最終更新：2001年7月10日
作成者：永井 和、伊藤のぞみ、小倉 宗、小山俊樹、斉藤健一、平良聡弘、冨永 望、宮田昌明
清書稿本作成にあたっては、極力原文に忠実な翻刻をめざしたが、漢字は通行の字体にあらためた。また、文中の文の切れ目には句点を適宜おぎなった。さらに、読者の便宜を考え、原文の記載記事の切れ目を表す「○」の直前で改行し、適当なところで、改行、改段をおこなった。
なお、□は判読できない文字であり、〔 〕内は校訂者による注記である。
また、JIS第１、２水準にない漢字の表示は、e漢字プロジェクト
の漢字フォントを使用した。記して謝意を表したい。
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○二月一日午前十一時後石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒ田中光顕辞任問題ノ始末ヲ問フ。石原別段ノ事ナシ。子爵連中条件ニ付論議スルコトハ反対ナルモ相當ノ条件ヲ附クルノ希望アリタルモ結局其交渉ハ不調トナリタル様ナリ。然シ子爵連中ハ伯爵有志者ニ対シテハ交渉ヲ拒絶シタル趣ナリ。多分格別ノ事ナクシテ鎮静スルナラント思ハルヽ旨ヲ話シタリ。石原ヨリ図書頭カ提出シタル天皇御代数、御即位年月日等ニ関スル調書四冊ヲ予ニ交シ枢密院ニ諮詢セラルヘキ問題ヲ考へ置呉ヨト云ヘリ。予正ニ石原ト話ス。近藤久敬来リ。実ハ君（予）ノ事務室ニ到リ相談スル筈ナリシカ幸ヒ面会シタル故此處ニテ相談ス。李大王葬儀ノトキ宮内省勅奏任官総代トシテ一人京城ニ行ク事トナリ居ルガ君ハ朝鮮ニ縁故モアルコトニ付行キ呉ルヽコトハ出来サルヤト云フ。予只今ノ処別ニ差支モナキ様ニ付行キテモ宜シカルヘシト云フ。近藤此事ハ急ニ決定シ呉レサルモ差支ナシト云ヒ石原モ行クモ行カサルモ君ノ都合次第ニテ差支ナシト云ヘリ
○広津和郎午後三時後ヨリ鎌倉ニ帰ル
○二月二日午前九時前内子ト倶ニ坂田稔ノ家ニ到リ。内子カ先頃ヨリ急ニ肉附キ起居不便ナル故之ヲ診セシメ且予ト内子ノ尿ヲ検セシム。予ト内子ノ体重ヲ検シタルニ予ハ衣重ヲ合セテ十五貫五百目内子ハ衣重ヲ合セテ十三貫二百五十目ナリ。後衣重ヲ検ス。予ハ六百八十目即チ体重ハ十四貫八百二十目ナリ。内子ハ四百目即チ体重ハ十二貫八百五十目ナリ
○二月三日昨夜雪フル今朝積ムコト四五寸
○午後一時後石原健三ヲ其事務室ニ訪ヒ本月一日石原ガ予ニ渡シタル天皇御代数等ニ関スル調書四冊ヲ返シ予ハ今後枢密院ニ諮詢シテ決定セラルヘキモノハ差向キ長慶天皇ヲ御代数ニ加フヘキヤ否ニ止メ。弘文天皇ハ近藤久敬カ反対ノ意見ヲ有スルノミニテ他ニハ反対ナキ故更ニ諮詢セラルヽニハ及ハサルヘシ。長慶天皇ノコトハ明治四十三年南北朝ノ正閏問題ヲ決定セラルルトキ留保シアル故此事ハ是非決セラルヽ必要アルヘシ。其他後鳥羽天皇即位、後小松天皇即位ノ日等ニ付問題ナキニ非サルモ是等ハ宮内省ニテ適当ニ決セラレテモ宜シカルヘキ旨ヲ話シ置ケリ
○午前十一時頃総務課ヨリ辞令書ヲ致サシム。其書左ノ如シ
帝室会計審査局長官法学博士倉富勇三郎
御料地調査委員ヲ免ス
大正八年二月一日 宮内省
○午後三時後小原
吉ヲ其事務室ニ訪ヒ予カ先日（一月二十四日）小原ヨリ秘密ニ聞タル田中光顕ヲ辞任セシメンコトニ付石原健三カ栗原広太ヲ訪フテ依頼シタル話ハ其砌（一月二十六日）ニ石原ヨリ直接ニ予ニ話シタルコトヲ告ケ。且ツ田中問題モ近々ハ余程静カニ相成リ世間ノ事ハ予等カ考フル如キモノニ非ス。此問題ニ付テモ予ハ此クノ如キコトニテ済ムヘキモノニ非スト思ヒ波多野ハ是非辞職スル必要アル旨ヲ主張シタルコトアレトモ此ノ如キ考ヘハ時勢ニ違ヒ居ルコトヲ考ヘ付キタル旨ヲ話シ。小原モ同感ナルカ宮内省ノ威信ハ皆無トナルヘシト云フ。予ハ一般カ此ノ通リナラバ威信カナクナルコトモナカルヘシト云ヒ置タ
リ
○二月四日昨夜又雪フル。今朝積ムコト二寸許
○午前十一時頃林恭次郎ニ対シ判任官ノ補欠ニ江渡由郎ヲ候補者トナスコトヲ談ス。林ヨリ調度寮ニ在勤スル小池某ハ元会計検査院ニ居リタルモノニテ伎倆モアル趣ニ付先ツ本人ノ意向ヲ探リ其上ニテ調度寮ニテ転任ヲ承諾スルヤ否ヲ探リ見ルヘシト云フ
○午後零時後小宮三保松来ル柳津卓広ヲ談ス。共々午餐ヲ喫シテ去ル
○午前十一時頃林恭次郎ニ対シ予ガ或ハ朝鮮ニ赴クコトヽナルヘキ旨ヲ告ケ判任官ノ補欠ハ成ルヘク其前ニ推薦ノ手続ヲ為シ置キ度旨ヲ談ス。林、先ツ江渡由郎丈ケヲ推薦シテハ如何ト云フ。予其手続ノミヲ先キニスルニ及ハサル旨ヲ告ク。林、小池某ノコトハ今少シ取調ヘ愈々宣シキ様ナラハ長官（予）ヨリ調度頭
（小原吉）ニ転任ノコトヲ交渉シ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス
○午前十一時前西野英男来リ判任官補欠ノ候補者ハ決定シタルヤト云フ。予心当リハアレトモ未タ決定ハセスト云フ。西野現ニ看守長ヲ奉職シ月給三十五円ヲ受ケ居ル某ハ極メテ真面目ナル者ニテ転任ヲ希望スルヤ否ヲ問ヒタル処只今ハ官舎ニ住シ居ルニ付一級増給スルコトヲ得レハ転任シ度ト云ヘリ。依テ両三日中ニ履歴書ヲ出スコトニ約束シ置キタリト云フ。予、宮内省ニテハ中途ニテ増俸シテ採用スルコトハ出来難ク愈々一級ノ増俸ヲ希望スルナラハ転任前監獄ニテ増俸スルコトヽナラサルヘカラス。只今心当リノ人アルニ付催促シテ履歴書ヲ出サシムルニ及ハス。先方ヨリ履歴書ヲ持チ来リタラハ之ヲ受取リ置クヘキ旨ヲ告ケ置タリ
○午後一時後金井四郎来リ。東久邇宮ニテ買ヒ入レラルヽ自動車愈々本月八日ニ竣成スルコトトナレリ。十日ニ調度寮ノ伊東事務官（太郎）ニ依頼シ宮内省構内ニテ試運転ヲ為シ夫レヨリ構外ニ出テ近郊ニテ試乗ヲ為ス積リニ付其時ハ共々試乗致シ呉度十日ニハ試乗出来ル様繰リ合セ置呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス
○□□勇次郎カ贈リタル弔辞達ス
○二月五日午後十時後林恭次郎ト判任官補欠ノ事ヲ議ス。将ニ調度寮属小池相良及ヒ江渡由郎ヲ採用スルコトニ決セントス。会々西野英男其知人ナル趣ヲ以テ某ノ履歴書ヲ持チ来ル。予乃チ之ヲ林ニ交ス。林只今欠員三人アルヲ以テ是モ採用シテ差支ナキ旨ヲ告ク。予林ヲシテ俸給残額ヲ調査セシメ更ニ伊夫伎準一松根豊次郎及青山操ト謀ル。三人ヲ採用シテモ大正十年六月マテハ昇級ニ差支ナキ計算ナルヲ以テ三人採用ニ異議ナキコトニ決ス。
予乃チ小原吉ヲ其事務所ニ訪ヒ将ニ小池採用ノコトヲ謀ラントス。小原未タ出勤セス。十一時後小原予カ事務室ニ来リ。昨日栗原広太ニ面会シ田中光顕ノ近状ヲ問ヒタル処栗原ハ田中ハ意気挫ケ居ルニ付永ク勤続スル考ヘハナカルヘシト云ヒ小原カ栗原ニ対シ田中ハ君（栗原）ヲ採用スルコトヲ波多野ニ話シ居ルニ非スヤト云ヒタル処田中ハ既ニ挫ケ居ルニ付自分（栗原）ヲ採用スル様ノコトナカルヘシ。先頃一度田中ヨリ自分ニ対シテ話アリタルトキ自分ハ断リ置タリ。自分ハ審議会ノ事務ヲ終ハリタル上方向ヲ決スル積リナリシカ審議会ノ方永引ク模様ニナリテ困リ居レリト云ヘリ。先日石原健三ハ原敬ヨリ波多野ニ田中ノ処分ヲ迫マリタル様ニ栗原ニ話シタルモ其後栗原カ取調ヘタル処ニテハ波多野ヘ話シタルハ原ニ非ス徳川家達ヨリ波多野ニ話シ波多野ハ徳川ノ話ヲ聞キタル故原ニ相談シタルモノニテ波多野カ辞任ヲ思ヒ止マリタルハ山県有朋カ之ヲ止メタル為メナリト栗原ハ話シタリト云ヘリ。
予ヨリ小池採用ノ事ヲ小原ニ話シタル処小原ハ異議ナシト云フ。予乃チ其性行技能ヲ問ヒタル処技能ハアレトモ十分ニ勉強セス。且責任ヲ避クルノ風アリ。自分ハ（小原）同県人ヨリ小池ノ事ヲ依頼セラレ居ル故度々忠告シタレトモ未タ十分ノ效ヲ奏セス。小池ハ先頃調度寮勤務ヲ止罷メタル某カ連レ来リタルモノニシテ尚ホ以前ノ弊風アリ。審査局ニ採用スルナラハ十分ニ取調ヘタル上ニスル方宜シカルヘシト云フ。予此事ハ小池本人ヨリ申出シタル訳ニ非ス。本人ハ何事モ知ラサルニ付予カ採用ヲ止ムル様ノ事アルモ本人ノ為メ不利益ナル様ノコトナキ様致シ呉度ト云ヒ小原承諾ノ旨ヲ答フ。午後予ヨリ林ニ対シ小原ト話シタル模様ヲ告ク。林右様ノ欠点アル人ハ見合ハスル方宜シカルヘシト云ヘリ
○午後書ヲ朝鮮江陵渡辺勇次郎ニ贈ル昨日渡辺カ贈リタル乾柿達シタルヲ以テ挨拶ヲ為シタルナリ
○午前小原吉ト話スルトキ予制度審議会ノ事ハ伊東巳代治ハ如何スル積リナルヘキヤ云ヒタル処小原ハ栗原広太ノ話ニ栗原ヨリ一度委員ヲ招待デモシテ懇談シタラバ如何ト伊東ニ話シタルニ伊東ハ料理屋抔ニ行キ時間ヲ費スモ愚ナルコトナリトテ霊南坂ノ事務所ニ委員ヲ招キ弁当デモ出シテ話ヲナサント云ヒ居リタルモ岡野敬次郎カ反対シテ招待スルナラハ正式ニ招待スルカヨシ。差シタル用事モナキ弁当ヲ出ス為メ召ヒ寄セル様ノコトナラハ自分（岡野）ハ出席セスト云ヒタルヨリ其事モ見合セ単ニ委員ヲ集メテ話ヲスルコトヽナリ居ルカ君（小原）ノ方ニハ未タ通知ナキタヤト話シ居リタリト云ヘリ
○午後五時前書ヲ江渡由郎ニ贈リ明日又ハ明後日ノ内ニ午前八時頃来訪スヘキ旨ヲ申遣ハス。予カ審査局属官トシテ江渡ヲ推薦セントスルヲ以テナリ
○二月六日午前林恭次郎ヨリ昨日ノ相談ニ従ヒ今朝西野英男ヨリ推薦シタル吉田某〔源太郎〕ヲ召ヒ面会シテ現在ノ職務上ノ事ニ付質問セシ処明瞭ニ答弁シ審査局属官タルニ適スヘシト思ハルヽ旨ヲ報ス。予乃チ西野ヲ召ヒ吉田ヲ推薦スヘキニ付今一応本人ノ決心ヲ確メ且素行等ニ付不都合ナキヤヲ問質スヘキ旨ヲ告ク
○午後二時後原煕来リ。有馬頼寧ヨリ書状ヲ贈リ。洋行ノ希望アリ。相談人モ同意シ父モ承諾シ居ルニ付自分（原）ノ意見ヲ聴キ度旨申来リタリ。自分ハ大体洋行ヲ止ムル方宜シカ
ルヘシト思ヘトモ既ニ余程話ガ進ミ居ル様考ヘラルヽニ付一応君ノ話ヲ聴キタル上ニ本人ニ話サント思ヒ来リタリト云フ。
予予ガ一月廿一日頼寧ト話シタル概略ヲ述ヘ此事ニ付テハ本人ニ対シ大体ニ於テ反対ハ致シ居ラサルモ本人カ辛抱シテ勤学スルコトハ望ミ難ク左リトテ事柄ハ悪シキコトニ非サルニ付米国ハ留学ニ適セストノ理由ヲ以テ延期ヲ勧メ置タル処ナリ。其内ニハ本人ノ考ヘモ変ハルコトモアルヘク他ニ取調ヘ居ル事実モアリ其方ノ事モ分明スヘキニ付旁延期ノ事ニ話シ置タリ。本人カ君ニ相談シタルハ予カ米国留学ニ反対シタルニ付学校ヨリ米国ヲ指定シ貰ヒ度希望ニテ相談シタルモノナラント思フ旨ヲ話シ.
原ハ自分ハ本人ノ性質モ知リ居ル積リナリ。放蕩セサレハ幽鬱病ニ陥リ左モナケレハ放蕩ニ陥ヒルノ恐アリ。本人ハ兎角物ニ動キ易キ弊アリ。確カナルコトニハ非サレトモ中央蚕糸〜〜役員ニテ有馬ト同学ノ友人カ米国ニ在勤スル者アル模様ニ付其者ヨリ米国行ヲ勧メタル様ノコトニハ非サルヤト思フ。農事研究所デモ設ケタル上何カ此事ガ研究シ度ト云フ如キコトニテ目的ヲ定メテ出掛ケレハ效能アルモ左モナケレハ別段ノ效能ナカルヘシト云ヘリ。
予更ニ予ノ話ヲ本人ニ告ケテモ差支ナキガ前述ノ通リ予ハ本人ニ対シ絶対ニ反対ハ致シ居ラサル故其辺ハ含ミ置呉度ト云ヒタル処原ハ話カ十分進ミ居レハ自分意見ヲ述フルモ效能ナシト思ヒテ問ヒ合セタル訳ナリ。此以上ハ自分丈ノ考ヲ以テ本人ニ話スコトニ致スヘシト云ヒテ立チ去リタリ。時ニ正ニ三時ナリ
○午後内子三越呉服店ニ行キ小切ヲ買フ
○二月七日午前八時後矢野茂ノ家人電話ニテ茂ノ四女今日午前二時頃 病死シタル旨ヲ報ス
〇午前八時頃江渡由郎来ル。予之ニ対シ宮内省属官ニ推薦セント欲スルカ之ヲ希望スルヤヲ問フ。江渡之ヲ希望スルモ自分（江渡）朝鮮ヨリ上京シタルハ高等文官試験ヲ受ケント欲スル為メナル故任官シテ間モ受験ノ為メ辞職スル様ノコトアリテハ不都合ニ付今暫ク任官ヲ見合セ呉ヨト云フ。予鈴浦義久ヨリ推薦ヲ依頼シ来リタルニ付推薦セントシタルマテナリ。只今ノ話ノ都合ナラハ推薦ヲ見合スヘシト云ヒタリ
〇午前十時後林恭次郎ヨリ西野英男ガ吉田某ノ希望ヲ確メタル処推薦ヲ希望スル趣ナルコトヲ申出テタリト云フ。予乃チ推薦ノ手続ヲ為スヘキコトヲ命ス。又林ニ江渡由郎ノ推薦ヲ見合スルコトヲ告ク
〇午後四時前家ニ帰ル。内子午前十一時後広津直人妻清来リ。金十円ヲ借リ。予ノ許諾ヲ得スシテ之ヲ貸シタルコトヲ報ス
〇二月八日午前九時後婢徳ヲシテ矢野茂ノ家ニ電話シ矢野ノ第四女ノ葬儀日時ヲ問ハシム。本月十日午前十時浅草統一閣ニテ葬儀ヲ行フ旨ヲ答フ
〇午後零時後ヨリ往テ矢野茂第四女直子ノ死ヲ弔ス。午前十一時頃ヨリ雪フル。車夫頗ル困リ午後三時前家ニ帰ル
〇午後五時頃橋爪慎吾電話ニテ先日協議シタル水天宮予算ハ区役所ニテ承認シタルニ付予算ノ通リ執行スルコトニスヘシ。又有馬頼寧本月五日横浜ニ行クト云ヒテ家ヲ出テ今日マテ帰ラス其所在不明ナリ。
頼春ニ従テ酒匂ニ行キ居リタル下婢流行感冒ニ罹リ小田原病院ニ入リ居リタル者終ニ死去シタリ。遺骸ハ火葬ニ付シ大坂ニ在ル父兄カ之ヲ携ヘ明日東京ニ来ル筈。其手当等ノコトモ頼寧不在ノ為メ夫人ハ困リ居リ。今夜デモ頼寧帰宅スレハヨロシキモ左モナケレハ自分（橋爪）ニ青山ニ来リ呉度旨夫人ヨリ電話ニテ申シ来リ居レリ。
頼寧ハ情人「ミトリ」カ六日頃其郷里ヨリ横浜ニ来ルコトニナリ居リ。頼寧ハ之ヲ周旋シテ学校ニ入レ遣ハス様ノコトニナリ居リタル様ニ付多分其ノ為メニ横浜ニ行キタルモノナルヘシ。「ミトリ」ノ父カ近日東京ニ来ル筈ニナリ居ル趣ニ付人ヲシテ「ミトリ」ノ結婚ヲ勧メシメ見ル積リナリ。左スレハ「ミトリ」ト頼寧トノ関係ニ付父ノ意向モ分ルコトナラント思フト云ヘリ。
予頼寧不在中ニテモ病死シタル下婢ノ手当ハ薄キニ失セサル様取計ヒ呉度ト云フ。橋爪、家則ニテハ四年ノ勤続ニ対シ二十七円位ノ手当ナレトモ百円位ハ遣ハサヽルヲ得サルヘシト思フト云ヘリ
〇午後五時後橋爪ニ電話シ明日橋爪カ青山ニ行クナラハ予モ同行スヘシ。予テ夫人并ニ岩波稲ニ話シ置キ度ト思ヒ居ルコトアリ。此節頼寧カ所在不明ノコトアリタルニ付テハ仮令其不在中ニ予カ岩波等ト話シ居ルトキ頼寧カ帰リ来リテモ少シモ差支ナキ故明日同行スヘシト云フ。橋爪夫レハ好都合ナリ。明朝電話ニテ頼寧カ帰リタルヤ否ヲ問ヒ帰リタラハ自分（橋爪）カ行クコトハ見合セ帰ラサルナラハ貴家ニ寄リテ青山ニ同行スヘシト云ヘリ
〇午後五時頃橋爪ヨリ電話ヲ掛ケ予ト話シタルトキ予ヨリ本日六日原熙カ宮内省ニ来リ。予ニ対シテ有馬頼寧洋行ノコトニ付予ノ意見ヲ問ヒタルコトヲ話シ頼寧近日ノ行動ニテハ洋行抔ノ話ニ非スト云ヒ置ケリ
○二月九日今朝ハ晴レタレトモ雪積ムコト尺許ナリ
○午前八時後橋場有馬家ニ電話シ橋爪カ今日橋場ニ出勤スルヤ否ヲ問フ。永浜某昨夜ノ橋爪ノ話ニテハ五位様（頼寧）カ帰ラルレハ君（予）ト同伴ニテ青山ニ行クトノコトナリシニ付イツレ橋爪ヨリ電話ニテ青山ノ模様ヲ問ヒ青山ニ行クナラハ橋場ニ来ラス直ニ青山ニ行クコトナルヘシト云フ
○午前九時頃青山有馬家ニ電話シ頼寧カ帰リタルヤ否ヲ問フ。雇人（女中）昨夜十時頃帰リタル旨ヲ答フ。予橋爪ヨリ電話ヲ掛ケタルヤヲ問フ。未タ電話ハ来ラス。此方ヨリ電話ニテ五位様帰宅ノコトヲ通知スル積リナレトモ夫レモ未タ通知セスト云フ。予橋場ニ通知シテモ橋爪ニハ電話ナキ故通知スル訳ニ行カス。イツレ橋爪ヨリ自動電話カ何カニテ直接青山ニ問ヒ合ハスルコトナラント云ヒ置ケリ
○午前九時前永浜某ヨリ更ニ電話シ先刻橋爪ノコトヲ話シ置タルカ尚ホ考ヘ見タルニ昨晩橋爪ハ君ト電話シタル後更ニ有馬秀雄ト電話シ五位様カ（頼寧）帰ラルレハ君ト共ニ青山ニ行クヘク五位様カ帰ラサルモ死去シタル雇人処分ノコトモアル故青山ヘ行ク様ノ話ナリシナリ。君（予）ト同伴スルヤ否ハ聞キ居ラス。多分橋爪カ青山ニ行クトキハ電話ニテ打合ハスルカ又ハ貴家ニ立寄リテ誘引スルコトナラント思ハルヽト云ヘリ。永浜ハ橋爪ノ話ヲ誤聞シ頼寧カ帰レハ橋爪ハ青山ニ行カサルコトヲ反対ニ聞キ居ル故予ヨリ其旨ヲ告ケントシタレトモ電話通セス。交換手電話ヲ切リ幾度モ接続ヲ求メタレトモ終ニ接続セス其侭止メタリ
○午前九時頃橋爪慎吾ヨリ代人ヲシテ電話ニテ有馬頼寧カ帰リタルコトヲ通知セシム。予婢ヲシテ承諾ノ旨ヲ答ヘシム
○午後一時後ヨリ字ヲ作ル。未タ終ハラス。
三時頃橋爪慎吾来ル。乃チ之ト談ス。橋爪、有馬頼寧カ五日ヨリ横浜ニ行キ昨夜十時頃ニ至リ始メテ帰リタルコト、有馬ノ雇人某（花カ）病死シタルニ付弔慰金ハ三百円位ハ遣ハス必要アルヘシト思フコト、「ミトリ」ノコトハ精々探索シ居ルコト、「ミトリ」ノ父ハ永浜某ト懇意ニテ「ミトリ」ヲ雇ヒ入ルヽトキハ永浜カ周旋シタルコト、「ミトリ」ノ父カ永浜ニ書家某ニ紹介スルコトヲ依頼シ居ル趣ニ付先日永浜ヲシテ書ヲ「ミトリ」ノ父ニ贈リ上京ヲ促サシメ父ハ一度上京シタルモ会社ノ用事ニテ至急帰郷ノ必要アリテ帰郷スルカ近日中更ニ上京スルニ付其節ハ必ス永浜ヲ訪問スル旨端書ニテ通知シ居レリ。此後上京シタラハ永浜ヲシテ「ミトリ」ノ縁談ヲ試ミシムヘシ。縁談ノコトハ予テ父ヨリ永浜ニ依頼シ居ル趣ナリ。左スレハ父カ「ミトリ」ト頼寧トノ関係ニ付如何ニ考ヘ居ルヤ大概分ルナラント思フコト、頼寧ハ「ミドリ」ノ家ニ宿シタルコトアリ。頼寧ノ話ニテハ其トキハ「ミトリ」ハ同室ニ寝ネタリトノコトニテ其事ハ事実ナルカ如シ。左スレハ「ミドリ」ノ両親カ知ラサル訳ナシト思ハルヽコト、
水天宮ノ予算ハ区役所ニテ異議ナク承認シタルコト、水天宮ノコト一段落トナルニ付従前ノ勤労者即チ有馬秀雄等ニ慰労スル必要ナカルヘキヤノコト、
久米子ノ結婚ハ本年六月頃ノ予定ナリシ処先日稲田家ノ堀江某ノ話ニ稲田ノ養子即チ夫タルヘキ人ハ文官高等試験ヲ受クル積リニ付其終了後即チ本年十一月頃迄延ハ度ト云ヒ居リ。栃内某モ同様ノコトヲ申シ居ル趣ナルモ此事ハ自分（橋爪）カ聞キタル丈ケニ付未タ頼寧ニモ話サス。伯爵ハ六月ニ結婚カ済メバ久米子ノ居住スル所カ明キ伯爵等カ其方ニ移ラレ只今ノ伯爵ノ住居ヲ毀テ普請ニ着手スルコトカ出来ルト楽ミ居ラレ結婚延期ハ気ニ入ラサルヘシトノコト、等ノ事ヲ話シ午後四時後帰リ去ル。
予ヨリ頼寧カ洋行希望ノコトニ付予ニ贈リタル書状ヲ示シ本月六日原煕ト話シタル概略ヲ告ケ。又水天宮改革ニ付有馬秀雄等ニ対スル慰労ノコトニ付テハ昨年有馬解職ノトキ十分ノ手当ヲ遣ハシアル故多額ノ金円ヲ贈ラルヽニハ及ハサルヘク慰労ノ印ハ遣ハスコトニナス方宜シカルヘシト云ヒ置タリ。
又橋爪ヨリ従来ノ水天宮ノ余金ニテ公債証書一万五千円許アリ。先日吉田篤太郎ヨリ頼寧ノ居ル所ニテ其処分方ヲ相談シ頼寧ハ何事モ相談人ノ議ヲ経ルコトハ困ル場合アリ。政府ニモ機密費アル故其公債証書ハ其侭ニ致シ置随意ニ使用スル様致シ度ト申出テアリ。自分（橋爪）ハ吉田カ内相談ヲ遂ケスシテ突然其事ヲ申出テタルハ軽率ニテ頼寧ノ希望ハ不当ト思ヒタレトモ別ニ争ハス。其侭ニナリ居レリト云フ。
予政府ノ機密費モ予算アルモノニテ全然内所ノモノニ非ス。頼寧ヨリ公債証書使用ノ話アラハ反対シ呉ヨト云ヒ置タリ、
橋爪ハ又久米子ノ習慣ヲ矯正スル様頼寧ヘ話シ居レトモ何事モ久米子ニ云ハサルニ付自分（橋爪）カ少シ宛改ムル様ニ忠告シ居レリ（例ヘハ朝飯前入浴スルコトヲ朝飯後ニ改ムルノ類）。
又聡頼ノ弟ニテ慈光寺某ノ養子トナリ居ルモノ不行跡ニ付頼寧ヨリ説諭スルコトヲ自分ヨリ頼寧ニ話シ置タル処頼寧ハ南奥ノ女中花ニ対シ橋爪カ説諭セヨト云フニ付説諭セサルヲ得サレトモ自分（頼寧）カ不品行ニ付心苦シト云ヒ居リタル由。
又頼寧ハ花ニ対シ頼寧ト「ミトリ」トノ間ノ書状ノ取次ヲ為スコトヲ依頼シ花ハ右様ナル事ハ絶対ニ致シ難シトテ怒リヲ含ミテ拒絶シタル処頼寧ハ之ヲ慰諭シ「ミトリ」ヨリ頼寧宛ノ書状ヲ示シ其端ニ花ト云フ人ニハ是マテ面会シタルコトナキモ種々世話ニナルコトアルヘキニ付宜シク伝ヘ置呉ヨトノ書□アリ。此ノ如ク申来リ居ル故是非承知セヨト云ヒタル由花ヨリ聞タリ。花ニ対シテハ成ルヘク事実ヲ探知スル様注意スルコトヲ申含メ置タル旨ヲ話シタリ
○午後五時後金井四郎ニ電話シ雪後路悪シキモ明日ハ予定ノ通リ（本月四日、記事参看）自動車ノ試乗ヲ為スヤト云フ。金井路悪シキ故遠乗ハ出来サルヘキモ御所前ノ広場ニテ試乗スルコトハ差支ナカルヘシ。明日午前九時三十分マテニ自動車ヲ宮内省ニ持チ来ル様申付ケ置タリト云フ。
又金井ヨリ東久邇宮妃殿下明日午後六時大磯ヨリ御帰京。十一日午後一時後更ニ大磯ヘ御出ナサルコト、李大王、葬儀ニ付テハ朝香宮殿下御渡鮮成サルコトニ決シタルコト、天皇陛下紀元節ニ付葉山ヨリ御還幸ノ筈ナリシモ御見合セトナリシコト、予カ李大王葬儀ニ付宮内省ノ総代トシテ朝鮮ニ行クコトニ決シ居ル趣ヲ聞キタル事等ヲ話ス。予予カ朝鮮ニ行クコトハ話ハアレトモ未タ決答ハ致シ居ラス。君ハ誰レヨリ其話ヲ聞キタルヤト云ヒタル処宗秩寮ニテ聞キタリト云ヘリ
○二月十日昨夜又□[微]雪
○午前九時前ヨリ内子浅草□□町統一閣ニ行キ矢野茂第四女直子ノ葬ニ会ス
○午前九時前ヨリ歯科医桐村克己ノ家ニ電話セントスレトモ交換手誤テ接続スルモノ数回後終ニ電話スルコトヲ得タリ。予カ今日午後往テ歯ヲ療セント欲ス。差支ナキヤヲ問フ桐村差支ナキ旨ヲ答フ
○午前九時頃金井四郎案内電話ニテ今日午前九時三十分自動車ヲ宮内省ニ廻ハシ君ノ上省ヲ待チテ試乗スヘキ旨ヲ報ス
○午前十時前金井四郎宮内省ニ来リ。自動車未タ来ラス。少時待チ呉ヨト云フ。金井又妃殿下ハ今日御帰京明日午後一時後大磯ニ御出成サルヽコト、侍女川崎某ヲ解雇シ更ニ新ナル侍女一二名ヲ雇ヒ入レ度王殿下ニ伺ヒタル処新ニ雇ヒ入ルヽコトハ御許諾アリ。特ニ美人ヲ要セサルモ醜女ハ困ルト云ハレタルコト等ヲ報告ス、午前十一時後波多野敬直上省予其室ニ行キ何日葉山ヨリ帰リタルヲ問フ。波多野昨日葉山ヲ発シタル処雪ノ為メ自動車前マス。三四時間ヲ費シテ始メテ京ニ達シタルコトヲ話ス。
石原健三正ニ波多野ノ室ニ在リ。李大王ノ諡号ニ帝王ニ紛ハラシキ文字ヲ付クルコトハ不当ナラサルヤ又閔妃ノ陵ヲ金谷ニ移シ洪陵ト称シ其域内ニ李大王ヲ葬ムルコトハ差支ナキヤ宮内省ヨリ電報ニテ国分象太郎ニ問合セタルニ諡号ノ事ハ李王職ヨリ朝鮮総督府ニ問合セ総督府ハ内閣ヘ稟議中ナル由。洪陵ニ葬ルコトニ付宮内省ニ気付アラバ通知シ呉度旨国分ヨリ返電シ来レリ。如何ト云フ。予新聞ニテ洪陵ヲ金谷ニ移スコトヲ見タルニ付洪陵ナル名称ヲ存シテ其域内ニ李太王ヲ葬ル工夫ナラント思ヒ居リタル処今日ノ新聞ニハ別ニ定陵ト名クルコトヲ記載シ居レリ。洪陵内ニ葬ルコトハ差支ナキモ新ニ陵名ヲ設クルコトハ許スヘカラス。諡号ハ……大王ト称スルモ妨ナカルヘシト云ヒ置キタリ
○午後零時三十分頃ニ至リ東久邇宮ニテ新調セラレタル自動車始メテ宮内省ニ来ル。乃チ金井四郎ト倶ニ之ニ乗リ伊東太郎之ヲ運転シ宮内省構内ニテ試乗ス。十分許ニシテ終ル。自動車ノ塗方宜シカラス。他ニハ悪シキ所ナシ。但ブレーキハ少シク工合悪シト伊東カ云ヒ居リタリ
○午後一時後ヨリ桐村克己ノ家ニ行齲歯ヲ療ス、桐村正ニ他ノ患者ヲ治療ス。其終ハルヲ待ツ一時間余ニシテ始メテ予カ治療ヲ始ム。三時間後始メテ終ハル。予桐村ニ「自清義歯」ト称スル義歯アルヤヲ問フ。桐村知ラス。但義歯ノ安全ナルモノハ隣歯ニ金冠ヲ嵌メ之ニ接続シテ金属ニテ歯齦ヲ作リ之ニ義歯ヲ挿入スルヲ宜シトスル旨ヲ告ク。義歯ノコトモ隆ヨリ問合セ来リタルニ付之ヲ桐村ニ問ヒタルナリ。午後四時後家ニ帰ル
○内子午後一時前浅草ノ葬場ヨリ帰リ来ル
○午後五時前有馬聡頼電話ニテ只今往訪セント欲ス差支ナキヤト云フ。予正食ス。今ヨリ四十分許ヲ経テ来ルヘキ旨ヲ答ヘシム。六時前聡頼来ル。聡頼カ家ヲ買ヒ入タルニ付其家計ノ追加予算ヲ立ツルコトヲ謀ル。聡頼ノ原案ハ事後承認ヲ求ムル形式トナリ居リタレトモ其実未タ使用セサル金円ナル故普通ノ予算ト為シ境豊吉ニ相談スヘキ旨ヲ答ヘ置タリ。予又聡頼ノ弟ニテ慈光寺某ノ養子ニナリ居ル者行状宜カラサル模様ナルコトヲ聞キタル旨ヲ聡頼ニ話シ置ケリ。話スルコト四十分許ニシテ去ル
○午後六時頃鈞ヨリ其住居ノ図ヲ送リ内子カ朝鮮ニ行ク［来ル］コトヲ勧メ来ル。内子意動キタルモノヽ如ク夜安眠セス
○午前東久世事務官林野管理局ノ追加予算ヲ持チ来ル討論数回結局捺印ス
○二月十一日紀元節午前八時三十分ヨリ賢所前参集所ニ行キ皇霊殿ニ拝シ午十二時豊明殿ノ宴ニ列ス。天皇陛下一月二十八日ヨリ寒ヲ葉山御用邸ニ避ケタマフ。今日紀元節ナルニ付昨十日還幸シタマフ筈ナリシモ微シク感冒シタマヒタルヲ以テ還幸シタマハズ。皇霊殿ニハ御代拝ヲ命シ豊明殿ニハ皇族方六七人臨ミタマヘリ。故ニ今日ハ勅語及臣僚ノ奉答ナシ。
参集所ニテ床次竹次〔二〕郎ニ対シ水野正之丞転任ノコトヲ鈴木喜三郎ニ話シ置タルコトヲ告ク。床次一ト先ツ地方ノ控訴院ニ入レ置キ更ニ東京ニ転セシムヘキ旨鈴木ヨリ話スニ付其旨水野ニ書状ニテ申遣ハシ置タリト云ヘリ。
宴終ハリタル後帳簿ニ署名シテ賀意ヲ表シ又別ノ帳簿ニ署名シテ賜宴ヲ奉謝セリ。皇霊殿ノ参拝ヲ終ハリタル後宮内省ニ過キリ会計審査局判任官ノ拝賀ヲ受ケ其旨ヲ宮内大臣ニ報告セリ、宮中西溜ニテハ八代某〔六郎〕（海軍大将）横田国臣、鈴木喜三郎等ト雑話セリ。水野正之丞内地転任ノコトニ付鈴木ニ話シタル処朝鮮ヨリ代員ヲ求ムルナラント云ヒ居レリ
○午後四時前柿原琢郎ノ嘱ニ因リ字ヲ作ル
○二月十二日午前三時頃左ノ肩胛骨ノ辺ニ痛ヲ覚ヘ眠醒ム。蓋シ昨日賢所前幄舎ニ在ルトキ寒気ニ触レ且大礼服窮屈ナル為カ僂麻質斯ヲ起シタルナリ。痛劇ナラサルモ起床後モ痛尚ホ止マス
○午前九時前川口知雄来リ訪フ。川口大阪ニ在勤シ公務ノ為メ上京シタルヲ以テ来訪シタルナリ
○午前十時後金井四郎予カ事務室ニ来リ。昨日東久邇宮妃殿下ヲ送リテ大磯ニ行キ只今帰京シタルコトヲ報ス
○午前十一時前調査課員林野管理局ノ追加予算案ヲ持チ来ル。予経済会議参列員トシテ捺印ス
○午後一時ヨリ審査官会議ヲ開ク午後三時後終ハル
○二月十三日午前九時前瓦田元良来リ。佐賀鍋島家ノ雇人某ニ対スル紹介状ヲ交ス。姪啓二郎予テ鍋島家ニ蔵スル龍造寺ニ関スル記録ヲ観ルコトヲ希望シ居リタル処瓦田カ記録担当者ト懇意ナル由ニテ啓二郎ヲ紹介スル書状ヲ作リ呉タルナリ。瓦田ハ話スルコト十分許ニシテ辞シ去ル
○午前十時前ヨリ往テ三好愛吉ノ死ヲ弔シ又往テ古谷久綱ノ死ヲ弔シ賻三円ヲ贈ル。一タヒ家ニ帰リ含漱ヲ為シテ直ニ宮内省ニ出勤ス。三好及ヒ古谷トモ流行性感冒ニ罹リ死去シタルヲ以テ予防ノ為メ含漱シタルナリ
○午前十時後林恭次郎今年審査官ノ為スヘキ実況審査ノ担当ヲ相談ス。予意見ナキ旨ヲ答フ。林又長官カ朝鮮ニ行カルヽコトニナレハ随行者ハ西野英男カ宜シカルヘキ旨ハ本月十日長官ニ話シ置タルモ西野ニハ少シモ相談シタルコトニ非ス。自然ハ本人ノ都合モアラント考ヘタル故其後本人ニ話シ見タル処本人ハ差支ナキ趣ヲ申出タリト云フ
○午後零時後近藤久敬ヲ訪ヒ山県有朋ノ病状ヲ問ハントス。近藤在ラス。予将ニ返ラントスルトキ廊下ニテ之ニ遇フ。乃チ山県ノ病状ヲ問フ。近藤其室ニ返リ医入沢某〔達吉〕ノ報告書ヲ示ス。報告書ニ依レハ病症ハ気管支加答児及ヒ肺炎ニテ今十三日朝ノ容体ハ少シク宜シキモ果シテ此容体ヲ継続スルコトヲ得ルヤ否不明ナリトアリ
○午後零時後ヨリ審査官ノ実況審査ノ担当ヲ協議ス。松根豊次郎今少シ考タル上ニテ決シ度ト云フニ付二時後未決ノ侭協議ヲ止ム
○肩胛骨ノ痛昨日ヨリ稍々軽キモ未タ全ク癒ヘス
○午前十一時後金井四郎電話ニテ本月十五日東久邇宮妃殿下葉山ニ行キ両殿下ノ御機嫌ヲ奉伺セラルヽニ付自分金井ハ十四日ヨリ大磯ニ行キ妃殿下ニ随行シテ葉山ニ到リ大磯ニ返リタル上大磯ヨリ直ニ新潟県ノ高田ニ行ク積リナリ。東久邇宮殿下本月十六日高田ニテ催フス（スキー）大会ニ御臨場相成ルニ付高田ニテ殿下ニ謁シ夫ヨリ殿下ニ随行シテ金沢ニ行キテ帰京スル積リナリト云フ。
予妃殿下カ小田原ノ山下亀三郎ノ別邸ニ行カルヽコトハ小田原ニモ流行性ノ感冒アル模様ニ付今暫ク見合ハスル方宜シカルヘク又本月十五日ノ皇族講話会ノトキハ予ハ出席シ難キニ付欠席ノ旨属官ヨリ通知シ呉ルヽ様取計ヒ呉ヨト云フ。金井小田原御出ノコトハ十分取調ヘタル上御決定相成ル都合ニ致ス積リナリ。皇族講話会欠席ノコトハ多分欠席ナラント思ヒ既ニ其事ニ取計ヒ置ケリト云フ
○二月十四日肩胛骨辺ノ痛漸ク軽シ然レトモ尚微痛アリ
○午前九時前境豊吉カ来リ。有馬聰頼カ新ニ買ヒ入レタル家屋ノ建増シヲナスコトニ付予ノ意見ヲ問フ。予全体ハ今暫ク増築ヲ見合ハス方宜シキモ家政整理ノ大体決シタルニ付少シノ増築ハ止ムヲ得サルヘシト云ヒ置ケリ。境、増築ノ予算ヲ承認スルコトニスヘシト云ヘリ。
話次予、境ニ対シ水天宮ノ処分先日協議シタル通リ区役所ニテ承認シタル趣ナルコト、安藤信昭ノ家政相談人ハ有馬秀雄カ伯爵ニ対シ頼寧依頼ニハ応セサルモ伯爵ノ相談ユヘ承諾スル旨ヲ答ヘ伯爵ヨリ其旨ヲ頼寧ニ伝ヘタルタメ頼寧之ニ慊カラス今モ相談人ヲ嘱託セサルコト、有馬秀雄カ家令ヲ辞シタルトキノ慰労金ハ最初頼寧ノ問合ニ対シ三万円ニテ十分ナルヘキ旨ヲ答ヘ置タル処伯爵ヨリ増額ノ要求アリ更ニ頼寧ニ相談シテ一万円ヲ増シタルコト、橋爪ヲ有馬家ニ雇ヒ入ルゝコトハ伯爵ハ初メハ之ヲ喜ハサリシカ予カ之ヲ勧メテ承諾シタルコト、伯爵ハ近頃予ガ頼寧ニ與シ居ルトテ不平ヲ云ヒ居ル趣ナルコト、橋爪慎吾ハ只今ノ処ニテハ伯爵ニモ頼寧ニモ気ニ入リ居ルコト等ヲ話シタリ
○午前十一時前波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ訪ヒ山県有朋ノ病状ヲ問フ。波多野カ昨日往テ山県ヲ訪ヒタルヲ以テナリ。波多野、山県ノ病ハ初メヨリ新聞ニ記載スル程重カラス医平井某ハ他ノ医ニ診察セシムルコトヲ必要トセサル故念ノタメ御思召ニテ入澤某ヲ遣ハサルゝコトゝナシタルタメ新聞ニ大袈裟ニ吹聴シタルモノナルヘシト云ヘリ
○午前十一時後金井四郎来リ。今日ヨリ大磯ニ行キ明日妃殿下ニ随行シテ葉山ニ行キ晩ニ大磯ヲ経テ東京ニ帰リ十時後ノ汽車ニテ新潟県高田ニ行キ東久邇宮殿下ニ謁シ殿下ニ随行シテ金沢ニ行キ一二日滞留シテ帰京スル積リナル旨ヲ告ク。
予、伊東太郎ガ宮家ノ自動車買入ニ付尽力シタルニ付挨拶ヲナス必要アルヘキ旨ヲ告ク。金井、伊東ニハ朝賀宮ト共同ニテ金三十五円ヲ贈リタラハ宜シカラント相談シ居ルト云フ。予伊東ハ金ノ必要ナキニ付何カ他ニ適当ノ工夫ナキヤト云フ。金井、初メハピンヲ贈ル積リナリシモ調度頭カ癖ニナル故印迄ニセヨト云ヒタル故前述ノ如ク決シ居レリ自分（金井）モピン位ハ贈ル方宜シカラント思ヒ居ルト云フ。予尚ホ考ヘテ適当ニ取斗フ方宜シカルヘシト云ヒ置ケリ。
予又妃殿下只今山下亀三郎ノ別邸ニ御避寒中ナルカ山下カ此事ヲ世間ニ吹聴シテ自分ノ引札トナサゝル様ニハ注意スル必要アリ。先日山下カ妃殿下ニ蒲鉾ヲ献上スルトテ之ヲ其郷里（宇和島）ニ注文シ宇和島ノ新聞ニ其事ヲ仰山ニ書キタルコトヲ聞キ驚キタリ。此事ハ必シモ山下ノ所為ニ非サルヘキモ注意ハ必要ナリト云ヒ置タリ。
金井、山下ハ妃殿下ニ謁見シテモ只拝スルノミニテ一言モ発セス。永山（御用取扱）カ御話ヲセヨト云ヒテモ恐レ多シト云フ位ニ付本人モ其辺ハ注意致シ居ルヘシ。妃殿下、山下ノ小田原別邸ニ御出ナサルゝコトニ付テハ先日電話ニテ君ヨリ注意セラレタルコトモアリタルカ此事ハ自分（金井）ヨリモ既ニ山下ニ対シ妃下ノ御出ハ只今ノ処当テニナラサル故決シテ用意等ヲ為サゝル様山下ニ話シ置タリト云ヘリ。
予又先日君（金井）ノ話ニ妃殿下ノ葉山御出ニハ永山カ御供ヲナス筈ナルモ山県ノ病状ニテハ云々トノ話ハ如何ナル趣意ナルヤト云ヒタル処金井、自分ハ永山ト云ヒタルニ非ス。萩原（御用取扱）ト云ヒタルナリ。萩原ハ山県ノ親族ニテ山県カ流行性感冒ナラハ御供ヲ遠慮セシムル必要アリト思ヒタレトモ山県ハ流行性感冒ニ非サル故萩原ヲシテ御供ヲナサシムル筈ナリト云ヘリ
○午後一時ヨリ司法大臣官舎ニ行キ少年法案審査委員会ニ列ス午後六時前家ニ帰ル
○二月十五日午前八時頃林恭次郎ニ電話シ今日予ハ古谷久綱葬タリ。午後又三好愛吉ノ葬ニ会スル積リノ処今日ハ土曜ニテ宮内省ニ出勤スル暇ナキニ付局務ハ然ルヘク取斗ヒ呉度。又今日ハ俸給ヲ受領スヘキ日ナル故予ガ出勤セサル旨ヲ西野英男ニ告ケ呉度旨ヲ嘱ス。林之ヲ諾ス
○午前九時後ヨリ青山斎場ニ行キ古谷久綱ノ葬ニ会ス。十一時前家ニ帰ル
○午後零時三十分ヨリ青山斎場ニ行キ三好愛吉ノ葬ニ会ス。二時前家ニ帰ル
○肩胛骨辺ノ痛殆ント癒ユ
○午前青山斎場ニテ穂積陳重、高橋琢也、大岡育造、松本重敏等ニ遇ヒ午後同所ニテ奥宮正治、西紳六郎林恭次郎等ニ遇フ。林今朝ノ電話ノ趣意ハ西野英男ニ伝ヘ西野カ俸給ハ貴宅ニ届クヘシト云ヒ居リタリト云フ
○午後一時頃西野英男来リテ俸給ヲ届ケタル由予カ家ニ帰リタル後内子ヨリ之ヲ報セリ
○午前十一時後山崎之幹来リ訪ヒ上京シタルニ付訪問スル旨ヲ告ケ予ノ問ニ対シ五六日後当地ヲ発シ大連ニ帰ルヘク帰途京城ニ過キ鈞ヲ訪ヒ都合ニテハ一日位滞留スヘシト云ヘリ
今日午前八時頃体温三十五度六分午後六時三十六度四分
○二月十六日午前八時頃理髪ス
○午前十時後本荘久代電話ニテ今ヨリ一時間斗リノ後往訪セント欲ス。差支ナキヤヲ問フ。予差支ナキ旨ヲ答ヘシム
○午前十一時後菊池剛太郎来リ話ス。別段ノ用事ナシ。本月初頃ノ浮羽郡懇親会ニハ山田浩直カ出席シタルコトヲ話セリ。十二時後辞シ去ル
○午後二時後本荘久代来ル。其経歴ヲ語リ。最後ニ金ヲ乞フ。予久代カ其父ノ臨終ニ改心ヲ誓ヒナカラ其誓ヲ履マサルヲ責ム。久代資産ナク謡ヲ鬻カスシテ糊口スル為メニハ女優トナリ話家トナル様ノコトハ止ムヲ得スト云フ。予更ニ其ノ品行ヲ詰ル。久代既ニ老タリ。従前ノ如キコトナシト云フ。結局金十円ヲ与フ。四時頃帰リ去ル
○午後二時後ヨリ内子銀座ニ行キ感冒予防ノ為メノ呼吸器ヲ買フ。四時前帰リ来ル
○午後四時後宮内省大谷某（書記官）［正男］電話ニテ今日石原健三葉山ヨリ電話ニテ明日午後一時ヨリ宮内省ニテ李太王ノ謚号及陵名ノ事ニ付会議ヲ開クニ付貴官ニモ出席ヲ請フヘキ旨申来レリ。差支ナキヤト云フ。予差支ナキ旨ヲ答フ。大谷、石原ハ此事ヲ余程重要視シ居ル模様ナリナリ[ママ]ト云フ。予明日ノ出席者ヲ問フ。大谷、宗秩寮職員、朝鮮ヨリ帰リタル葬儀掛員ト君位ナリ石原ヨリハ宮内大臣モ出席スル方宜シカルヘシト申来リ居レ[リ]ト云フ予其方宣シカルヘキ旨ヲ告ケ置タリ。此電話ヲ聞タル後韓国文献備考中帝系考ノ部及礼考中山陵ノ部ヲ閲ス
○昨日青山斎場ニテ古谷久綱ノ葬ニ会シタルトキ長山乙介ニ遇ヒ木内重四郎ノ近状ヲ問フ。長山木内ハ先日ヨリ感冒ノ気味ニテ引篭リ居ルト云フ。但流行感冒ニハ非サル模様ナリ。予又古谷ト山下亀三郎トハ如何ナル親族ナルヤヲ問フ。長山多分従兄弟ナルヘシト。外務省ニ行キタルトキ右様ノ話ヲ聞キタル様ニ覚ユト云ヘリ。古谷久綱ノ弟カ外務省ニ居ルニ付其者ヨリ話ヲ聞キタルモノナルヘシ。但シ此問答ハ長山乙介トナシタルモノナリシカ又ハ他ノ会葬者ト為シタルモノナルヤ確カニハ記憶セス。是モ老ヒノ結果ナリ
○二月十七日午前十一時前杉栄三郎来リ。今日午後ノ会議ハ宮内大臣室ノ隣室ニテ開クコトヽナリタルニ付該所ニ参会セラレ度ト云フ。杉又山縣政務総監[伊三郎]モ多分出席スヘク国分種徳ハ李太王ノ墓ニ陵名ヲ附クルハ不都合ニ付朝鮮総督府ノ命令ニテ「洪陵」ヲ地名ト為シ。其処ニテ太王ノ墓ヲ作ルコトヽ為シタラハ宣シカラントノ意見ヲ出シタリ。又謚号ハ初メハ李王家ニテ私ニ高宗大王ト定ムル積リナリシ処国分象太郎カ私謚適当ナラス。寧ロ宣下ヲ請フ方宣シカラントノ意見ヲ述ヘ終ニ宣下ヲ請フコトヽナリタル由。是ハ寧ロ私謚ノ方宣シカリシナラント思フト云ヘリ。
予杉ニ対シ浅田書記官(恵三郎) ハ尚ホ葉山ニ滞在スルヤヲ問フ。杉然リ尚ホ滞在ス。然レトモ今日ノ評議ノ問題ニ石原次官(健三)ノ意見アリ。其意見ヲ述ブル為メニ浅田カ一度帰リ来リ更ニ葉山ニ赴ク都合ニナリ居レリト云ヘリ。昨日午後四時後宮内省ノ大谷某（書記官）［正男］ヨリ電話ニテ今日ノ会議ノコトヲ申越シタル様ニ日記ニ記載シタルハ電話ヲ聞キ誤リ。杉ヲ大谷ト為シタル訳ナルヘシ
○午後一時ヨリ宮内大臣隣室ニ会議ス。会スル者波多野敬直、山縣伊三郎、伊藤博邦、高橋高威［光威］、仙石政敬、大木某（文書課長）［彝雄］、杉栄三郎、浅田恵三郎及予ナリ。李太王ノ謚号ハ公然之ニ関係セス。李家ヨリ私ニ謚スレハ高宗大王ト云フテモ黙認シ置ク。墓所ハ閔妃明成皇后ノ洪陵ニ会葬スルコトハ差支ナク謚号モ陵名モ公文ニハ一切之ヲ用ヰサルコトニ宣シカラン。李王職長官ヨリ謚号承認ヲ請フノ書面ヲ総督府ニ出シ総督府ハ之ヲ内閣ニ提出シ居ルモ之ヲ撤回スルコトニ決ス。
山縣ヨリ廊下ニテ此節ハ金允植カ謚号ノ事ヲ主張シ是最終ニ付是非承知セヨ。若シ総督府ニテ聞カサレハ自分（金允植）カ東京ニ行キテ陳情スヘキ旨ヲ主張シテ困リタリ。八十余歳ノ金允植カ上京シテ朝鮮ノ学生抔ニ種々ノ事ヲ吹キ込メハ面倒ナル事ニナルノ恐レアリト云ヘリ。午後二時後会議終ハル
○午前八時後万年筆ヲ修理セントス終ニ全ク之ヲ毀チタリ
○午後二時後木村甚三郎来リ。李太王葬儀ニ付朝鮮ニ赴カルヽ趣ナルカ何日頃出発ノ予定ナルヤト云フ。予先日石原健三ヨリ其話ヲ聞キタレトモ未タ確定シタル話ニ非ス。愈々行クコトヽナラハ本月廿四五日頃ヨ［リ］出発スルコトヽスヘシト云フ。自分（木村）モ行クヘキ内命ヲ受ケタリ。君ノコトモ既ニ決定シ居ル模様ナリ。自分ハ本月廿六日ニ露国大使ヨリ招待ヲ受ケ居リ。之ヲ済マシテ出発スル積リナリシモ夫レニテハ余リ切迫スルニ付矢張リ廿四五日頃出発スルコトニスヘシト云ヒタリ
○午後三時頃白根松介来リ。予カ朝鮮ニ行クコトハ差支ナキヤト云フ。予只今ノ処ニテハ差支ナシト云フ。白根、全体ハ国葬掛ヨリ会葬ヲ命スル筈ナレトモ同掛リニハ経費少キ為メ所属庁ニテ旅費ノ支弁ニ困ラサル所ハ各所属ヨリ出張セシムルコトヽナリ。拓殖局抔モ局ヨリノ出張トナスコトヽナリ居ル由。右ノ次第ニテ貴官ノ出張モ宮内省ヨリノ出張トナル様ナリト云フ。予其辺ハイツレニナリテモ差支ナシ。先日随行者ノコトヲ石原ニ話シ。大臣ヨリ随行ハ必要ナリト云ヒタリ。審査局ノ西野英男ヲ随行セシムルニ付其事ニ取斗ヒ呉度ト云ヒ置ケリ
○午後三時後西野英男ヲ召ヒ朝鮮ニ随行セシムヘキ旨ヲ告ケ置ケリ
○午後九時後内子朝鮮行ノ時同伴シテ郷里ニ行ク積リナリシモ費用多キニ付之ヲ止メンカト思ヒ居ルト云フ。肩胛ノ痛癒ユ
○二月十八日午前十時頃波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ伊東巳代治ヨリ制度審議会ノ事ニ付何カ話タルコトナキヤヲ問ヒ波多野何モ聞タルコトナシト云フ。予遺言令案後見令案ハ一タヒ枢密院ニ諮詢セラレ其後撤回セラレ居ルモノナルカ近日伊東ヨリ予ニ遺言令案及後見令案ノ特別委員ヲ命シ来レリ。其外岡野敬次郎ニ皇統譜令案ノ特別委員ヲ最近ニ命シタル等如何ナル事ヲ為ス積リナルヤ分リ難シ。伊東カ遺言令案等ヲ枢密院ヨリ撤回シタルコトハ知リ居ルヘキヤト云ヒタル処波多野ハ撤回ノコトハ伊東ニ話シタル積ニ付承知シ居ルヘシ。伊東ハ更ニ改案デモシテ提出スル積リデモアルベキヤ近頃ハ絶ヘテ面会セスト云ヘリ。
此時仙石政敬来リ李太王ノ葬儀ニ皇族ノ御出ナキコトヽナラハ代拝ヲ立テラルヽ必要アルヘシト思フ旨ヲ述フ。波多野之ニ同意ス。予先日宋秉カ上京シタルトキ此際方子女王カ朝鮮ニ御出テアリタラハ朝鮮人カ非常ニ満足スルナラントノコトヲ某ニ話シタル由ニテ予ヨリ宮内大臣ニ取次キタラハヨロシカラントノ趣意ノ話ヲ聞タレトモ予ハ女王ノ朝鮮行ハ理由ナキ事ニテ取次クマデモナキコトヽ思ヒ其儘ニナシ置タリト云ヒ置ケリ。仙石カ梨本宮家ト李王家トハ結婚ハ未済ナルモ既ニ表面ノ関係生シ居ルニ付皇族ノ御出ナクハ梨本宮家ヨリ代拝ヲ出サヽル〔サルヽか〕方然ルヘシト思フ旨ヲ話シタルニ付話次宋秉
ノ話ヲ持チ出シタルナリ
○午前十時後白根松介、新任皇子傳育官長松浦某〔寅三郎〕ヲ伴ヒ来リ松浦ヲ紹介シ松浦ヨリ新任ノ挨拶ヲ為セリ
○午前十一時頃白根松介来リ。予カ朝鮮ニ於ケル旅宿ノ事ヲ謀ル。予長男ノ宅ニ宿スル積リナル旨ヲ答フ。白根、賢息ハ仁川在勤ニ非スヤト云フ。予京城ナル旨ヲ答へ予ガ旅宿ハ用意ニ及ハサルモ随行員西野ノ旅宿ハ用意シ呉度ト云フ。
会々西野来ル。予西野ニ対シ旅宿ノコトハ総務課ニ依頼シタルヤヲ問フ。西野未タ旅行ノ命ヲ受ケサル故未タ旅宿ノコトヲ依頼セスト云フ。白根、宮内省ニテハ旅行ニ付テハ辞令ヲ発セス。帳簿ニテ通知スルマテナリ。通知ハ今明日位ニ致スヘシト云ヘリ。予白根ニ対シ朝鮮行ノ旅費ハ成規ナキ様ナリ。東京駅午前八時後発ノ汽車ニハ一二等ノミニテ三等ナシ。西野カ二等ニ乗ルコトハ困リハセサルヤト思ヒ旅費規則ヲ調ヘタレトモ宮内大臣勅裁ヲ経テ之ヲ定ムトアリテ之ヲ定メタルモノハ見当ラスト云ヒタル処白根ハ規則アル筈ナリ取調見ルヘシト云ヒテ去レリ。
予白根ニ対シ新任傳育官長ノ経歴ヲ問フ白根、是マテ神宮皇学館長ナリシ人ナル由詳カナル事ハ知ラスト云ヘリ
○午後審査官会議ヲ開ク三時後ニ至リテ終ル
○午後一時頃白根松介来リ。予カ朝鮮ニ行ク東京出発ノ日ヲ問フ。予本月廿四日出発ノ予定ナル旨ヲ答フ。白根往復日数トモニ十日間位ニテ宜シキヤト云フ。予宜シキ旨ヲ答フ
○午後三時後総務課ヨリ左ノ書面ヲ致ス。
宮内大臣官房 総務課 秘第四〇号
大正八年二月十八日
宮内大臣官房総務課長近藤久敬（印）
帝室会計審査局長官法学博士倉富勇三郎殿
依令通牒
故大勲位李太王殿下葬儀ニ付宮内勅任官総代トシテ参列相成度
○午後四時頃家ニ帰ル
○午後四時三十分頃ヨリ料理屋八百勘ニ到リ会計審査局員ノ懇親会ニ列ス。七時頃家ニ帰ル。此日雨フル
○午前白根松介来リタルトキ予白根ニ対シ朝鮮旅行ニ関スル旅費規定ナシト云ヒタルモ其後青山操ニ問ヒ宮内省令ニテ定メタル旅費規定アルコトヲ知リタリ
○二月十九日午後一時ヨリ司法大臣官舎ニ行キ、少年法案ノ主査委員会ニ列ス五時後会ヲ閉ツ
○有馬伯爵使ヲシテ故頼匡ノ遺物、羽二重紋附一枚、七子紋附羽織一枚及白羽二重一反ヲ贈ラシム。此時予在ラス。使ノ者内子ニ面シテ之ヲ交シタル由予家ニ帰リタル後内子ヨリ之ヲ報セリ、晩食後牛乳ヲ飲ム。牛乳腐敗シ居レリ乃チ半ニシテ止ム
○午前九時後震ス
○午後林恭次郎ヨリ工藤一記カ安江孝ノ為メニ安江ヲ閑院宮ノ御用掛トナスコトヲ周旋シ居ルコトヲ告ケ予モ機会アラハ尽力シ呉ヨト云フ
〇二月二十日午前十時ヨリ司法大臣官舎ニ行キ少年法案ノ主査委員会ニ列ス。十時後ニ至リ宮内省仙石政敬ヨリ電話ス。予之ヲ聴ク。電話線既ニ断ス乃チ更ニ電話ス。宗秩寮員、李太王諡号ノコトハ先日一度協議アリタルモ山県政務総監（伊三郎）ヨリ更ニ申出アリ。只今山県ハ宮内大臣官房ニテ待チ居ルニ付直ニ宮内省ニ来リ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス。乃チ主査委員長ニ宮内省ノ用事アル旨ヲ告ケテ退場シ直ニ宮内省ニ到ル。
波多野敬直、井上勝之助、山県伊三郎、仙石政敬正ニ在リ。予カ到リタル後杉栄三郎亦来ル。山県ヨリ李太王ノ諡号ハ先日李家ニテ私ニ撰ムコトハ之ヲ黙認スルコトヽナリ居リタルモ長谷川総督（好道）ヨリ更ニ電報ニテ諡号ヲ宣下セラルヽ様協議スヘキ旨申来レリ工夫ナキヤト云フ。予私撰ナラハ高宗大王ト云フ如キコトニテモ関係セサル丈ケニテ妨ナカルヘキモ宣下トナラバ右ノ如キ文字ハ之ヲ用ユルコトヲ得サルヘシト云フ。山県、諡号ヲ宣下セラルヽコトヽナレハ枢密院ニ諮詢セラルヽヤト云フ。予諡号宣下抔ノコトハ勿論予想セラレサルコト故明文ニテ諮詢スヘキ旨ヲ定メラレ居ラサルモ是迄例モナキコトニ付重要ナルコトヽシテ諮詢セラルヽ必要アルヘシ。諡号宣下セラルヽコトヽナレハ其文字ハ好字面ヲ選フハ差支ナキモ主権者ニ紛ラハシキ宗字ハ之ヲ避ケサルヘカラスト思フ。予カ来ル前ノ此席ノ内儀ハ如何ナリシヤト云フ。波多野矢張同様ナリト云フ。
山県此上ハ自分（山県）急ニ朝鮮ニ帰リ事情ヲ詳述シテ承諾セシムヘシ。意フニ金允植カ前韓国皇帝云々ヲ主張シ其折合カ付カサル為メ宣下ヲ希望スル訳ナルヘシト云ヘリ。山県既ニ去ル。
予波多野ニ対シ先日普通選挙ニ付提出シタル上奏書ハ如何処置タルヤト云フ。波多野多分白根松介カ何トカ致シタルナラン未タ処分シタル訳ニ非スト云フ。予彼ノ上奏書ノ如ク一希望ヲ有スルモノハ今日ニテハ請願令ニ依リ請願ノ形式ニ依リ提出スヘキモノナラン。賀表其他何モ求ムル所ナキモノハ請願令ニ依ラサルモ差支ナケレトモ本件ノ如キモノハ請願令ニ依ルヘク而シテ違式ノモノハ内大臣府ヨリ之ヲ却下スル方当然ナルヘシト云フ。井上大概予ノ説ニ同意ス。波多野、杉ヲシテ白根ヲ召ハシメ上奏書ハ如何ニ処置シタルカヲ問フ。白根昨日、石原次官（健三）ニ電話シタル処石原ヨリ明日（即チ今日）帰京スルニ付夫迄ハ上奏書モ其侭ニ致シ置クヘシトノコトナリシ故未タ内大臣府ヘモ交渉セズト云ヘリ。杉ヨリ彼ノ上奏書ノ外ニ請願書ト題シ普通選挙ニ関スル書面ヲ郵便ニテ提出シ宛名ハ宮内大臣宛ニナシアルモノ一通達シ居レリ。是ハ当然内大臣府ニ廻送スヘキモノト考ヘ居ルト云フ。波多野モ其書面ハ内大臣府ニ廻ハシテ宜シカルヘシト云ヘリ
〇午後一時後金井四郎来リ。昨日電話シタル如ク（此電話ノコトハ昨日ノ日記ニ記載スルコトヲ漏ラセリ。金井カ電話シタルハ昨日午後六時頃ニテ電話ノ趣意ハ今日ノ話ト異ナルコトナシ）自分（金井）ハ高田ヨリ王殿下ニ随行シテ金沢ニ到リ昨日帰京セリ。殿下ヨリ妃殿下ハ何日頃金沢ニ帰ルヤトノ御尋アルニ付自分（金井）ヨリ一応当地ノ医師ニモ相談シタル上ニテ御答申上クヘシト申上ケ医学校ノ医師ニテ内科ノ医某（妃殿下ノ御転地ヲ熱心ニ主張シタルモノ）ニ就キ意見ヲ問ヒタル処最早気候モ暖カニナリタル故二月末カ三月初頃当地ニ御帰リ成サレテ宜シカルヘシト云ヘリ。依テ王殿下ニ対シ妃殿下ハ三月十日前後御帰成サレテ宜シカルヘシト申上ケタル処王殿下ハ自分ハ三月一日頃ニ帰ルコトヽ思ヒ居リタリトノ御話アリタリ。自分（金井）ハ大磯ニ参リ永山トモ熟議シタル上三月四日頃当地ヲ御出発金沢ニ御出成サルヽコトニ申上ケル積リナリト云ヘリ。金井ハ又妃殿下ハ雛人形ノ一部分ヲ大磯ニ御持チ行キ成サレ居ルニ付三月三日ハ大磯ニテ御過シ成サルヽ御積リナルヘキ旨王殿下ニ御話申上ケタル処王殿下ハ夫モ宜シカラントノ御話ハアリタルモ兎モ角成ルヘク早ク妃殿下カ金沢ニ御帰リニナルコトヲ御希望成サルヽ様ナリト云ヘリ。
又金井ヨリ此日王殿下カ高田ニ御出成サレタルハ新潟県又ハ高田市ヨリ御願申上ケタルコトニ非ス。新聞記者ニテ（スキー）ノ熱心家ナル高橋某ヨリ願ヒ出テタルモノニテ殿下ガ御出成サレタルハ少シク軽キニ失スルノ嫌アルニ付金沢ニ参リ居ル属官服部某〔武夫〕ニ対シテハ其軽卒ヲ尤メ今後ハ必ス事務官ノ指揮ヲ受クヘキ旨ヲ申聞ケ殿下ニモ其事ヲ申上ケ置タリト云フ。予高田ニテハ誰レカ御接待申上ケタルヤヲ問フ。金井知事ハ来ラサリシモ内務部長カ来リ費用ハ総テ高田市ニテ支弁シタル趣ナリト云フ、
金井又妃殿下ガ山下亀三郎ノ別邸ニ御避寒成サレタルニ付亀三郎ヘハ銀製紋付花瓶一対ヲ下サルヽコトニ致シタル処萩原、永山、両御用取扱ヨリ山下ノ妻ニモ何カ賜ハルヽ様ニ致シ度トノコトニ付時計ノ短鎖ヲ下サルヽコトニ致シタリト云フ。予短鎖ナラハ紋章ハナカルヘキニ付好都合ナリト云ヒタル処金井ヨリ短鎖ニモ矢張リ紋章ヲ付クルコトニナリ居レリ其外ニ山下ノ事務員二人別邸ノ修繕ニ従事シ非常ニ御便宜ヲ図リタルモノアリ此二人ニモ（ピン）（紋章入）ヲ遣ハント思ヒ居ル所ナリト云フ。予強ヒテ反対ハセサルモ反物位ヲ遣ハシテハ如何ト云フ。金井自分（金井）モ御紋章付ハ成ルヘク出シ度ナキモ他ノ宮家ニテハ費用少クシテ效能多キニ付頻リニ紋付ノ品ヲ遣ハス習慣アリ。此二人ニ付テハ自分（金井）孰レニナリテモ異存ナシト云ヘリ、
金井又貴官カ朝鮮ニ赴カルヽニ付妃殿下ヨリ何カ遣ハサルヽ訳ナルカ若シ直ニ郷里ニ御送リナラハ紋付ノ饅頭ノ如キモノニ致スヘク朝鮮迄持チ行カルヽナラハ多少保存シテモ腐敗セサルモノニ致スヘシト云フ。予カ朝鮮ニ行クトテ何モ頂戴スル必要ナシト云フ。金井是非希望ヲ云ヘト云フ。予二者中ニテハ直ニ腐敗セサルモノガ宜シカラント云ヒ置ケリ
〇午前司法大臣官舎ニテ小山松吉ニ逢ヒタルトキ小山ヨリ貴官ノ間暇ナルトキ貴宅ニ行キテ話シ度コトアリト云フ。予近日中朝鮮ニ行ク積リナリト云フ。小山然ラハ帰京後ニ致スヘキカ其大要ハ肥前有田ニ在ル某カ十代モ前ヨリ帝室又ハ幕府用ノ磁器ノ御用ヲ聞キ居リタルカ先年来宮内省ニテハ兎角某ノ納入スル品ヲ不合格トナシ尾張ノ某ノ納品ヲ買上クル傾アリ。之カ為メ有田ノ某ハ非常ニ落胆シ自分ノ代ニ到リ皇室ノ御用ヲ止ムル様ノコトアリテハ先祖ニ対シテモ申訳ナシトテ此節ハ実際損失ヲ受ケテ上納シ居ル由某ハ勤王ノ家ニテ当主モ極メテ正直ナルモノナリ大膳寮ニ何カ一種ノ弊アルニアラスヤト思フコトモアリ。イツレ其内篤ト話スヘシト云ヘリ
〇午後二時後ヨリ審査官会議ヲ開ク三時後終ハル
〇午後金井四郎カ来リ談シタルトキ御用取扱萩原某永山某其他東久邇宮付属官等カ紋付品ノ下賜ヲ希望シ居ル旨ヲ告ク。予其事ハ無理ナラサル訳ニテ者宮殿下ノ御祝等ノ機会ニ下賜セラルヽ様ニ致シ宜シカルヘキ旨ヲ告ク。又金井ヨリ侍女川崎某解雇ノコトヲ謀ル予之ヲ同意ス川崎ハ別ニ面倒ナル縁故アル者ニハ非ス陸軍中尉某ノ寡婦ナル由金井ヨリ聞ケリ
〇午後三時後西野英男ニ対シ朝鮮行ノ旅費ヲ概算スルコトヲ命ス。西野既ニ概算ヲ為シ俸給受領総代ノ資格ニテ自分（西野）ヨリ林主事（恭次郎）ノ検印ヲ受ケ昨日内蔵寮ニ請求書ヲ出シ置ケリトテ其草案ヲ交ス。予ノ旅費額ハ四百六十三円余ナリ
〇今日金井四郎ヨリ予カ先頃梨本宮方子女王殿下カ李王世子ト結婚成サルヽ祝儀トシテ金十円ヲ金井ニ渡シ置タル内一円六十六銭ハ余分ニナリタリトテ之ヲ返戻セリ
〇午前八時頃林恭次郎ニ電話シ予カ今日午前司法大臣官舎ニ行キ午後二時頃宮内省ニ行クヘキコトヲ告ク
〇午前八時後吉田篤太郎ニ電話シ昨日有馬家ヨリ故頼匡ノ遺衣ヲ贈ラレタルニ付往テ謝スヘキ処近日中朝鮮ニ行クコトニ相成リ居リ多忙ニ付帰京後往テ謝スヘキニ付其旨ヲ伯爵ニ告ケ置呉度旨ヲ嘱ス。吉田朝鮮滞在ハ永クハナキヤト云フ。予永カラサル旨ヲ答フ
〇二月十九日ノ補遺、林恭次郎ヨリ安江孝ノ事ヲ話シタルトキ予ハ宮内省ヨリ安江ニ対シ御用掛ヲ命シ閑院宮ノ用務ヲ執ラシムルコトハ余程難事ナルヘシ。一昨年安江ニ対シ休職ヲ命スルトキ安江カ閑院宮ノ事務ヲ執リ居ル事ハ石原健三ハ始メテ聞キタル模様ニテ余リ面白ク感セサル様ノ口気ナリシ位ニ付宮家ヨリ申出ナケレハ勿論話出ス機会モナク申出アリテモ果シテ快ク引受クルヤ否分リ難シト云ヒ置タリ。林ハ工藤一記ヨリ田内三吉（別当）及松井修徳（事務官）ニ話シ且先年工藤カ山尾三郎ノコトヲ閑院宮妃殿下ニ申上ケ其結果山尾カ澄宮御用掛リトナリタル関係モアルニ付安江ノコトモ山尾ヲシテ妃殿下ニ申上ケシメンカトモ申居レリト云フ。山尾ハ故三条実美ノ娘ノ夫ニテ山尾ノ妻ハ即チ妃殿下ノ妹ナル由ナリ。山尾ハ審査局ノ属官ナリシコトアリト云フ
十九日午後五時後司法大臣官舎ヨリ帰ルトキ廊下ニテ鵜沢総明ヨリ二条公ノ事ニ付先日宗秩寮ヨリ詳細ナル調書ヲ出スヘキ旨ノ話アリタルニ付只今調書ヲ作リ居ル所ナリト云フ。予二条公ノ事トハ如何ナル事ナルヤ予ハ何モ承知セスト云フ。鵜沢、宗秩寮ヨリ何モ話ナキヤト云フ。予少シモ聞キタルコトナシト云フ。鵜沢然ラハ話サヽルヘシトテ話ヲ中止セリ
○二月廿一日午前十時頃林恭次郎ニ対シ調度寮ノ小池相良ノ事ハ先日（二月五日）小原吉ニ話シタル侭ニテ今日マテハ断リモ致シ居ラス。如何スヘキヤト云フ、林、本人カ調度寮ノ事務ニハ用立セスト云フ如キコトナラハ本人ハ会計検査院ニ奉職シタルコトアル故審査局ニテハ用立ツヘシト云フコトモアレトモ性質不勉強ト云フ様ノ欠点アル人ナラハ止ムル方宜シカラント云フ。予小原ニ断リ置クコトニスヘシト云ヒ置ケリ
○午前十一時頃小原吉ヲ訪フ。未タ出勤セス。十二時頃小原予カ室ニ来ル。予乃チ先日小池相良採用ノコトヲ相談シタレトモ之ヲ止ムル旨ヲ告ク。小原之ヲ諾シ且今度何時ニテモ必要アラハ相談ニ応スヘキ旨ヲ答フ。小原又李太王ヲ国葬スト云ヒナカラモ実際ノ斂葬ハ朝鮮式ニシ斂葬前ノ祭式ノミ国式トナスハ適当ナラス。又国葬ノコトヲ死者ニ報告スルハ是マテ例ナキコトナルニ新例ヲ開キタルハ不可ナレトモ是ハ既ニ為シ終ハリタルコトナレハ致方ナシ。皇族ノ拝礼ヲ喪主ノ前ニスルモ如何。皇族ノ代拝者等ハ私葬ノトキハ式場ニ着席セス。拝礼ノトキ式場ニ来リ拝ヲ終ハリテ直ニ退場スルハ例ナレトモ国葬ノトキハ初メヨリ式場ニ着席スル例ナルニ此節ハ私葬ノ例ニ依ルモ不可ナリト思ヒ自分（小原）ノ意見ハ述ヘ置タレトモ結局前述ノ如ク決シタル模様ナリト云ヘリ
○午餐後林恭次郎ヨリ審査官ノ実況審査ヲ為スハ審査局官制ニ規定アリ。審査局長官ノ職権ニテ出張ヲ命スルコトヲ得ル筈ナルニ是迄大臣ノ命令ヲ受クル手続トナリ居レリ。官制ニ合ハサル様ナリト云フ。審査官ト協議シタル末予ヨリ此問題ハ大臣ニ話ス程ノ事ニ非ス。次官ニ話シタラハ多分反対スルナラン。左リトテ如何ナル形式ニナリテモ実際ト異ナル所ナシ。故ニ強ヒテ議論スル必要モナシ。一応次官ニ話シタル上次官カ手続ヲ変更スルコトヲ承諾スレハ勿論其事ニ致スヘク若シ承諾セサレハ従前ノ手続ニ依ルカ又ハ命令ノ形式ヲ止メテ審査局ヨリ大臣ノ認可ヲ経テ出張ヲ命スル形式ニスルカ三様ノ内イツレニナリテモ格別ノ異議ナキ訳ナラハ兎モ角一応石原健三ニ話シ見ルヘシト云ヒ石原ヲ其事務室ニ訪ヒタル処石原正ニ波多野ト話スル処ニテ予ニモ波多野ノ室ニ来レト云フニ付三人ニテ話シタリ。
石原ヨリ葉山御用邸付近ノ民地買入ノコトヲ波多野ニ謀リ波多野一部ノ買入ヲ諾ス。又陛下ノ御運動中ハ御用邸付近ニテハ散歩スルコトモ耕作スルコトモ禁スルハ不可ナルニ付其禁ヲ解ク方宜シカルヘキ旨波多野ヨリ石原ニ話シタリ。
又石原ヨリ今朝山県伊三郎ヨリ李
ノ品行愈々悪シキニ付禁治産ノ処分ヲ為ス必要アリト云ヒ自分（石原）ヨリ其書面ヲ出スヘキ旨ヲ話シ置タリ。如何セハ宜シキヤト云フ。予予ノ意見ニテハ容易ニ禁治産ノ処分ヲ為スコトヲ得レトモ制度審査委員会ノ意見ノ如ク法律ノ効力王族公族ニ及ハストスレハ差向キ処分ノ致方ナシト云フ。波多野委員会ニテハ仮令反対ノ意見アルモ現行制令ノ行ハレ居ル以上ハ処分シテ宜シキニ非スヤト云フ。予理論ニテハ差支ナケレトモ王公族ノ身分ニ付議論ヲ生シ其決定ヲ見サル内ニ法律ヲ適用スルハ穏当ナラサルヘシト云フ。波多野然ラハ総督府ヨリ書面ヲ出シタルトキ禁治産ノ処分ヲ為スコトニ付枢密院ニ諮詢セラレテハ如何ト云フ。予夫レナラハ差支ナシト云フ。石原枢密院ニ諮詢セラルヽ前制度審査会ノ意見ヲ問フ必要アルヘシ。審査会ニテハ多分可否ノ意見ヲ云ヒ難カルヘキモ之ヲ擱キテ枢密院ニ諮詢セラルヽ訳ニ行カサルヘシト云フ。
予伊東巳代治カ先日更ニ遺言令案後見令案皇統譜令案等ニ付特別委員ヲ設ケタルハ何事ヲ為ス積リナル分リ難シ。遺言令案後見令案等ハ既ニ審査ヲ終ハリ枢密院ニ諮詢セラレ之ヲ撤回セラレタルモノナレハ最早審査会ニテ之ヲ審査スヘキ所ナキニ非スヤト云ヒタルニ石原ハ伊東ハ之ヲ撤回シタルコトヲ知リ居ルヘキヤト云ヒ。波多野ハ其頃確カ撤回スル旨ヲ告ケタル様ナリト云フ。予予ノ記憶スル所ニテハ撤回ノコトヲ伊東ニ相談スレハ面倒ナルニ付無断ニテ撤回セヨト大臣ヨリ次官ニ話サレタルコトアル故多分撤回ノ話ハナカリシナラン。然レトモ撤回ノ事実ハ伊東ハ之ヲ知ラサル訳ナシト云ヒ。石原ヨリ右様ノコトアリタリ。然レトモ撤回ノコトハ必ス栗原ヨリ聞キ居ルヘク左ナクトモ枢密顧問トシテ之ヲ知ラサルコトナシ。撤回ノコトヲ知リテ更ニ委員ヲ設クルハ成案ヲ再査セシムル積リナルヘシト云ヘリ。
石原其事務室ニ返ル。予乃チ之ヲ追ヒ行キ審査官、実況審査ヲ命スルハ官制上審査局長官ノ職権トナリ居ルニ従来宮内大臣ノ命令ヲ請フコトヽナリ居レリ。之ヲ改メ度ト云ヒタレトモ石原ハ官制ハ実況審査ノ途ヲ開キタルノミニテ出張ヲ命スルコトマテヲ定メタルモノニ非ス。従来ノ取扱手続ニテ不可ナルコトナシト云フ。予審査局ヨリ出張命令ヲ請フノ書面ヲ提出スレハ総務課ニテハ之ニ対シ何事モナサス。属官ヨリ審査局ニ対シ上申ノ通リ認可セラレタリト云フノミニテ命令ノ形式ニモ非ス。不思議ナル取扱振ナリト云フ。石原他ノ部局ノ出張モ同様ナルヘキヤ取調見ルヘシトテ給仕ヲ召ヒタル処会々波多野カ石原ヲ召ヒタルニ付予ヨリ此事ハ他日ノ話ニスヘシト云ヒタルモ石原ヨリ書記官ヲ召ヒテ取扱振ヲ問ヒ呉ヨト云ヒタルニ付給仕ヲシテ白根松介ヲ召ハシメ之ヲ問ヒタルモ白根ハ他部局ノ出張モ総テ同様ナリ。畢竟何モ理由ナシ。総務課ノ人事係カ無人ナル故手続ヲ省略スルマテノコトナル由ト云フ。予石原ト話タル概略ヲ白根ニ告ケ。予ハ官制ノ解釈ハ予ノ方正当ト思ヘトモ実際ニ於テハ何モ異ナル所ナキニ付強ヒテ争フ必要ナシ。今年ハ従来ノ形式ヲ少シク変更シ大臣ノ認可ヲ請フ旨ノ書面ヲ作リテ提出シ見ント思フカ如何ト云ヒタル処白根自分モ官制ノ解釈ハ全ク同一ナリ。認可ヲ請フ旨ノ書面ヲ出シ見呉度左スレハ其書面ニテ詮議スルコトニ致スヘシト云ヘリ。予審査局ニ返リ石原及白根ト話シタル要領ヲ審査官ニ報告セリ
○西野英男ヲシテ東京駅ノ模様ヲ問ヒ合セ本月廿四廿五日ハ寝台アルヤ否ヲ調ヘシム。西野午後ニ至リ東京駅ニテハ只今ノ処ハ別ニ空室ナキ程ニハ非サルモ出発ノ日時決定セハ成ルヘク早ク申込呉ト云ヒタル旨ヲ報ス
○午後西野英男ヨリ旅費概算渡金四百六十三円八十九銭渡ス
○午後四時後橋爪慎吾電話ニテ先日往訪シタル後大分取調ヘタルコトアリ。熟談セント欲スルコトアルモ聞ク所ニテハ近日中ヨリ朝鮮ニ赴カルヽ由其前面会スルコトヲ得ヘキヤト云フ。予明日午後ナラハ差支ナキ旨ヲ答フ。橋爪然ラハ明日更ニ電話ニテ都合ヲ問ヒ合ハスヘシト云ヘリ
○午後五時三十分ヨリ霞ヶ関離宮ニ到リ東伏見宮及妃両殿下ノ晩餐ニ列ス。
清浦奎吾ハ予ヲ室ノ隅ニ招キ田中光顕ノ問題ハ事皇室ニ関スルヲ以テ世間ニテモ表面ハ格別騒カサルモ内実ハ真ニ憂ヒ居ルモノ少ナカラス。明治天皇ノ御事業ヲ不朽ニ伝フル為メノ紀ニ物議アル人ノ名ヲ列スルハ忍ヒ難シトテ慨嘆スル者アリ。誠ニ理由アルコトナリト云フ。予此事ニ付テハ予ハ初メ宮内大臣ハ責任ヲ負フヘキモノト信シ其意見ヲ或人ニ述ヘ大臣モ一時其方ニ決心シタル如キモ其後方針ヲ変ヘタリ。全体田中ヲ再用シタル動機カ何処ニ在ルヤ。予等ハ之ヲ承知セス。世人ハ小田原ノ老公ノ希望トナスモノヽ如キモ実際ハ然ラサルカ如シ。矢張リ故土方久光ノ嘱カ元因ナルヘキカ。兎モ角甚タ拙キコトヲ為シタルモノナリト云ヒタルニ清浦ハ誰ニ責任ヲ負ハシムルト云フ様ナルコトニテハ処分困難ナリ。近日善後策トシテ明治天皇ノ御事歴編纂ノ事ヲ国ノ事業ト為シ之ヲ機会トシテ宮内省ノ編纂事業ヲ止メ田中初メ自然消滅セシムルコトヽナサバ当リ障リナクシテ解決スルコトヲ得ヘシト云フモノアリ。至極面白シキ考ヘノ様ナリト云フ。予夫レハ実ニ名案ナルヘシ。其方法ニ依リ本件ヲ解決スルコトヲ望ムト云ヒタル処清浦ハ之ヲ以テ波多野話シ波多野カ承諾セハ其上ニテ原（総理大臣）ニ話スコトニスヘシ。尚ホ考ヘ見呉ヨト云ヘリ。
此日晩餐ニ列スル者大臣元帥陸海軍大将文官東京横浜ノ市長等百人ニ近カリシ様ナリ。午後八時後家ニ帰ル
○午後七時後橋爪慎吾ヨリ電話シタルモ予カ不在ナルコトヲ告ケタレハ更ニ電話スヘキ旨ヲ告ケテ止メタル由予カ家ニ帰リタル後内子ヨリ之ヲ報ス、午後四時後橋爪ヨリ電話シタルトキ橋爪ハ故有馬頼匡ノ遺金ノ内二百円宛ヲ主トシテ頼匡ノ世話ヲ為シタル女中二人ニ遣ハシ其外ニ差等ヲ附ケテ二三人ニ遣ハシタリ。然ルニ有馬秀雄ヨリ吉田篤太郎ハ頼匡ノ金銭ヲ保管シタルニ付其労ニ酬フル為メ吉田ニモ分与セラレ度ト申出タリ。是ハ理由アルコトヽ思ヒ頼寧ニ謀リタル処是モ異議ナキニ付五六十円ヲ贈ル積ナリ。既ニ吉田ニ贈ルトスレハ有馬秀雄モ多年頼匡ノ世話ヲ為シタルニ付是ニモ遺金ヲ贈ル必要アルヘシト思ヒ頼寧ニ相談シタル処同人ニ於テ異議ハナキモ一応君（予）ニ相談セヨトノコトナリ。如何スヘキヤト云フ。予有馬ハ特別ニ頼匡ノ世話ヲ為シタルコトアリヤト。橋爪別段ニ世話シタルコトハナシ。只家令トシテ全体ノ世話ヲ為シタル迄ナリト云フ。予頼匡ノ遺物ハ有馬ニ分与シタルナラント云フ。有馬遺物ハ有馬夫妻ニ分与シ有馬ニハ紋服ノ外小松宮ヨリ頼匡ニ贈ラレタル銀製ノ天目台（茶椀及台）ヲ贈リ妻ニハ着物二枚ヲ贈ラレタリト云フ。予然ラハ有馬ニハ別ニ遺金ヲ分与セラルヽニハ及ハサルヘシ。予ハ強ヒテ分与ニ反対スル訳ニハ非サルモ分与ノ必要ナキコトヽ思フト云フ。橋爪貴意ノ通リ決スヘシト云ヘリ
○二月廿二日午前八時後西野英男来リ。朝鮮ニ随行スルニ付用事ナキヤヲ問フ。予之ニ金百円ヲ交シ本月廿四日午前八時三十分ノ汽車ノ寝台ヲ購ヒ同日ノ寝台ナク廿五日ノ同時発ノ汽車ノ寝台ヲ購ヒ其寝台モナクハ廿四日午後四時発又ハ廿五日午後四時発ノ汽車ノ寝台ヲ購ヒ乗車券ヲ購ハサレハ寝台ヲ売ラサルナラハ同時ニ乗車券モ購ヒ左モナケレハ乗車券ハ之ヲ他日購フコトニナシ寝台ノミヲ購フコトヲ嘱ス。乗車券ハ釜山迄ノ往復券ヲ購フ筈ニ付早ク之ヲ購ヘハ有効期間切迫スルヲ以テ之ヲ後日ニ延ハシタルナリ
○午前九時後宇佐美富五郎ヲシテ第一銀行ニ行キ特別当座預金四百円ヲ引出シ来ラシム
○内子今朝少シク風邪気ナリ体温ハ三十六度五分微シク頭痛アリト云フ。臥褥ス。内子ト同行シテ郷里ニ行クヤ否ハ未定ナリ。若シ予ト同行スルコトニナレハ廿四日ニハ神戸マテ行キテ一泊スヘク左モナケレハ予ハ馬関ニ直行スヘシ。故ニ今日ハ寝台券一枚丈ヲ購フコトヲ嘱シタルナリ
○午前十時後波多野敬直ヲ其官房ニ訪ヒ予ガ明後廿四日朝出発朝鮮ニ赴クコトヲ報シ且帰途二日間私事ニテ郷里ニ赴クコトノ承諾ヲ求ム。波多野之ヲ諾ス。波多野只今宮内省ニモ何ノ問題モナシ唯一田中問題アルノミト云フ。予田中問題ハ表面静カナルモ裡面ハ必シモ然ラサルカ如シ。此問題ハ其実之ヲ憂慮シ居ルモノアリ而シテ其憂慮ハ明治天皇ノ御事業ヲ不朽ニスル為メノ編纂ヲ物議アル人ヲシテ之ヲ総ヘシ其氏名ヲ永遠ニ伝フルハ遺憾ナリト云フテ居ルカ如シ。此等ノ人ハ誰ノ責任抔ト云フコトハ之ヲ舎キ只管善後処分ヲ研究シ居ルカ如シト云ヘリ。
波多野今日ニテハ問題ハ右ノ点ニ移リタリ。其善後処分ニ付テハ二個ノ意見アリ。男爵ノ連中ハドーシテモ此侭ニテハ済マサス。若シ男爵ノ意見ニ同意セサレハ男爵ニシテ貴族院ノ尚友会ニ入リ居ル者ハ同会ヲ脱スヘシト云ヒ居ル由ニテ只今マテハ子爵議員ハドコマテモ男爵ノ意見ニ反対シ居タレトモ何トカシテ男爵トノ調和ヲ図リ呉ヨト云フコトニナリ毎々自動車ニテ奔走シ昨夜抔モ夜半マテモ奔走シ居リタリト云フ。
予二個ノ善後処分ハ如何ナル方法ナリヤト云フ。波多野一ハ建議シテ趣意ヲ明カニスルコトナル由ナルモ此ノ方法ニハ子爵連中ハ絶対ニ同意セサル趣ナリ。第二ハ編纂事業ヲ国家事業ト為シ之ヲ機トシテ宮内省ノ関係ヲ絶チ田中ノ資格ヲ自然消滅セシメントスルモノナリ。此方法ニハ自分（波多野）ハ反対セサルニ付成功スル様周旋スルコトヲ嘱シ置ケリト云フ。予第二ノ方法ハ予モ之ヲ伝聞セルカ是ハ今日ノ善後処分トシテ至極宜シカラント思フ。殊ニ君モ異存ナキナラハ必ス成立スヘシ。是非其方針ニテ進行スル様処置セラレ度ト云フ。
波多野子爵ノ連中ハ人心統一ノ必要ヲ叫ヒ居ル今日ニ当リ多数ノ力ニ依リ宮内官ノ進退ヲ左右スル様ノコトアリテハ言語道断ニ付ドコマデモ毅然トシテ安着シ居リ呉ヨト言ヒ居リタルニ付其方ノ折合ハ如何アランカト云フ。予子爵連中モ少シノ不気済位ハ之ヲ忍ヒ大体ノ解決ヲ図ルカ適当ナリ。是非其談ヲ纏ムルコトニセヨト云ヒタリ。波多野初ハ男爵ノ若手カ騒キ居リシモ此頃ハ幹部ノ浅田徳則山内長人抔カ何トカ取斗ヒ呉レサレハ折合附カストテ子爵ノ方ニ交渉シ子爵ノ方ニテモ幹部ヨリノ相談アルニ付熟慮スルコトヽナリタル趣ナリ。周旋人ハ方々ニ奔走スルニ付自動車賃位ハ宮内省ヨリ出シ呉ヨト云ヒ自分（波多野）ハ之ヲ出スコトハ差支ナキモ宮内省カ運動費ヲ出シテハ不都合ニ付自分ヨリ誰レニカ渡シテ其人ヨリノ支出ニナスコトニ話シ置ケルト云ヘリ
○予正ニ波多野ト話ス。白根松介来リ朝鮮ノ任善準カ死シタルニ付祭粢料ヲ賜ハルヘキ処履歴書簡短ニテ事実ヲ知リ難シ高永喜カ死シタルトキハ千五百円ヲ賜ヒ居レリ任ハ高トハ大概同様ノ経歴ナルヘキヤト云フ。予以前ノ事ハ知ラサレトモ予等カ朝鮮ニ行キタル後ハ二人トモ大臣ニテ併合ノトキマテドチラモ勤続シ居リタリ大概同様ナルヘシ。白根、朴斉純ニハ二千五百円ヲ賜ヒ居レリト云フ。波多野、朴ハ特別ノ事アリタリ。任ハ高ト同額ニテ宜シカラント云ヘリ
○午前十時頃西野英男来リテ廿四日午前八時三十分東京駅発汽車ノ寝台券ヲ致ス
○午前十一時後石原健三来リ。何日ニシュッパツシテ朝鮮ニ赴クヤト云フ。予二十四日朝出発スル旨ヲ告ク。石原自分（石原）今日午後一時発ノ汽車ニテ葉山ニ赴ク旨ヲ告ク。
予昨夜高橋高〔光〕威ニ遇ヒタルトキ高橋ハ皇室ヨリ李王家ニ対シ下賜金アル模様ナリト云ヒ居リタリト云ヒタル処石原ハ高橋ハ彼ノ如キコトヲ云ヒ居レリ。中央新聞ニ李太王ノ薨去ニ付朝鮮人ニ対シ有リ難キ恩賜アルヘク若シ此節恩賜ナクハ王世子慶事ノトキハ必ス恩賜アル様ニ確聞スル旨ノ記事ヲ掲ケ居レリ。皇室ヨリノ恩賜トハ明記シ居ラサルモ紛ハラシキコトヲ書キ居レリ。是モ高橋ヨリ出テタルモノナルヘシ。
前内閣ノトキ三百万円ヲ給恤費ニ下賜セラレタルトキ朝鮮台湾ヨリモ同様ノ申出アリタルモ宮内省トシテハ下賜ノ場所ヲ指定セス。政府カ朝鮮台湾ニハ必要ナシトシタタルモノナレハ更ニ朝鮮台湾ニ下賜セラルレハ政府ノ不明ヲ明カニスル訳ナルニ付宮内省ヨリハ此上下賜セラレ難シトテ之ヲ拒絶シ教育費ノ下賜金千万円ニ付テモ朝鮮ヨリハ朝鮮ノ教育ハ極メテ不完全ナルニ内地ニノミ下賜セラルヽハ不権衡ナリトノ申出アリ。内閣ハ困リ居ルニ付右様ノコトヲ申触ラスモノナルヘシト云ヘリ
○予田中問題ニ付今朝波多野ト話シタル要領ヲ石原ニ告ク。石原、第二ノ方法ハ宮内省ノ面目ヲ損スルモノニテ名案トモ思ハレサレトモ他ニ方法ナク宮内省自身ニ解決シ得サルニ付致方ナシト云ヘリ。予宮内省ノ面目ヲ損スルモ直接ニ損セサル故此ヨリ善キ方法ナシ。此方法ニテ解決スルカ只今ニナリテハ最上ナリト云ヒ置ケリ。石原将ニ去ラントス。
予紀元節ノトキ還幸ナカリシアハ真ニ御風気ナリシヤ又君カ常ニ憂ヒ居ル事ノ為メナリシヤト云フ。石原ハ真ノ御風気ナリシナリ。然レトモ大体ニ於テ心配ナリ。侍医全体ノ意見ヲ徴シ居レリ。其都合ニテ何トカ工夫スル必要アルヘシト云フ。予幸ヒ御成年モ近キニ付御名代ノ外方法ナカルヘシト云フ。石原夫レモ度々ハ行ハレ難キ事ナリト云ヘリ
○林恭次郎審査官ノ実況審査ノ為メノ出張ニ付伺書及随行属官ノ同上伺書ヲ予ニ提出シタルニ付予予カ昨日白根松介ト談合ヒ置タルコトハ其節君等（林等）ニ通知シ置タルモ石原ハ今日ヨリ葉山ニ行キ白根モ明日ヨリ葉山ニ行クトノコトニ付沿革ヲ知リタルモノナク大臣ハ勿論異議ナク決裁スヘキモ次官カ不同意ナリシコトヲ告ケラレテ決裁セシムルハ不徳義ナル故一応其始末ヲ白根ニ話シ白根ヨリ他ノ書記官ニ話シ置ク様取斗ヒ置呉度旨ヲ告ク
○午後二時後橋爪慎吾電話ニテ只今ヨリ往訪セント欲ス差支ナキヤヲ問フ。予差支ナキ旨ヲ答ヘシム
○内子午後二時後体温三十七度一分アリ。少時ノ後三十六度七分ニ低下シ又少時後三十六度九分ト為ル。乃チ電話ニテ坂田稔ヲ召フ坂田在ラス其門人ヲシテ坂田ノ出先ニ電話ヲシテ来訪ヲ嘱セシム。三時後門人ヨリ坂田遠方ニ行キ居ルニ付晩方迄ニ往訪スル旨ヲ報ス
○午前十一時前林恭次郎ヨリ昨日貴官退省後内匠寮ノ高橋其三モ来リ審査局ノ属官早川某ヲ内匠寮ニ採用シ度旨ヲ謀ル。乃チ審査官ニ謀リタル処審査局ニハ有用ノ人ナルモ本人カ希望スルナラハ転任セシメテ宜シカルヘシト云フ。但松根豊次郎ノミハ仮令本人カ転任ヲ希望スルモ審査ノ事務ハ経験ヲ積マサレハ執務出来サルニ付転任ヲ承諾セサル方宜シトノ意見ヲ述ヘリ。高橋ニ対シテハ貴官（予）ニ謀リタル上答フヘキ旨ヲ告ケ置タリト云ヘリ。予予ハ常ニ本人ノ希望ニ任スル考ヘナルニ付仮令局務ニ差支ヲ生スルモ本人カ転任ヲ希望スルナラハ其希望ニ任スヘシ。高橋ニ対シテハ高橋ヨリ直接ニ本人交渉スル様答ヘ置呉ヨト云ヒ置ケリ。
林又先日審査局属ニ推薦セラレ居ル吉田某ノコト総務課ノ取調出来シタラハ貴官ノ不在中ニテモ発表シテ差支ナキヤト云フ。予発表差支ナキノミナラス分担事務ヲ定ムルコトニ致シ呉度ト云ヒ置ケリ
○午後四時前内子体温三十六度五分
○午後四時後橋爪慎吾来リ。有馬家々従中島某（武□ノ子）カ膳所監督ノ任ニ在リ。膳所番ノ長某女ト通シ米塩ヲ私シタル事実発覚シタルコト、中島ノ処分ニ関シ頼寧カ懸念シ居ル事。
橋爪カ頼寧夫人ノ実母岩波稲子及夫人ト頼寧ノ行状ニ付熟談シ稲子ハ夫人ノ懐妊中頼寧カ雇人ニ挑ミ雇人ヨリ稲子ニ相談シタルトキ稲子ハ自己カ今日ノ境遇ニ在ルハ同様ノ原因ニ依ルニ付速ニ暇ヲ取リテ此家ヲ去ルカ得策ナリトテ之ヲ去ラシメタルコトガ原因ニテ頼寧カ稲子ヲ疎外スル様ニナリタルコトヲ話シ夫人ハ頼寧カ外出シテ所在不明ナルコトアルハ（ミドリ）トノ関係ナルヘシ（ミドリ）ノ父カ承諾スルナラハ妾トシテ雇入度旨ヲ話シタル事、稲子ハ自分（夫人）ノ生母ナルカ稲子ト頼寧トノ間円満ナラサル為メ自分（夫人）カ常ニ苦心シ家内モ円満ナラス。自分モ稲子ヲ使役スルハ都合悪シキニ付稲子ヲ隠居セシメ度其方法ヲ考ヘ呉度旨ヲ話シタル事。
又夫人ハ橋爪ノ問ニ対シ頼寧カ欧州ニ遊フ希望ヲ告ケ夫人ハ子供モ多キ事ユヘ無期限ニ外遊スルコトハ三四年ノ期限アルコトナラハ兎角ト云ヒタル処頼寧ヨリ三四年間ナラハ宜シキヤト云フニ付其位ナラハ宜シカラント云ヒタルコトアル事。頼寧ノ今後ノ行動ニ付テハ夫人モ注意シテ気付キタルコトアラハ橋爪ニ注意スヘシト云ヒタルコト。
夫人ヨリ頼寧ニ対シ所在不明ノ様ナル事アリテハ困ルト云ヒタルニ今後ハ十分注意スヘシト云ヒタルコト、芸妓小鈴トハ頼寧ハ既ニ手ヲ切リタリト云ヒタルコト、夫人ヨリ頼寧ノ所在不明ノゴトキアリテハ外部ニ対シテ不面目ナリ如何スレハ宜シキヤト云ヒタル処新橋ノ待合某家〈菊月〉（小鈴ヲ周旋シタル家）ニ問ヘハ所在ハ分カルト云ヒタル事、
敏四郎カ慰安ヲ得ルノ途ヲ頼寧ニ乞ヒタル末敏四郎ヨリ某女ト熱海ニテ逢ヒ其後文通等ヲ為シ居ルニ付婚約丈ヲ為シ置度旨敏四郎ヨリ申出テ頼寧カ同族ノ友人某ニ某女ノコトヲ問ヒタル処某ヨリ某女ノ家ハ自分ノ母ノ生家ニテ某女ノコトヲ誉メタルニ付尚ホ之ヲ取調ヘタル上宜シケレハ婚約ヲ致シ置キテモ宜シカラント云ヒタルコト、
松田正之ノ縁談ハ蜂須賀家ヨリ頻リニ迫ルモ松田家ノ未亡人ハ其決定ヲ自分（頼寧）ニ任セ居レリ。自分ハ未亡人カ宜シト云フトキニ賛成スルコトニシ度旨ヲ話シ橋爪モ之ニニ同意シ置タル事等ノコトヲ話シ故頼匡ノ遺品分配ノ調書ヲ示シタリ。六時頃帰リ去ル
○午後四時後坂田稔来リテ内子ヲ診ス。薬ヲ要セサル旨ヲ告ク。予明日内子ノ用心薬及ヒ予カ途中ニテ感冒ノ気味アルトキノ薬ヲ投スル事ヲ嘱ス
○午後五時後東久邇宮家ヨリ浅草海苔五缶ヲ送リ来ル
○午後七時後宮内省総務課ヨリ電話ニテ朝鮮ヨリ予及ヒ西野英男ノ朝鮮鉄道乗車券ヲ釜山駅長ニ渡シ置タルニ付之ヲ受取ルヘキ旨且ツ予カ馬関ヲ出発スル日時ヲ通知スヘキ旨ヲ申来リタル旨ヲ報ス。予馬関出発ノ日時ハ未定ナル旨ヲ答ヘ置ケリ
○二月二十三日午前九時頃西野英男来ル之ニ鉄道乗車券ヲ購フコトヲ嘱ス。十一時後西野来リテ乗車券ヲ致ス
○午前書留書状ヲ隆ニ贈リ金二百円ヲ送ル
○午前十時後金井四郎電話ニテ昨日東久邇宮ヨリ浅草海苔ヲ贈ラレタリ。全体ハ職員ヲ使トシテ遣ハスルヽ筈ナリシモ人手不足ノ為メ小使ヲ遣ハサレタル旨ヲ告ク。予明朝出発朝鮮ニ赴クニ付其前御礼ノ為参殿スルコトヲ得ズ。然ルヘク言上シ呉ヨト云フ。金井之ヲ諾シ妃殿下ハ三月三日夜上野駅発ニテ金沢ニ赴カルヽ積リナリト云フ。金井又王殿下ヨリ是非三月一日発ニテ妃殿下ノ金沢ニ赴カルヽ様取斗フヘキ旨申越サレタルニ付御用取扱永山某等ト協議シタルモ一日ノ出発ハ行ハレ難ク結局王殿下ノ生母ニ依頼シ日ノ吉凶ヲ取調ヘ貰ヒタル処三日ガ宜シトノコトニ付王殿下ニモ其事ヲ申上ケ延引シタル所以ヲ弁明スル積リナリト云ヘリ
○午後書ヲ清浦奎吾ニ贈リ田中光顕ノ問題ハ本日廿一日夜清浦カ霞関離宮ニテ予ニ話シタル方法ニテ解決スル様配慮スルコトヲ申遣ハス
○午後九時後西野英男カ来リタルトキ昨日予カ退省シタル後文書課長大木某カ審査局ニ来リ。林恭次郎ニ対シ朝鮮ハ近来物騒ナリ先日鉱山局長某ノ家ニ朝鮮人カ来訪シ何カ小サキ箱ヲ遣シ去リタルカ其後ニ至リ其箱爆発シ某及其弟ハ其ノ為ニ死セリトノコトナリ。警察ニテ種々取締ヲ為シ内地ヨリ朝鮮ニ帰リタル者丈ハ取締ヲ附ケタレトモ支那ヨリ入込ミ来リタル朝鮮人ノ内三四名ハ踪跡ヲ失ヒ今ニ何処ニ在ルヤヲ知ルヘカラス。彼等不逞ノ徒ハ李太王葬儀ノ時葬列ニ対シテ何事カ為スヘキ計画ヲ為シ居ル模様ニ付長官（予）十分用心セラレ度ト云ヒタリ。イツレ林ヨリ明朝停車場ニテ申上クヘキモ自分（西野）ヨリモ申上置クヘキ旨林ヨリノ話アリタリト云ヘリ
○午後二時前坂田稔ヨリ電話ニテ内子ノ体温及内子ハ朝鮮ニ行クヤ否ヲ問フ。内子零時後ノ体温ハ三十六度八分ニテ朝鮮ニハ行カサル旨ヲ答フ
○午後二時内子ノ体温三十六度七分ナリ
○午後七時頃荒井加寿衛電話ニテ今日鎌倉ヨリ帰リタル旨ヲ告ケ予カ出発ノ日時ヲ問フ。予明朝八時三十分ノ汽車ニテ出発スル旨ヲ告ケ内子ヲシテ予ニ代ハリテ電話セシム。加寿衛ハ鎌倉ニテ風邪ニ罹リタリト云ヒ山崎元幹ハ明後日午後ノ汽車ニテ大連ニ帰ル積リナルカ京城ヲ経由スルヤ否ハ未定ナル旨ヲ告ケタリ
○午後六時後内子ノ体温三十六度三分ナリ
○午後六時後内子ノ体温三十六度三分ナリ
○二月廿四日午前七時前西野英男来ル。七時朝鮮行ノ行李二個其他ノノ手荷物ヲ東京駅ニ運ハシメ西野亦駅ニ行ク。七時三十分予東京駅ニ行ク。瓦田元良予ヲ送ル為メニ駅ニ来リ居リ。予ガ為メニ手提鞄ヲ受取リ呉タリ。此時予毛布ヲ取リ置クコトヲ瓦田ニ告クルコトヲ忘レ車夫ハ毛布ヲ持チテ帰リ去リ後十四五分許ニシテ始メテ毛布ヲ取ラサリシコトニ気附キタレトモ最早発車時刻ニテ三十分余ニシテ宅ヨリ之ヲ取寄スル暇ナキ故毛布ヲ持タズシテ行ク積リノ処瓦田ガ車夫ヲ追ヒ見ントテ出行キ二十分許ニシテ返リ来リ。二重橋ノ処ニテ車夫ニ追ヒ附キタリテ毛布ヲ取リ来リ呉レタリ。一言ノ不足大ニ人ヲ労シタリ注意スヘキコトナルカナ、荒井賢太郎、瓦田元良、山口某（審査局属官）宇佐美富太郎予ヲ送リ来ル
○東京駅ニテ山県伊三郎ニ遇フ。山県モ下関ニ赴キ明夜発ノ汽船ニテ釜山ニ赴ク積リナリト云フ、東京駅ニテ向井巌ニ遇フ。向井ハ山県伊三郎ヲ送ル為メ来リタルモノナリ
○車中ニテ午前十一時頃左ノ下腹ノ筋ニ微痛ヲ覚フ。或ハ大腸ニ故障アルナラント思ヒ午食セス。午後厠ニ上ル。屁ヲ放ツコト平日ヨリ多シ。晩間肉ヲ食ハス。鶏卵ノ半熟ヲ食ヒ酒ヲ飲ム、午後八時後寝ニ就ク。左ノ下腹部ノ痛未タ止マス
○午後七時頃同車ノ客大坂ノ森作太郎語ヲ接ス。森ハ予ガ明治三十六年大坂控訴院検事長タリシ頃同地ニテ弁護士ノ業ヲ営ミ居リタルモノナリ。午後八時前森ノ知人大坂〔阪〕朝日新聞社員上野精一名刺ヲ致ス。予亦之ニ酬ユ。林恭次郎東京駅ニテ大木某カ目下朝鮮不穏ナルニツキ注意スヘキ旨ヲ話シタルコトヲ告ク
○二月二五日午前四時眠覚ム。左下腹部尚ホ微痛アリ。懐炉ヲ以テ之ヲ暖ム。朝食セス、午前九時三十分汽車下関ニ達ス。旅館川卯方ニ投ス。休憩ス。婢ヲシテ今夜釜山ニ航スル船名ヲ問ハシム。乃チ予カ名刺ヲ交シ店員ヲシテ予メ予ガ為メニ船室ヲ備スルコトヲ鉄道院ニ交渉シメ又西野英男ヲシテ電信ヲ東京留守宅、鈞、隆ニ予ガ今夜高麗丸ニ乗リ釜山ニ向フコトヲ報セシム。既ニシテ予正ニ浴ス。西野浴場ニ来リ。今夜釜山ニ向フ船ハ博愛丸ニ変更シタル趣ナルコトヲ報ス予。乃チ先刻ノ電信ヲ止メ更ニ博愛丸ニ乗リ釜山ニ赴クコトヲ報セシム
○午後零時三十分午喫シ酒ヲ飲ム。尚ホ懐炉ヲ以テ左ノ下腹部ヲ暖ム、午後書ヲ内子及隆ニ贈ル
○午後一時後西野英男ヲシテ前刻予店員ニ命シタル船室交渉ノ事如何ヲ問ハシ西野店員ヨリ鉄道員職員ニ交渉シタル処近来予メ船室ヲ定ムルヲ許サス。入船ノ順序ニ依リ船室ヲ定ムルニ付午後八時頃迄ニ船室ニ入リ呉度午後八時三十分ノ汽車達スレハ船室満員ナリ易ク其前ニ来リ呉ルレハ船室ヲ給スヘシト云ヒタル由ナリト云フ。予店員ニ対シ交渉ノ結果ヲ報告スヘキ旨ヲ命シ置タルニ西野ノ問ヲ待チテ始メテ右ノ如ク答フルハ不都合ナリ。
午後八時頃西野先ツ船ニ乗リ予カ為メニ寝室ヲ備フ。八時二十分頃予又乗船ス。九時三十分投錨ス。同乗者山県伊三郎遠藤某等アリ。松本世ナル者名刺ヲ致ス。松本ハ北海道小樽ノ者ニテ二十年許浦潮附近ニ在リ商業ヲ営ミ居リタルモ戦乱ノ為メ商業途絶シテ困リ居リタル際セメヨーノフカ兵ヲ起スニ会シ其軍ニ加ハリ目下司令部員トナリ居ルト云フ。松本ノ同行者魯国婦人二人ナリ。昨朝東京駅ヨリ汽車ニ同乗シ今夜復汽船ニ同乗セリ
○船安穏眠リテ翌廿六日午前四時ニ至ル。端書ヲ田中正道ニ贈ル
○二月二十六日午前六時後寝室ヲ出テ甲板ニ至リ海□ヲ観ル。一望山ヲ見ズ。七時三十分朝食ス。九時三十分釜山ニ達ス。山県伊三郎ト倶ニ釜山倶楽部ニ憩フ。大村大□柳沢佐五郎、□□某等福田増兵衛等十数人来訪フ。鉄道管理局久保要蔵亦来リ□事ノ周旋ヲ為シ昼食晩食トモ之ヲ供ヘタリ。午後九時前汽車永□浦ニ達ス。児鈞来リ迎フ。先是京城日報社員汽車ニ来リ山県伊三郎ニ面スルコトヲ請フ。山県肯セス秘書官遠藤某ヲシテ之ニ面セシム。遠藤室ニ返リ記者某ガ予ニ面スルコトヲ請フ旨ヲ告ク乃チ之ニ面ス。某朝鮮ニ於ケル民事法規ノ事ヲ問フ。予其職ニ在ラサル旨ヲ告ケ之ニ答フルコトヲ拒ム。永□浦ヲ過キタル後新聞社員山県ヲ撮影センコトヲ請フ。山県、社員ニ勧メ予ヲ撮影セシム時ニ鈞亦在リ終ニ予ト鈞トヲ撮影ス。
九時十分後南大門ニ達ス。此日沿道来リ迎フル者多シ。山県、今日ノ出迎ハ自分（山県）ノ為メニ非ス君ノ為メナリト云ヒテ予ニ戯ル。大邱及南大門駅ニ来リ迎ヘタル者ノ中ニハ特ニ予ノミヲ迎ヘタルモノモ之アリタリ。総督府馬車ヲ遣ハシ予ヲ送リテ児鈞ノ家ニ到ラシム。随行員西野英男ハ□真楼ニ到リ投宿セリ。午前九時後釜山ヨリ電信ヲ内子鈞隆ニ発ス。夜又電信ヲ内子及隆ニ発ス
○左ノ下腹部ノ痛全ク癒ス
○二月廿七日午前八時後国分三亥来リ訪フ。之ニ次キ城数馬、草場林五郎等亦来ル。来リ訪フ者二十人許。
午後二時後往テ山県伊三郎ヲ訪フ。在ラス。去リテ長谷川好道ヲ訪ヒ暫話ス。又朝鮮総督府ニ到ル。予カ面セント欲シタル者皆在ラス。総務課長某ニ面シ予カ徳寿宮ニ行カント欲ス。門鑑ヲ要セサルヤヲ問フ。某門鑑ヲ要セサルモ別服ヲ着セサル者ハ之ヲ待タシムル趣ニ付予メ総督府ヨリ電話ニテ君ノ行クコトヽ行ク時刻ヲ通知シ置クヘシ。何時頃行クヤト云フ。予四時頃ナルヘシト答へ置ケリ。
去リテ渡辺暢、中村竹蔵、岩本以明ヲ訪フ。皆在ラス又城数馬ヲ訪フ。予玄関ニテ之ニ面ス。城其妻ヲシテ予ニ面セシム。又去リテ久保要蔵ヲ訪フ。之ニ面セスシテ去ル。一タヒ鈞カ家ニ返リ黒礼紐ヲ着ケ高帽ヲ戴キ徳寿宮ニ到リ二個ノ帳簿ニ署名ス。一ハ李王ノ帳簿ニテ一ハ王世子ノ帳簿ナリ。帰途国分三亥、郷友弥ヲ訪フ。皆在ラス。国分ノ妻ニ面セントス。妻正ニ沐ス。其女ヲシテ代リテ予ニ面セシム。
此日国分三亥来月一日朝鮮ホテルマテ旧友数人ト共ニ予及旧友二三人ヲ招キ晩餐ヲ共ニセント欲スル旨ヲ告ク。予之ヲ諾ス。山辺勇輔来月二日正午前其家ニ来リ呉ヨト云フ。予之ヲ諾ス、柿原琢郎カ来ルリタルトキ柿原ガ昨年予ニ嘱シ置タル書二枚ヲ交ス。一ハ東風昨夜入新梅ノ七絶一ハ一□意□□自清ノ七絶ナリ、午前書ヲ内子ニ贈ル、午後四時後臼井水城ノ妻来リ訪ヒ人参エキス一包（凡十個位）ヲ贈ル
〇二月廿八日午前八時後西野英男来リ用事ナキヤ否ヲ問フ。用事ナキ旨ヲ答フ。午前九時後渡辺暢来リ訪フ。話スルコト十四五分許
〇午前十時後国分三亥ノ妻藤子ニ電話シ予カ在否ヲ問ヒ予ガ昨日往訪シタルトキ正ニ浴シ居リタル為メ面会セサリシコトヲ謝シ且ツ今又往訪セント欲スル旨ヲ告ク。予来訪スルニ及ハサル旨ヲ告ケシム。午前十時後国分三亥便ヲ遣ハシ鮮鯛一尾ヲ贈ラシム
〇午前十一時頃朝鮮総督府員電話ニテ今日野田卯太郎仙石政敬等李王ニ謁スルニ付予亦午後二時十五分頃李王職ニ行キタラハ宜シカラント云フ。予尚徳宮ニ行クヤ徳寿宮ニ行クヤト云フ。府員取調ヘテ然ル後答フヘキ旨ヲ告ケ少時後徳寿宮ニ行クヘキ旨ヲ答ヘ且ツ先日伊藤博邦等ガ李王ニ謁シタルトキハ喪章ヲ著ケタルニ付注意ノ為メ之ヲ告クル旨ヲ話ス
〇零時後藤子ヲシテ人力車ヲ命セシム
〇午後二時頃人力車始メテ来ル乃チ急キ徳寿宮ニ到リ閔丙爽、国分象太郎等ニ面ス国分ノ談ニ依レハ午後二時三十分徳寿宮ニ到ルヘキコトヲ総督府ニ電話シタル趣ナリ。故ニ人力車晩レタルモ予カ徳寿宮ニ到リタルハ尚ホ早々過キタルナリ。野田卯太郎古賀廉造等亦次テ来ル。乃チ李王及王世子ニ謁シ宮内省勅任官総代トシテ李太王ノ葬儀二列スル為メ来リタルコト、弔意ヲ表スルコト王及世子ノ近況ヲ問フ旨ヲ述ヘテ退ク。帰途故任善隼ノ家ニ到リ弔シテ帰ル
