヲ十二時三十分ト聞キ誤リタルナリ。
○午前八時後高成田渉ノ家ニ行キ、昨年十二月七日後、来リ療セサリシハ治療咽喉ノ工合却テ悪シク、薬剤中毒ノ趣アルヲ以テナリト云フ。高成田何ノ為メニ此クアルヤヲ知ルヘカラス。今一回薬ヲ塗リ見ルヘシト云フテ之ヲ塗ル。予三四日前舌ヲ噛ミ、其後糜爛シテ痛アリ。右ノ耳ニ響キテ感スルコトヲ告ク。高成田舌ニ薬ヲ塗ル。少時ニシテ痛軽シ。予痛ノ減シタルハ一時ノ姑息治療ナラント云フ。高成田然リ（コカイン）ヲ塗リタル為ナリト云フ。咽喉ハ今日モ薬ヲ塗リタル後却テ悪シ。
○午前十一時頃金井四郎宮内省ニ来リ、先日ヨリ感冒ニ罹リ漸ク回復シタルモ未タ東久邇宮邸ニハ行カス。妻モ十二月三十日ニハ熱高ク、心臓衰ヘテ一時ハ懸念セリト云フ。
金井又先日宮内大臣ガ東久邇宮邸ニ来リタル趣ナルモ、自分（金井）ハ引篭リ中ナリシト云フ。 予、大臣ガ行キタル用務ハ聞〔キ〕タルヤト云フ。金井未タ之ヲ聞カスト云フ。予、実ハ予ヨリ告クヘキコトニ非サルモ、既ニ大臣往訪ノ話ヲ始メタル上ハ全ク黙スルモ本意ニ非ス。左リトテ王殿下ヨリ君ニ告ケラレサル前ニ、予ヨリ告クルモ不都合ナリ。予ハ君ニ概略ヲ告クヘキモ、殿下ニ対シテハ君ハ之ヲ聞カサルコトニ致シ置クヘシト云フ。金井之ヲ諾ス。
予、大臣ガ東久邇宮邸ニ候シタルハ、本月六日ニテ其用事ハ予ガ東久邇宮ノ宮務監督タルコトヲ罷ムルコトニ付、殿下ノ思召ヲ伺ヒタル趣ナリ。其翌日片岡久太郎電話ニテ殿下ノ御用アル故、午後三時三十分ヨリ四時マテノ中ニ来邸スヘキ旨ヲ告ケタル故、三時三十分後ニ往テ候シタル処、殿下ヨリ既ニ承知シ居ル事ナルヤモ斗ラレサルモ、昨日宮内大臣カ来リテ倉富ノ宮務監督ヲ罷メ度旨ヲ話シタル故自分（殿下）ハ宮内省ノ都合ニテ其必要アルナラハ異議ナキ旨ヲ答ヘ置タル故、此事ヲ告クトノ御話アリタリト云フ。金井夫レハ困ルト云フ。予、何モ困ル訳ナシト云フ。金井、君ノ本務ニ差支フル訳ナリヤト云フ。予然ラスト云フ。
金井仮令ヒ他ノ職ニ就クモ、宮務監督ヲ罷ムルニ及ハサルニ非スヤト云フ。予、他ノ職ニ転スル様ノコトナラハ、大臣ヨリ殿下ヲ伺フマテモナキコトナリト云フ。金井後任ハ既ニ定マリ居ルヤト云フ。予大概心当リハアル模様ナリト云フ。金井宮内省ノ模様ヲ知ラサル人ニテハ困ルト云フ。予左様ノ人ニハ非サルヘシ。大臣ヨリ後任者ノコトモ殿下ニ申上ケ、殿下ハ自分（殿下）ハ其人ヲ知ラサルモ、大臣ガ適当ト思フ人ナラハ異議ナキ旨ヲ回答アリタル趣ナリト云フ。金井、小原
吉ノ様ナル人ニ来ラレテハ困ルト云フ。予、小原ハ宮内省ノ事ヲ熟知シ居ル人ニ非スヤト云フ。金井、夫レハ熟知シ居ルモ、知リ過キ居ル方ニテ自分（金井）ハ大ニ苦メラレタルコトアリト云フ。予、小原ノ様ナル人ニハ非サル模様ナリト云フ。
金井、宮附職員モ余リ長ク一所ニ居リテハ腐敗スルニ付、時ニ更代スル必要アリ。其事ハ今後トモ含ミ置呉ヨト云フ。予、予ハ右様ノ職責ナシ。宗秩寮ノ人ニ話シ置キタラハ宜シカラント云フ。金井、宗秩寮ノ人ニハ度々話シ居リタリト云フ。予、予ハ現在ノ宮附職員ノ制度ハ賛成セス。仮令ヒ宮内職員ナルモ、他ノ職務ト違ヒ、殿下方ノ気ニ悖リテハ奉職出来ス。実際ハ単純ナル家職ト異ナルコトナシ。家令家扶ノ制ヲ改メ、宮内職員トナシタルハ例ノ皇室一家ノ趣意ヨリ出テタルコトナルヘキモ、事実カ家ヲ為シ居ル以上ハ、何等ノ効モナキコトナリ。先日ノ久邇宮御殿ノ火災ニ付、宮務監督ノ責任問題起リタルモ、宮務監督ハ普通ノ職員ニ非サル故責任ナキコトヽナリタル由。自己ガ責任ヲ有セサル者ヲシテ監督ノ任ニ当ラシムルハ理由ナキコトニ非スヤ。此ノ如キ監督ヲ置クヨリモ、責任アル者ヲ置ク方適当ナルヘシト云フ。
金井仮令ヒ他ノ職ニ就クモ、殿下洋行ノコトモアリ、相変ラス心ヲ附ケ呉ヨト云フ。予先日殿下ニ謁シタルトキ、殿下ヨリ洋行費用ノ御話アリタルニ付、先日仙石、金井ト共ニ大体ノ協議ヲ為シタリ。未タ殿下ニ言上スル程ノコトニハ非サルモ、既往ノ事例ヲ標準トシテ時勢ノ変遷ニ因ル斟酌ヲ加フルガ相当ナルヘシトノ話合ヲ為シタル旨ヲ申上ケ置ケリ。又随行属官ノコトモ御話アリタル故、此事モ先日話ヲ為シ、精々適当ノ人ヲ捜カスコトニ致スコトヲ話ヒ〔シ〕合ヒ置タル旨ヲ言上シ置キタリト云フ。金井、梨本宮、久邇宮等ノ御洋行費用ノ調書ヲ示シタリ。予現在ノ大使、大使館附武官等ノ費用モ取調ヘ置タラハ幾分ノ参考ニハナルヘシト云フ。金井、夫等モ取調フル筈ナリト云フ。
○午後家ニ帰ル。内子褥ニ在リ、微シク寒サヲ覚フルニ付就褥セリ。体温ハ三十六度五分トナリ。温保シタラハ宜シカラント云フ。
一月十日ノ補足
午後四時頃有馬頼寧来リ、貧児救護計画ヲ告ケ、此事ハ北白川宮妃并ニ竹田宮大妃ノ後援ノ下ニ実行スル積リナル旨ヲ告ケ、予ノ意見ヲ問フ。予之ニ賛成ス。予又頼寧ガ従来、年多ノ狃人アリタルモ、之ト絶縁シタルコトヲ聞キ、大ニ喜ヒ居レリ。是迄予ハ知ラサル為□ヲ為シ居リタルモ、其実ハ之ヲ詳知シ居レリ。今後ハ決シテ此ノ如キコトヲ為スヘカラサルコトヲ戒ム。頼寧之ヲ諾ス。頼寧有馬秀雄ノ病状、之ニ対シ伯爵カ見舞金ヲ贈リタルコト、頼寧ノ取斗ニテ額田某ト云フ医師ヲシテ往診セシメタルコト等ヲ話シテ去ル。
【△上に戻る】
○一月十一日午前内子ノ体温三十七度トナル。即チ坂田稔ノ家ニ電話シ、坂田ノ来診ヲ求ム。午後坂田来診シ普通ノ感冒ナルヘク、静養セバ可ナラント云フ。晩間体温漸ク上リ、三十八度ヨリ三十九度二分ニ上ル。此日日曜ナルヲ以テ予自ラ看護ス。
○一月十二日午前坂田稔来リテ内子ヲ診ス。其病症ハ流行性感冒ナリト云フ。
○午後岡田乕野来ル。予之ニ面シ内子ノ病ヲ告ク。乕野コーヒー入砂糖ヲ一箱ヲ贈ル。
○一月十三日午後内子ノ体温三十七度三分ニ下ル。
○内子病ニ罹リタル後、一意看護婦ヲ雇ハント欲ス、得ス。婢徳ハ本月十四五日頃雇ヲ解クヘキ約ナリシモ、看護婦ヲ得サル為メ、昨十二日徳ヨリ内子ノ快起マテ看病スヘキ旨ヲ申出ツ。予ハ、昨日モ今日モ宮内省ニ出勤セス。内子ノ病ヲ看居ル際ナルヲ以テ徳ノ申出ニ従ヒ、之ヲシテ看病セシメント欲シ、予、安并ニ徳、君、元、トモニ感冒予防ノ注射ヲ為スコトニ決シ、坂田稔ノ家ニ就キ注射セシム。
然ルニ安ヨリ徳ハ体熱アル模様ナリ、之ヲ検シタラハ如何ト云フ。午後五時後之ヲ検ス。三十九度二分余アリ。乃チ直ニ褥ニ就カシム。内子、徳ハ自己（内子）ノ病ニ感染シタルモノナラントテ頻リニ之ヲ憂ヒタリ。夜徳ノ妹、徳ノ病ヲ知ラスシテ偶然来リ徳ヲ訪フ。予、妹ヲシテ其家ニ戻リ、其母ニ徳ノ病ヲ告ケ、母来リテ徳ノ病ヲ看ルヘキコトヲ告ケシム。夜徳ノ母来リテ、徳ノ病ヲ看ル。徳ノ体温益々上リ、四十度余ニ至ル。
○槙田五郎来ル。内子ノ病ヲ告ケ、玄関ニテ之ニ面ス。
一月十三日西野英男ニ嘱シ、予ノ代リ西園寺八郎妻ノ告別式ニ列セシム。
【△上に戻る】
○一月十四日午前内子体温三十九度前後ニテ咳嗽多シ。夜間ノ咳嗽ノ為メ眠ルコトヲ得ス。
○午前荒井賢太郎妻ヨリ電話ニテ、新年来無沙汰ニ打過キタルハ家内ニ流行性感冒患者多カリシ為メナリ。但シ是迄看護婦二人ヲ雇ヒ置タルモ、最早病人ハ快クナリタル故、今日一人ヲ返シタル位ナル故安心セヨト云フ。予内子ノ病状ヲ告ケ、看護婦ナクシテ困リ居レリ。今日返シタル看護婦ヲ雇フコトヲ得サルヤト云フ。荒井ノ妻、今日返シタル看護婦ハ主治医ヨリ坂谷芳郎ノ家ニ〔テ〕看護婦ヲ要ストテ之ヲ同家ニ遣ハシタリ。其看護婦ハ之ヲ貴家ニ遣ハスコトヲ得サルモ、精々心当リノ処ヲ捜カシ見ルヘシト云フ。
○夜内子ノ容体悪シ。
○一月十五日午前荒井賢太郎ノ妻ヨリ電話ニテ、看護婦ハ処々問合セタルモ一人モ之ヲ雇フコトヲ得ス。只今自家ニ雇ヒ居ル看護婦ハ、伎倆人格トモニ宜シカラサルモ、ナキニ勝ルヘシ。自家ニテハ是非看護婦ヲ要スル程ニ非サル故、之ヲ貴家ニ遣ハスコトヽナスヘシト云フ。予是非之ヲ遣ハシ呉ヨト云フ。
○午前多納栄一ヲ招キ、内子ノ病ヲ診セシム。多納、病症ハ流行性感冒トシテハ軽キ方ナリ。気管支ニ加答児アルモ、其部分ハ広カラス、温布ヲ以テ之ヲ温ムヘシト云ヒ、坂田稔ト薬方ヲ協議シテ去ル。
○午後荒井ノ妻ヨリ電話ニテ、只今看護婦ヲ貴家ニ遣ハシタリ。本人ハ甚タ不十分ニテ所詮気ニ入ラサルヘキモ、此際致方ナキ故辛抱シ呉ヨ。此方ニテモ尚精々適当ナルモノヲ捜カスヘシ。貴家ニテモ之ヲ捜カサレ度シ。本人カ此元ニ居ルトキハ右ノ如キ電話ヲ掛ケ難カリシ故、本人ヲ出シタル後念ノ為メ之ヲ告クト云フ。予之ヲ謝ス。
一月十五日午後西野英男ニ嘱シ、予ニ代リ芳川顕正ノ告別式ニ列セシム。
【△上に戻る】
○一月十六日朝来内子ノ容体悪シ。夜ニ入リ殊ニ甚シ。咳嗽頻発スルモ痰ナク、体温四十度以上ニ上ル。
○金井四郎電話ニテ東久邇宮ヨリ見舞ヲ賜ハルヘキガ、何ガ宜シキヤト云フ。予病人ハ何モ食シ難キ旨ヲ答フ。
○一月十七日午前二時前安ヲシテ坂田稔ノ家ニ行キ、之ヲ迎ヘシム。内子ノ容体益悪シキヲ以テナリ。二時後坂田来リ（カンフル）ヲ注射ス。坂田午前七時頃ニ至リタラハ、電話ニテ多納栄一ノ来診ヲ請メ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。
○午前二時後、鈞、隆ニ急電ヲ発シ、内子ノ病篤キヲ以テ直ニ上京スヘキ旨ヲ告ケ、又広津直人ニ内子ノ病篤キヲ電報ス。
○午前東久邇宮ヨリ西洋菓子一箱ヲ見舞トシテ贈ラル。
○午後西野英男来リ、内子ノ病ヲ問フ。之ニ東久邇宮邸ニ行キ、菓子ヲ贈ラレタルコトノ礼ヲ述フルコトヲ嘱ス。晩ニ西野復タ来リ、東久邇宮邸ニ行キ謝ヲ述ヘタルコトヲ報シ、且今日ハ妃殿下ノ仮着帯式ヲ挙ケタル趣ニテ、予ニ贈ラルヽ祝儀一封、乃今年一月初ニ予ニ贈ラルヘキ年玉一封ヲ西野ニ托セラレタリトテ之ヲ予ニ交ス。
○午後鈞ノ電報達シ、今夜京城ヲ発スル旨ヲ報ス。
○夜隆ノ電報達シ、明日午後八時後京ニ達スル旨ヲ報ス。
○午前八時後多納栄一来リ診ス。多納ガ前日来リタルトキ温布ニテ温補スヘキコト、治療ノ為メ血精〔清〕ヲ注射スヘキコトヲ坂田ニ告ク。坂田ハ十五日ニ第一回ノ注射ヲ為シ、今日ハ第二回ノ注射ヲ為スヘキ日ナルニ、多納ト坂田ノ協議ニテ病人カ温布ヲ嫌フナラハ、必シモ之ヲ用ヰス、注射モ未タ確定ノ効力ヲ認メラレ居ラサルヲ以テ、之ヲ止ムル方然ルヘシト〔ノ〕コトニ決セリ。
○午後荒井賢太郎来リ、内子ノ病ヲ問フ。予荒井ニ内子ノ病状ヲ告ケ、他ノ医師ヲシテ診セシムルコトヲ謀ル。荒井自分ノ家ノ病人ヲ治療シ居ル向野某ト云フ者アリ。之ヲシテ診察セシムルコトヲ謀リ見ルヘシト云フ。荒井又看護婦一人ニテハ不足ナル故、自己ノ懇意ナル看護婦ガ青山ニ居ルニ付、是ヨリ其家ニ到リ相談シ見ルヘシト云フ。予之ヲ依頼ス。
○午後七時頃荒井賢太郎電話ニテ向野某ニ診察ノコトヲ相談シタル処、只今帝国ホテルニ在リ、是ヨリ直ニ往診スヘシト云フ。依テ之ヲ報スト云フ。予之ヲ謝シ、安ヲシテ坂田稔ノ家ニ行キ、向野カ来診スルコトヲ告ケ、之ニ立会フコトヲ請メシム。坂田不快ニテ既ニ寝ニ就キ居レリ。今夜ハ往キ難シ、向野ノ意見ハ後ニ之ヲ聴クヘシト云フ。
○午後九時頃向野某来リ診ス。既ニ診シ終ハリ、予之ヲ応接室ニ延キ病候ヲ問フ。向野必シモ危険ト云フ程度ニ非ス。是非トモ温布ヲ以テ胸背部ヲ温ムル必要アリト云フ。予明日ハ大谷某（周庵ノ子）ヲ招キ、其意見ニ依リ血精〔清〕注射ヲ為スコトニスヘキ旨主治医ハ云ヒ居レリト云フ。向野夫レハ結構ナリ、是非其事ヲ望ムト云ヘリ。向野既ニ去ル。予看護婦有坂某ニ温布ヲ以テ胸背部ヲ温ムル方法ヲ指示ス。
○午前八時後広津直人来リ、内子ノ病ヲ問フ。午後直人本郷ニ行キ、和郎ニ内子ノ病ヲ報シ、午後直人復タ来リ宿ス。夜和郎来リ、少時ニシテ帰リ去ル。
○午後坂田稔カ来診シタルトキ、今朝多納栄一ト協議シタル療法前日ノ意見ト相違スルハ最早活路ナシト思フ為メニ非スヤト云フ。坂田左ニ非ス。出来ル限リ手段ヲ尽ク〔シ〕見ル積リニテ、明日大谷某ヲ招キ、其意見ニテ血精〔清〕注射テモ施行シ度ト云フ。予之ヲ依頼ス。
○午後荒井賢太郎ヨリ電話ニテ青山ノ看護婦ハ他家ニ行キ居リタル故、之ニ書状ヲ贈リ、適当ノ看護婦ヲ遣ハスヘキコトヲ申遣ハシ置タリト云フ。予之ヲ謝ス。
○早川政吉、根岸栄助来リテ内子ノ病ヲ問フ。
【△上に戻る】
○一月十八日午前看護婦ヲシテ温布ヲ以テ胸背ヲ温ムル具ヲ作ラシム既ニ成ル内子ヲシテ之ヲ用サシム内子先日ヨリ幾分工合宜シト云フ
○午前坂田稔電話ニテ大谷某ニ来事ヲ交渉シタルモ同人ハ北里伝染病研究所ニテ血精〔清〕ノ製造ニ従事シ居リ昼夜寸暇ナキ為メ同僚ト申合セ研究所々員ノ依頼ノ外一切往診ヲ謝絶シ居ル故依頼ニ応シ難シ自分（大谷）ノ父ナラハ依頼ニ応スヘシトノコトナルカ如何スヘキヤト云フ予大谷周庵ハ先年妻ノ病ヲ診シタルコトアリ其時ノ誤診ノ為メ妻ハ本人ヲ信セサル故周庵ヲ招クコトハ見合セ度ト云フ坂田之ヲ諾ス
○午後大谷競太来リテ西野英男ヲ訪フ西野既ニ在ラス大谷遂ニ内子ノ病候ヲ問フ
○午後八時前安ヲシテ東京駅ニ行キ隆ヲ迎ヘシム午後九時頃隆来ル宇佐美富五郎及印刷屋ノ忰モ往テ隆ヲ迎ヘタル趣ナリ
○鈞釜山発ノ電報達ス京城ヨリノ汽車延着シ今朝釜山発ノ汽船ニ乗ルコトヲ得ス今日ハ釜山ニ留リ今夜発ノ汽船高麗丸ニ乗ルコトヲ報スルナリ直ニ下ノ関駅気附ケニテ至急電報ヲ発スルコトヲ安ニ命ス其電報ハ内子ノ病候折合ヒタリ安心スヘキ旨ヲ報スルナリ此ノ電報ハ安カ東京駅ニ行キ隆ヲ迎ヘタルトキ同所ニテ発シタリ
○朝来内子ノ病候稍宜シ
○午後六時頃矢野茂ノ親族某電話ニテ本月十五日茂ノ長女浪子流行性感冒ニテ死去シ今日茂ノ妻亦同症ニテ死去シタルコトヲ報ス予自家ニモ病人アリ往テ弔シ難キ旨ヲ答フ
○午前十一時頃婢徳病快キヲ以テ其家ニ帰ル
○金井四郎来リテ内子ノ病ヲ問ヒ金井及萩原淳永山千香ト共同ニテ果物一箱ヲ贈ル
【△上に戻る】
○一月十九日内子ノ病候漸ク快シ午後六時頃模範看護婦会ヨリ斎藤キクナル看護婦ヲ遣ハス坂田稔ヨリ該会ニ看護婦ヲ申遣ハシ居リタル処今日ニ至リ漸ク一人ヲ遣ハシタルナリ
○午後荒井賢太郎電話ニテ青山ノ看護婦ヨリ電話ニテ明日午前九時マテハ適当ナル看護婦一人ヲ遣ハスヘキ旨申来リタルコトヲ報ス
○今日頃青山操来リテ内子ノ病ヲ問フ
○一月二十日午前荒井賢太郎ノ周旋ニテ今朝看護婦一人来ル筈ニ付内子ハ有坂某ヲ返スコトヲ望ム依テ隆ヲシテ車夫ノ家杉野方ニ行キ其ノ電話ヲ借リ荒井賢太郎ニ電話シ有坂ヲ返スコトニ付其ノ方法ヲ謀ラシム隆帰リ来リ杉野ノ家ノ電話通セス杉野ヨリ某家ニ相談シテ其電話ヲ借リ荒井ニ交渉シタル処荒井ハ之ヲ返スコトハ差支ナシ有坂ノ帰途自分（荒井）ノ家ニ寄ルコトヲ本人ニ申聞ケ呉ヨト云ヒタルコトヲ報ス此時予ヨリ隆ニ有坂ニ対スル慰労金額ニ付荒井ノ意見ヲ問ハシム隆荒井ニテハ有坂ヲ十日間使役シ十円ヲ遣ハシ置タリ貴家ニテハ六日ナラハ六円ニテ可ナルヘシト云ヒタル旨ヲ報ス少時ノ後荒井更ニ電話シ有坂ハ徹夜看護シタルコトアル趣ニ付七円ヲ遣ハス方宜シカルヘキ旨ヲ告ケ来ル然ルニ青山ノ看護婦カ遣ハスヘキ筈ノ看護婦カ来ラサル為メ有坂ヲ返スコトヲ止メタリ
○午後零時後鈞帰リ来ル安ヲシテ之ヲ東京駅ニ迎ヘシム宇佐美富五郎及印刷屋ノ忰某モ亦往テ迎ヘタル趣ナリ
○午後伊夫伎準一来リテ内子ノ病ヲ問フ
【△上に戻る】
○一月二十一日午前荒井賢太郎電話ニテ青山ノ看護婦カ約シ居リタル看護婦ハ約束ノ通リ昨日午前貴家ニ行ク積リニテ結髪ヲ為シ既ニ出掛ケントスル際発熱シタル故終ニ行キ難ク其ノ為メ代人ヲ捜カシタル処今日午後八時マテ産婆ノ試験ヲ受クル某ト云フ者アリ此人ハ青山ノ看護婦ハ知リ居ル人ニ非サルモ此人ナラハ午後九時マテニハ貴家ニ行クコトヲ得ル旨青山ノ看護婦ヨリ只今使ヲ遣ハシ昨日違約シタル事情ヲ告ケ且産婆試験ヲ受ケ居ル者ヲ雇フヤ否ヲ問ヒ来〔ラ〕シム只今使ヲ待タセ置タリ如何スルヤト云フ予有坂ハ気ニ入ラサル故返ス積リナリシモ同人ヲ引続キ使役スルコトヽナスヘキニ付青山ノ方ハ断ハリ呉度旨ヲ答フ
○臨時法制審議会主査委員会休会ス
○一月廿二日内子病候漸ク快シ
○午前梶田文太郎来リ先日来感冒ニ罹リ引篭リ居リタルモ昨日ヨリ出勤シタル旨ヲ告ケ面会セスシテ去ル
○午前十時頃金井四郎電話ニテ内子ノ病候ヲ問フ
【△上に戻る】
○一月廿三日
○予本月十日内子ガ感冒ニ罹リタル為メ十一日ハ日曜ニテ家ニ居リ十二日以後今日マテ宮内省ニ出勤セス内子ノ病稍々快キヲ以テ今日午前十時頃出勤シ石原健三ニ面ス石原君ノ宮務監督ヲ解クコトハ内議決定シ居ルモ君ノ出勤ヲ待チ之ヲ決行セント思ヒ待チ居リタリ最早之ヲ解キテ差支ナキヤト云フ予差支ナキ旨ヲ答フ予又先日決定シタル皇族ノ降下ニ関スル内規案ノ不可ナルコトヲ告ク石原今一応平沼ニ謀リ呉ヨト云フ予之ヲ諾シ平沼ヲ大審院ニ訪ヒ之ヲ謀ル平沼大体予ノ意見ニ同意シ伊東巳代治ニ相談シタル上決定スヘシト云フ予正ニ平沼ト話ス書記某留守宅ヨリ電話スル旨ヲ告ク予電話セント欲ス電話線接続ヲ絶ツ之ヲ接続セシメント欲スルモ急辨セス乃チ宮内省ノ自動車ヲ走ラセ直ニ家ニ帰ル家人模範看護婦会ヨリ来リ居ル看護婦斎藤キク其姪急病ノ為メ急ニ暇ヲ乞フニ付之ニ対シテ与フヘキ慰労金ハ幾許ニテ可ナルヤ決シ難キニ付之ヲ問フ為電話シタルナリト云フ
○午後二時後ヨリ浅草統一閣ニ行キ矢野茂ノ妻及其長女ノ葬ニ会ス柳田直平伊藤景直永島巌奥宮正治等ニ遇フ柳田ニ其養子国男ハ宮内省勅任参事官ニ任スル希望ナキヤ君ヨリ本人ノ意思ヲ問ヒ呉度旨ヲ談ス柳田之ヲ諾ス
○午後六時頃東京朝日新聞社員某電話ニテ来訪セント欲ス差支ナキヤヲ問フ予家ニ病人アリ来訪ハ拒ム旨ヲ答ヘシム某予ト電話センコトヲ請フ予之ト電話ス某曰ク聞ク所ニ依レハ貴官ハ朝鮮李堈 公ノ家務監督タルコトニ内定シタリト云フカ然ルヤト予之ヲ知ラスト云フ某東久邇宮宮務監督ハ免セラレタリヤト云フ予ハ今日免セラレタリト云フ
一月二十三日午後看護婦斎藤キク帰リ去ル午後九時頃模範看護婦会ヨリキクノ代トシテ川辺某ヲ遣ハス
○午後五時頃宮内省ヨリ東久邇宮宮務監督被免ノ辞令書ヲ送リ来ル
【△上に戻る】
○一月二十四日今日ノ東京朝日新聞ニ予カ昨日某ト電話シタル事実ヲ掲ケ予カ家務監督タルコトハ自身ハ知ラサル為□ヲ為シ居ル旨ヲ記シ居リタリ
○午前金井四郎ヨリ電話ニテ内子ノ病気見舞トシテ今日東久邇宮ヨリ酢食ヲ贈ラルヽ旨ヲ報ス
○午前十一時後東久邇宮邸ヨリ酢食ヲ送リ来ル酢食ハ固形ノ飯櫃ニ入レアリタリ
○此日頃午前宮内省ニ出勤スル途次坂田稔ノ家ニ過キリ其長女ノ馬島某ニ嫁シタル者ノ死ヲ弔ス坂田熱アリ正ニ臥シ居ルトテ其妻予ニ面シテ謝ヲ述フ
○一月二十五日午後青山斎場ニ行キ権藤震二ノ告別式ニ列ス
○一月二十六日
○一月二十七日午前七時後隆家ヲ辞シ郷ニ帰ル内子ノ病復タ関心ノ事ナキヲ以テナリ
【△上に戻る】
○一月二十八日夜隆ノ電信達ス其久留米ニ達シタルヲ報スルナリ
○午後二時ヨリ司法大臣官舎ニ行キ臨時法制審議会主査委員会ニ列ス
○横田国臣予ヲ別室ニ招キ枢密顧問官タル望ナキヤト云フ予必シモ望ナキニ非スト云フ横田清浦奎吾ハ人ヨリ勧メタルコトハ決シテ従ハス何事モ自ラ処置シタル様ニ為スコトヲ好ム癖アリ君カ其考ナラハ一ト工夫致シ見ルヘシト云フ
○伏見宮有栖川宮東伏見宮久邇宮ヨリ各使ヲ遣ハシ予カ宮務監督在職中ノ慰労トシテ酒肴料金十二円五十銭宛ヲ贈ラル
○一月二十九日午後二時頃退省有栖川宮東伏見宮久邇宮伏見宮ノ邸ニ参シ東久邇宮宮務監督ヲ免セラレタルコトニ付謝ヲ陳ヘ又各宮ヨリ慰労金ヲ贈ラレタルコトニ付謝ヲ陳フル為メ帳簿ニ其旨ヲ書セリ
【△上に戻る】
○一月三十日午後六時頃伊藤巳代治ヨリ電話ニテ皇族ノ降下ニ関スル内規案ニ付君ノ修正意見ハ平沼（騏一郎）ヨリ之ヲ聞キ岡野トモ（敬次郎）協議シ兄弟ヲシテ死者ニ代ラシムルコト附則ノ世数ヲ修正スル事ニ付テハ修正意見ニ同意スルコトニ決シタリ但第三条第四条ノ三世ヲ四世ト修正スルコトハ同意シ難シ実ハ栗原広太ヲシテ理由書ヲ草セシメ君ニ其添削ヲ乞フ積リナリシモ栗原病アリ之ヲシテ転地療養ヲ為サシメタルニ因リ理由書ノ起草ヲ君ニ依頼シ度シ理由書ハ緒言ニ於テ大体ノ趣旨ヲ述ヘ逐条ニ説明ヲ加フルコトニ致シ度ト云フ予理由書ハ之ヲ草スヘキモ予ハ未タ確定条文ヲ有セスト云フ伊東然ラハ直ニ之ヲ送ラシムルコトヽ為ススヘシト云フ
○山階宮朝香宮竹田宮ヨリ各使ヲ遣ハシ予ガ宮務監督在職中ノ慰労トシテ酒肴料十二円五十銭ヲ贈ラル
○午後二時頃退省山階宮邸ニ参シ東久邇宮宮務監督ヲ免セラレタルコト及ヒ慰労金ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル為メ帳簿ニ其旨ヲ書セリ
○一月三十一日午前宮内省ニテ石原健三ニ面会シ昨日伊東巳代治ヨリ皇族ノ降下ニ関スル内規案ニ付理由書ヲ作ルヘキ旨ヲ嘱シタルコトヲ告ク石原内規ナル故理由書ハ入用ナカルヘク理由書ノ為メニ却テ議論ヲ惹起スコトアルヘシト云フ予或ハ然ラント云フ
○午後平沼騏一郎使ヲ遣ハシ皇族ノ降下ニ関スル内規案第三条及附則ノ修正案ヲ致ス昨日伊東巳代治カ予ニ約シタルモノナリ
○北白川宮ヨリ使ヲ遣ハシ予カ宮務監督在職中ノ慰労トシテ金十二円五十銭ヲ贈ラル
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