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最終更新：2005年4月4日
作成者：永井 和、冨永 望、川嵜 陽
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、原文にはほとんど句読点がないが、読者の便宜を考え、適宜これをおぎなった。さらに、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、JIS第１、２水準にない一部の漢字の表示に、e漢字プロジェクトe-漢字の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
本翻刻は、日本学術振興会科学研究費補助金による事業である。基盤研究（B)（２）課題番号：16320086
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○三月二十二日午前、一昨日波多野敬直ガ嘱シタル学習院卒業式ノトキ、波多野ガ卒業生ニ告クル文案ヲ添削ス。
○午後零時後午前ニ添削シタル文案及ヒ原案ヲ波多野ニ交ス。波多野之ヲ謝ス。
波多野陛下ノ御容体書ヲ示ス。明日小田原ヨリ熱海ニ行キ、之ヲ山県及松方ニ示ス積リナリト云フ。予、山県ハ上京シタル趣新聞ニ記載シ居リタルカ、当分滞京スルヤト云フ。波多野、自分（波多野）モ新聞ノ記事ニ依リ、今朝之ヲ訪問シタル処、新聞ハ誤リニテ上京シ居ラスト云フ。
○午後、渡辺暢ヲ法学博士トナスコトヲ賛成スルコトヲ請フ書状、十四通ヲ作ル。
○午前九時三十分ヨリ麻布ノ井上勝之助ノ家ニ到リ、其養母武子カ昨日死シタルヲ弔ス。十一時頃宮内省ニ出勤ス。
○午後西野英男ニ嘱シ、井上勝之助ニ香料一円五十銭ヲ贈ル。
○午後七時頃久徳宗昭来ル。家鴨飼養ノ計画ヲ立テタルコトヲ述ヘ、金ヲ借ルコトヲ請フ。之ヲ拒絶ス。話スルコト四十分許、雨フル。久徳傘ヲ借リテ去ル。
○三月二十三日午前十時後、石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒ、波多野敬直カ今日小田原ニ行キタルヤヲ問フ。石原行キタル旨ヲ答ヘ、且石原ハ昨日葉山ヨリ帰リ、暫時波多野ニ面会シタルコトヲ談ス。
会々南部光臣来リ、梨本宮方子女王ガ王世子ニ嫁セラルヽトキ、特旨ニ依リ女王ノ称号ヲ有セシメラルヽ途ナキヤト云フ。石原ナシト云フ。南部王籍ニ嫁セラルヽモノトスレハ、皇室典範ノ規定ニ依ルコトヲ得ルニ非スヤト云フ。石原臣籍ニ嫁スルモノト決スルコトハ帝室制度審議会ニテ承知セサルヘシト云フ。予最早臣籍ニ嫁スルモノト決スルヨリ外致方ナシト云フ。石原尚ホ承知セス。予ハ其侭ニテ去リタリ。
此時予石原ニ対シ村雲尼公一昨日遷化セラレタル趣ナルガ、其兄弟又ハ叔姪タル皇族ニ伺候スル必要アルヘキヤト云フ。石原必要ナカルヘシト云ヒ既ニシテ又伏見宮及閑院宮丈位ニ伺候シ置ク方可ナランカ、東伏見宮モ尼公ノ弟ナルモ、只今殿下ハ東京ニ在ラレサル故、伺候スルニ及ハサルヘシト云フ。尼公ハ此等ノ方ノ姉ナルモ、臣籍ニ入リ居ラルヽヲ以テ服喪令ノ規定ニ依リ、殿下方ハ喪ニハ服セラレサルナリ。故ニ伺候ノ要否モ之ヨリ生スル問題ナリ。伏見宮モ只今ハ在京セラレサルモ、是ハ宗家ナル故、伺候スル方可ナルヘシトノ意ナリ。
○午後三時三十分ヨリ退省途、閑院宮及伏見宮ニ過キリ、帳簿ニ署名シテ御機嫌ヲ候ス。村雲尼公ノ逝カレタルヲ以テナリ。
○午前金井四郎来リ、東久邇宮殿下ノ洋行ニ関スル費用ハ随行者ノ分ヲ併セ二十九万円許ヲ要求シ置タルカ、内蔵寮ニテ其内七万円許ヲ削減スル意見ヲ立テ、宗秩寮ノ意見ヲ問ヒ合セ中ナル由ニ聞ケリ。七万円ノ削減ハ余リ多キニ過キル様ナリ。今後ノ都合ニテハ或ハ援助ヲ求ムルコトモアルヘキニ付含ミ置キ呉ヨト云フ。
○今日渡辺暢ヲ法学博士トナスコトニ賛成スルコトヲ依頼スル為メ、書状ヲ井上正一、土方寧、河村謙三郎、田部芳、岡田朝太郎、岡松参太郎、春木一郎、中川孝太郎、小河滋次郎、原嘉道、横田秀雄、花房直三郎、古賀廉造、蜷川新、泉二新熊、松岡義正、長島鷲太郎、馬場愿治、山内確三郎、谷田三郎、山岡万之助ニ郵送シ、又下婢ヲシテ同一ノ書状ヲ隣家池田寅二郎ニ致サシム。本月十八日江木衷ニハ左ノ詩ヲ贈リ置キタリ。（欲渡未能渡、低徊□海辺、此挙期通暢、請君恵一□）且（請見前三句脚及第四句第二字）ト附記シ置ケリ。
○此朝宇佐美富五郎来リ、先日東洋拓殖会社第一新株一株ニ付第四回ノ払込ヲ為サレタル株券ニ会社ノ捺印ヲ受ケ来ルヘシト云フ。予乃チ株券及払込金額収証書ヲ宇佐美ニ付シテ之ヲ嘱ス。
予ガ未タ退省セサルトキ宇佐美帰リ来リ、会社ハ事務多忙ノ為メ今日ハ捺印シ難ク、今日株券ヲ預ケ置ケハ明日ハ捺印シタル上之ヲ渡スヘク、今日株券ヲ持チ帰リ明日更ニ之ヲ持チ来レハ明後日ニ至ラサレハ捺印シ難シト云フニ付、預リ証書ヲ取リ、株券ハ之ヲ会社ニ預ケ来リタル旨ヲ報シタル由。予ガ家ニ帰リタル後安ヨリ之ヲ報告セリ。
○三月二十四日午前出勤前渡辺暢ヲ法学博士トナスコトニ賛成スルコトヲ依頼スル為メ、更ニ書状ヲ戸水寛人、清水澄、河津暹、小山温、牧野菊之助、岡実ニ郵送ス。
○午前十一時後西野英男ニ嘱シ、明日井上勝之助ノ養母ノ告別式ノ時自動車ヲ借ルコトヲ調度寮ニ交渉セシム。寮員只今ハ同乗ノ人ナシ。退省ノ時刻頃マテニ成否ヲ答フヘシト云ヒタル由ナリ。
○午前九時後内子昨二十三日鎌倉発ノ端書達ス。予返書ヲ作ル暇ナシ。安ヲシテ端書ヲ出シ達ヲ報セシム。
○午後一時ヨリ石原健三、山崎四男六、南部光臣ト倶ニ宮内大臣官房ノ隣室ニテ世伝御料解除ニ関スル案ニ付内議ス。五時前議了ス。
○午前十一時頃馬場鍈一ヨリ電話ニテ、堤一馬ヲ台湾総督府ノ統計官ニ任スル事ニ付法制局ニテ資格ノ銓衡ヲ為シタルカ、本人ガ学歴ナシトノコトニ付異論アリタルモ、結局銓衡通過シタル旨ヲ報ス。予本年一二月頃馬場鍈一ニ通過スル様尽力致シ呉度旨、依頼シ置タルヲ以テナリ。
○宇佐美富五郎来リ、東洋拓殖会社ノ株券ヲ致シタル由、予ガ家ニ帰リタル後安ヨリ之ヲ報ス。株券ハ昨日宇佐美カ会社ニ預ケ捺印ヲ請求シ置タルモノナリ。
○三月二十五日午前十時後ヨリ市来政方、上野季三郎、吉田平吾ト倶ニ宮内省ノ自動車ニ乗リ、井上勝之助ノ家ニ行キ、其養母ノ告別式ニ列シ焼香ス。十一時後宮内省ニ返ル。
○午後二時ヨリ土肥慶蔵ノ家ニ行キ黒子ヲ療ス。
○三月二十六日朝微シク悪寒ヲ感ス。然レトモ宮内省ニ出勤ス。悪寒止マス。午後零時後留守宅ニ電話シ、迎ヒノ人力車ヲ遣ハスニ及ハサル旨ヲ告ケシム。
給仕ヲシテ人力車ヲ雇ハシム。給仕、人力車ナキ旨ヲ報ス。西野英男調度寮ニ交渉シ、予カ為メニ自動車ヲ備ヘシム。乃チ之ニ乗リ直ニ家ニ帰ル。時ニ一時後ナリ。
直ニ褥ニ就キ体温ヲ検ス。三十七度四分ナリ。乃チ電話ニテ医坂田稔ヲ迎ヘシム。坂田之ヲ諾ス。二時後坂田来リ診シ、軽微ナル感冒ナルヘシト云ヒ、処分〔方〕箋ヲ致ス。
○是ヨリ先キ予褥中ニテ花井卓蔵ニ贈ル。明二十七日法学博士会ヲ文部省ニ開クコトヽナリ居リ、予ハ渡辺暢ヲ博士候補者トシテ推薦シ置ケリ。然ルニ感冒ノ為メ明日出席スルコトヲ得サルニ付其旨ヲ花井ニ告ケ、渡辺推薦ノ事ヲ周旋スルコトヲ依頼シ、予カ先日来渡辺ノ推薦ニ賛成スルコトヲ依頼シタル人名及依頼書ニ承諾ノ旨ヲ答ヘタル人名ヲ通知ス。
書状ヲ作リタル後体温ヲ検シタルニ、三十七度六分トナリ居リタリ。坂田カ来リ診タルハ此後ナリ。
○三月二十七日午前七時頃内子鎌倉ヨリ電話シ、予尚ホ褥ニ在リ。褥ヲ出テヽ電話ス。内子今日午後一時後鎌倉発ノ汽車ニテ帰京スルニ付新橋駅ニ迎ヒノ人力車ヲ遣ハシ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。内子、予カ褥ニ在リタル所以ヲ問フ。予昨来感冒ニ罹リタル旨ヲ告ク。
○午後三時三十分内子帰リ来ル。午後坂田稔来診ス。
○午後山崎四男六書ヲ贈リ、本月三十日公務アリ宮内大臣官房応接室ニ来リ会スルコトヲ請フ旨ヲ報ス。
○内子鎌倉ニ行ク前ニハ三十七度許ノ体温ナリシモ、近日ハ三十六度五六分乃至七八分ナリト云フ。
○午前十時頃電話ニテ予ガ出勤シ難キコトヲ宮内省審査局ノ西野英男ニ告ケシム。
○午後七時頃内子ヲシテ花井卓蔵ノ家ニ電話シ、今日ノ法学博士ノ状ヲ問ハシム。花井ノ家人花井ハ一タヒ帰リタルモ更ニ外出シ、未タ帰宅セス。帰宅ノ時刻分ラサル旨ヲ答フ。
○三月二十八日（日曜）熱未タ解ケス。
○褥中詩ヲ作ル。
○午後坂田稔来リ診ス。
○三月二十九日尚ホ出勤セス。
○午前九時頃西野英男来リ予ノ病状ヲ問フ。予之ニ嘱シ、明日午後山崎四男六ヨリ大臣官房応接室ニ来リ会シ呉度旨申シ来リ居レトモ、出勤シ難キニ付其旨ヲ山崎ニ告クルコトヲ嘱ス。
○午後土谷栄太郎来リ訪フ。褥上ニテ話スルコト一時間許。
午前八時後花井卓蔵電話シ、予ト電話セント欲スル旨ヲ告ク。予、内子ヲシテ電話セシム。花井、昨日法学博士会ヨリ帰リタル後、直ニ同会ノ状ヲ報スヘキ筈ノ処、親族ニ病人アリ、其方ニ行キタル為メ延引セリ。渡辺君ハ十三点許リ点数不足ニテ、終ニ不合格トナリ、遺憾ナリト云ヒタル由、内子ヨリ報告セリ。
○三月三十日熱殆ント解ク。
○午後西野英男来リ、宮内省総務課長近藤久敬ヨリ予ニ宛テタル親展書ノ開封シタルモノヲ致シ、今日此書来リタルニ付、貴官欠勤ノ旨ヲ告ケ、用務ヲ問ヒタル処、審査局主事代理（主事林恭次郎ハ病気ニテ昨年来欠勤中）ノ人開封シテ宜シカルヘシトノコトナリシ故、鈴木審査官（重孝）之ヲ開封セリト云フ。
書状ハ天皇陛下神経衰弱ノ御症アリ、且糖尿ノ御容体アラセラルヽニ付、例年ナラハ最早葉山ヨリ還幸仰セ出サルヽ頃ナルモ、今年ハ今暫ク御滞在アラセラルヽコトモアルヘキ旨ヲ通知スルモノナリ。予、審査官ハ既ニ之ヲ見タリヤト云フ。西野既ニ之ヲ見タリト云フ。予明日審査官ヨリ属官一同ニ此通牒ノ趣旨ヲ通知スルコトヲ審査官ニ伝ヘ呉度。尤モ事柄ガ陛下ノ御近状ニ関スル故、格別仰山ナラサル様ニ注意シテ通知スル必要アル旨ヲ告ク。西野之ヲ諾ス。
○三月三十一日午前八時後岩倉熊一郎来リ、予ガ病ヲ問ヒ、玄関ヨリ帰リ去ル。
○午前有馬秀雄電話ニテ今日午後三時頃往訪セント欲ス。差支ナキヤヲ問フ。予尚ホ病褥中ニ在ルモ、褥上ニ起坐シテ話スルコトハ差支ナキ旨ヲ答ヘシム。
午後三時頃有馬秀雄来ル。久留米市ヨリ選出スル衆議院議員候補者ニ適当ナル者ナシ。心当リノ人ナキヤト云フ。予、梅野実ハ如何ト云フ。有馬、梅野ナラハ宜シキモ、同人ハ先日三菱会社ヨリ南満洲鉄道株式会社ニ転シタル斗リニ付、此節迄ハ候補者トナリ難シト云ヘリト云フ。
予、野田卯太郎ガ先日君ニ面会スルコトヲ求メタル趣ハ君ヨリ話ヲ聞キタルコトアルカ、野田ハ如何様ナルコトヲ云ヒ居リタルヤト云フ。有馬、野田ハ浮羽三井ノ二郡ヨリ選出スル候補者ニ付、初メハ種々之ヲ探カシ、君（予）モ候補者ノ一人ニ数ヘ、愈々大臣ニテモナレルナラハ之ヲ勧メント思ヒタルモ、其事ハ当テニナラス。強ヒテ之ヲ勧ムル訳ニモ行カス。結局野田自身カ二郡ノ候補者トナル模様ナリ。
佐々木正蔵ハ政派ハ異ナルモ、野田トハ懇意ナルカ、佐々木ハ野田ヲ久留米市ノ候補者トナスコトヲ望ミ居ル模様ナリ。是ハ野田カ浮羽三井ヨリ出テテハ、佐々木カ右二郡ヨリ出ツルニ都合悪シキ為ナルヘシト云フ。有馬又吉原某ハ大藪房次郎ハ尚ホ久留米ヨリ候補者トシテ出ツル希望アルニ相違ナシト云ヒ居レリ。然シ大藪モ久留米ニテ大分人気ヲ墜シ居レリト云フ。有馬又国民党ニテハ弁護士渡辺誠太郎ヲ公認候補者ト為シタリト云フ。
予、予ハ其人ヲ知ラサレトモ、左程人望アル人ニハ非サルナラント云フ。有馬格別ノ人望ハナシト云フ。予、浅野陽吉ハ如何ト云フ。
有馬、此節ハ候補者トナラサル趣ナリト云フ。有馬近日中ヨリ久留米ニ行クコトヲ話ス。予、君カ久留米ニ行クハ矢張リ候補者トナル様ニナルヘシト云フ。有馬決シテ候補者トナラス。此節ハ妻モ同道スル積リナリト云フ。
其他堀江某ニ対スル有馬家ヨリノ補助金ノコト。有馬家ノ大正八年度決算未済ノコト等ヲ話ス。話スルコト一時間余ニシテ去ル。
三月三十日夜臨時法制審議会ヨリノ書留書状達ス在中ノ書左ノ如シ
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一金百五拾円臨時法制審議ノ事務ニ関シ特別勉励ニ付手当トシテ給与ス
大正九年三月二十九日 内閣
