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最終更新：2004年12月13日
作成者：永井 和、冨永 望、川嵜 陽
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、原文にはほとんど句読点がないが、読者の便宜を考え、適宜これをおぎなった。さらに、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、JIS第１、２水準にない漢字の表示は、e漢字プロジェクトe-漢字の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
本翻刻は、日本学術振興会科学研究費補助金による事業である。基盤研究（B)（２）課題番号：16320086
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○二月一日午後竹田宮北白川宮朝香宮邸ニ参シ、東久邇宮宮務監督ヲ免セラレタルコ〔ト〕及ヒ各宮ヨリ慰労金ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル為メ、帳簿ニ其旨ヲ書セリ。
帰途東久邇宮邸ニ過キリ、木寺某ニ面シ、予ガ宮務監督ヲ免セラレタルコト、宮務監督在職中ノ恩遇セラレタルコト、内子ノ病気見舞トシテ菓子及酢飯ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル旨ヲ王殿下并ニ妃殿下ニ陳スルコトヲ嘱ス。内子ノ感冒未タ癒ヘサルヲ以テ、敢テ殿下ニ謁セス。之ヲ木寺ニ嘱シタルナリ。
東久邇宮邸ヲ去リ、金井四郎ノ家ニ過キリ、金井カ先日内子ノ病ヲ問ヒ且見舞トシテ萩原淳及永山千香ト倶ニ菓物ヲ贈リタルコトヲ謝ス。金井夫妻トモニ在ラス。其雇人ニ意ヲ致スコトヲ嘱ス。
○二月二日梨本宮ヨリ使ヲ遣ハシ、予カ宮務監督在職中ノ慰労トシテ金十二円五十銭ヲ贈ラル。
○午前石原健三ト共ニ波多野敬直ニ逢ヒ、伊東巳代治ハ皇族ノ降下ニ関スル内規案ノ理由書ヲ作ルヘシト云ヒ、石原ハ其必要ナカルヘシト云フコトヲ話ス。波多野大体ノ理由書ハ之ヲ作ル方宜シカルヘシ。各条ノ理由書ハ必要ナカルヘシト云フ。
○二月三日華頂宮ヨリ使ヲ遣ハシ、予ガ宮務監督在職中ノ慰労トシテ金十二円五十銭ヲ贈ラル。
○午前九時後ヨリ梨本宮邸ニ参シ、東久邇宮宮務監督ヲ免セラレタルコト及慰労金ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル為メ、帳簿ニ其旨ヲ書ス。直ニ宮内省ニ出勤ス。
○二月四日午後二時ヨリ司法大臣官舎ニ行キ、臨時法制審議会主査委員会ニ列ス。
○午前九時後ヨリ華頂宮邸ニ参シ、東久邇宮々務監督ヲ免セラレタルコト及慰労金ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル為、帳簿ニ其旨ヲ書シ、直ニ宮内省ニ出勤ス。
○司法大臣官舎ニテ平沼騏一郎ニ逢ヒ、先日平沼ガ送付シタル皇族ノ降下ニ関スル内規案修正案ヲ受領シタルコトヲ告ケ、且第三条ノ修正ハ不可ナルコトヲ論ス。平沼、宮内大臣カ実際必要トスルナラハ君ノ意見通リ修正スルモ何人モ異論ナカルヘシ。宮内大臣ト協議セハ如何ト云フ。
○二月五日
○二月六日皇族降下ニ関スル内規案ノ理由書ヲ草シ終ハリ、武某ヲシテ浄写セシメ、之ヲ波多野敬直ニ示ス。又同時ニ予カ内規案ニ対スル修正意見書ヲ波多野ニ示ス。
○二月七日午前波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ、理由書ヲ観タルヤヲ問フ。波多野之ヲ観タリト云フ。予、理由書ハ伊東巳代治ノ嘱ニ因リ起草シタルモノナリ。之ヲ伊東ニ交スヘキ旨ヲ告ク。波多野謄本ヲ作ルコトヲ嘱ス。乃チ武某ヲシテ謄本ヲ作ラシメ、原案ハ之ヲ波多野ニ返シ、謄本ハ之ヲ伊東ニ送ルコトヲ嘱ス。又同時ニ予ノ修正意見書ノ謄本ヲ作リ、之ヲ伊東ニ致サシム。
此日予、波多野ニ内規案第三条修正ノ必要ナル理由ヲ説キ、平沼ハ宮内大臣カ実際ノ必要ニ因リ修正ヲ望ムナラハ、誰モ異論ナカルヘシト云ヒタルコトヲ話ス。波多野予ノ意見ノ通リ修正スヘシト云フ。
今日ハ土曜ニテ、予ハ土肥慶蔵ニ就キ顔面ノ黒子ヲ療セント欲スルヲ以テ謄本ノ成ルヲ待タス、退省セリ。
○午後一時頃土肥慶蔵ノ家ニ行ク。其家人土肥ハ今日鎌倉ヨリ来ル患者ヲ療スルモ、未タ来ラスト云フ。二時後ニ至リ土肥来リ。予ノ黒子ヲ診シ大ナ〔ル〕者ハ（ラシユーム）ニテ焼キ、小ナル者ハ薬ニテ焼クヘシト云フ。予之ヲ嘱ス。（ラシユーム）ヲ貼スルコト三十分。来週ノ木曜日ニ来ルヘシト云フ。
○二月八日
○二月九日
○二月十日宮内省ニテ紀元節ノ酒肴料三円ヲ受ク。今年ハ御宴会ナキヲ以テナリ。
○二月十一日紀元節。午前八時頃伊東巳代治ヨリ電話ニテ、先日送付セラレタル皇族ノ降下ニ関スル理由書及修正意見書ハ之ヲ熟覧セリ。修正ニ付テハ岡野敬次郎、平沼騏一郎ニ協議シ、二人ハ修正ニ反対スル意見ナルモ、是ハ学理上ノ問題ニ非ス。先日宮内大臣ヨリ実際ノ取扱ニ於テハ修正意見ノ通リ修正スル方便宜ナリトノ話アリ。依テ岡野、平沼ニ対シテハ自分（伊東）ニ任カスルコトヲ相談シ置キタリ。依テ貴見ノ通リ修正スルコトニ致スヘキ処、理由書ハ原案ニ基キ起草セラレ居ル故、第三条第四条ノ理由書ヲ改メ、修正ニ適スル様セラレ度。就テハ原案ヲ貴家ニ持タセ届クヘシト云フ。予今日午前ハ紀元節ノ祭典ニ参列セサルヘカラス。午後ニ貴家ヲ訪ヒ詳細ニ話ヲ聴クヘシト云フ。伊東之ヲ望ム旨ヲ答フ。
○午前八時三十分ヨリ賢所前参集所ニ行キ、十時後皇霊殿ニ拝シ、十一時前会計審査局ニ過リ、判任官以下ノ賀ヲ受ケ、書面ヲ以テ其旨ヲ宮内大臣ニ申ス。
○午後零時後ヨリ往テ伊東巳代〔治〕ヲ訪フ。伊東今朝電話シタル趣意ヲ告ク。予之ヲ諾ス。予又明後十三日頃此事ニ付協議会ヲ開ク様ノコトヲ宮内大臣ヨリ聞タルカ、果シテ然ルヤト云フ。伊東未タ決定シ居ラスト云フ。予十三日ニハ差支アリ、成ルヘクハ他ノ日ニ致シ度ト云フ。伊東十四日ハ如何ト云フ。予差支ナキ旨ヲ答フ。伊東然ラハ其積リニ致シ、理由書ノ改案ハ成ルヘク速ニ致シ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。
○午後四時後鈞京ヲ発シ、京城ニ帰ル。内子病快ク、鈞カ朝鮮銀行ノ用務亦終リタルヲ以テナリ。安及宇佐美富五郎之ヲ東京駅ニ送ル。
○二月十二日午前皇族ノ降下ニ関スル内規案ノ理由書修正案ヲ波多野敬直ニ示シ、遂ニ杉栄三郎ヲ調査課ニ訪ヒ、之ヲ伊東巳代治ニ送致スルコトヲ嘱セントス。会々伊東ヨリ杉ニ電話シ、速ニ予ヨリ修正案ヲ受領シ、之ヲ持シテ来訪スヘキ旨ヲ電話シ来ル。予乃チ原案ノ傍ニ修正案ヲ朱書シタルモノヲ杉ニ交シ、之ヲ伊東ニ致サシム。朱書ノモノヲ致スハ伊東ノ意ニ従ヒタルナリ。
二月十二日午後一時後ヨリ青山斎場ニ行キ、大屋権平妻ノ葬ニ会ス。三時前ヨリ土肥慶蔵ニ就キ、面部ノ黒子ヲ療ス。療法旧ノ如シ。但（ラジユーム）ヲ貼スルコト一時間ナリ。
○二月十三日午後二時前ヨリ東久邇宮邸ニ行ク。王殿下未タ陸軍士官学校ヨリ帰ラレス。金井四郎ト話スルコト少時殿下帰リ来ラル。乃チ之ニ謁シ、予カ宮務監督在職中厚遇セラレタルコト、内子ノ病ニ付両度見舞品ヲ賜ヒタルコトヲ新年伺候及喪事ノ伺候ヲ怠リタルコトニ付挨拶ヲ述フ。 殿下及ヒ妃殿下ヨリ在職中ノ慰労トシテ紋附銀製花瓶一個羽二重一疋金二百円ヲ贈ラル。花瓶ハ未タ出来サルヲ以テ目録ニテ致サレ、羽二重ハ妃殿下ヨリ贈ラレタルモノナリ。又一月分ノ宮務監督手当トシテ金五十円ヲ贈ラレタリ。
予正ニ両殿下ト話ス。会々波多野敬直来リ候ス。予乃チ避ケテ金井ノ事務室ニ入ル。殿下、波多野ト談シタル結果、予（殿下）カ仏国滞在年限ノ事ニ関シ尚ホ談話ヲ要スルコトアルヤモ斗リ難キニ付、波多野ガ帰リ去ルマテ待チ呉ヨト云ハレタリ。予之ヲ諾ス。待ツコト三十分許、波多野始メテ帰リ去ル。
予金井ヲシテ殿下ヨリ予ニ談セラルヽコトアルヤ否ヲ問ハシム。殿下金井ト共ニ来ルヘキ旨ヲ命セラル。
乃チ往テ殿下、予（殿下）洋行ニ付テハ初メ仏国ニ滞在スルコト二年、英国ニ航シ且諸国ヲ巡遊スル為メ一年ヲ要シ、通シテ三年ヲ要スルコトハ波多野ニ謀リ、波多野之ニ賛成シ、井上勝之助、石原健三及ヒ倉富ニモ之ヲ告ケ、孰レモ同意シタルニ付、両陛下ニモ其旨ヲ奏シ、且参謀総長、陸軍大臣ニモ其旨ヲ告ケ置タル処、今日ニ至リ波多野ヨリ三年ハ長キニ過ク、先ツ二年間仏国滞在ノ願書ヲ出シ、二年後ニ至リ更ニ英国其他ニ行ク為メ一年間滞欧ノ願書ヲ出スヘキ旨ヲ談シ、予（殿下）ハ甚タ迷惑セリ。然レトモ二年後ニ至リ、追願スレハ宮内当局者ニ更迭アルモ相違ナク勅許アル様保証スル旨申述ヘタル故、其事ニ決定セリ。此事ハ倉富モ金井モ之ヲ承知シ、他日ノ保証ヲ為スヘシト云ハレタリ。予之ヲ承知スル旨ヲ答申シテ退ク。
○帰途鍋島桂次郎ノ家ニ過キリ、其妻ノ告別式ニ会ス。四時後家ニ帰ル。
○鍋島ノ告別式ハ午後四時マテナリ。予ガ東久邇宮邸ヲ出ツルトキ既ニ四時ニ垂ントス。故ニ早卒辞シ去リ。永山千香ニ在職中ノ挨拶ヲ伝フルコトヲ忘レタルヲ以テ、帰宅後宮邸ニ電話シ、永山ヘ挨拶ヲ伝フルコトヲ嘱ス。
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