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最終更新：2005年11月1日
作成者：永井 和、冨永 望
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、原文にはほとんど句読点がないが、読者の便宜を考え、適宜これをおぎなった。さらに、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。日記本文の行側に倉富本人が加えた注記やルビは、内容上いちばん近いとも思われる本文の箇所に〈 〉で括って挿入した。表紙や欄外に記された注記は「原注」として本文内に付記した。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記及び訂正である。
また、表示できない一部の漢字に、e漢字プロジェクトe-漢字の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
本翻刻は、日本学術振興会科学研究費補助金による事業である。基盤研究（B)（２）課題番号：16320086
倉富勇三郎日記 大正9年5月1日～31日
○五月一日午前十時後、井上勝之助ヲ其事務室ニ訪ヒ、予カ宗秩寮御用掛ト為リ王世子顧問ヲ命セラレタルニ付、波多野敬直ニ執務ノ方針ヲ問ヒタルモ、漫然タル事ニテ要領ヲ得ス。波多野ハ顧問ノ名義ナルモ、＊万豫＊ノ事ヲ注意スヘキ旨ヲ告ケタルモ、李王職ニハ長次官以下事務官モアル故、一切ノ事ニ干渉シタラハ職権ノ抵触ヲ来タスヘキニ付、波多野トモ協議シテ方針ヲ定メ度旨ヲ話ス。井上其方然ルヘキ旨ヲ答フ。
○午前十時後仙石政敬ト廊下ニテ遇フ。仙石予ニ午時頃マテ宮内省ニ在ルヤト問フ。予午時マテ在リト云フ。仙石少シク話シ度事アリト云フ。予今話スコトハ出来サルヤト云フ。仙石将ニ南部等ト会議セントス。未タ来リ会セサル者アルヲ以テ先ツ予ト話スヘシトテ予ノ室ニ来リ。
昨日波多野ヨリ皇族ノ降下ニ関スル施行準則ノコトニ付、自分（仙石）ヨリ賀陽宮ニ説クヘシトノコトナリシヲ以テ、自分宮家ニ行キタル処、殿下ハ邸ニ在ラサル故、磯谷某（事務官）ニ委細ヲ告ケ、磯谷ヨリ詳カニ殿下ニ説カシムルコトニ致シ置ケリ。然ルニ賀陽宮ハ平素、久邇宮ヲ親ノ様ニ思ハレ居ル故、此上誰カ賀陽宮ニ説キテモ、久邇宮ニ反対シテ原案ニ賛成セシムルコトハ出来難カルヘシ。昨夜梨本宮ニテ久邇宮ニ謁シ、明後三日ノ王世子邸ノ晩餐会ニ御出アルヤ、御出アラハ世子モ感謝セラルヘシト云ヒタルニ、久邇宮ハ武徳会ノ用務ニテ京都イ行カサルヘカラス。皇族会議ノコトハ行掛リモアリ、是非出席スル積リニ付、早ク京都ニ行キ、早ク帰京スル必要アリト云ハレ、其口気如何ニモ反対者多数ナル自信アル模様ナリシナリ。此事ハ既ニ石原健三ニ話シ置ケリ。君ニモ参考ノ為メ之ヲ告ケ置クト云フテ去レリ。
○午時退省ス。
○午前十時後西野英男、伏見宮別当事務取扱佐藤愛麿ノ案内状ヲ致ス。状ハ博義王結婚ノ祝宴ヲ開カルヽニ付、本月七日予等夫妻ヲ午餐ニ招カルヽモノナリ。予内子カ招ニ応セサルコトヲ宮家ニ報スルコトヲ西野ニ嘱ス。
○午前西野、王世子附事務官高羲敬ノ案内状四通ヲ致ス。本三日四日五日ノ午餐又ハ晩餐ニ予夫妻ヲ招クモノナリ。予ヲ以テ世子邸ノ家職ト見做スモノヽ如シ。依テ仙石政敬カ南部光臣ノ室ニ在ルヲ訪ヒ、其由ヲ告ケ、仙石ヨリ高羲敬ニ告ケテ、案内度数ヲ減セシムルコトヲ謀ル。仙石、高ニ謀ルヘキ旨ヲ答フ。
○午後五時後王世子邸ヨリ電話ニテ、今日午餐晩餐ノ案内状ヲ出シ置タルカ、余リ度数多ク御迷惑ナルヘキニ付、本月五日ノ晩餐丈ケニ御出下サレテハ如何ト云フ。予兎モ角明晩ノ晩餐ニハ出席スル積リニ付、其上ニテ協議スヘキ旨ヲ告ク。
○午後一時前ヨリ村木雅美ノ家ニ行キ、其妻ノ死ヲ弔ス。奥宮正治ニ遇フ。
直ニ土肥慶蔵ノ家ニ行ク。内子ノ腕ヲ診セシムル為メ之ヲ土肥ニ紹介セントスルナリ。内子来リテ会スルコトヲ約シ置タルモ、予ガ土肥ニ到リタルトキハ内子未タ来ラス。待ツコト少時ニシテ内子来ル。土肥之ヲ診シ、（ラジユーム）ヲ腕及頸ノ痛所ニ貼スルコト一時間。土肥果シテ効ヲ奏スルヤ否ヲ知ルヘカラサルモ、二三回之ヲ試ムヘキ旨ヲ告ク。四時後家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○五月二日午後零時後ヨリ東中野ニ行キ、箕原貞明ノ告別式ニ列ス。本郷房太郎ニ遇ヒ、之ト二三語ヲ交ス。二時前家ニ帰ル。
会柳田直平来リ正ニ内子ト話ス。予直ニ其席ニ到リ之ト話ス。別段ノ要事ナシ。柳田ノ養子国男ガ貴族院書記官長ヲ辞シタルコトニ付、柳田ヨリ話シタルコトアリ。予世論ハ必シモ国男ヲ非トセス、徳川家達ノ狭量ヲ議スル者アル様ナル旨ヲ告ク。
予午後三時前ヨリ東京駅ニ到リ、天皇陛下ノ葉山ヨリ還リタマフヲ奉迎セサルヘカラス。依テ襟飾ヲ更ユ。柳田乃チ去ル。三時前ヨリ東京駅ニ到ル。復タ本郷房太郎ニ遇フ。
仁田原重行ト話ス。仁田原、有馬秀雄カ衆議院議員ノ候補者ト為ルニ非サルヤヲ問フ。予既ニ候補者ト為リ、先日一タヒ久留米ヨリ帰リタルモ、復タ久留米ニ行キ居ルコトヲ告ク。
四時後家ニ帰ル。東京駅プラツトホームニテ国分象太郎ニ、王世子邸ヨリノ案内過多ナルコトヲ談シ、予ヲ以テ世子邸ノ家職ト為スヘカラサルコトヲ承知シ置クコトヲ望ム旨ヲ告ク。此時天皇陛下ノ御車達ス。予正ニ話シ居リタルヲ以テ、初メ御車ノ達シタルコトニ気附カ〔ス〕。遽カニ直立シテ敬意ヲ表シタリ。
○午後五時後ヨリ王世子邸ニ行キ、晩餐ニ列ス。此日世子カ妃ノ父梨本宮、同妃其他宮附職員ヲ招カレタルナリ。晩餐前、予国分象太郎高羲敬ト談シ、世子邸ヨリ予ニ対スル案内過多ナルコトヲ談シ、三日ノ晩餐、五日ノ晩餐ニハ出席シ、四日ノ午餐ト同日ノ晩餐ニハ出席セサルコトニ決ス。八時後家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○五月三日午前ヨリ午後マテ、伊夫伎準一、鈴木重孝ノ実況審査報告書ニ付、審査官会議ヲ開ク。
○午前石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒ、仙石政敬カ波多野敬直ノ嘱ニ因リ、賀陽宮ニ説キ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニ対スル体度ヲ決セシムル筈ノ処、仙石自身ニハ殿下ニ面謁セス、磯谷某ニ説キ、某ヲシテ殿下ニ説カシムルコトヽ為シタル由ナリ。而シテ仙石ヨリ予ニ告ケタル処ニテハ、賀陽宮ハ到底準則ニ賛成セラルヽ望ナキガ如シ。宮内大臣ハ大臣自ラ賀陽宮ニ説クハ、圧迫ノ嫌アリトテ之ヲ肯ンセサルノミナラス、君（石原）ヲシテ之ヲ説カシムルコトモ之ヲ肯ンセサリシモ、矢張リ君（石原）ヨリ之ヲ説ク必要アリト思フト云フ。
石原自分（石原）モ仙石ノ話ヲ聞キタリ。仙石ヨリ大臣ニ報告シタル上ニテ、更ニ評議スヘシト云フ。予昨日東京駅ニテ石原ニ此事ヲ話シタルモ、傍ニ井上勝之助カ居リタル為メ、仙石ノ名ヲ拳ケテ云々スルコトヲ憚リ、言ヲ曖昧ニセリ。故ニ今日石原ニ話スルトキ其事情ヲ告ケ置タリ。
○午後予ガ石原ヲ捜カシテ木村甚三郎ノ室ニ到リタルトキ、木村ト酒巻芳男ト、明日波多野敬直カ王世子結婚ニ関シ朝鮮ヨリ来リタル者及ヒ世子ニ関係アル者ヲ芝離宮ニ招キ、午餐ヲ供スルコトヲ謀リ居リ。予モ招カルル筈ナル故、其事ヲ承知シ置呉ヨ。但シ案内状ハ間ニ合ハサル故、後ヨリ之ヲ届クヘシト云フ。予之ヲ諾ス。
○午後五時後ヨリ王世子邸ニ行キ、晩餐ニ列ス。今日ハ世子、同妃カ各皇族、同妃、波多野敬直、浜尾新、其他ヲ招キタルナリ。午後八時後家ニ帰ル。
世子邸ニテ原敬ト話シ、三井浮羽二郡ノ衆議院議員ノ候補者トシテ佐々木正蔵カ立ツヤ否ヲ問フ。原未タ決セサル模様ナリト云フ。予又有馬秀雄カ久留米市選出ノ議員候補者ト為リタルカ、他ニ尚ホ二人ノ候補者アリ。其一人ハ市ノ商業学校長ナルカ、此ノ如キ人カ候補者トナルハ困リタルコトナル旨ヲ話ス。原夫レハ困リタルコトナリト云フ。談、野田卯太郎ノ事ニ及、原、野田ハ五日ノ夜ニハ帰京スル旨ヲ語リタリ。
【△上に戻る】
○五月四日午前調査課ニ到リ、武某ヲ訪フ。武正ニ総務課ニ在リ、乃チ追フテ総務課ニ到リ、先日波多野敬直ヨリ武ニ嘱シテ浄写セシメタル、波多野カ皇族会議ノトキ演述スヘキ案文ノ原稿ヲ持チ居ラサルヤヲ問フ。武調査課ニ返リ之ヲ捜カス。得ス。
予乃チ南部光臣ニ就キ之ヲ問フ。南部、浄写シタルモノモ原稿モ、波多野ニ交シ置タリト云フ。予乃チ波多野ヲ其官房ニ訪フ。在ラス。時正ニ御前ニ出テ居リタルナリ。既ニシテ波多野返リ来ル。予乃チ波多野ヨリ演述案ノ浄写シタルモノヲ借リ、之ヲ石原ニ示サントシ、石原ノ室ニ到ル。石原在ラス。少時ノ後、復タ石原ノ室ニ到リ、之ヲ石原ニ示ス。昨日石原ヨリ予ニ対シ、皇族会議ノ時波多野カ演述スヘキ案ヲ作リ置キ呉ヨト云ヒ、予ハ先日既ニ之ヲ作リ、波多野ニ渡シ置タリト云ヒ置キタルモ、予ガ案ヲ作リタルトキハ、皇族会議ハ何ノ異論モナク通過スル積リニテ、簡短ナル案ヲ作リ置キ、今日トハ状況モ異ナル故、一応石原ニ其案ヲ示シ、意見ヲ問ヒタルナリ。
石原一覧シテ案ノ通リニテ可ナルヘシト云フ。予乃チ復タ之ヲ波多野ニ返シ、石原ニ示シタルコトヲ告ク。波多野、議事ノ劈頭ニ演述スルモノナルニ付、反対論ヲ予測シテ弁駁スルニハ及ハス。此ノ案ノ通リニテ宜シカラント云フ。波多野又今日大隈重信ニ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニ対シ、皇族中反対意見ヲ有スル人アルコトヲ話シタル処、大隈ハ此ノ如キ人ハ世界ノ大勢ヲ如何ニ観察シ居ラルヽヤ。実ニ驚クヘキ事ニテ、陛下ニ対シ不臣ノ罪ヲ免レス。＊数々＊スヘキ事ニハ非サルモ、ケ様ナル場合ニハ厳戒ヲ下サルヽ方宜シキニ非スヤトテ、大ニ気焔ヲ吐キタリト云フ。
○午前十時後西野英男ニ嘱シ、調度寮ニ到リ、自動車ヲ借ラシム。十一時ヨリ自動車ニ乗リ、芝離宮ニ到リ、波多野敬直ノ催フシタル午餐ニ列ス。来リ会スル者、斎藤実、宋秉畯、井上勝之助等三十人許ナリ。一時前会散ス。
波多野、井上、石原ト皇族会議ノコトヲ談ス。波多野、其今朝、大隈重信ト談シタル状ヲ語リ、大隈ニ皇族ヲ説クコトヲ嘱スレハ直ニ諾スヘキ模様ナリシト云フ。予大隈ハ進ンテ説クヘキモ、其効ハナカルヘシト云フ。波多野ハ昨夜賀陽宮ニ往訪ヲ約シ置タリトテ、離宮ヨリ直ニ陸軍士官学校ニ赴キタリ。賀陽宮カ士官学校ニ入リ居ラルヽヲ以テナリ。
○午餐ヲ始ムル前、予高羲敬ニ対シ昨日ノ晩餐ニハ国分象太郎モ小宮三保松モ出席シ居ラス、殊ニ明五日ノ晩餐ニハ急ニ岡野敬次郎カ出席スルコトヽナリ、席ノ都合モアルヘキニ付、予ハ明晩ハ欠席スル方宜シカラント思フト云フ。高羲敬席ノ都合ハ少シモ困ラス。明晩ハ是非出席シ呉ヨト云ヒ、且明五日ノ午餐ハ如何スルヤト云フ。予午餐ハ疾ク欠席ノコトニ話シ置タリト云フ。
一昨三日武田尚、宮内省ニ来リ、五日ノ晩餐ニハ帝室制度審議会ノ人ハ総裁伊東巳代治一人丈案内致シアル処、今日浅田恵一カ高羲敬ニ用事アリテ往訪スヘキ旨申来リ居レリ。意フニ、岡野敬次郎等ヲ招ク様ニスルコトノ相談ナラント思フ。岡野ヲ招ケハ平沼騏一郎モ招カサルヘカラス。平沼ヲ招ケハ富井政章モ招カサルヘカラス。枢密院ノ人ハ議長丈ケニテ副議長サヘ招キ居ラス。富井ヲ招ケハ他ノ顧問官モ招カサレハ不権衡ナリ。岡野ノコトハ如何スレハ宜シカルヘキヤ、意見ヲ聴キ度ト云フ。予審議会ノ委員トシテ岡野ヲ招ケハ、他ノ委員ヲ招カサル訳ニ行カス。然ルニ宮内省ノ人ハ部局長官モ招キ居ラストノコトニ付、委員ヲ招クハ不権衡ナリ。岡野ノコトハ誰ヨリ言出シタルコトナルヤ。総裁ヨリ言出シタルヤト云フ。武田其辺ハ分カラスト云フ。
予招待人名ヲ見タルニ、小原
吉ノ名アリ。依テ小原ハ何ノ為メニ招クヤト云フ。武田、小原ハ世子ノ幼少ナル時ヨリ種々世話シタルコトアリ。依テ内匠頭ト云フニ非ス、一己ノ小原トシテ招カルル訳ニテ、乃チ縁故者ナリ。予然ラハ岡野ト馬場鍈一トハ先年王公家軌範案取調ノ用ヲ希ヒ、朝鮮ニ行キタルコトアリ。軌範ハ未タ成立セサルニ付、理由トハ為シ難キモ、朝鮮ニ行キタルコトハ外部ニ顕ハレタルコトナル故、之ヲ以テ縁故者ト為シ、岡野ヲ加ヘ、馬場ハ六日ノ迎接会ノトキ加ヘラルヽコトヽナラハ、他ニ影響ナクシテ済ムヘシ。尤モ是ハ已ムヲ得サル窮策ナリト云フ。
此時浅田恵一丁度廊下ヲ通リ掛リタリ。予ト武田トハ廊下ニテ立談シ居リタルヲ以テ浅田ヲ呼ヒ留メ、浅田カ高ヲ訪ハントスル事情ヲ問フ。浅田自分（浅田）ノ事務室ニ来リ呉ヨト云フ。予、予ハ正ニ会議中ナリ、立談ニテ済マシ度ト云フ。
浅田五日ノ晩餐ニハ伊東総裁ハ招キアリヤト云フ。武田招キアリト云フ。浅田、岡野ハ如何ト云フ。武田其事ニ付只今相談致シ居ル所ナリト云フ。予ヨリ武田ト談合タル事情ヲ述ヘ、已ムヲ得ス岡野ト馬場トヲ加フルコトニナスヨリ外致方ナシト云フ。浅田、岡野カ加ハハレハ夫レニテ宜シカラント云フ。武田既ニ去ル。
予浅田ニ対シ岡野ノコトハ伊東総裁ヨリ申出シタルコトナリヤト云フ。浅田左ニ非ス。昨夜葬儀令案ノ委員会ヲ開キタルトキ、小原吉ヨリ五日ノ晩ハ世子邸ニ招カレ居ルコトヲ云ヒ出シ、岡野ハ自分ニハ案内ナシト云ヒ、夫レヨリ始マリタルコトニテ、自分（浅田）ハ其事ニ付高羲敬ヲ往訪セント思ヒ、電話ヲ掛ケタルモ、未タ往訪セサル所ナリト云ヘリ。以上ノ事情アリタルニ付今日芝離〔未完〕
【△上に戻る】
〔表紙・注記〕
明治二十一年ノ有馬家紛議ニ関スル書類ノコト五月十一日ノ日記（十七葉十六葉）ニ在リ
大正九年日記
五月四日ノ続ヨリ五月二十七日マテ
大正九年五月四日ノ続
離宮ニテ高羲敬ニ対シ、岡野カ新タニ加ハリタルコト言ヒタル訳ナリ。
【△上に戻る】
○五月五日午前十時前ヨリ銀座玉屋ニ行キ、内子カ先日修繕ヲ命シ置タル時計及眼鏡ヲ取リ、且ツ予ノ時計ノ修繕ヲ命シ、直ニ宮内省ニ出勤ス。
○午前十時後波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ、波多野カ昨日賀陽宮ヲ訪ヒタル状ヲ問フ。波多野、賀陽宮ハ返答セス、今月九日ニ答フヘキ旨ヲ答ヘラレタリ。矢張久邇宮ノ意見ノ通リ、皇室ノ大事ナル故急ニ決シ難シト云ハレタル故、自分（波多野）ハ此事ハ皇室典範増補ニテ既ニ決シ居ルモノニテ、皇室ノ大事抔ト云フヘキモノニ非スト云ヒ、種々説明シタルモ、終ニ了解セラレス。
而シテ賀陽宮ヨリ自分（波多野）ニ対シ、今日話スヘキコトニ非サルモ、予ノ成年式モ相済ミタルカ、事務官ハ予ノ幼少ノ時ヨリ世話シ呉タルコト故、此際叙勲一等ノ詮議ハ出来サルモノナルヤ。皇太子殿下ノ成年式ニハ東宮職員ニ恩賞アリ、王世子ノ結婚ニ付テモ種々ノ恩賞アリ、此等ノ権衡ヨリ見ルモ云々ト云ハレタリ。
自分（波多野）ハ根本ノ誤ヲ説明シ置ケリ。年若キ皇族カ右ノ如キ謬見ヲ有シ居ラレルハ困リタルコトナリト云フ。石原モ丁度其席ニ在リタリ。予ハ現在ノ制度宜キヲ得ス。皇族附ノ別当、宮務監督等ヲ廃シ、宗秩寮ニテ統轄スル方可ナラン。皇族附職員ハ皇族ヲ尊大ニスルコトノミヲ務ムル弊アリ。此事ハ予ガ平素痛ク感シ居ル所ナリト云〔フ〕。石原既ニ去ル。
予尚ホ波多野ト話ス。穂積陳重来ル。一二語ヲ交ヘテ去ル。給仕来リ、金子堅太郎カ来リ居ルコトヲ報ス。予乃チ去ル。
石原健三ノ室ニ入リ、皇族会議ノ事ハ如何スルヤヲ問フ。石原、昨日松方侯ヲ訪ヒタルニ、松方ハ未タ伏見宮ヲ訪ヒ居ラス。先日波多野ノ談ヲ聞キタルモ、伏見宮ニ説クヘキ丈ノコトナク、今一度波多野ニ面会シテ十分ニ話ヲ聞タル上往訪セント思ヒ居ル所ナリト云フニ付、自分（石原）ヨリ詳シク是迄ノ事ヲ話シタルニ、夫レ丈ノ事アレハ伏見宮ニ話スヘキ必要アリトテ、今朝往訪スルコトニ決シタリ。其結果ハ松方カ宮内省ニ来リテ報告スル筈ナルモ、実際塩梅宜シカラス、気ノ毒ナル位ニ付、若シ宮内省ニ来リ難キナラハ、大臣カ自分（石原）カヲ呼ヒ呉ルヽ事ニ約束致シ置タリト云フ。
○午食後、伊夫伎準一ト雇員採用ノコト及職員昇級ノコトヲ談ス。
○午後一時二十分ヨリ青山斎場ニ行キ、故関義臣ノ妻ノ葬ニ会シ、直ニ家ニ帰ル。
○午前白根精一ヨリ粽九把ヲ贈リ来ル。精一ハ松介ノ長男ニテ予ガ先日其名ヲ選シタルモノナリ。
以上ノ日記ハ即日ニ之ヲ記セス。数日若クハ十余日後ニ追記シタルモノ多キヲ以テ、日時ノ相違及誤脱少ナカラサルヘシ。
午後五時後ヨリ王世子邸ノ晩餐ニ赴ク。此日会スル者奥保鞏、井上良馨、長谷川好道等三十余人ナルヘシ。午後八時後家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○五月六日午前十時頃出勤ス。西野英男先刻宮内大臣ヨリ御出勤アリタラハ、大臣官房ニ来ラレ度旨申来リタリト云フ。予乃チ往ク。
波多野敬直正ニ石原健三ト話ス。波多野、昨日北白川宮ヲ訪ヒタル処、同宮ハ自分ニ対シ、先日次官ヨリノ話ヲ聞キタルカ、次官ハ自分（北白川宮）カ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニ賛成シ居ル様考ヘ居ル趣ナルモ、自分（北白川宮）ハ皇族会議ニテ可否ヲ争ヒ、多少数ニテ決定スルコトハドコマテモ不同意ナリ。若シ是非トモ数ノ多少ニテ決スルトノコトナラハ、自分（北白川宮）ハ原案ニ反対スト云ハレ、到底賛成ヲ得難ク、又朝香宮ハ施行準則ハ結局皇室典範増補ヲ改正スルモノナル故、寧ロ増補ヲ改正スルヲ可トストノ意見ナル故、其意見ノ非ナルコトヲ説明シタルモ、是亦意見ヲ改ムルニ至ラス。依テ原案反対者カ多数トナル訳ナリト云フ。
予、石原ニ対シ昨日松方正義カ伏見宮ヲ訪ヒタル状ヲ問フ。石原、是ハ単ニ宜シク御頼ミ申スト云ヒタル丈ケニテ何モ得ル所ナシト云フ。予、予ハ先キニ皇族会議ニテ否決スルモ、御内沙汰デモ伝ヘテ可決セシムル方可ナラント思ヒ、其旨ヲ言ヒタルコトアルモ、若シ御内沙汰アリテモ之ニ従ハサル様ノコトアリテハ猶更不都合ニ付、寧ロ此侭会議ヲ開キ成行ニ任カスル方宜シクハアルマシクヤ。然ラハ或ハ反省シテ反対決議ヲ為ス迄ニハ到ラサルコトモアルヘシト云フ。波多野石原トモニ左スレハ必ス反対ニ決スヘシト云フ。
石原ハ参事官会議ニ列スル為メ其席ヲ去リタリ。予、ドーテ否決スル様ナラハ寧ロ議案ヲ撤回シ、議ヲ経サル侭ニテ御裁可ヲ奏請スル方宜シクハアルマジキヤ。此案ハ法規上皇族会議ノ議ヲ経ルコトヲ要スルモノニ非サルヲ以テナリト云フ。予又只今ノ処反対者五名ニテ賛成者四名ナルカ、議長モ表決権ヲ失フ規定ナシ。議長ヲ加フレハ賛成者五名トナリテ同数ナリ。而シテ議長ハ更ニ職権ヲ以テ原案ニ決スルコトヲ得ヘシト云フ。此時伯爵某来リテ波多野ニ面スルコトヲ請フ。予乃チ去ル。
予審査局ニ返リタル後、皇族会議令ヲ調査シタルニ、議事ハ三分ノ二以上又ハ過半数ニ依リ決スル旨ノ規定アルノミニテ可否同数ナルトキハ議長之ヲ決スルノ規定ナシ。故ニ予ガ先刻波多野ニ話シ置タル如ク、議長ヲシテ職権ヲ行使セシムルコトヲ得ス。乃チ更ニ波多野ヲ訪ヒ、其旨ヲ告ケ、結局議案ヲ撤回シ其侭ニテ裁可ヲ奏請スルコトカ比較的穏当ナルヘキコトヲ話シ、尚ホ石原健三トモ熟議シタル上、元老ヘモ相談シテ之ヲ決スル方可ナルヘキ旨ヲ告ケテ去ル。
○午前十一時頃李載克及某審査局ニ来リ、明日出発朝鮮ニ帰ル旨ヲ告ク。予、李載克今夕ノ招宴ヲ謝シ、今夕更ニ面会スヘキ旨ヲ告ク。
○午後四時頃石原健三、井上勝之助、波多野敬直ト倶ニ山県有朋ヲ五番町ニ訪ヒ、皇族会議ノ事ヲ談ス。山県、会議ノ形勢不利ナルトキハ勅旨ヲ以テ賛成セシムル必要アルニ付、予メ之ヲ奏請シ置ク手続ヲ為シ置カサルヘカラス。故ニ先勅書ノ案ヲ起草シ見ルヘキ旨ヲ語ル。
予等ハ山県ヲ訪フ前三時後ヨリ、波多野ノ官房ニテ会議ノコトヲ協議シ、井上ハ御沙汰ヲ奏請シテ賛成セシムル方宜シカルヘキ旨ヲ主張シ、波多野ハ賛成反対同数ナラハ、会議令第八条ニハ議長之ヲ決スル規定ナキ故、議決ニ到ラサル侭議長ヨリ其旨ヲ上奏シテ宜シカルヘキ旨ヲ主張シ、然ラサレハ会議ニテ原案ヲ否決スルモ、原案ノ御裁可ヲ奏請スレハ夫レニテ宜シク、イツレニシテ〔モ〕勅旨ヲ以テ議決ヲ左右スルコトハ穏当ナラスト云ヒ、予モ其ノ説ニ賛成ス。石原ハ別段ノ意見ナク、予ハ又別ニ一タヒ諮詢セラレタルモ、諮詢ヲ止メラルヽコトモ法規上抵触スル所ナキヲ以テ議決ヲ為サシメス、其侭諮詢ヲ止メテ裁可ヲ奏請スルコトモ一ノ方法ナルヘシト云フ。波多野之ニ賛成ス。
右協議ノ結果一同山県ヲ訪フコトヽナリ、協議ノ席上ニテ交換シタル意見ヲ述ヘ、山県ノ意見ヲ問ヒタル処、山県ハ勅旨論ヲ主張シタルモ、結局衆論一致スレハ自分（山県）ハイツレニテモ宜シキ故、尚ホ宮内省関係者ノ意見ヲ問ヒ、協議ヲ尽ク〔ス〕ヘク、一応元老会議ヲ開キテ意見ヲ纏ムルコトモ必要アルヘク、伏見宮、閑院宮ヲ宮中ニ招キ、十分ニ協議シテ皇族ノ意見ヲ纏メシムルコトモ可ナルヘシト云フ。五時頃散会ス。
○六時十分前ヨリ李載克ノ招宴三河屋ニ招ク。会スル者三十人許。予上席ニ在リ、李ノ挨拶ニ対シ謝辞ヲ述フ。九時前家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○五月七日昨日山県ノ家ニテ波多野等ト約シタル所ニ従ヒ、皇族ニ示スヘキ御沙汰書案ヲ示シ、午前九時ヨリ宮内省ニ出勤シ、波多野ノ官房ニ行キ、案文ヲ示シ、石原等カ来ルヲ待ツ。十時ニ至ルモ来ラス。依テ石原ノ家ニ電話シテ、石原ガ既ニ出勤シタルヤ否ヲ問ハシム。石原ハ九時頃ヨリ家ヲ出テ、他ニ廻ハリタル旨ヲ答フ。
予偶々山崎四男六ニ遇フ。山崎、石原ヨリノ電話ニテ今朝ハ山県公ヲ訪フ為、宮内省ニ出勤スルコトハ遅クナル旨ヲ告ケ来リタリト云フ。予、石原ノ家ニ電話シタルコト、石原ガ山県ニ電話シタルコトヲ波多野ニ告ケ、尚ホ総務課員ヲシテ山県ノ家ニ電話シ、石原カ山県ノ家ニ在ルヤ否、在ルナラハ何時頃宮内省ニ来ルヤヲ問ハシム。山県ノ家人、石原ハ今少シ前ニ山県ヲ辞シタルコトヲ答ヘタル旨ヲ報ス。
幾モナク石原出勤シ、今朝山県ヨリ往訪ヲ求メタル故、之ヲ訪ヒタル処、山県ヨリ昨日皇族ヲ宮中ニ召集スルコトヲ話シ置タルカ、昨夜ハ眠ラレス再考ノ結果ニテ陛下ヨリ伏見宮、閑院宮両殿下位ヲ召サレ、皇族ノ降下ニ関スル準則ニ付協議スヘキ旨ノ数語ヲ賜ヒ、其結果両殿下ヨリ他ノ皇族ヲ召集セラルヽコトヽナル方宜シカルヘク、其ノ勅語ノ趣旨ハ準則ハ典範増補ヲ施行スル為メノモノニテ、此節創設シタル制度ニ非サルコトヲ明カニスルコト可ナルヘシト云ヒタルコトヲ話ス。
【△上に戻る】
○五月八日午前波多野敬直ノ官房ニテ波多野、及石原健三ト皇族会議ニ関スルコトヲ議ス。石原予ガ草シタル勅語案ヲ伊東巳代治ニ示シ、其ノ意見ヲ問フ必要アリト云フ。予伊東ニ謀レハ伊東ハ必ス岡野敬次郎、平沼騏一郎ニ謀ルコトヲ提議シ、決シテ即答スルコトナカルヘシ。寧ロ伊東ヲ宮内大臣官舎ニ召致シテ、協議スル方宜シカルヘシト云フ。
波多野、浅田恵一ヲ召ヒ、伊東ノ家ニ到リ、明日、波多野ノ官舎ニ会スルコトヲ謀ラシム。浅田誤テ電話ニテ伊東ニ謀リ、伊東ハ何時ニテモ往クヘシト云ヒタリ。何時カ宜シキヤト云フ。此時始メテ浅田カ電話ニテ交渉シタルコトヲ知リタルモ、伊東カ異議ナク承諾シタラハ、夫レニテ差支ナシトテ波多野ヨリ明日午前十時官舎ニ会スル旨ヲ答ヘシム。
○予ハ今日午時ヨリ橋場ノ有馬邸ニ行ク積リナリシニ付、午前中其旨ヲ波多野敬直石原健三ニ話シ置ケリ。然ルニ正午前ニ至リ石原ヨリ少シク話シ度コトアリ、暫時待チ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。
午後零時後波多野ヨリ官房ニ来リ呉ヨト云フ。乃チ往ク。波多野在ラス。石原ノ室ニ到リ、波多野何処ニ在ルヤヲ問フ。石原君ヲ召ヒタルハ予（石原）ナリト云ヒ、今日北白川宮附事務官山辺知春ヲ召ヒ、北白川宮ガ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニハ賛成ナルモ、皇族会議ニテ多数少数ニテ決ヲ採ルコトハ不同意ナリ、採決スルナラハ自分（北白川宮）已ムヲ得ス反対ノ方ニ加ハルヘシト云ハルルハ、実ニ理由ナキコトナリ。会議ニテ否決スルモ、原案ノ通リ御裁可ヲ奏請スルコトハ既定ノ事ニテ、既ニ元老会議モ開催セラルヽ事ニナリ居ル故、君（山辺）ヨリ更ニ十分ニ殿下ニ其事ヲ言上シテ、反省ヲ促シ見ヨト云ヒタルニ、山辺ハ其事ハ言上スヘシ。但シ該案ヲ討議シ可否ヲ決スルハ各殿下トモ余程困ラレ居ル模様ナルカ、皇族会議令第八条ニ依リ利害ノ関係アリトシテ案全部ニ付採決セサル様ノコトハ出来サルヤト云フニ付、自分（石原）ヨリ案全体ニ付利害ノ関係アリト云フハ適当ナラス。然レトモ宮内省トシテハ会議ニテ右ノ如ク決議セラルレハ之ヲ可否スルコトヲ得ス。但此事ハ宮内省ヨリ提議スヘキコトニ非ス。各殿下方ニテ協議シテ其ノ通リ決議セラルヽナラハ、其侭ニ任セ置クコトハ出来ルナラント云ヒ置タリト云ヘリ。予其決議ハ固ヨリ適当ナラサルモ、原案ヲ否決スルヨリモ宜シキニ付各宮ノ協議ニ任セ置テ宜シカラント云フ。
○午後一時頃ヨリ桜田門外ニテ電車ニ乗リ、橋場有馬邸ニ赴ク。二時後達ス。既ニシテ松下丈吉来ル。相談会開会前予伯爵ニ遇ヒ、有馬秀雄カ久留米市選出ノ衆議院議員候補者ト為リタルモ、有馬家ノ家政相談人ト為リ居ルコトハ差支ナキ旨ヲ話ス。
三時後ヨリ相談会ヲ開キ、大正八年度ノ決算ヲ議ス大体承認スルコトニ決シタルモ、決算書ニ誤リアリ。更ニ訂正シテ決算書ヲ送付スルコトニ決ス。其ノ外大正八年度臨時支出事後承認案、赤松社規則改正案、堀江某ヘ補助金給与案、修繕費追加予算二件ヲ議シ、八時後ヨリ頼寧、仁田原重行、松下丈吉、境豊吉、橋爪慎吾ト自動車ニ乗リ、帰途ニ就ク。予ハ九時後家ニ帰ル。
○午前武某ニ嘱シ、皇族会議令ノ解釈ニ関スル意見書ヲ浄写シ、之ヲ予ノ家ニ送ルコトヲ嘱ス。五時頃之ヲ送リ来リタル由ナリ。
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○五月九日（日曜）午前八時後、石原健三ヨリ電話ニテ昨日ハ今日午前十時ヨリ宮内大臣官舎ニ会スルコトニ約シ置タルモ、伊東巳代治カ来ル前ニ少シク協議シ度事アル故、九時三十分頃マテニ官舎ニ往キ呉ヨト云フ。予之ヲ諾シ、九時前ヨリ電車ニ乗リテ宮内大臣官舎ニ到ル。時ニ九時十分頃ナリ。波多野敬直正ニ客ト話ス。予ヲ別室ニ延ク。
少時波多野来リ見ル。客ハ権藤成卿ト云フ者ニテ福岡県ノ人。君ノ名ハ聞キ居レトモ交ハリタルコトナシ。父ハ君ノ父執ナリシト云ヘリト云フ。予其齢ヲ問フ。波多野四十歳前後ナラント云フ。予然ラハ権藤震二、同四郎助ノ弟ナラント云フ。波多野漢学者ニテ著書アリト云ヒ、其書名ヲ告ケタレトモ今之ヲ忘レタリ。予其父ハ広瀬淡窓ノ門人ニテ漢学者ナリ。長男モ洋書ヲ学ヒ居レリ。成卿ノ事ハ承知セスト云フ。
話スルコト三十分許石原健三始メテ来ル。将ニ出テントス。工藤一記来リ、賀陽宮恒憲王ハ、先日宮内大臣ニ対シ今日マテニ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニ賛成スルヤ否ヲ答フヘキ旨約セラレ居リタルモ、更ニ三四日間熟考シ度ニ付、延期ヲ求メラレ度故、自分（工藤）ヨリ先ツ此事ヲ君（石原）ニ告クル為メニ来リタリト云フ。依テ夫レハ熟考ノ為メニ非ス、久邇宮カ未タ京都ヨリ帰ラレサル為、相談スルコト出来サル故、更ニ延期ヲ求メラルヽモノナルニ相違ナシト云ヒタルニ、工藤ヨリ皇族会議ハ何日頃開カルヽ予定ナリヤト云フニ付、十三四日頃開カルヽコトヽナルヘシト云ヒタルニ、工藤ハ然ラハ恒憲王ハ十三日ヨリ成年式済ミタル為、太廟皇陵参拝ノ為メ十三日ヨリ旅行セラルヽコトニ決シ居ルニ付、会議ニハ欠席セラルヽコトヽナルヘシト云フ。依テ然ラハ君（工藤）ヨリ恒憲王ニ対シ、皇族会議アリテモ十三日ヨリ旅行セラルヽヤ之ヲ確メヨト云ヒタルニ、工藤ハ十三日ハ日柄ヲ選ミテ決定セラレタルコトニテ、殊ニ大廟ノ参拝ハ重大ナル事ニ付、会議ノ為延ハサルヽコトナカルヘシト云ヘリ。右ノ都合ニテ恒憲王カ愈々欠席ノ事ニ決スレハ、賛成者カ一名多数トナル訳ナリト云フ。
既ニシテ伊東巳代治亦来ル。波多野ヨリ皇族会議ヲ開カントシテ俄カニ之ヲ延期シタル事由、其後ノ交渉ノ模様等ヲ告ケ、只今ハ賛否正半数カ又ハ賛成一人ノ多数トナルカト云フ所ナリ。右ニ付皇族会議令ノ解釈ヲ決シ置ク必要アリ。君（伊東）ノ意見ヲ聴キ度、其問題ハ調ヘ置タリト云フ。予、予カ草シ置タル皇族会議令第八条ノ解釈ニ関スル意見書ヲ示ス。
伊東之ヲ覧シタル後、解釈ハ此通リニテ異見ナシ。但正半数ニテ決議出来サルカ、又ハ反対論多クシテ原案否決セラレントスルトキハ、決議ヲ為サス、勅旨ヲ以テ再議ヲ命セラレ、更ニ自分（伊東）、岡野敬次郎、平沼騏一郎抔ヨリ各宮ニ十分ニ説明シテ原案ニ賛成セシムルコトヽ為シテハ如何ト思フ。自分（伊東）此件ニ関スル是迄ノ処置ニ付テハ遺憾ナキニ非サルモ、既往ヲ咎ムルハ政治家ノ為スヘキコトニ非サル故、再議ノ意見ヲ出スト云フ。
波多野、勅語案ヲ草シ居レトモ是ハ成ルヘク出シ度ナシト云フ。予案ヲ伊東ニ示ス。伊東、是ハ開議ノ初ニ出スヘキモノナリ。反対者アルコト分カリタル後ニ出スモノトシテハ語気緩ニ過ク。今少シ厳ニスル必要アリ。此案ハ自分（伊東）ニ借シ呉ヨト云フ。乃チ之ヲ伊東ニ付ス。石原ヨリ今朝ニ至リ、賀陽宮ガ十三日ヨリ旅行シテ皇族会議ニ欠席セラルヘキ模様トナリタルコトヲ報ス。伊東夫レハ好都合ナリト云ヒ、又伏見宮ハ御自身ハ原案ニ賛成セラルヽトノコトナルモ、其子モ其孫モ反対セラレ、伏見宮カ致方ナシト云ハルヽハ実ハ怪ムヘキコトナリ。依テ正半数ト云フモ、伏見宮ハ議長トナリテモ議員トシテ原案ニ賛成セラルヽコトヽシテ計算ナル故、伏見宮ガ賛成セラルヽコトハ十分ニ確カメ置ク必要アリト云ヒ、波多野此事ハ再三言質ヲ取リ置キタル故、間違ナカルヘシト云フ。
時既ニ十二時ヲ過ク。乃チ共ニ食堂ニ行キ午餐ヲ喫ス。一時後伊東辞シ去ル。予等ハ明十日元老ヲ宮中ニ召集セラルヽ手続ヲ議ス。波多野電話ニテ宮内省ノ当直書記官ヲ召ブ。白根松介来ル。波多野之ヲシテ山県有朋、松方正義ノ家ニ就キ、明日午前十一時ニ宮中ニ会スヘキコトヲ告ケシム。大隈重信ニハ電話ヲ以テ之ヲ通知シ、西園寺公望ハ今夕沼津ヨリ東京ニ来ル筈ニ付、波多野ヨリ今夕書状ヲ以テ会合ノ時刻ヲ通知スルコトニ定メ、石原ト倶ニ官舎ヲ辞シ、石原ハ自動車ニテ他処ニ行キ、予ハ電車ニテ家ニ帰ル二時後帰ル。
○王世子邸ヨリ使ヲ遣ハシ、世子ノ結婚記念トシテ銀杯一組及杯台ヲ送ラシム。
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○五月十日午前八時ヨリ小日向台町一丁目三十五番地佐藤恒蔵ノ家ニ往キ、先日佐藤ガ来訪シタルニ答ヘ、且ツ先日赤十字社病院ニテ佐藤ヲシテ内子ノ腕ヲ診セシメタルヲ謝シ、之ニ羽二重一反ヲ贈ル。予、佐藤カ家ニ在ラサル事ヲ慮リ、予メ内子ノ病候ヲ記シタル書ヲ作リタリ。佐藤果シテ在ラス。乃チ病候書ヲ将命者ニ付シテ去ル。
○午前九時後宮内省ニ達ス。昨日勅語案ヲ伊東巳代治ニ交シタルヲ以テ、昨日午後更ニ之ヲ作リ置キ、今朝之ヲ波多野ニ示シタリ。十時後、予井上勝之助ト共ニ石原健三ノ事務室ニ在リ。山県有朋ハ波多野敬直ノ官房ニテ波多野ト話ス。波多野、予ヲ召フ乃チ入ル。波多野勅語案ヲ求ム。乃チ之ヲ付ス。波多野之ヲ山県ニ示ス。山県是丈ケノコトナラハ、之ヲ記録ニ留メテモ別ニ不都合ナシト云フ。
予先日山県ヨリ宮附職員カ皇族ニ迎合シテ皇族ノ降下ニ関スル施行準則案ニ反対スルコトヲ勧ムルモノアルヤモ斗ラレサル旨ヲ話サレタルカ、予モ其点ニ付テハ幾分ノ疑ナキニ非ス。マサカニ自ラ進ンテ反対ヲ勧ムルモノハナカルヘキモ、意見デモ問ハルレハ賛成ヲ勧ムル丈ケノ勇気アル者ハ少カルヘシト思フト云フ。波多野、只今皇族ニ附ケ居ル事務官抔ハ右ノ如キ事ニ関係セシムル為メニ附ケ置クモノニ非ス、只雑事ヲ弁セシムル為メニ附ケ置クモノニ付、事務官抔ニ意見ヲ問ハルヽカ間違ナリト云フ。山県、侃諤ノ人ヲ附ケ置ク必要アリト云フ。
既ニシテ十一時トナル。乃チ山県、波多野ト共ニ宮中ニ赴ク。山県廊下ニテ予ト波多野ヲシテ先チ行カシム。山県ハ歩スルコト遅キヲ以テナリ。波多野ト山県ハ御座所ニ行キ、予ハ直ニ会場タル西一ノ間ニ行ク。井上勝之助、石原健三既ニ在リ。待ツコト十分許ニシテ山県有朋、松方正義、西園寺公望、波多野敬直来ル。波多野ヨリ皇族会議是迄ノ成行ヲ述ヘ、今後ニ処スヘキ方法ヲ謀ル。其方法ハ可否正半数ナルトキハ決ヲ採ラスシテ、其侭議長ヨリ上奏スルコト。反対説多数ナル如キ場合ニハ、採決ヲ延期シテ勅旨ヲ奏請スルコト等ナリ。
西園寺ハ皇族中所聞ノ如キ意見ヲ有セラルヽ方アルハ実ニ意外ナリ。此ノ如キ意見ハ露骨ニ云ヘハ町人根性ナリ。此ノ如キ事ニナリタル病根ハ何処ニ在ルヘキヤト云フ。波多野別、段病根ト認ムヘキモノナキモ、結局自家愛着ノ考ニ外ナラサルヘシト云フ。山県ヨリ北白川宮ハ初メ原案賛成ノ意見ナリシモ、後ニ変説セラレタルハ他ノ勧誘アリタルニ依ルモノヽ如シト云フ趣旨ヲ述フ。西園寺、此等ガ即チ病根ナルヘシト云フ。波多野ヨリ予ガ草シタル勅語案ヲ西園寺ニ示ス。西園寺、議事ノ初ナラハ此ニテ宜シカルヘキモ、既ニ反対意見アリテ反省ヲ命スル場合トシテハ今少シ手強キ語ヲ下サルヽ方可ナルヘク、此ノ詳カニ説明セラルヽ必要ナク、直接ニ賛成ヲ命セラレテ可ナルヘシト云フ。
結局各元老ハ可否同数ニテモ、一人ノ多数ニテモ、又ハ皇族全体ガ自己ノ利害ニ関スル問題ナリトテ議決セサルモ、其時ノ都合ニスルコトヽ為シテ、本月十五日ニ皇族会議ヲ開クコトニ決ス。元老会議ノ席上ニテ石原ヨリ賀陽宮ハ本月十三日ヨリ神宮皇陵参拝ノ為メ旅行セラルル予定ナル故、宮務監督ヲシテ皇族会議ヲ開カレテモ旅行セラルヽヤヲ確カメシメタル処、既ニ旅行スルコトニ決シ居ル故、之ヲ止メサル旨ヲ答ヘラレタル趣ナルコトヲ報告ス。一時ハ皇族会議ヲ十四日ニ開クコトニスヘキ意見アリタルモ、賀陽宮ガ十三日ニ旅行シ、其翌日ニ開会スルハ余リ急ニ過ク。加之一日ノコトナラハ旅行ヲ一日延ハス様ノコトアルヤモ斗ラレサル故、十五日ニ開会スル方可ナラントノコトニ決シタルナリ。
山県ヨリ古来五世後皇族ト為シタル例ハ多カラサルヘシト云フ。予近世ニ於ケル四親王家ノ制度ヲ外ニスレハ、初メハ五世滅親ノ制ナリシカ、一時五世王ヲ皇親ニ入レ、又五世王ガ女王ヲ娶リテ生ミタル嫡子ヲ皇親ニ加ヘタルコトアルモ、是等ハ一時ノ事ニテ間モ〔ナク〕旧制ニ復シタル旨ヲ答フ。
十二時後一同ニ午餐ヲ賜フ。餐後元老等ハ他ノ事ヲ議ス。井上石原及予ハ之ヲ避ク。石原ノ事務室ニ過キル。石原、先刻元老等カ反対論多数ナルトキ下サント云ヒタル勅語案ヲ作リ見呉ヨト云フ。予之ヲ諾シ、審査局ニ返リ勅語案ヲ作リ、石原ノ室ニ到リ、之ヲ交ス。石原是ニテ宜シカルヘク、之ヲ元老ニ示シ置クヘシトテ元老等ノ処ニ到リ、返リテ元老等ハ他ノ事ヲ議シ居リタル故、之ヲ大臣ニ渡シ置タリト云フ。予、予ハ王世子邸ニ行カント欲ス。他ニ用事ナカルヘシト云フ。石原用事ナカルヘキ旨ヲ答フ。
○午後三時三十分ヨリ王世子邸ニ行キ、昨日紀念品ヲ贈ラレタルコトヲ謝ス。先ツ高羲敬及金応善及某ト話ス。高、世子ニ予ガ来リタルコトヲ報シ、世子予ヲ其書斎ニ延見ス。予昨日ノ贈ヲ謝シ且予ガ世子ノ顧問ト為リタルハ、世子ノ雑務ヲ執ル為メニ非ス。故ニ屡々来邸スル要ナシ。若シ世子ヨリ予ニ問フコトアリ、若クハ予ヨリ世子ニ進言スルコトアラハ、其時ニ来ルヘシ。世子ノ行動ニ指議スヘキコトナケレハ予ハ一言モ発セサルヘク、今後予ヲシテ始終黙ヲ守ラシムル様行動ヲ慎マレンコトヲ望ム旨ヲ告ク。高、傍ニ在リ之ヲ聴キテ微笑セリ。五時頃家ニ帰ル。
【△上に戻る】
○五月十一日午前十一時頃石原健三予ガ事務室ニ来リ昨夜工藤一記ヨリ電話ニテ賀陽宮殿下ハ十三日ヨリ太廟ニ参拝セラルヽ予定ナリシ処太廟ノ方十四日ハ例祭ニテ差支アル旨ヲ報シ来リ其ノ為メ十三日ヨリノ旅行ハ延期セラルヽコトヽナリタル旨ヲ報ス依テ自分（石原）ハ今朝賀陽宮ニ到リ殿下ニ謁シ聞クカ如ニハ殿下ハ十三日ヨリ御旅行ノ予定ナル由然ルニ宮内省ニテハ十五日ニ皇族会議ヲ開カルヽコトニ定マリタル故速ニ此事ヲ殿下ニ報スヘキ筈ノ処終ニ今朝マテ延引シタル故其不都合ヲ謝スト云ヒタルニ殿下ヨリ十三日ヨリノ旅行ハ太廟ノ都合ニテ延ハシタリト云ハレ自分ハ夫レナラハ報告延引シタルモ都合宜シカリシト云ヒ尚ホ準則案ニ付殿下反対ノ理由ナキコトヲ談シタルニ殿下ヨリ何故故邦家親王ヨリ世数ヲ数ユルヤ等ノ愚問ヲ発セラレ一々之ヲ説明シ結局殿下ハ今俄カニ此ノ如キ既定ヲ設クル要ナキニ非スヤト云ハルヽ故今俄カニ之ヲ設クルニ非ス典範増補ニテ既ニ定マリ居ルコトヲ説明シ殿下ハ始メテ案ノ趣旨ヲ領解セリ然レトモ賛否ハ告ケ難シト云ハレ是マテ案ノ趣旨ヲ領解シ居ラサリシコトハ真実ナルカ如シ大臣カ度々説明シタルモ矢張リ領解出来サリシ模様ナリト云フ
○午後一時後四十分頃ヨリ歩シテ土肥慶蔵ノ家ニ行キ黒子ヲ療シ且内子ノ腕ニ（ラシユーム）ヲ貼スルコトハ屡々ニシテハ害アリヤ前ノ木曜ニ（ラジユーム）ヲ用ヰ明後日ノ土曜日ニ来ルヘキコトヲ告ケラレタル由ナルカ本人ハ害ナケレハ度々之ヲ用ヰ速ニ効ヲ奏スルコトヲ望ムト云ヒ居レリト云フ土肥害アルニ非サルモ（リューマチス）ノ容体ニテ愈々（ラシユーム）カ効ヲ奏スルヤ否不明ナリ故ニ一回試シテ模様ヲ見ント思ヒタル所ナリ然シ本人ノ望アラハ何時来ラレテモ宜シト云ヘリ
○午後宮内省ニテ渡辺直達ヨリ明治二十一年有馬家ノ紛議ニ関スル書類ニシテ大正八年十一月二十四日渡辺ヨリ有馬伯ニ渡シ（同年十二月二十一日伯ヨリ予ニ渡シタリ）タルモノヽ外尚ホ有栖川宮ニ残リ居リタル書類アリタリトテ之ヲ予ニ渡シタリ（此コトハ本年六月三日ニ至リ伯ニ告ケ書類ハ前ノ分ト併セテ予カ保管スルコトモ告ケ置キタリ）
〔上段に追記〕
渡辺直達ヨリ有馬家ノ紛議ニ関スル書類ヲ予ニ渡シタルコトノ記事ハ大正十一年八月二十六日午後ニ追記セリ
【△上に戻る】
○五月十二日午前十一時頃波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ皇族会議愈々十五日ニ開カルルコトニ決シタル以上ハ先月八日ニ開会ヲ延期セラレタル事由ヲ参列員ニ通告シ置ク必要アルヘシ予ハ今日司法省ニ行キ横田国臣ニ面会スヘキニ付君ノ意ナリトテ其事由ヲ横田ニ話シ置ク方宜シクハナキヤト云フ波多野横田ニ話シ置呉ヨト云フ予之ヲ話スニハ別ニ内情ヲ秘スル必要ナカルヘシト云フ波多野有ノ侭話シテ差支ナシト云フ波多野又只今浜尾新来リ皇太子殿下皇族会議ニ御列席アラセラルニ付テハ議案ニ対スル御意見ハ殿下ノ御自由ニ任カス方宜シカルヘク自分（浜尾）ヨリハ是迄何トモ言上シ居ラスト云フ依テ自分（波多野）ハ既ニ陛下ヨリ正式ニ御諮詢アリタル議案ニ対シ殿下カ反対ナサルル様ノコトアリテハ不都合ナリ単ニ陛下ヨリ殿下ニ対シ此ノ事ハ如何スヘキヤトノ御問アリタル様ノ場合ナラハ兎モ角今日ノ場合ハ殿下ノ御任意ト云フ訳ニ行カス自分（波多野）ハ今日参殿シテ委細言上スル積リナル故君（浜尾）ヨリハ何事モ言上セサル様致シ度ト云ヒ置ケリ浜尾等ノ考ヘモ実ニ分カラスト云ヘリ
○午前石原健三、多嘉王殿下ハ皇族会議アルモ強ヒテ上京セラルヽニ及ハサル旨ヲ宗秩寮ヨリ殿下ニ通知セシメントシタルニ仙石政敬ハ先日ハ宗秩寮限リニテ其通知ヲ発シタルモ此節ハ先日来ノ行掛モアリ一応其事ヲ久邇宮ニ話シタル上ニ非サレハ通知ヲ発シ難シト云フニ付然ラハ仙石ヨリ之ヲ久邇宮ニ話セト云ヒタルニ仙石ハ之ヲ拒ミタリ依テ此事ハ宗秩寮ノ事務ナル故宗秩寮総裁ヨリ話シタラハ宜シカラント云ヒタレトモ是モ拒ムニ付自分（石原）カ行キテ話ス積リナリト云フ
○午前南部光臣審査局ニ来リ皇族会議議事ノ順序ヲ謀ル予詳細順序ヲ定メ置クモ臨機処置スルコトハ議長ニテハ出来サル故君（南部）カ議長ノ傍ニ席ヲ設ケ其時ニ紙片ニ記シテ議長ノ処置ヲ促スコトヽ為ス方宜シカルヘキ旨ヲ告ク
○午後一時後石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒ石原カ久邇宮ニ行キタル模様ヲ問ハントス石原正ニ入江某ト話ス予乃チ入ラスシテ去ル
○午後二時前ヨリ司法大臣官舎ニ行キ臨時法制審議会主査委員会ニ列ス開会前横田国臣ヲ別室ニ誘ヒ皇族会議ノ議案ニ付議員中反対ヲ唱フル者アリ先日八日一応会議ヲ延期シ其後種々協議ヲ重ネタルモ到底一致セス十五日ノ会議ニテハ正半数ニテ議決セサルカ又ハ議員各自ノ利害ニ関スルトノ事由ニテ表決セサルカニ決スル模様ナルコトヲ告ク横田之ヲ領ス法制審議会主査ニテハ陪審員タル資格及其選挙方法ニ付審議ス協議纏マラス先ツ陪審員タル資格ナシトスル者ヲ議スルコトト為シ一応無資格者ノ協議ヲ終ハリ五時後散会ス
【△上に戻る】
○五月十三日午前八時頃内子ヲシテ高羲敬ノ家ニ電話シ今夕三河屋ニ招飲セラレタルモ差支アリ招ニ赴キ難キ旨ヲ告ケシム
○午前九時前松田正之ヨリ電話ニテ自分（松田）辞職ノコトハ一応波多野敬直ニ相談シタル上決スヘキ旨先日注意セラレタル故波多野ヲ訪ヒタルモ多用ニテ面会ヲ得ス其後モ訪ヒタルモ不在ニテ空ク帰リタリ右ノ次第ニテ君（予）ヨリ波多野ニ相談シ呉ヨト云フ予之ヲ諾ス
○午前十時後石原健三ノ事務室ニ到リ石原カ昨日久邇宮ニ行キタル模様ヲ問フ石原昨夜波多野ハ北白川宮ニ行キ殿下ヨリ皇族会議ノ議案ハ議員全体ノ利害ニ関スル故表決セサルコトニ一同申合セ出来タルコトヲ告ケラレ議事順序ノ相談アリ北白川宮ハ山辺知春ヲ従ヘ各宮ヲ廻訪シテ意見ヲ交換シ結局議決セサルコトニ協議セラレタル趣ナルカ其発議ハ閑院宮ヨリ之ヲ述ヘラレ北白川宮之ヲ賛成セラルヽ順序ナリ昨夜七時頃北白川宮ヨリ自分（石原）モ召ハレタレトモ自分（石原）七時後ニ帰宅シ既ニ晩クモアリ帰宅後直ニ帰宅ノコトヲ報セス八時後ニ至リ之ヲ報シタル処波多野ハ尚ホ宮邸ニ在ルヲ以テ直ニ来リ呉ヨトノコトナルヲ以テ九時頃ニ宮邸ニ行キ其議ニ加ハリタリ結局ハ議決ハセサルコトニ決シタルモ質問ヲ為シ意見ハ之ヲ述フヘシトノコトナリ依テ質問ハ宜シキモ反対意見ヲ述ヘラレテハ此方ヨリモ弁駁セサルヘカラサル故意見ヲ述フルコトハ止メラレ度ト云ヒ山辺モ頻リニ之ヲ止メタルモ意見ハ述フルコトヽナリ其代リ弁駁モスルコトヽナレリ但シ弁駁モ極軽クスルルコトヲ望ムトノコトナリト云フ予閑院宮ヨリ議決スヘキモノニ非ストノ提議アラハ宮内大臣ヨリ一応ハ其意見ニ賛成セサルコトヲ述ヘ議決ナラハ致シ方ナシト云ハサレハ宮内大臣モ其提議ニ賛成シタルコトヽナリ其結果ハ大臣ノ職責問題トナルヘシト云フ石原、大臣ヨリ反対ノ意見ヲ述フル様ナラハ協議ハ破ルヽ故之ヲ述ヘ難シト云フ予之ヲ駁ス論駁再三石原稍々激ス石原ハ閑院宮ノ提議ハ宮一己丈ノコトニテ議題トナルモノニ非ス他ノ宮モ自分モ同様ト云フテ一己ノ丈ケノ表決ヲ避ケラルヽ趣意ナリト云フ予夫レハ無意義ナリ右様ノ提議ナラハ賛成者モアル訳ニモ行カスト云フ石原其通リナリト云フ結局互ニ言ヒ張ルノミ井上勝之助其席ニ在リ倉富君ノ言ハ理由アリト思フモ其ノ為右協議カ破レテハ困ルト云フ予等カ議論シ居ルトキ国分象太郎石原ノ室ニ来リ明日出発京城ニ帰ル旨ヲ告ク予訪問告別セサルコトヲ告ク予ハ石原ノ室ヲ出テ波多野ノ官房ニ到リ石原ノ意見ヲ告ケ石原ノ意見ニテハ大臣ハ議決スヘカラサルモノヲ出シタルコトヽナル故一応ノ弁明ハ必要ナルヘシト云フ波多野一応ノ弁明ヲ為スハ差支ナシト云フ予波多野ニ対シ松田正之ハ昨年文官高等試験ノ筆記試験ニ合格シ今年ハ口頭試験ノミヲ受クルコトヽナリ居ルカ其ノ準備ノ為メ宮内属ヲ辞シ度ニ付一応君ノ意見ヲ聴キ度往訪シタルモ面会ヲ得サリシニ付予ヨリ之ヲ聴呉ヨト云ヘリ予ハ試験準備ノ為メ官ヲ辞スル必要アリトハ思ハサルモ松田ノ転任ニ付テハ是迄種々ノ故障アリ宮内省ニテハ仮リニ試験ニ合格スルモ都合ヨク行カサルヘク思ハルヽ故寧ロ専ラ試験準備ヲ為シ合格シタラハ政府ノ方ニ採用ヲ依頼スル方都合宜シカラント思ヒ本人ニ対シテハ強ヒテ反対セサル旨ヲ話シ置タリト云フ波多野一度官ヲ辞シ試験ニ合格セストテ再ヒ宮内官タルコトヲ望ム様ニテハ尚更都合附キ難カルヘシ且松田寡婦ノ意見ハ如何アルヘキヤト云フ予此節官ヲ辞シタラハ再ヒ宮内省ニ奉職スルコトハ困難ナルヘシ松田寡婦ノ方ハ本人カイツマテモ博物館ノ属官タルコトハ人ニ対シテモ不面目ナル故之ヲ辞スルコトハ異議ナク寧ロ之ヲ促ス位トノコトナリト云フ波多野然ラハ再ヒ宮内官タルコトヲ希望セス且寡婦モ異議ナクハ自分（波多野）モ異議ナキ旨ヲ通知シ呉レテ差支ナシト云フ井上勝之助モ先刻ヨリ此席ニ在リ此時丁度倉富君モ居ラルル故王世子顧問ノ職務ノ範囲ヲ決定シ置カレ度然ラサレハ倉富君モ困難ナルヘシト云フ波多野先日モ一ト通リ話シ置タル如ク世子ノ輔導ヲ主トスル積ナリト云フ井上世子邸ノ会計等ニ付テハ事務官モアルコト故此等ノ事ニハ関係スル必要ナカルヘシト云フ波多野右等ノ事ニハ関係スル必要ナカルヘキモ妃殿下ヨリ直接世子ニ云ヒ難キコトモアルヘク時トシテハ妃殿下ノ事モ処理スル位ノ必要ハアルヘシト云フ予予ハ未タ別段ノ話ハ聞カサルモ先日高羲敬ノ話ニ妃殿下ノ侍女抔ハ兎角梨本宮家ノ振合ノミヲ云々スルモ世子ノ妃トナラレタル以上ハ世子邸ヲ主トスル必要アリト云ヒ居リタリ或ハ右様ノ事ニテ多少ノ問題ハ起ルヘシ何処ニモ婦人問題ハアリ勝ナリト云フ井上一応大臣ノ趣旨ヲ書面ニシテ倉富君ニ渡シ置キタラハ如何ト云フ波多野顧問ト云フ字ノ説明ヲ附クル様ノコトトナルヘシト云フテ之ヲ拒ムノ口気アリ予只今ノ話ノ通リナラハ大概了解シタルニ付強ヒテ書面ヲ求ムルニ及ハスト云フ
○此時波多野敬直ヨリ東久邇宮ノ妃殿下今晩一時後分娩王男子出生セラレタルコトヲ聞ク十一時後審査局ニ返ル西野英男東久邇宮邸ヨリ電話ニテ妃殿下分娩王男子出生セラレタルコトヲ閣下（予）ニ報シ来リタルコトヲ告ク西野又本月十八日斎藤朝鮮総督ノ晩餐ニハ案内状ニ燕尾服ノ記載アルモ世子殿下妃殿下トモ略服ニテ行カレル故陪賓モフロツクコートニテ宜シキ旨宗秩寮ヨリ通知シ来リタルコトヲ報ス
○午後一時頃ヨリ宮内省ノ自動車ニ乗リ東久邇宮邸ニ行キ妃殿下ノ分娩ヲ賀ス村木雅美ニ逢ヒ賀辞ヲ述フ萩原淳来リテ王男児ニ謁スルコトヲ勧ム予乃チ入リテ之ヲ見ル村木侍女ヲ罷メタルコト萩原ヲ転任セシムルコトヲ王殿下ヨリ命セラ〔レ〕居ルコト等ヲ話ス話スル三十分許ニシテ宮内省ニ返ル
○午後二時後南部光臣ノ室ニ到リ皇族会議ニ関スル石原健三ノ意見ヲ論ス南部石原ノ意見不当ナルコトヲ語ル石原ハ皇族会議ハ各自利害関係アリト云フノミニテ何等ノ議決モ為スヘキモノニ非スト主張スルヲ以テ之ヲ不可トスルナリ（予ガ南部ト話スルトテ仙石政敬来リ宮内大臣ヨリ王世子顧問ノ職務ニ付口達シタルコトハ後日ノ議論ヲ防ク為メ之ヲ書キ取リ大臣次官及宗秩寮総裁ノ認印ヲ取リ置タリトテ之ヲ予ニ示ス予予ハ口達ニテ其意ヲ領シタル故書面ヲ要セスト云ヒ置タルモ既ニ書面ヲ作リタラハ其ノ写ヲ予ニ渡シ呉ヨト云フ仙石之ヲ諾ス）
訂正前頁（予ガ南部ト話スルトキ仙石政敬来リ云々）ノ一段ハ十四日午前ノ日記ニ記スヘキモノナリ
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○五月十四日午前十時後南部光臣事務室ニ到リ皇族会議ニテ各自ノ利害関係云々ハ石原ノ云フ如ク議場ニテ各自之ヲ述ヘラルルノミニテ議決セサルコトニナリタルヤト云フ南部石原ノ所論ハ余リ不都合ニ付自分（南部）ハ議場ニテ議決スルコトノ順序書ヲ作リ之ヲ提出シタル処石原ハ反対ヲ唱ヘ議論シタルモ大臣ハ是ニテ宜シトテ議決スルコトニ決シタリト云フ十一時頃仙石政敬、南部ノ事務室ニ来リ王世子顧問ノ職問ニ関スル宮内大臣口達ノ趣旨ヲ書面ニ記シ大臣次官宗秩寮総裁ノ認印ヲ受ケ置タリトテ其書面ヲ南部ニ示ス予書面ヲ作リタラハ其写ヲ渡シ呉ヨト云フ仙石之ヲ諾ス（昨日ノ日記ニ此事ヲ記シタルハ誤ナリ）
○十二時前小原駩吉予ノ事務室ニ来リ皇族ノ降下ニ関スル準則ハ会議ニテハ議決セサルコトヽナリタル由ナルカ其方カ宜シカルヘシト云フ小原又賀陽宮ヨリ自分（小原）ヲ召ハレタル故往訪シタル処殿下ヨリ皇族会議ニテ議案ヲ議決セサルトキハ其結果ハ如何ナルヤト云ハレタルニ付自分（小原）ハ此事ガ研究シ居ラサルニ付確タル事ハ申シ難キモ此節ノ議案ハ是非トモ皇族会議ノ議決ヲ必要トスルモノニ非サルニ付議決セラレサルモ御裁可アルニ差支ナカルヘシト申上ケ置タリト云フ賀陽宮ノ大妃ハ先代ノ宮ノ無能ナリシニ懲リ其女ハ財産ナキモ相当ノ材幹アル人ニ嫁セシメ度トノ希望ニテ第一女ハ町尻量基ニ嫁セシメラレ町尻ハ家計裕カナラス夫人（由紀子）ハ子ヲ負ヒテ電車ニ乗ルト云フ位ニテ自分（小原）等ノ妻ヨリモ苦労シ居レトモ少シモ不平ナク大妃モ之ニ満足シ居ラレ第二所佐紀子女王モ相当ノ人ニ嫁セシメ度ト云ヒ居ラルト云フ予松田正之カ試験準備ノ為メ官ヲ辞シ度ト云ヒ予ヨリ之ヲ波多野ニ相談シタルコトヲ談ス小原任用令モ改正セラルレハ試験モ是迄ノ如ク必要ナラサルヘキニ付今暫ク辛抱スル方宜シクハナキヤト云フ予宮内省ニテハ到底望ナキニ付予ハ寧ロ官吏トナルニシテモ政府ノ方宜シカラント思フニ付辞職ヲ止メサルナリト云フ
○午後零時後波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ皇族会議ノ事ハ如何決シタルヤヲ問フ波多野、閑院宮ニ行キ殿下ニ協議シ殿下ヨリ各自ノ利害ニ関スル議案ナル故採決ヲ憚ル旨ヲ提議セラルルコトニ決シタリト云フ予山県公ノ意見ハ如何ト云フ波多野山県公ハ不同意ニテ何事カ分ラサルニ非スヤト云ヒタリト云フ予又閑院宮ヨリ提議アリタルトキ宮内大臣ハ其意見ニ対シ弁明スルヤト云フ波多野之ニ対シテハ弁明セサルコトニ決シタリ宮内大臣カ反対ノ意思ヲ言明スル様ナラハ議決セサル協議ハ取消ス旨山辺知春ヨリ申出テ山辺ハ余程怒リタル趣ナリト云フ
○午後石原健三ヲ其事務室ニ訪フ石原山辺知春ヨリ急ニ面会シ度ト申来リ之ヲ待チ居ル処ナリ何事ヲ申来ルヤ今ニナリテ決議セサル協議破ルレハ又混雑ナリ自分（石原）ハ伊東巳代治ヲ訪ヒ是迄ノ成行ヲ報告スヘキ旨大臣ヨリ嘱セラレ居ルモ山辺カ来ル迄延ハシ居ル所ナリ予伊東ハ方子女王ニ女王ノ称号ヲ許サレタルコトニ付不平ヲ唱ヘ居ルコトヲ伝聞セリト云フ石原、先日ヨリ伊東ガ自分（石原）ニ話度コトアリト云ヒ居ルカ其事ヲ話ス積リナラント云フ予ハ山辺ノ来ルヲ待タスシテ退省セリ
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○五月十五日午前九時ヨリ宮内省ニ出勤シ波多野敬直ノ官房ニテ山県有朋及波多野ト話ス山県、予ニ対シ皇族会議ニテ今日ノ議案ヲ議決セサルコトハ君ハ何ト考フルヤト云フ予予ハ適当ナラスト思フト云フ山県何ト云フコトナルヤ分ラス唯宸慮ヲ煩ハシ奉ルヨリモ宜シトノコトナルヘシト云フ十時ヨリ宮中東溜ノ間ニテ皇族会議ヲ開カル山県、松方正義、原敬、波多野敬直、横田国臣ノ参列員及予、石原健三ノ説明員、南部光臣、浅田恵一ノ宮内高等官先ツ著席ス次テ貞愛親王、載仁親王、依仁親王、博恭王、博義王、武彦王、恒憲王、邦彦王、守正王、鳩彦王、成久王、著席セラレ最後ニ皇太子裕仁親王殿下著席セラル議長貞愛親王開会ヲ宣セラレ波多野案ノ大体ニ付演述シ予ハ案ノ各条ニ付説明シ山県ハ枢密院ニテ本案ノ可決シタル次第及案ノ適当ニシテ必要ナル理由ヲ説明シ成久王ヨリ提案ノ時期ニ付質問アリ其趣意ハ現時民心動揺ノ際皇族降下ノ如キ処分ヲ為スハ一層民心ノ動揺ヲ誘発スル恐ナキヤト云フニ在リ波多野ハ民心動揺ノ際ナルヲ以テ一層本案ノ必要アリトノ意ヲ答ヘ邦彦王ヨリ本案ノ施行ハ皇統断絶ノ懸念アリトノ意ヲ以テ質問ヲ為シ波多野ヨリ其懸念ナキ旨ヲ答ヘ鳩彦王ヨリ準則ハ典範増補ニ矛盾スルノ疑アリトテ質問セラレ予ヨリ然ラサル旨ヲ答ヘ博恭王ハ準則ノ用語ニ付質問セラル其趣意ハ増補ニハ華族ニ列セシムルコトアルヘシトアルニ準則ニハ華族ニ列スト〔数字不明〕在リ何ノ為メナルヤト云フニ在リ予増補準則トノ関係ニ付答弁シ質問応答終ハリタル後議長ヨリ本案ニ対スル意見ヲ問ハレ載仁親王ヨリ本案ハ皇族会議員各自ノ利害ニ関係スルヲ以テ自分（載仁親王）ハ表決セサル旨ヲ述ヘラレ此ノ提議ニ対シ成久王ハ賛成ヲ表シ博恭王邦彦王ハ反対ノ意ヲ以テ質問ヲ発セラレ博恭王ノ問ニ対シテハ成久王ヨリ答ヘラレ邦彦王ハ載仁親王ノ意見ニ付宮内大臣ニ対シ質問セラレ波多野ハ載仁親王ノ意見ハ会議令第九条ノ正面ナリトテ表決ヲ避ケラレタルニ非ス該条ノ精神ニ依リ表決ヲ避ケラルヽ趣意ナリト聞キタリ多数ニテ其事ニ決セラルレハ当局者トシテ異議ヲ唱ヘサル旨ヲ述フ議長ハ載仁親王ノ意見ニ対シ反対ノ論ナキヲ以テ表決セサルコトヽ決スト宣言シ閉会ヲ告ク時ニ十一時後ナリ会議員及ヒ関係者ニ対シ竹ノ間（千種ノ間ノ奥）ニテ午餐ヲ賜ハリタルモ皇族ハ皇太子殿下武彦王鳩彦王ノ外皆午餐ヲ受ケスシテ退出セラレ参列員及予等ハ午餐ニ列シタリ
○午後一時三十分ヨリ波多野敬直平田東助平山成信石原健三山崎四男六南部光臣ト共ニ帝室経済ニ関スル事ヲ協議ス五時頃協議ヲ終ハル平山石原ニ対シ中央畜産会カ博物館ヨリ借リ受ケ居ル土地ニ建築スルコトヲ博物館ニテ承諾セサル事ニ付不平ヲ唱ヘ平田波多野等ニ博物館ノ処置ヲ不穏当ナリトスル口気アリ予ハ何等ノ関係ナカリシモ博物館所属ノ土地ハ近々政府ニ引渡スコトヽナリ居ル趣ニ付其上ニテ建築ノ承認ヲ求メタラハ夫レニテ宜シキニ非スヤト云フ平山博物館カ承認セサル理由ナシト云フ予建物ノ焼失ニ因リ博物館ハ土地ノ貸借ヲ止メントスルモノナレハ博物館ニテ承認セサルモ理由ナキニ非サル旨ヲ説ク平山怒気ヲ含ミタル模様アリ
○午後内子土肥慶蔵ノ家ニ行キ右腕ノ痛ヲ療ス
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○五月十六日（日曜）午前ヨリ午後二時頃マテ書状ヲ作ル
○午後二時後浅田恵一ヨリ電話ニテ皇族会議ノトキ原案各条ノ趣意ヲ説明セラレタル原稿アラハ借用シ度自分（浅田）ハ議事録ヲ作リ居ル故参照シ度シト云フ予原稿ハ纏マリ居ラス之ヲ纏メタル上貸与スヘシト云フ浅田明日ニテ宜シキニ付貸与ヲ請フト云フ予之ヲ諾ス
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○五月十七日午前十時後高羲敬予ノ事務室ニ来ル予先日高ノ招ヲ受ケタルモ差支アリ招ニ応スルコト能ハサリシコトヲ話ス高、国分象太郎カ急ニ朝鮮ニ帰ルコトヽナリタル故俄ニ宴会ヲ思ヒ立チ案内シタル訳ナリト云フ予予ガ世子ノ顧問トナリタルコトニ付テハ先日世子ニ話シ置タル通リ日常ノ事務ヲ執ル積リニ非ス世子ヲ輔導スルカ目的ナル処予ハ朝夕世子ニ接スル訳ニ非ス事情分リ難キニ付一ニ君ノ注意ヲ望ム旨ヲ告ク高先日世子ヨリ宮内大臣ニ紀念品ヲ贈ラレ其礼ニ大臣ガ世子邸ニ来ラレタルトキモ顧問ヲ置タル趣意ヲ自分（高）ニ話サレタリ大臣ハ倉富ハ君ノ先考ト多年事ヲ共ニシタル人ニ付君モ協同シテ世子ヲ輔佐スヘキ旨ヲ語ラレタリト云ヒ朝鮮人カ高ヲ排斥スルコト高ノ父ノ弟ノ子（即チ従弟）ニ不良少年アリ上海ノ仮政府ニテ相当ノ職務ヲ執リ居リ変装シテ支那人ト為リ居リ時ニ東京ニモ来リ精々自分（高）ノ不在ヲ窺ヒテ留守宅ニ来リ自分（高）ノ子供等ヲ誘惑セントスルモ子供等ハ平素十分訓戒シ居ル故之ニ惑ハサルコト右ノ従弟ノ関係ニテ一時ハ警視庁ニテモ高ヲ疑ヒタルコトアルコト高ハ明ニ従弟ノコトヲ警察官ニ話シタルコト朝鮮人ヨリ朝鮮独立ノコトヲ高ニ説キ高ハ独立結構ナリ君等ハ自分（高）ニ関係ナク独立ヲ謀ルヘシト云ヒタルコト等ノ話ヲ為シ予ヨリ朝鮮人カ独立ヲ云々スルモ李王ヲ戴ク考ニ非サルコトヲ語リ高モ全ク其通リナリ故ニ李王家ハトコマテモ皇室ニ依頼スルヲ上策トスル旨ヲ語ル話スルコト三十分許此時（十一時前）小原駩吉来ル高乃チ去ル小原松田正之ハ官ヲ辞セスシテ試験ヲ受クル方得策ニ非スヤト云フ予博物館ハ多用ナル所ニ非サルモ既ニ度々試験ヲ受ケタル故試験準備ノ為メ休暇ヲ取ルモ気ノ毒ノ感アル模様ナリ且今後官途ニ就クナラハ宮内省ニ非サル方ガ宜シカラント思フ旨ヲ答フ小原皇族会議ノ結果ヲ説ク予多少平素ノ感情ガ会議ヲ機会トシテ破裂シタルヤニ思ハレサルニモ非スト云フ小原少シハ其模様モアルヘシト云フ
○午後一時後皇族会議ノ時ノ説明原稿ヲ浅田恵一ニ渡サント思ヒ調査課ニ行ク浅田在ラス食堂ニ在ルナラント云フ乃チ食堂ニ行ク在ラス波多野、市来政方山崎四男六吉田平吾小原駩吉等ト雑話スルコト少時予吉田ニ対シ予ガ王世子邸ニ行クトキ自動車ニ乗ルコトニ付次官ヘ話シ次官ヨリ君ニ話スコトニ致シ置タルカ次官ヨリ話ヲ聞キタリヤト云フ吉田次官ノ話ヲ聞タリ王世子邸ニ行カルヽトキニ止マラス其他ノ時ニテモ自動車ガ明キ居リサヘスレハ乗用セラレテ差支ナシト云フ予更ニ調査課ニ行キ説明原稿ヲ浅田恵一ニ交ス浅田之ヲ与ヘヨト云フ予之ヲ与ヘス之ヲ貸スヘシト云フ浅田他ニ君ノ閲覧ヲ経度モノアリ後刻審査局ニ行クヘシト云フ
○午前十一時後金井四郎電話ニテ来ル十九日東久邇宮第三王子命名ニ付祝酒ヲ供セラレ度来邸セラルルコト出来ルヤト云フ予参邸スヘキ旨ヲ答フ
○午後二時頃浅田恵一本月十五日ニ開カレタル皇族会議ノ議事録草案ヲ携ヘ来リ予ノ校閲ヲ請ヒ且一ヶ所ハ自分（浅田）他ノ用務ヲ執リ居リ筆記ヲ漏ラシタル故之ヲ補ヒ呉ヨト云フ予之ヲ諾シ草案ヲ預リ直ニ一二ノ訂正ヲ加ヘ且一ヶ所ハ説明ヲ補ヒ往テ之ヲ浅田ニ返ス予ガ之ヲ補ヒタルハ博恭王ヨリ皇室典範増補第一条ノ末文ニハ華族ニ列セシムルコトアルヘシトアルニ準則第一条ニハ華族ニ列スト決定的ノ辞ヲ用ヰタル理由ヲ問ハレタルニ答ヘタル所ナリ浅田カ来リテ校正ヲ嘱シタルトキ予ノ原稿ハ口語体ニ非ス山県枢密院議長ノ演説原稿モ同様ナリ然ルニ君ノ作リタル議事録ハ口語体ニナリ居ル故山県及予ノ原稿モ口語体ニ改メサレハ前後不釣合トナリテ不都合ナルヘキ旨ヲ話シ置タリ
○午後六時宮内省ヨリ使ヲ遣ハシ武宗太郎カ修善寺ヨリ予ニ贈ル書状ヲ致サシム其書状ハ武カ病中ニテ転地療養中ナルコトヲ叙シ内大臣秘書官ニ推薦シ呉度旨ヲ書シアリ予浅田恵一ニ電話シ武ハ病中ナリヤヲ問フ浅田病中ナリ病症ハ神経衰弱ニテ其原因ハアルコール中毒ナリヤ又ハ一種ノ花柳病ヨリ来リタルモノナリヤ尚ホ不明ナリ兎ニ角神経ニ病アル故同人ノ言フコトハ当ニナラスト云フ予然ラハ旦夕ニ迫マリ居ル如キ容体ニハ非サルヘシ武ヨリ予ニ書状ヲ贈リ高等官ニ進ミ度コトヲ申越セリ若シ危篤ニ迫リ居ル様ナラハ成否ハ別トシテ其筋ノ人ヘ話丈ハ為シ見ル必要アルヘシト思ヒ問ヒ合セタル次第ナリト云フ浅田痴人夢ヲ説クモノト思ヒ居リ呉度且其書状ハ自分（浅田）ニ見セ呉ヨト云フ予明日宮内省ニ持チ行キテ君ニ示スコトニスヘシト云フ
【△上に戻る】
○五月十八日午前十時後金井四郎審査局ニ来リ皇族会議ノ結果ヲ稔彦王殿下ニ報告セント欲ス其状況ヲ話シ呉ヨト云フ予会議ノ結果ハ秘密トナリ居ルニ付其積リニスヘキ旨ヲ告ケ十五日開会宮内大臣大体ノ説明ヲ為シ予ヨリ各条ヲ説明シ山県枢密院議長枢密院ニテ可決シタル理由案ノ適当ナルコト其施行ノ必要ナルコトヲ述ヘ成久王鳩彦王邦彦王博恭王ヨリ質問アリ宮内大臣ト予ト之ニ答ヘ載仁親王ヨリ各自ノ利害ニ関スルニ付表決ヲ辞スル旨ヲ述ヘラレ成久王之ニ賛成シ博恭王邦彦王ヨリ載仁親王ノ意見ニ付質問アリ成久王及宮内大臣ヨリ之ニ答ヘ議長ヨリ載仁親王ノ意見ニ付テハ賛成アリ反対ナキニ付其意見ノ通リ本案ニ付テハ表決ヲ為サヽル旨ヲ宣言シテ閉会トナリタル旨ヲ告ク予金井ニ第三王子ノ名ハ予〔１字不明〕シアリタルヤヲ問フ金井、男子ナラハ彰常（書経の字〔上段に引用あり「皐陶謨曰寛而栗云々彰厥有常吉哉」〕）女子ナラ淑子（ヨシ）ト名クルコトニ決シ居リタリ是ハ小牧昌業ノ撰ヒタルモノナリト云フ
○十二時前西野英男ニ宮内省ニテ用ユル茶ハ何処ヨリ購ヒ又茶名ハ何ト云フヤヲ問フ西野平吉カ承知シ居ルヘシト云フ平吉重奥調度寮ニテ茶商ト契約シタル契約書ヲ持チ来リ之ヲ予ニ示ス茶名ハ並茶ト云フノミニテ茶商ハ木挽町十丁目六番地森大治郎ナリ茶ハ十月ノ価ハ二十六銭四厘ナリ
○十二時前武宗太郎ノ書状ヲ持チ南部光臣ヲ其事務室ニ訪ヒ書状ヲ示ス会々山崎四男六亦在リ山崎、南部ニ対シ調査課ノ武ハ出勤シ居ルヤ南部出勤シ居ラスト云フ山崎出勤シ居ラサルナラハ宜シキモ他省トモ違ヒ余程注意ヲ要スヘシト云フ予予ハ武カ病気ノコトヲ知ラス今月八日マテ皇族会議ニ関スル書類ノ謄写ヲ命シ何ノ間違モナク其事成シタリト云フ山崎自分（山崎）カ本月十四日自動車ニテ他出スルトキ玄関ニテ武カ便乗ストテ自動車ニ乗リ日比谷ニテ下車シタリ自分ハ其時ニ神経病モ大分進ミ居ルト思ヒタリト云フ南部ハ只今ノ処精神病者ト云フ訳ニ行カス処分ニ困ルト云フ予武ノ書状ハ南部ニ渡シ置クヘシトテ之ヲ渡ス南部武カ書状ヲ君ニ贈リタルコトハ昨夜電話ニテ之ヲ聞キタリト云フ予予ハ事情ヲ知ラサリシ故昨夜電話ニテ浅田ニ書状ノコトヲ話シタリト云フ山崎ニモ武ノ書状ハ予ヨリ之ヲ示シタリ山崎カ去リタル後南部ヨリ本月廿二日ニハ君ハ行クヤト云フ予廿二日ノ事ハ何モ聞カス梨本宮ノ誕辰ナリヤ其事ナラハ世子夫婦カ梨本宮ニ行カルルコトニ付高羲敬ヨリ話丈ハ聞キタリト云フ南部然ラハ君等ハ招カサル積リナルヘキカト云ヒ又自分（南部）ハ昨日ハ事ノ間違ニテ大ニマゴ付キタリ方子女王ノ結婚ニ関スル諸方ヘノ心附ハ世子ノ方ト同時ニスルコトニ申合セ置タル処世子邸ニテハ既ニ大臣初メ諸方ニ物ヲ配リタリト聞キタル故昨日梨本宮邸ニ行キ取調ヘタル処先日配リタルハ世子邸ヨリニ非ス昌徳宮ヨリノ贈物ナル由ナリト云フ予予モ世子結婚紀念ト記シタル物ヲ貰ヒタルカ勿論世子ヨリノ贈ト思ヒ世子邸ニ礼ヲ述ヘ置タリ高ノ話ニ大臣モ贈物ノ礼ニ世子邸ニ来リタルトキ云々ト云ヒ居リタル故是モ世子ノ贈ト思ヒ居ルナラント云フ南部自分（南部）モ杯ヲ貰ヒタルカ矢張リ昌徳宮ヨリノ贈ナル由高ニ対シ諸方ヘノ贈物ハ宮家ト世子邸ト同時頃ニスルコトニ申合セ置タルニ世子邸ノ方ガ早ク贈リタルハ如何ト云ヒタルニ高ハアレハ昌徳宮ノ分ニテ世子邸ノ分ハ未タ出来スト云ヒタリト云フ予高カ左様ニ云フナラハ間違ナカルヘシ然ラハ昌徳宮ニ礼ヲ述ヘサルヘカラサルカ君ハ如何シタリヤト云フ南部、石原モ其事ヲ相談シタルカ仙石ガ宗秩寮ニテ取計フト云ヒタル故自分モ石原モ宗秩寮ニ頼ミ置タリト云フ午後宗秩寮ニ行キ之ヲ嘱セントス仙石政敬酒巻芳男共ニ在ラス少時ノ後西野英男ニ嘱シ予カ紀念品ヲ受ケタルコトヲ告ク果シテ昌徳宮ヨリノ贈ナリヤ否ヲ宗秩寮ノ近藤某ニ質シ昌徳宮ヨリノ贈物ナラハ如何ナル振合ニテ謝ヲ述ヘタルヤヲ問ハシム西野昌徳ヨリノ贈物ニ相違ナシ謝状ノ例ハ左ノ如キモノナリシ趣ナリト云フ
拝啓益御清穆奉賀候陳者今般贈物有之難有奉存候御礼言上方可然御取計被下度云々トシテ単ニ氏名ノミヲ書シ宛名ハ李王職長官男爵李載克殿下ト書シタル由ナリト云フ予西野ニ嘱シ其文例ニ依リ書状ヲ出サシム
○午後三時頃石原健三ヲ其事務室ニ訪フ石原、元老タル山県有朋、松方正義、西園寺公望ヨリ突然左ノ趣意ノ書面ヲ侍従長ヲ経テ陛下ニ呈シタリ其書面ハ皇族会議ノ結果ハ必シモ聖意ニ合フモノト非サルヘシト思惟ス是臣等カ尽力ノ足ラサル所ニシテ恐懼ニ堪ヘスト云フ如キモノナリト云フ予右ノ如キ書面ヲ出シタル上ハ宮内大臣モ黙止スル訳ニ行カス何カ奏上セサルヘカラス又陛下ヨリモ御沙汰ナカルヘカラス其御沙汰ニ付テモ宮内大臣ガ関係スル訳ニ行カス困リタルコトナリ松方ハ元老トシテハ右ノ如キ書面ヲ出シテモ内大臣トシテハ勅答ノ事ヲ取計フヘキ責任アルヘシト云フ予又先日皇族会議ノ済ミタル後ノ賜餐ニ皇族ノ多数ガ賜餐ヲ辞シテ退出セラレタルハ偶然トハ見ルコトヲ得スト云フ石原、皇太子殿下ノ御臨席アルニ多数退出セラレタルハ不都合ナリト山県公ハ云ヒ居リタリ兎モ角伏見宮丈ケハ留ラルル方相当ナリシト云フ
○午後六時ヨリ斎藤実ノ招ニ赴ク斎藤、王世子及同妃ヲ招キ晩餐ヲ供ス来テ会スル者波多野敬直、戸田氏共、正親町実正、大森鍾一、高羲敬、金応善、木村甚三郎、小山善等二十余人ナリ貞山ヲシテ津田杢助伝及少女秋色伝ヲ演セシメ餐後加藤三千枝ヲシテ筑前琵琶ノ曲富士山、明地左馬介渡湖、太田道灌ヲ演セシム九時後会散シ十時後家ニ帰ル
○午前内子三越呉服店ニ行キ午後土肥慶蔵ノ家ニ行キ右腕ノ痛ヲ療ス
○午後四時後王世子邸ヨリ使ヲ遣ハシ書状及手釦一組酒肴料金七千疋（十七円五十銭）ヲ送ラシム書状ハ王世子邸職員ヨリ予ニ贈ルモノニシテ本月二日梨本宮守正王同妃ガ王世子邸ニ来ラレタルトキ予ニ釦及酒肴料ヲ贈ラレタルモ其後多事ナリシ為今日マテ之ヲ送致シ得サリシコトヲ報スルモノナリ
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○五月十九日午前九時三十分頃会計審査局ニ電話シ今日ハ宮内省ニ出勤セサルコトヲ報ス
○午前十一時ヨリ梨本宮邸ニ行キ予ニ釦及酒肴料ヲ贈ラレタルコトヲ謝スル為メ帳簿ニ其旨ヲ記シ書名シ直ニ東久邇宮邸ニ赴第三王子命名ヲ賀シ祝酒ヲ酌ム会スル者園祥子寺尾某鈴木某外医数名ナリ東久邇宮ヨリ予ニ酒肴料十五円ヲ贈ラル予ガ彰常王ノ出産前宮務監督タリシ為ナリト云フ予先日金井四郎ニ今日ノ命名式ニ予ヨリ祝儀ヲ贈ル必要アラハ之ヲ取計ヒ置クコトヲ嘱シ置タル処金井之ヲ取計ヒ置タリト云フ依テ属官某（阿部カ）其金額ヲ問フ三千疋ナリト云フ（七円五十銭）乃チ之ヲ償フ午後二時十分頃宮邸ヲ辞シ歩シテ司法大臣官舎ニ到リ臨時法制審議会主査委員会ニ列ス開会前横田国臣予ヲ別室ニ引キ皇族会議ノ帰決ヲ問フ予先日決定ノ通リ会議ニテハ議決セサル侭宮内大臣ハ裁可ヲ奏請スルコトヽナルヘシト云フ横田又君（予）ノ後任トシテ渡辺暢ヲ推薦シテハ如何ト云フ予予ノ後任トシテト云フカ君（横田）ハ予ノ転任ノコトヲ謀リ居ルヤト云フ横田ソウ云ハレテハ困ル清浦ハ自分（横田）ヨリ勧メテハ中々承知セス何事モ清浦自ラ為シタル如クセサレハ気ノ済マサル男ナリ自分（横田）ハ山県ニテモ話スコトハ出来レトモ清浦ヲ擱キテ山県ニ話スコトハ面白カラス波多野ヨリ清浦ニ話サスルコトヽセンカト思ヒ居ル所ナリト云フ予予ハ渡辺ノ事ハ常ニ気ノ毒ニ思ヒ居ル故機会サヘアラハ之ヲ推薦セント思ヒ居ルナリ但シ渡辺ハ基利斯督信者ナル故宮内省ニテ之ヲ嫌ヒハセサルヤノ懸念アリト云フ横田、渡辺ハ左程ノ信者ニ非サルヘシト云フ
○今日ノ主査委員会ニテハ陪審員タル資格ヲ議シタルモ終ニ議決ニ至ラス特別陪審ニハ貴衆両院議員ノ外ニ枢密顧問及大学教授ヲ加フルコトニ決ス散会後平沼騏一郎予ニ皇族会議ノ結果ヲ問フ予閑院宮ノ発議ニテ利害関係アリトノ理由ニテ議決セサルコトニ決シタルコトヲ告ク平沼再ヒ御諮詢ニハナラサルヤト云フ予其事ナカルヘク宮内大臣ハ其侭ニテ案ノ御裁可ヲ奏請スルナラント云フ平沼、皇族ハ窮余右ノ如キコトヲ為サレタルモノナラン妙ナ事ヲセラルヽモノナリト云フ
○午後二時後予ガ司法大臣官舎ニ在ルトキ東久世秀雄追加予算案ヲ持チ来リ予ノ捺印ヲ請フ案ハ東京市道路修繕費ノ補助トシテ三百万円ヲ二ケ年ニ分割下賜セラルヽモノニテ大正九年度ノ分ハ百五十万円ナリ収入トシテハ四十余万円ハ収支部ヨリ百万円余ハ剰余金ヨリ出スコトヽナリ居レリ予東久世ニ対シ二ケ年ニ跨ル以上ハ予メ勅裁ヲ経ル必要アリト云フ東久世必ス之ヲ経ルコトヽスヘシト云フ
【△上に戻る】
○五月二十日今日始メテ夏服ヲ着ク
○午前十時後山口鋭之助審査局ニ来リ皇族会議ノ帰決ヲ問フ予単ニ議決セサルコトニ決シタル旨ヲ答フ山口皇室祭祀令ト祭祀ニ関スル勅令トノ矛盾ヲ説キ平和報〔奉〕告祭ニ付掌典部ト内務省ト意見ヲ異ニシ居ルコトヲ話ス予平和奉告祭ハ法規ノ抵触ハ別トシテ全体ハ内務省ニテ執行スルガ当然ナルヘキコトヲ話ス山口陵墓ノ祭ハ今日ニテハ御歴代ノ式年祭ノミ執行シ其他ハ執行シ居ラス是ハ掌典部ニテハ実際執行出来サルナリ元来祭祀ノ事ハ諸陵寮ガ之ヲ管掌シ居リタルカ明治十一年頃諸陵寮ヲ置タルトキ其事ヲ脱シテ今日ニ至リタルモノナリ明治ノ初神祇官ヲ置カレタルトキハ官内ニ諸陵寮ヲ置キ祭祀ノ事ヲ掌ラシメ居リタルナリ今後モ陵墓ノ祭ハ諸陵寮ヲシテ之ヲ行ハシムルヲ適当トスヘシト云フ予現ニ掌典部ニテ之ヲ執行シ居リ且祭祀令ヲ起草シタル人ニアル故祭祀ノ事ヲ変更スルハ容易ニ行ハレ難カルヘキ旨ヲ話ス
○午前十一時頃西野英男ヨリ昨日東久世秀雄氏カ来リ貴官ニ面会スル為メ司法大臣官舎ニ行クニ付予メ電話ニテ其旨ヲ報知シ置キ呉ヨト云ヒタル故司法省法務局高橋某ニ電話シタル処高橋ハ法制審議会主査委員会場ニ行キ居ルトテ他ノ者カ電話ノ趣意ハ之ヲ貴官ニ報スヘキ旨ヲ答ヘタルカ果シテ其事ヲ貴官ニ伝ヘタルヘキヤト云フ予之ヲ伝ヘサリシ旨ヲ答フ
○十二時前南部光臣来リ今日ハ皇族ノ降下ニ関スル施行準則ヲ持チ各皇族邸ニ行キ謁見ノ上之ヲ差上ケ置タリ尚ホ之ヨリ参ルヘキ所モアリ博恭王殿下ヨリ自分（博恭王）ハ演述拙キ故自分ノ思ヒタル通リニ言フコトヲ得タルヤ否分リ難シ議事筆記ハ之ヲ作製スルヤト云ハレタル故勿論之ヲ作リ宮内大臣カ署名シタル上図書寮ニ蔵スルコトヽナリ居レリト答ヘタル処然ラハ余リ間違ヒタルコトヲ筆記セラレ居リテハ不本意ニ付図書寮ニ蔵スル前一応閲覧シ度モノナリ南部ハ尚ホ是ヨリ他ノ宮邸ニ行クヤト云ハレタル故尚ホ他ヘ行ク旨ヲ答ヘタル処然ラハ自分（博恭王）ハ議事筆記ヲ閲覧スルコトヲ希望スルカ諸君ハ如何ト云ヒタル言ヲ伝ヘ呉ヨト云ハレタリ依テ久邇宮邸ニ行キ之ヲ伝ヘタル処久邇宮殿下ハ其事ハ自分（久邇宮）ヨリ申出サント思ヒ居リタル位ナリト云ハレタリ自分（南部）ハ博恭王ニモ久邇宮ニモ然ラハ御覧ニ供スヘシトハ申上ケ置カス宮内大臣ニ話スヘシト云ヒ置タルノミニ付帰省後大臣ニ之ヲ告ケタル処大臣ハ夫レハ差支ナキコトナラント云ヘリト云フ予夫レハ差支ナキモ種々修正ノ注文ヲ出サレテハ困ルヘシ元来速記者ヲ入レタルモノニ非サル故詳細ニ書キ取ルコトハ出来ス其辺ハ既ニ先日浅田恵一カ原稿ヲ持チ来リタルトキ一問答ヲ書キ漏ラシテ思ヒ出サスト云ヒ其事ハ予ハ記憶致シ居リタリ夫レハ博恭王ヨリ説明員ハ皇室典範増補第一条ト施行準則第一条トハ同様ナリト云フモ典範増補ニハ何等ノ例外ナク準則ニハ長子孫ノ系統四世以内ヲ除クトアル故同一ニ非サルニ非スヤトノ問ヲ発セラレ夫ニ対シ予ヨリ若シ典範増補ノ如ク華族ニ列セシムルコトアルヘシト準則ニ書キタラハ準則ヲ設ケテモ増補ト異ナルコトナク効能ナカルヘシト云ヒタル訳ニテ典範増補ト準則ト同様ナリト云ヒタル訳ニ非ストノ答ヲ為シタルナリ此問答ハ必要ナルモノニ非サル故之ヲ省キテモ宜シカラント浅田モ云ヒ居リタル位ニ付其辺ハ予メ云ヒ置必要アルヘシト云ヒ南部モ其事ハ既ニ申上置キ只要旨丈ヲ記シタルモノト申〔上〕ケ置タリト云フ南部又高羲敬ノ話ニ依レハ王世子夫婦ハ至極折合宜シトノコトナルカ兎角皇族トノ関係ハ疎遠勝ニ付成ルヘク接近セラルヽコトニ致シ度ト考ヘ居リ時々簡短ナル会食抔ハ成サルヽ様アリ度ト思ヒ居リ其ノ周旋ハ梨本宮ニテ為サルカ宜シカラント思フ又毎週宗秩寮ニテ開ク宮附職員会議ニモ世子附ノ職員モ加ユル方宜シカラント思フ些細ノ事ナカラ此節ノ婚儀ニテ祝儀ヲ出サレテモ包方ヤ文字ノ書方カ違ヒ居リ世子邸ニテハ活字ニテ押シタルモノヲ用ヰ曲リ居リタリ是等モ宮家ノ取扱振リカ王世子邸ニ分ラサル為ナリト云フ南部又世子ノ結婚ニ〔１字不明〕ニハ諸方ヘノ挨拶ハ梨本宮ト世子邸ト申合セ不権衡ナキ様相談致シ置タル処先日王家ヨリノ贈品ヲ分配シ其中ニハ随分鄭重ナル物モアリタル趣ニテ王家ノ贈ヲ加ヘテ権衡ヲ取レハ梨本宮ノ贈品トハ到底不権衡ヲ免レサル故李王家ノ贈ハ全ク別物トシテ協議スルコトニ申合セ此事ニ付テハ本月二十七日ニ世子邸ノ職員ト打合セヲ為スコトニ相談シ置ケリト云フ
○午後一時後南部光臣ノ事務室ニ到リ浅田恵一ニ皇族会議ノ議事筆記ハ既ニ出来タリヤト云フ浅田他ノ公務多カリシ為未タ出成セスト云フ
○午後一時前ヨリ土肥慶蔵ノ家ニ行キ黒子ヲ療ス今日ハ又（ラジユーム）ヲ貼付スルコト三十分予土肥ニ対シ内子ノ療法ヲ問フ土肥（ラジユーム）カ効ヲ奏スルヤ否不分ナリ其結果ヲ見ル為メ一回位間ヲ置キテ来ラルヽ様ニシ度ト云フ予然ラハ此次ノ土曜日ニ来リタラハ宜シキヤト云フ土肥夫レニテ宜シト云フ四時前帰ル
【△上に戻る】
○五月二十一日大掃除ヲ為ス
○午前八時後橋爪慎吾ヨリ電話ニテ先日相談会ノ時赤松社規則ノ改正ノコトハ改正案ノ条数現行規則ト一致セサル故取調ノ上決スルコトヽ相成リタルカ取調ヘタルニ規則ハ是迄ニハ改正セラレタルコトナク条数ハ矢張リ引合ハサル故赤松社ヘ問合ハセタル処赤松社ヨリ提出シタル改正案ノ条数カ誤リ居リタル趣申来リタル故改正案ニ第四条トアルハ第二条トナルヘキモノナリ其積リニテ改正案ノ当否ヲ調査シ見呉度ト云フ又橋爪ヨリ先日議了シタル決算ハ大概訂正ヲ終ハリ最早宜シカラント思ヘトモ有馬秀雄カ帰京シタル上今一応同人ニ示シタル上改刷スルコトニ致度又給与規程ハ原案ノ通リ決定シテ宜シクハナキヤト云フ予赤松社規則ノコトハ承知セリ一応取調ヘ見ルヘシ決算ノコトハ夫レニテ宜シカルヘシ給与規則ノコトハ随行手当ノ欄ヲ確定金額トセス何円又ハ何十銭以内ト云フコトヽナシタラハ別ニ増減スルコトヲ得抔ノ文字ヲ加ヘサルモ差支ナカルヘシト云ヒタルニ橋爪成ル程夫レナラハ宜シカラン其積リニテ今一応調査スヘシト云ヒ尚ホ其内往訪シテ相談スヘシト云ヘリ
○午後一時後小原駩吉審査局ニ来リ予算上ノ小工事費ハ先年内蔵寮内匠寮審査局ノ協議ニテ一廉五百円以内ノ工事ニ限ルコトヽナリ居ル処物価騰貴ノ為メ五百円以下ニテハ何事モ出来サル故大正九年度ノ予算ノ執行トシテハ一廉千円マテハ小工事ト致シ度此事ニ付テハ口頭協議ノミニテ何モ書類ナシト云フ予伊夫伎準一ヲ召ヒ之ニ謀リタルニ小原ノ希望通リニテ差支ナカルヘシト云フ予ノ考モ同様ナル故其旨ヲ小原ニ答フ小原ハ昨日頃ヨリ旅行スル趣昨日伊夫伎ヨリ聞キ居リタルニ付小原ニ問ヒタル処其積リナリシモ少シク不快ナル為メ之ヲ延ハシタル処明日ハ制度審議会ノ委員会アリ明後日ハ澄宮ヨリ午餐ヲ賜ハルトノ事ユヘ之ヲ延ハシテ其事ノ済ミタル後ニ旅行スルコトヽナセリト云フ予淳宮殿下ノ賜餐ハ何ノ為ナルヤト云フ小原先頃ノ御病気御快起ノ為ナル由ト云ヒ且君ニハ案内ナキヤト云フ予案内ナキ旨ヲ答ヘ他ノ談話ヲ為シ居リタル処皇子御殿ニテハ是迄予ニ対シテハイツモ東久邇宮々務監督ノ資格ニテ案内致シ居リタル故此節案内セサルハ当然ナル事ニ気附其事ヲ小原ニ話シタリ宮内省ニテ関係部局トノ理由ニテ区別スルハ少シモ理由ナキコトナリ
○予ガ宮内省ニ出勤シタル後驟雨アリタル故自家ノ大掃除ハ困リタルナラント思ヒタリ然ルニ午後家ニ帰リタル後之ヲ問ヒタル処赤坂ニテハ少シモ雨ナカリシ由ナリ僅ノ距離ニテ雨ノ有無ヲ異ニスルハ奇ニシテ且幸ナリシナリ
【△上に戻る】
○五月二十二日午前十時後石原健三ヲ其事務室ニ訪フ石原在ラス乃チ波多野敬直ノ官房ニ入ル石原正ニ在リ波多野平山成信ト話ス其ノ終ハリテ平山カ去ルヲ待チ予波多野ニ対シ先日元老ヨリ皇族会議ノ事ニ関シ上奏シタルコトハ如何決了シタルヤヲ問フ波多野多分侍従長ヨリ上奏書ヲ返シタルナラント云フ予貴官（波多野）モ上奏シタリヤト云フ波多野待罪書ヲ呈シタリト云フ予其趣旨ヲ問フ波多野、皇族会議ニテ議スヘキ事項ナリトシテ御諮詢ヲ奏請シタル皇族会議ニテ議決セサルコトヽナリタルハ取調不行届ノ結果ニテ恐懼ニ堪ヘスト云フ趣旨ナリシト云フ予其趣旨ハ少シク当ヲ失ス御諮詢ニナリタルハ適当ニテ議決セラレサリシ方不当ナル故其事ニ付罪ヲ待チタルハ適当ナラスト云フ石原モ同様ノ事ヲ云ヒタリ予其待罪書ハ如何ナリタリヤト云フ波多野侍従長ヨリ返サレタリト云フ予先日平沼騏一郎ニ遇ヒタルトキ平沼ヨリ皇族会議ノ結果ヲ問ヒタル故之ヲ告ケタル処平沼ハ夫迄ニテ更ニ諮詢セラレサルヤト云ヒ予ハ諮詢セサル旨ヲ告ケタリ先日伊東巳代治ヨリ話シタル再議ノ事ハ岡野平沼等ト協議シタル事ナリシト思ハルト云フ石原、伊東カ再議ニ付スヘシト云ヒタルハ正半数ニテ議決セサリシ場合ノ事ニテ議員全体カ議決ヲ避ケタル場合ニハ再議ノ事ヲ云ハサリシニ非スヤト云フ予先日ノ伊東ノ話ハ此場合ニモ再議ヲ命セラレ十分説明セントノ趣旨ナリシ様ナリト云フ此時木村甚三郎来リ石原ニ対シ明日ハ皇子御殿ノ午餐ニ行カレルヤ皇子御殿ヨリ尋ネ来リタリト云ヒ石原行ク旨ヲ答フ予予モ運動スル様ニ思ハルヘキカ明日ノ如キトキハ部局長官ノ中ニテ招ク者ト招カサル者トヲ区別スルハ穏当ナラス事柄ニ因リテハ関係ノ厚薄アルハ当然ナルモ淳宮殿下御快起ノ祝宴ト云フ如キ場合ニハ各部局平等ニテイツモ帝室ノ御用ヲ執リ居ルモノ故之ヲ区別スルハ不可ナリ予ハ是迄ハ宮務監督トシテ招カレ居リタルモ其事ガ既ニ間違ヒ居ル故抗議ヲ申込ミ置タリ此節ハ宮務監督ヲ罷メタル故之ヲ除キタル訳ナリト云フ波多野御祝ノ如キ時ハ部局長官ト云フ様ナル処ニテ区域ヲ立ツルカ適当ナリト云フ会々他ノ人来ル予乃チ去ル
○午前九時ヨリ内子第一銀行ニ付定期預金ヲ預ケ替ヘ特別当座預金ノ利子ヲ記入シ特別当座預金ヨリ金百円ヲ引出シ銀座玉屋ニ過キリ手時計ノ修繕シタルモノヲ受取リ来ル
○午後一時後ヨリ内子土肥慶蔵ノ家ニ行キ腕痛ヲ療ス
○午後一時前閑院宮附宮内属遠藤忠太郎来リ予ガ先般（一月二十三日）東久邇宮宮務監督ヲ罷メタルニ付非常ニ延引シタルモ肴料ヲ進セラルルト云ヒテ金三千疋（七円五十銭）ヲ持チ来ル予之ニ面シテ之ヲ受ク
○午後一時後図書寮詰尾本良三ナル者来リテ揮毫ヲ請フ予取次ヲシテ之ヲ拒マシム尾本強ヒテ之ヲ請ヒ紙二枚ヲ置キテ去ル尾本別ニ缶詰ノ様ナルモノノ紙袋ニ入レ封印シタルモノヲ持チ来リタルモ取次ヲシテ之ヲ返サシム尾本之ヲ持チ返ル
○今日午前下婢梅ヲ雇ヒ入ル
○午後二時後炊婢カネノ母来リ予ニ面スルコトヲ請フ予之ニ面ス母カネノコトヲ依頼シテ去ル
○松寺竹雄ノ娘ノ結婚ヲ賀スル為メ三越ノ鰹節切手（十円）ヲ小包郵便ニテ送ル
【△上に戻る】
○五月二十三日（日曜）急ニ暑ヲ覚フ寒暖計華氏七十六度ニ上ル
○自ラ土用藤ノ棚ヲ作ル
○午前十時頃井浦義久ノ長男英一郎来リ訪ヒ義久ヨリ予ニ贈ル朝鮮新義州産ノ白魚一箱ヲ致ス英一郎ハ一昨大正七年夏ヨリ東京ニ来リ居リ二タヒ高等学校ノ入学試験ヲ受ケタルモ合格セス今年更ニ受験スル積リニテ只今ハ日本大学ノ予科ニ入学シ居ルト云フ話スルコト三四十分許
○午前十一時頃内子坂田稔ノ家ニ行キ体重ヲ検スル前回ヨリ七十目ヲ減シ居リタリト云フ
○午後九時頃梶田文太郎来リ出張ヨリ帰タルコトヲ報ス時予既ニ寝ネ居リタルヲ以テ安ヲシテ其旨ヲ梶田ニ告ケシメ面会セス梶田神戸牛肉ノ佃煮一箱京都産ノ菓子州浜一箱ヲ贈ル
【△上に戻る】
○五月二十四日午前九時後ヨリ出勤ス途閑院宮邸ヲ過キリ帳簿ニ署名シテ一昨日肴料ヲ贈ラレタルコトヲ謝ス
○午前十時後西野英男ニ嘱シ六月三日英国皇帝ノ誕辰ニ付英国大使ヨリ予ト内子トヲ園遊会ニ招キタルモ夫妻トモ不参スル故其返書ヲ出スコトヲ木村甚三郎ニ嘱セシメ又本月三十一日軍艦陸奥ノ進水式ニ付横須賀鎮守府長官名和八郎ヨリ予等夫妻ヲ招キタルモ夫妻トモ往観セサル故其旨ノ端書ヲ出サシム西野ヨリ名和宛ノ端書ハ直ニ出シタリ木村甚三郎ハ未タ出勤セサル故出勤シタラバ直ニ英国大使ニ返書ヲ出スコトヲ嘱スヘシト云フ予又西野ニ元司法省法務局ニ在リタル多喜沢カ死去シ今日午後二時巣鴨村本妙寺ニテ葬儀ヲ行フ旨新聞ニ広告シ居レリ法務局ヨリ誰カ会葬スヘク左スレハ予モ其人ニ名代ヲ託シ度ニ付電話ニテ誰カ会葬スルヤ否ヲ問合セ呉ヨト云フ西野今日ハ局務モ閒ナル故自分（西野）カ早退シテ名代ヲ為スヘシト云フ予之ヲ嘱シ香奠トシテ金三円ヲ贈リ度ニ付取計呉ヨトテ金三円ヲ交ス
○西野英男来リ木村甚三郎出勤シタルニ付返書ヲ出スコトヲ嘱シタル処丁度他ニモ返書ヲ出ス序アルニ付同時ニ之ヲ出スヘシト云ヒタリ英国大使ノ書状ハ木村ニ預ケ置タル旨ヲ報ス
○午後二時頃秋山某来リテ英国大使ノ招待状ヲ致ス木村甚三郎ヨリ返シ来リタルモノナリト云フ
○午後二時後石原健三ヲ其事務室ニ訪フ森林太郎正ニ話ス其去ルヲ待チ予帝室ヨリ道路改修費ノ補助トシテ東京市ニ賜ハルヘキ金ハ既ニ東京市ニ其旨ヲ達セラレタリヤト云フ石原明日午後一時其旨ヲ達スル為メ市長ヲ呼出アル趣ナリト云フ予先日審査局ニ令達スル案文ヲ持チ来リテ予ノ捺印ヲ求メタルトキ予ヨリ秘密ヲ要セサルトキニ至ルマテ令達ヲ延ハスコトヲ求メ置タリ東京市ニ達シタラハ審査局ニ令達スルモ差支ナカルヘシト云フ石原夫レニテ宜シカラント云フ石原自分（石原）ハ行幸ニ供奉シテ沼津ニ行クコトヽナレリト云フ予沼津御駐輦ハ大概日光御避暑ト連ル様ノコトヽナルヘシト云フ石原多分其様ニナルヘシ七月初頃ニハ御還幸ヲ願ヒ度考ヘ居ルト云フ予其頃ニナレハ開院式ハ済ムヤト云フ石原開院式ハ六月廿九日ナルヘシト云フ予（ルーマニヤ）ノ皇太子ノ来遊ハ済ムヤト云フ石原其時マテハ日本内ニハ居ル予定ナルモ東京ニハ来ラサル様相談スヘシ此事ハ一番閉口ナリ先日伏見宮邸ニ行幸アリシコトニ付テモ外国人中ニハ何カ云ヒ居ル趣ニテ総理大臣ハ其事ヲ話シ居リタリト云フ予伏見宮邸ノ行幸ハ何トデモ云ハルルニ非スヤト云フ石原云フコトハ出来レトモ外国人ハ何カ云フ模様ナリ尤モ此後ハ他ニ行幸アル様ノコトハナカルヘシ、英国ヨリハ御病気御見舞ノ電報来レリト云フ予夫レハ大使ガ何カ申遣ハシタルモノナルヘシト云フ石原夫レハ其通リナリ信任状モ直接御受ナカリシ故夫等ノ事ヲ申遣ハシタルモノナラント云フ予夫レハ大使トシテ当然申遣ハスヘキコトナリト云フ石原米国ノ新聞社ヨリ東京ノ新聞社ニ天皇御重患ナル旨ノ電報ヲ送リ来リタル由ニテ電報ヲ配達スヘキヤ否ヲ問合セ来リタルニ付配達ヲ見合セ置ク様ニ致シ置ケリト云フ予受信者ハ外国人ナリヤ内国人ナリヤト云フ石原内国人ナリト云フ石原又宮内大臣カ皇族会議ノ事ニ付軽率ニ待罪書ヲ呈シタルハ困リタルコトナリ彼ノ様ニ云ヘハ自分（石原）等モ当然進退伺ヲ為サヽルヘカラスト云フ予波多野ノ待罪ハ先日ノ議場ノ説明トモ矛盾シ居レリ議場ニテハ閑院宮殿下ノ提案ハ皇族会議令第九条ニ依リタルモノトハ拝承セス其精神ニ依ルモノト拝察スト云ヘリト云フ石原其通リナリト云ヘリ予山県ハ更ニ東京ニ来ルヘキヤト云フ石原来ラサル由ナリ折角元老ガ集マリタルモ何事モ相談ハ出来ス内大臣ノ事モ枢密院議長ノ事モ臨時編輯総裁ノ事モ何モ相談セスシテ去リタリト云フ予種々事情ハアルヘキモ結局国事ニ冷淡ナリトノ誹ヲ免レスト云フ石原其通リナリト云フ予又李堈公カ東京ニ来ルコトハ如何ナリタリヤト云フ石原先日京城ニ住シ度旨ノ書状ヲ出シタル故斎藤実ニ其事情ヲ話シ本人カ夫程東京ニ来ルコトヲ望マサルナラハ夫レニテ宜シクハナキヤ帰任ノ上十分ニ事情ヲ取調ヘテ決定スルコトニ相談致シ斎藤モ夫レニテ宜シカラント云ヘリ山県伊三郎ハ李堈公ニ付キ名案ヲ有シ居レリ山県ニ名案ヲ斎藤ニ話シタリヤト云ヒタルニ之ヲ話シタリト云ヘリ今日斎藤ト山県トハ一緒ニ落合ヒタリト云フ予山県ハ愈々関東州ニ行クヘキヤト云フ石原今日既ニ任命セラレタリト云フ予山県ハ愈々関東州ニ行クヘキヤト云フ石原今日既ニ任命セラレタリト云フ予能ク奮発シタルモノナリト云フ石原無職ニテ居ルコトハ余程困ル様ナリト云フ予寺内ノ下ニ政務総監ヲ勤メタルトキノ辛抱ニハ何人モ感心シタリ枢密院議長カ山県デナヰナラハ勿論枢密院ニ入ルヘキ人ナルヘキモ議長ノ関係ニテ入リ難キモノナラント云フ石原然ルヘシト云フ
○午後三時前宗秩寮ニ行キ井上勝之助ノ病状ヲ問ハントス仙石政敬モ酒巻芳男モ在ラス近藤某ニ之ヲ問フ近藤最早大概宜シキ趣ナリト云フ予カ宗秩寮ニ入リタルトキ木村甚三郎ニ遇フ先刻英国大使館ニ書状ヲ出シ呉タルコトヲ謝ス会々予近藤ト話シ将ニ去ラントス会々酒巻芳男他ヨリ返リ来ル予井上ノ病状ヲ問フ酒巻肺炎ハ既ニ快ク肛門ノ方モ大概宜シキ由ナリト云フ予肛門ト感冒トハ別事ナルヘシト云フ酒巻肛門モ矢張感冒ヨリ来リタルモノニテ感冒ヨリ其症ヲ起スコト多キ由ナリト云フ
○午後二時後予ガ石原健三ト話シタルトキ石原ヨリ皇族会議ノ結果ヲ報告セシムル為浅田恵一ヲ伊東巳代治ノ家ニ遣ハシタル処伊東ヨリ自分（石原）ニ話シ度コトアル故是非立チ寄リ呉ヨト云ヒ来レリ何事ヲ云フ積リナリヤ実ニ閉口ナリト云ヘリ又李〔土+岡〕公ノ事ニ付テハ山県伊三郎ハ名案ヲ有シ居ルト云ヒタルトキ石原ハ山県ノ名案ト云フハ李〔土+岡〕公ニハ十分ニ酒ヲ飲マシメ且婦人ヲ侍セシメ早ク生命ヲ縮メルコトカ上策ナリト云フコトナリト云ヘリ又石原ガ元老等ガ何事モ相談セサリシト云ヒタルトキ予ヨリ然シ宮内省ニテハ欠員ガ生シテモ少シモ補欠セスト世人ハ云ヒ居レリト云フ石原林野管理局長官ト内大臣秘書官ト二人ノミニ非スヤト云フ予総務課長モ欠ケ居ルニ非スヤト云フ石原イツレモ欠員ノ侭ニテ差支ナキモノナリト云フ予又石原ニ対シイツレ下調ハ南部ガ為シタルモノナルヘキカ今日審査局ノ伊夫伎準一ニ法規整理委員ヲ命セラレタリ此事ニ付テハ任命前予ニハ一言モ交渉セサリシナリト云フ石原交渉スル様ニ話シ置タルカ交渉セサリシヤト云フ予伊夫伎ハ実況審査ノ為旅行スルコトヽナリ居ルカ差支フル様ノコトハナキヤト云フ石原夫レハ差支ナシ結局材料ヲ纏ムル丈ノ用事ナリ是マテ少数ノ委員ニテ整理ニ着手シ見タレトモ各部局ニ委員ヲ置カサレハ材料ヲ渡シ呉レスト云フ故此節各部局ニ委員ヲ作リタルナリ全体ハ南部ガ調ヘタルモノヨリ自分（石原）幾分人ヲ減ラシタリト云ヘリ
【△上に戻る】
○五月二十五日午前十時後金井四郎審査局ニ来リ東久邇宮殿下ノ乗ラレタル仏国船某号破損ヲ生シコロンボニテ一ケ月間位ハ滞泊スル必要アル旨ノ電信外務省ニ達シタル趣ナルモ殿下ノ御乗船ハ既ニコロンボヲ発シ紅海ノ入口ナル某処ニ着シタルコトハ既ニ電報ニテ報知セラレ居ルニ付外務省ヘノ電信ハ勿論誤聞ヲ報シタルモノナルヘク其電報ハ領事ヨリ報シタルモノナル趣ナリ自分（金井）ハ誤聞トシテ安心致シ居ルト云フ予其事ハ既ニ妃殿下ニ申上ケタルヤト云フ金井未タ申上ケ居ラスト云フ予御産後ノコトテモアル故申上ケサル方宜シカラント云フ予金井ニ対シ予ガ東久邇宮々務監督ヲ罷メタルトキ閑院宮ヨリ慰労ナカリシコトニ付君（金井）ヨリ閑院宮別当田内三吉ニ話シタリト見ヘ此ノ前ノ土曜日ニ閑院宮ヨリ肴料ヲ贈ラレタリ然シ金額ハ他ト異リ居レリト云フ金井三千疋ナリシヤト云フ予然リト云フ金井同宮ノ事務所ハ如何様ニナリ居ルヤ分ラスト云フ予事務官会議ニテ決シタルコトハ当番事務官ヨリ各宮ヘ通知スル趣ナルモ予ニ対スル慰労金ノコトハ閑院宮附事務官ハ全ク事務官会議ノ申合ヲ知ラサリシ様ニ思ハルト云ヒタルニ金井ハ右様ナルコトアル訳ナシ申合セノ事ハ其都度刷物ニシテ各宮家ヘ配付シアル故知ラサル筈ナシト云フ予金井ト話ス村木雅美来ル村木ニ対シ王殿下ノ乗船ニ関スルコトハ自分（金井）ヨリ今話シタル所ナリト云フ予村木ニ対シ勿論誤電ナルヘシト云フ村木必ス誤ナルヘシト云フ金井既ニ去ル村木少シク問ヒ度事アリト云フ予戸ヲ鎖ス村木先日萩原淳ヨリ話シ度コトアリ往訪セント欲スト云フ依テ自分（村木）ヨリ婦人カ来訪セラルルヨリモ序ノ節自分（村木）ガ往訪スヘシト云ヒ置其後萩原ノ家ニ立チ寄リタル処萩原ヨリ先日元東久邇宮ノ侍女タリシ菊枝来リ御用取扱永山千香ガ宮家ヲ辞スルコトヽナリ居ルハ表面ハ病気ト云ヒ居ルモ其実ハ金井カ永山ニ対スル行動ニ堪ヘスシテ辞職スル訳ナリト云ヒタル趣ヲ話セリ依テ自分（村木）ヨリ其次第ヲ問ヒタルニ金井ハ永山ニ私スル意アリ金沢ニ行キ居リタルトキモ金井ハ永山ノ旅宿ニ夜中ニ行キタルコトアリ又永山ノ手ヲ握リタルコトアリ永山ノ官舎ト金井ノ官舎トハ隣ナルモ金井ノ妻カ永山ト交際セス永山モ金井ノ家ニ行カサルハ金井ノ妻ハ其事情ヲ知リ妬ミ居ルモノナラン又金井ハ自分（金井）カ世話シテ雇ヒ入レタル侍女ハ之ヲ懐柔シテ歓心ヲ買ヒ夫等ノ手引ニテ其妻ヲ御殿ニ近ケントシ居ル様ナリトノ話ヲ為シタリ是ハ実ニ意外ノ事ニテ無論中傷ナラントハ思ヘトモ事柄カ事柄ナル故懸念シ居レリ先年有馬純文ト有馬英子トヲ罷メタルトキノ事情ハ如何ナリシカ之ヲ聞キ度ト云フ予有馬純文ハ王殿下ノ意ヲ迎ヘテ妃殿下ヲ圧迫セントシ有馬英子萩原淳抔ハ内親王ニ対スル待遇論ヲ主張シテ意見衝突シ居ル処ニ妃殿下ノ避暑中ニ属官村井某カ妃殿下ノ前ニテ小説ヲ読ミテ聞カセタルコトヨリ議論ヲ生シ松室致カ属官三人ヲ休職ト為シ予ガ宮務監督ト為リタル後純文ト英子トヲ同時ニ罷メタリ其時萩原ハ大ニ怒リ予ニ反抗シタルモ結局笑フテ別ルヽコトヽナレリト云フ予又金井ト永山トノ関係ハ予モ勿論無根ナルヘシト思フ金井ハ利口ナル人ニテ両殿下ノ信用モアリ有馬純文ノ時ヨリ万事都合ヨクナレリ但シ少シク利口過キル所ハアリ妻ノ事ハ程度問題ナルカ時ニ御機嫌ヲ伺フ位ノ事ハ必要ニテ当然ナルヘシ金井ハ初メハ永山モ菊枝モ十分ニ保護シ居リ他ノ侍女ヲ誹リ居リタルカ其後ハ永山ノコトモ菊枝ノコトモ余リ誉メサル様ニナレリ自分（予）ニハ内情ハ分カラサル故金井ノ言ヲ信スルヨリ外致方ナカリシナリト云フ村木萩原ハ永山ニ留任ヲ勧メタラハ留任セサルコトハナカルヘシト云フモ永山ノコトハ既ニ王殿下トモ罷ムルコトヲ承知セラレ居ル故後任アリタラハ之ヲ罷メ金井ノ事ハ頓着セスシテ其侭ニ致シ置キテ宜シカラント思フト云フ予夫レニテ宜シカラン若シ事実カ分リ来リタラハ其時ノ事ニテ宜シカルヘシト云フ
○午前十一時後高羲敬来リ昨夜王世子ヨリ妃モ外国語ノ修業ヲ始メタラハ宜シカラントノ話アリタルカ先日話シ置タル梨本宮御用取扱澤田某ヲシテ妃殿下ニ仏語ヲ授ケシムルコトハ南部光臣ニ話シ呉レタルヤト云フ予先日一応ハ南部ニ話シ置タリ南部ノ話ニテハ澤田ハ毎日梨本宮ニ出勤スル訳ニモ非サル故世子妃ニ仏語ヲ授クル為メ世子邸ニ行クコトハ差支ナカルヘシトハ云ヒ居リタリ然シ妃ガ仏語ヲ学ハサルルコトカ十分ニ定マリ居ラサル故予ヨリノ話モ十分ニハ話シ置カス唯南部ノ見込ヲ聞キタルマテニ致シ置ケリ予ガ先ニ南部ニ逢ヒタラハ今一応話スヘキモ君（高）カ先キニ逢ヒタラハ君ヨリ話シ見呉ヨト云フ高明後廿七日ニハ南部ニ逢フコトニ約シ置タル故話シ見ルヘシ昨夜世子殿下ニハ確トハ申上ケ置カス殿下ニハ桜井井ヨリ梨本宮妃殿下ニ仏語ヲ授ケタル外国人某カ宜シカラントノコトヲ申上ケ世子殿下モ其人カ宜シカラントノ意見ナル如キモ先日モ話シタル如ク外国人ハ懸念ノコトアル故自分（高）ハ夫レニ賛成スル様ニハ申上ケ置カサリシナリ又某々国ノ公使カ近日帰国スル旨ニテ世子殿下ニ謁見ヲ願ヒ出テ居レリ依テ今日式部職ニ到リ相談シタル処引見成サルルカ宜シカル〔ヘ〕ク世子ハ英語ヲ話サルルヽ故式部官ヲ立会ハセル必要ナカルヘシトノコトナリシモ自分（高）ハ外国人ニ面会セラルヽトキハ先方ヨリノ話ニ付テモ世子ヨリノ答ニ付テモ立会人アル方カ宜シト考ヘ伊藤式部次長ヘ其旨ヲ話シタル処夫程注意スルナラハ式部官一人ハ必ス派遣スルコトニスヘシトノコトニ付其コトニ約束シ置タリト云フ予夫レハ其方ガ宜シト云フ
○今日林恭次郎審査局ニ出勤ス今月送達スヘキ高等官判任官以下ノ進級上申書案ニ捺印セシメタリ
○午後七時後橋爪慎吾ヨリ電話ニテ今本郷ニ在リ是ヨリ往訪セント欲ス差支ナキヤト云フ予差支ナキ旨ヲ答ヘシム八時後橋爪来ル予今朝書ヲ発シ置ケリ之ヲ見タリヤト云フ橋爪未タ見スト云フ予給与規程改正案ニ対スル修正意見ヲ説ク橋爪案中ニ之ヲ記入ス予又赤松社事業規定改正案ニ対スル疑義ヲ述ヘ此ノ疑義アルモ原案ノ通リニテ差支ナカルヘキ旨ヲ告ク橋爪、頼寧君ヨリ幾度モ君（予）ニ相談致シ呉ヨトノ話アリ夫レハ頼寧君等カ経営シ居ル夜学校ノ経費ニ充ツル為メ水天宮ノ剰余金ノ中幾分ヲ寄付スルコトナリト云フ予好マシキコトニ非サルモ致方ナカルヘシ但成ルヘク少額ニ致シ度ト云フ橋爪又松田正之カ辞表ヲ出シタルモ未タ聴許セラレサルコト有馬聡頼カ預金通帳有価証券実印等ヲ其嫡母ニ引渡シタルコト有馬秀雄ハ今夜頃帰京スルナラント思ハルルコト有馬秀雄ヨリ久留米水天宮ノ守札製造費五月六月分ヲ送ルヘキ旨東京水天宮ノ社掌樋口某ニ電信ニテ申越シタルモ其趣意不明ニテ更ニ問合セタルモ返信ナキコト有馬敏四郎ノ縁談ハ内約ヲ為シ敏四郎成業ノ上結婚スルコトヽナリ居ル処婦人ハ只今其郷里ニ在リ先頃婦人ヨリ敏四郎ノ来訪ヲ求メタルコトアリ自分（橋爪）ニ相談セラレタル故其不都合ナルコトヲ説キ柴四郎ノ妻ニ其事ヲ話シ柴ノ妻ヨリ其旨ヲ婦人ノ母ニ申越シ其侭敏四郎ノ往訪ハ見合セトナリタルコト敏四郎ハ中学卒業後国学院大学ニ入学シタルガ中学時代ヨリモ余程学問ノ趣味ヲ覚ヘ勉強シ居ルコト、松田正之ノ妻妊娠ニ付臨時ノ補助ヲ要シ又稲田ノ妻出産シ十二月ニモ臨時ノ補助ヲ要スルカ双方トモ予算ニテハ不足ナル模様ナルコト、伯爵居間ノ改築出来明後日頃引移リノ予定ナルコト稲田ノ妻ノ出産ハ大分難産ニテ三ケ所切開シテ出産シタル趣ナルモ経過ハ至極良好ニテ二週間目ニ退院シタルコト病院ハ吾妻勝剛ノ病院ナリシコト、岩崎某（陸軍少将ニテ朝鮮ノ旅団長トナリタル者）ノ送別会ヲ催フス積リナリシモ岩崎ハ赴任前其娘ヲ嫁セシムル積リニテ非常ニ多用ナル為強ヒテ送別会ヲ辞退シタルコト、水天宮ニハ余金出来タルヲ以テ修繕資金トシテ特別ニ積立ツルコトヲ東京府ニ申請シ其認可ヲ得タルコト、株券ノ売却ハ時価暴落ノ為メ決行出来サルコト等ヲ話シ予ヨリ赤松社事業規定ノ改正ニ付テハ尚ホ有馬秀雄ノ意見ヲ聞キテ決定スル方宜シカルヘキコト、岩崎ハ頼寧長男ノ中央初年学校ニ入学スルコトニ付世話ヲ為シ入学後モ世話シ居リタルニ付青山ヨリ何ガ贐テモ贈ル必要アルヘキコトヲ話シ橋爪ハ十時頃帰リ去レリ
○午後一時三十分ヨリ内子土肥慶蔵ノ家ニ行キ右腕ノ痛ヲ療ス近日痛癒ヘ居リタル処一昨日及（マツサーヂ）ヲ為シタルニ余リ劇シカリシ為メ一昨夜ヨリ更ニ痛ヲ生シタリ之ヲ土肥ニ告ケタルニ（マツサーヂ）ハ急劇ニ為シテハ宜シカラス舒ニ為スヘシト云ヒタル由ナリ
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○五月二十六日午後零時三十分ヨリ伊藤博邦仙石政敬吉田要作ト倶ニ宮内ノ自動車ニ乗リ東京駅ニ到リ天皇陛下ノ沼津ニ幸シタマフヲ奉送ス一時御発車予等直ニ宮内省ニ返ル伊藤ハ駅ヨリ帰リタリ今日自動車ニ乗ルコトハ昨日西野英男ニ嘱シ調度寮ニ相談セシメ置タルナリ
○午後一時後金井四郎来リ東久邇宮殿下ノ乗ラレタル仏国汽船ハ既ニポートサイドニ達シ同所抜錨ノコトモ電信ニテ通知シ来リ外務省ヨリ其処著ノ電信達シタルコトヲ通知シ来レリ先日船ニ破損アリタリトノ通信アリタルハ全クノ誤報ナリシコト分明セリ安心ヲ請フト云フ予永山千香ハ暇ヲ乞フコトヽナリ居ルカ動向ハ如何ト云フ金井落附カサル模様ナリ後任者ハ未タ見出サスト云フ
○午後一時三十分後ヨリ司法大臣官舎ニ到リ臨時法制審議会ノ主査委員会ニ列ス五時散会ス
○安徴兵適齢ニ付身体検査ヲ受クル為メ郷ニ帰ル午後九時三十分出発十一時東京駅ヲ発スル汽車ニ乗ル
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○五月二十七日午前七時後有馬秀雄電話ニテ一昨夜久留米ヨリ帰リタルコトヲ報ス予先日其子守忠カ来リテ鶏卵ヲ贈リタルコトヲ謝ス有馬ヨリ鶏卵ヲ贈リタルハ有馬ガ第一回ニ久留米ニ行キタル留守中ニテ其後有馬帰リ来リテ予ヲ訪ヒ之ニ面会シタルトキ既ニ謝ヲ述ヘ置タリ今日更ニ謝ヲ述ヘタルハ予ノ記憶違ヒニテ重複セリ
○午後八時頃隈本繁吉来リ両三日前台湾ヨリ帰リ来リタルコトヲ報シ再ヒ任官スルコトヲ周旋セヨト云フ予昨日仁田原重行野田卯太郎中橋徳五郎ニ遇ヒ仁田原ヨリ野田中橋ニ君（隈本）ノ事ヲ依頼シ居リタルカ中橋ハ文部省ノ事情ハ他ヨリ人ヲ採ルコトハ困難ナリト云ヒ居リタル旨ヲ話ス
○午後一時後宮内省ノ厠ニテ南部光臣ニ遇フ予先日開カレタル皇族会議ノ議事録ハ出成シタリヤト云フ南部大概出来タルモ未タ完カラス議事録ハ各皇族ノ覧ニ供スルコトニ付又持廻ラサルヘカラスト云フ予覧ニ供シタラハ修正ノ注文アルナラント云フ予又今日ハ君ハ王世子ノ邸ニ行ク予定ニ非スヤト云フ南部昨日既ニ行キタリト云フ予然ラハ高羲敬ヨリ妃殿下ノ仏語教師ノコトニ付話シタルコトナキヤト云フ南部他ニ大勢居リタル為ナランカ其事ニ付テハ何モ話サヽリシト云フ予妃殿下カ仏語ヲ研究セラルルコトニ相談決シタル由然ルニ教師トシテ外国人ヲ附クルコトハ懸念アリ夫レモ妃殿下ヨリ世子殿下ニ種々ノコトヲ話ス様ノコトアリテハ宜シカラサル故先日モ一寸話シタル如ク澤田某ヲシテ教授セシメタラハ一番安心ナラント思フ夫レニ付先ツ君カ適否ヲ考ヘ見呉ヨ君カ適当ナラント思ハヽ梨本宮両殿下ノ意ヲ伺ヒ本人ノ都合モ問ハサルヘカラスト云フ南部外国人ニ対スル懸念ハ尤ノコトナリ澤田ノ事ハ考ヘ見ルヘシト云フ是ハ廊下ニテ話シタル事ナリ
○午後一時三十分頃ヨリ歩シテ土肥慶蔵ノ家ニ行キ黒子ヲ療ス内子ハ予ニ先チテ土肥ノ家ニ行キ居リタリ今朝松平直之ヨリ其母房子ガ本月廿五日ニ死去シタルコトヲ報シ来リタルニ付内子ヲシテ鳩居堂ヨリ代価五円六十五銭ノ香ヲ購ヒ之ヲ持チテ土肥ノ家ニ行カシメ予ガ治療ヲ終ハリタル後内子ノ車夫ヲシテ香ヲ持チテ予ニ随ヒ松平ノ家ニ来ラシメ之ヲ将命者ニ致シテ弔詞ヲ述フ将命者強ヒテ予ヲ座ニ延ク直之及其子某出テヽ予ニ面ス予弔詞ヲ述ヘ直ニ去ル車夫ハ香ヲ将命者ニ致シタル後直ニ復タ土肥ノ家ニ行カシム予ハ三時三十分頃家ニ帰リ内子ハ四時後帰リ来レリ
○午後八時後雷雨アリ十時頃ニ至リテ歇ム迅雷二回アリタリ
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〔裏表紙・書き込み〕
東久邇宮殿下ノ乗船
エムエム会社汽船アンドレールボン号
露国ノ旧帝家 ロマノフ
独国ノ旧帝家 ホーヘンツオルレン
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〔表紙・書き込み〕
明治二十一年ノ有馬家紛議ニ関スル書類ノコト六月三日（十四葉）六月七日（二十八葉）ノ日記ニ在リ
昭憲皇太后ノコト六月十五日五十二葉〔その他にも小さい字で記してあるが、印刷が不分明で判読できない〕
大正九年日記
五月二十八日ヨリ六月二十日マテ
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岩崎初太郎ヲ送ラントス
王世子ノ仏語学習ニ関スルコト
○大正九年五月二十八日午前十一時頃将ニ東京駅ニ到リ岩崎初太郎カ朝鮮ニ赴任スルヲ送ラントス廊下ニテ高羲敬ニ遇フ予昨日南部光臣ニ澤田某ヲシテ世子妃殿下ニ仏語ヲ教授セシメント欲スル旨ヲ謀リタル処南部モ異見ナキ旨ヲ答ヘタリ依テ妃殿下カ愈々仏語ヲ学ハルルコトヽナラハ澤田ニ依頼スルコトヲ交渉スル様ニ致スヘシト云フ高然ラハ更ニ其事ヲ協議シタル上ニテ決スルコトヽ為スヘシ
外国公使王世子ニ謁ス
昨日阿蘭陀公使カ世子殿下夫妻ニ謁見シ妃殿下ハ仏語ニテ御話アリ善ク話サレタリ桜井モ中々仏語ハ上手ナリ故ニ澤田ト桜井ト妃殿下ノ相手トナラハ夫レニテ宜シカラント思フト云フ
王世子カ予ニ意見スル機会ヲ作ルコトヲ望ム
高又王世子殿下ヨリ閣下（予）ニ接スル機会ヲ作リ呉ヨトノ話アリト云フ予殿下ハ先日ヨリ多用ナル故予ハ差控ヘ居ル所ナリ何カ用事アリヤト云フ高殿下ハ閣下ヨリ話ヲ聞キ度ト云ハレ居レリ憲法等ノコトモ陸軍大学ニテモ研究セラルル必要アルニ付夫レ等ノコトモ聞キ度ト思ハレ居ルナラント云フ予殿下ノ英学ハ幼年学校士官学校ニテ学ハレタルモノナラント云フ高今日モ尚ホ継ケテ学ハレ居レリ夜ハ毎晩軍事ノ稽古アリ暇ハ日曜ノミナリト云フ予殿下ハ漢書ヲ音読セラルルコト出来ルヤト云フ高字音ハ承知シ居ラルルヽモ漢書ヲ音読セラルルコトハ六ケシカラント云フ予更ニ熟議スヘキ旨ヲ告ケテ東京駅ニ赴ク
岩崎初太郎ヲ送ル
予未タ岩崎ヲ見ス岩崎予ヲ呼フ予之ニ別ヲ告ク橋爪慎吾亦来リ送ルプラツトホームニテ小倉敬止ニ遇フ十一時四十分汽車発ス予橋爪ト倶ニ出ツ駅前ニテ橋爪ニ別レ宮内省ニ返ル
澤田某ヲシテ世子妃ニ仏語ヲ教ヘシムルコトヲ南部光臣ニ謀ル
○午後二時後南部光臣ヲ其事務室訪ヒ高羲敬モ澤田某ヲシテ世子妃ニ仏語ヲ教授セシメント欲スルニ付澤田ヲシテ之ヲ教授セシムルコト出来ルヤ否ヲ考ヘ見呉ヨ其都合出来ルナラハ世子邸ノ方ノ話ヲ纏メタル上更ニ相談スルコトヽナスヘシト云フ南部之ヲ諾ス南部正ニ参事官ノ会議ヲ開キ居リタルニ付余談ヲ為サスシテ審査局ニ返ル
展墓
○午前内子谷中ノ墓ニ展ス
直人妻来ル
○午後四時後広津直人妻来ル
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野田卯太郎ノ案内
○五月二十九日午前八時後吉田正隆電話ニテ六月二日午後六時野田卯太郎ヨリ其官邸ニテ久留米藩ノ重立タル人ニ晩餐ヲ供セント欲ス仁田原重行ハ既ニ承諾ヲ得タリ御都合ハ如何ト云フ予招ニ応スヘキ旨ヲ答フ
松平房子ノ告別式
○午前十時前ヨリ松平直之ノ家ニ到リ其母房子ノ告別式ニ会シ直ニ宮内省ニ出勤ス
石井光次郎ノ招待
○午前八時後有馬秀雄ヨリ電話ニテ石井光次郎ヨリ晩餐ノ招待ヲ為シタリヤト云フ予招待ヲ受ケタリト云フ有馬石井ハ有馬家ノ貸費ヲ受ケ之ヲ償却シ謝恩ノ為招待シ度トテ自分（有馬）ニ相談シ自分（有馬）モ之ニ賛成シ招待スル人モ相談シタル次第ニ付是非出席シ呉ヨト云フ予未タ返書ハ出サヽサルモ出席スル積リナリ又来月二日ニハ野田卯太郎ヨリノ案内アリタラン予ハ是ニモ出席スル積リナリ君ハ如何ト云フ有馬自分（有馬）モ出席スル積リナリト云フ
一戸兵衛新任ノ挨拶
○午前十一時頃木村甚三郎、一戸兵衛ヲ伴ヒ来リ一戸カ今日学習院長ニ任セラレタルコトヲ紹介シ一戸新任ノ挨拶ヲ為ス
内子腕痛ヲ療ス
○午後一時後ヨリ内子土肥慶蔵ノ家ニ行キ腕痛ヲ療ス
端書ヲ相川勝蔵ニ贈ル
○午後四時後端書ヲ相川勝蔵ニ贈ル
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柳田直平ヲ訪フ在ラス
○五月三十日午前八時後ヨリ市ケ谷加賀町ニ行キ柳田直平ヲ訪フ柳田四五日前ヨリ茅ケ崎別荘ニ行キ居ルト云フ其義子国男及国男ノ妻ト話ス三十分許ニシテ辞シ去ル柳田西伯利亜ノ過激派カ日本人ヲ殺スハ軍隊ヲ派遣シタルカ為ナル趣ナルコトヲ話ス
宇佐美富五郎来ル
○午後宇佐美富五郎来ル四月末日婢君乞暇乃チ富五郎ノ娘静ヲ雇ヒ婢ノ事ヲ執ラシム数日前婢ヲ雇フコトヲ得タリ故ニ昨日静ヲ返シ金十五円ヲ与フ富五郎カ来リタルハ之ヲ謝スル為メナリ
拓殖会社ノ配当金ヲ受取ルコトヲ嘱ス
富五郎ニ東洋拓殖会社ノ配当金ヲ受取ルコトヲ嘱ス
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旅費規則改正ノコト
○五月三十一日午後南部光臣ノ事務室ニ到リ政府ニテハ今日ノ官報ニテ旅費規則ヲ改正シタルカ宮内省ニテハ如何スルヤト云フ南部既ニ案ヲ作リ居レリ明日ニモ発表スヘシト云フ
王世子妃仏語学習ノコト
南部又先日話サレタル澤田某ヲシテ王世子妃ニ仏語ヲ授ケシムルコトハ梨本宮殿下ニ話シ置タリト云フ予殿下ニ異議ハナカリシヤト云〔フ〕南部別ニ異議ハナカリシカ唯タ話シタルノミニテ十分確カニ決定スル様ニ話シタルニ非スト云フ
内子気色悪シ
○内子気色宜シカラス終日褥ニ在リ
○午後四時頃ヨリ雷雨六時頃ニ至リテ止ム
相川勝蔵ノ死
○相川勝蔵病後流行性感冒ニ罹リ本月廿七日死去シタル旨其女憲子本月廿七日ノ書ニテ通知シ来ル
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