現代文化学基礎演習２（2000年度：永井）

映像で見る占領期の日本

－占領軍撮影フィルムを見る－

1945年8月のマニラ会談の映像

11月5日：報告に「終戦連絡事務局」（山田）を追補しました。
11月5日：史料集に『日本外交史』『終戦史録』（渡辺）を追加しました。
10月23日：研究報告に「マッカーサー・レポートVol.2」について（田中泉）を追加しました。
10月17日：研究報告に「「ブラックリスト」作戦について」（田中泉）を追加しました。
10月16日：史料集にJCS文書（山口）の追加とJCSに関するメモ（山口）を追加しました。
10月12日：史料集にJCS1275/8（山口）を追加しました。
9月29日：授業再開にあたって（永井　和）を追加しました。
9月28日：五百旗頭真『米国の日本占領政策』より（菊地隆之）を追加しました。
9月7日：史料集の岡崎回想録に追加（谷岡）をおこないました。

過去の更新履歴はこちら

受講者名簿
演習のテーマ
記録映像の説明（飯島真枝、谷岡信宏）
要調査項目
調査結果の報告
- 5-1マニラ会談について
  - 5-1-1.附属図書館での調査結果（山田梨津子）
  - 5-1-2 附属図書館での調査結果（市川裕子）
  - 5-1-3 附属図書館での調査結果（井波和夫）
  - 5-1-4 文学部図書館での調査結果（田中泉吏）
  - 5-1-5 文学部図書館での調査結果（山口匠）
  - 5-1-6 文学部図書館での調査結果（田中哲也）
  - 5-1-7 総合人間学部図書館での調査結果（丸岡加奈子）
  - 5-1-8 総合人間学部図書館での調査結果（中塚千恵）
  - 5-1-9 総合人間学部図書館の資料から（渡辺祥子）
  - 5-1-10 経済学部、法学部図書館での調査結果（山田梨津子）
  - 5-1-11 国立国会図書館のOPAC及びNACSIS-WebCatでの検索結果（谷岡信宏）
- 5-2 横山一郎について（田中智洋）
- 5-3 ウィロビー少将について（仲村和代）
- 5-4 マッカーサーについての文献調査報告（小島千絵）
夏休み後の報告
- 授業再開にあたって（永井　和）
- 五百旗頭真『米国の日本占領政策』より（菊地隆之）
- JCS文書における降伏三文書（山口匠）
- 「ブラックリスト作戦」について（田中泉吏）
- 『占領史録』について（丸岡加奈子）

1.受講者名簿

演習参加者名簿
氏名	回生	所属	氏名	回生	所属
飯島真枝	2	基礎現代文化学系	井波和夫	2	基礎現代文化学系
川元康彦	2	基礎現代文化学系	菊地隆之	2	基礎現代文化学系
北山雅州	2	基礎現代文化学系	齊藤さやか	2	基礎現代文化学系
田中泉吏	2	基礎現代文化学系	田中哲也	2	基礎現代文化学系
永井孝之	2	基礎現代文化学系	山田梨津子	2	基礎現代文化学系
浅見直希	2	基礎歴史文化学系	市川裕子	2	行動環境文化学系
小島千絵	2	行動環境文化学系
谷岡信宏	3	現代史学専修	山口　匠	3	現代史学専修
中塚千恵	3	20世紀学専修	仲村和代	3	20世紀学専修
丸岡加奈子	3	20世紀学専修	渡邉祥子	3	20世紀学専修
澤田俊太郎	4	20世紀学専修	田中智洋	4	20世紀学専修

2.演習のテーマ

占領時代にアメリカ陸海空軍および連合国最高司令部通信隊が撮影した記録フィルムを見ながら、映像資料を通じて占領期の日本及び日米関係について学習する。

授業で見るフィルムはアメリカのNational Archivesに所蔵されていた記録映画を、エムティ出版がビデオに採録し全132巻からなる未公開秘蔵映像『終戦直後・占領下の映像記録』として出版したものの一部であり。占領期の日本を記録した映像としては、これほどの量がひとつにまとまったものは他にない。これを見ることで、占領期の日本を生々しい姿を実地に体験してみたい。また、現代史研究における映像資料の活用の方法を模索したい。

3.映像の第一次説明原稿（谷岡、飯島）

最初に見るのは、ビデオの第35巻と第107巻に収録されているマニラ会談関係の四つの映像である。以下、それぞれについて写されている映像の内容を言葉で説明する。

3-1.第35巻の1

Roll#1のキャプション

映像の冒頭にキャプションが付けられている。撮影者名は判読できない。表題も「日本平和…」（Japanese Peace ・・・・・）とあって、最後まで判読できない。撮影日時は、1945年8月19日と読める。フィルムは第1巻。撮影場所は沖縄の伊江島である。

シーン1

沖縄の伊江島の米軍飛行場に２台の大型双発機が着陸した。その飛行機には主翼と尾翼と胴体には十字のマークがついている。多くの米軍関係者が滑走路の周囲でこの軍用機を見守っている。

シーン2

到着した2台の飛行機から日本人の一行が降りてきて、乗換えるため整列している。
暑いためか、待っている間、アメリカの飛行機の翼の影に立っている。一行は、20人以上からなり、前2列に軍服着用、帯刀した軍人と背広を着た官僚らしき人物が並び、3列目、4列目には飛行帽・飛行服をまとった搭乗員が並んでいる。

シーン3

それから一行は別の飛行機（アメリカの軍用機）に乗り込む。シーン1で前二列に並んでいたグループが乗り込む。一人ずつはしごを昇っていくシーンが続く。後方に並んでいた搭乗員たちはこの飛行機には乗換えず、そのまま伊江島にとどまる。乗換えた人数は、映像に映っている限りでは、外交官3人、陸軍軍人と海軍軍人あわせて6人の計9人を数えることができる。

シーン4

最後にもう一度、冒頭と同じキャプションが映っているが、影になっているのでまったく判読できない。

Roll#2のキャプション

ここから別のフィルムにかわる。映像の冒頭のキャプションから次のことがわかる。撮影者の名前はDe Vitteと読める。表題は「日本降伏使節（Jap Peace Delegation）」である。フィルムは第2巻。撮影場所は沖縄の伊江島である。

シーン5

2台の日本の軍用機が伊江島に到着した。これ以降の映像は、Roll#1と同じ被写体を別の角度からとったものである。

シーン6

日本人の一行が降りてきて、米軍軍用機の翼の下に全員が集合し、米軍側の人間と対面している。

シーン7

米軍機に乗換えるため、一行が待機しているところ。

シーン8

一行が米軍機に乗り込む。飛行機の扉に米軍機であることを表す星のマークが見える。
乗り込んでいく日本人使節団の身分は、乗り込む順に、陸軍軍人→陸軍軍人→外交官→海軍軍人→海軍軍人→陸軍軍人→陸軍軍人→海軍軍人である。

シーン９

滑走路に停まっている日本の軍用機の内部及び周りで米軍関係者が何か作業をしている。また、滑走路周辺を多くの米軍兵士のやじうまが多数群がっている。使節を載せた飛行機が発った後の映像と思われる。

4.要調査項目

上記の映像資料に対してより詳細な説明を付するためには、次の項目について文献資料を調査しなければならない。

マニラ会談全般について
日本側使節団の構成、メンバーの人数、所属、地位など。映っている個々の人物が誰なのか同定できなければならない。
到着した日本の軍用機について。その機種、所属、出発地、経路、十字マークは何を意味しているのか。伊江島が中継地点とされた理由など。
伊江島のアメリカ軍について。伊江島にアメリカ軍が上陸・駐屯し、飛行場を建設するまでの経緯、駐屯していた部隊の名称、所属、兵力など。

どのように調べるか

図書館に所蔵されいる太平洋戦争関連の文献をあたってマニラ会談についての記述がどのようになされているかを調べる。
ネットワーク上の文献検索システムを利用して「マニラ会談＜Manila Conference＞」で検索を試みる。

文献としては、1.史料、2.伝記・.回想録、3.研究書・概説書、4..辞典があげられる。
　史料はここで見ているフィルムのように当事者や目撃者がリアルタイムで残した記録であり、信頼性が高い。伝記・回想は当事者による回想やそれをもとに記されたものだが、記述に偏りがあったり、年月により記憶が変化していたりする。研究書・概説は史料や回想を基に客観的な歴史記述を試みたもの。辞典の記述は、研究書や概説で確定的となった事実や学説を通説としてコンパクトにまとめたもの。

調査項目の分担（5月16日分）（記録：谷岡）

学内図書館の文献調査とリスト作り
1. 附属図書館：山田、市川、浅見、井波
2. 文学部図書館：山口、田中、田中
3. 総合人間学部：中塚、丸岡、渡邊
4. 法学部・経済学：山田
ネットワークでの文献検索
1. 英語のサイト：飯島
2. 日本語のサイト：斎藤、谷岡

要調査項目･追加分（5月23日分）（記録：飯島）

伊江島のアメリカ軍について／沖縄戦以来の経緯も含めて：北山、澤田
河辺虎四郎について～回想録も探す：菊地
岡崎勝男について：未定
天野正一について：未定
横山一郎について：田中智
サザーランドについて：未定
ウィロビーについて：仲村
マッカーサーについて：小島

要調査項目・第二次追加分（6月27日）

Foreign Relations of the United States（アメリカ国務省の公刊外交文書：1945年分は法学部所蔵）にマニラ会談関連の史料がないか調べる。担当は飯島。
Joint Chief of the Staff（アメリカ統合参謀本部）史料（マイクロフィルム：文学部所蔵）にマニラ会談関係の史料がないか調べる。担当は山口.
.GHQ/AFPACのTOP SECRET文書（文学部所蔵）にマニラ会談関係の史料がないかどうか調べる。担当は市川。（市川さんの協力者を募集中）

5.調査結果の報告

5-1マニラ会談について

5-1-1.附属図書館（山田梨津子）：5月23日報告

附属図書館の開架図書（旧分類）の歴史部門を調べた結果、次の3冊にマニラ会談についての記述があった。

(1)毎日新聞社編『最新昭和史事典』1986年、毎日新聞社（事典）

事典にマニラ会談という項目そのものはなかったが、河辺虎四郎という項目があり、そこでマニラ会談に言及されていた。掲載内容の抜粋を以下に記す。

河辺虎四郎：1890～1960年、軍人、陸軍中将。富山県生まれ。

1941年防衛総司令部総参謀長、航空本部総務部長。
1943年第二飛行師団長。第二航空軍司令官。
1944年航空本部次長。
1945年参謀次長。

終戦時、降伏条件打ち合わせのため、代表としてマニラに飛んだ。戦後、GHQ歴史課に勤務。著書に『河辺虎四郎回想録』。陸軍大将河辺正三は実兄。

(2)辻清明著『図説日本の歴史 18 戦後日本の再出発』1976年、集英社（概説書）

マニラ会談についての記述があり、会談をしている写真が掲載されていた。（同定できる人物：河辺虎四郎、岡崎勝男、サザーランド、ウィロビー）。マニラ会談についての記述は以下のとおり。ただし典拠はかならずしも明らかでない。

マニラ会談までの流れ

降伏条件遂行のための、諸請求を受諾する特使派遣の電報が8月16日に入る。 8月18日、当時参謀次長だった陸軍中将河辺虎四郎と外務省調査局長岡崎勝男らが、マッカーサーとの連絡のためマニラに派遣される。19、20日の両日の会談で、降伏・進駐の打ち合わせをし、降伏文書・天皇の詔書案などを受け取った。

出席者

日本側：河辺虎四郎、岡崎勝男、天野陸軍少将ら
連合国側：サザーランド参謀長、ウィロビー少将ら

決められたこと

連合国（アメリカ軍）の本土進駐
日本側の武装解除
8月26日アメリカ軍進駐開始
アメリカ軍は、23日に進駐したい旨の希望を述べたが、当時、国内では、徹底抗戦を叫ぶ将校もあり、特に厚木の海軍航空隊は頑強な態度を示していたため、延期された。

(3)朝日ジャーナル編『昭和史の瞬間　下』1974年、朝日新聞社（概説書）

この本にも、マニラ会談についての記述が掲載されていた。なお、この本は、複数の学者によって書かれた文章を集めたものであり、マニラ会談については、今井清一氏が書いている。記述内容は以下のとおり。こちらも典拠は明らかでない。

マニラまでの日本使節団の経路

19日の朝7時過ぎ、一行は、木更津の基地を飛び立った。抗戦継続を主張している厚木の海軍航空隊に攻撃されるのを防ぐため、木更津からはるか南方洋上をまわって伊江島へ。伊江島でアメリカの飛行機に乗り換え、マニラへ。会談は、19日の晩と翌朝の2回にわたって、マッカーサー司令部で開かれた。

会談の内容

連合国側の要求: 8月23日先遣隊厚木に進駐; 8月26日マッカーサー司令官と空輸部隊厚木に進駐; 8月28日東京湾内の米軍艦上で降伏文書の調印
それに対し、日本側は、不祥事件の起こらぬよう10日間の余裕を求める。: 先遣隊8月26日進駐; 以下順次繰り下げに決定

5-1-2 附属図書館での調査（市川裕子）：5月23日報告

マニラ会談に関する記述のあった文献のうち２冊を紹介する。の文献は附属図書館2Ｆ開架図書の歴史部門（新分類）に配架されている、占領下の日本を扱った図書を重点的に探した結果見つかったものである。

(1)袖井林二郎・福島鑄郎編『マッカーサー記録戦後日本の原点』1982年、日本放送出版協会（概説書、写真集）

マッカーサーの生涯を写真などの資料を用いてたどったもの。日本占領期に力を置いている。マニラ会談については60，61ページに5枚の写真が掲載されている。

写真に付いた説明文の要約

「緑十字の降伏使節」
マッカーサーは降伏条件履行のため、日本の代表団をマニラに呼び付けた。
1945年8月19日、陸軍参謀長河辺虎四郎中将を団長とする降伏使節団は「一式陸攻」二機に分乗し、沖縄の伊江島で米軍機に乗り換えてマニラに向かった。
代表団は空港で握手を拒否され、会議場では軍刀を外させられて敗北の現実を知る。
会談のアメリカ側代表はサザーランド参謀長。マッカーサーは顔も見せなかった。
降伏文書の調印と進駐の打ち合わせを済ませて代表団が去った翌20日、マッカーサ－は「連合国軍最高司令官の資格をもって、予は陸・海・空軍からなる部隊とともにまもなく日本に進駐するであろう」と声明した。

写真の内容

1枚目：伊江島に着いた緑十字の「一式陸攻」の写真。2機のうち1機の姿を横から写したもの。写真はこちら。

2枚目：会談の模様。大きなテーブルに日本降伏使節団とアメリカ側の代表が向かい合って座っている。日本側は9人が写真に写っており、前列に7人（中央に河辺中将、その左隣に横山海軍少将、さらにその左に2人の軍人、河辺中将の右隣に岡崎外務省調査局長、その右に天野陸軍少将と1人の軍人）後列に2人座っている。
アメリカ側が写真の手前になっていて、サザーランド参謀長の頭が右端に写っている。
写真はこちら。

3枚目：マニラの市庁舎（司令部）に着いた日本使節団を見る米兵達。兵士達のうちの数人はカメラを構えている。写真右上に２階のバルコニーに立っているマッカーサーが写っている。写真はこちら。（この写真は Photo #: SC 210517,Photograph from the Army Signal Corps Collection in the U.S. National Archives. アメリカ海軍省のNaval Historical CenterのOn Line Library から引用した）

4枚目：天皇の信任状をサザーランド参謀長に渡す河辺中将。中将の左には岡崎調査局長。写真はこちら。

5枚目：控室にあずけさせられた使節団の軍刀や拳銃を写したもの。帽子やかばんとともに刀が置かれている。写真はこちら。

(2)安田武・福島鋳郎編『ドキュメント昭和二十年八月十五日占領下の日本人』1984年、双柿舎（史料集）

原爆の投下、敗戦、占領軍進駐、戦犯と処刑、引揚げ、敗戦下の庶民生活などの項目に分けて、昭和20年代（主に前半）の雑誌に掲載された様々な人の作品を集めたもの。
マニラ会談に関しては、昭和22年１0月発行の『政界ジープ』(授業で発表したものは間違っていました。すみません。）に掲載された、岡崎勝男の「降伏軍使マニラの旅」がある。（52ページから58ページ。なおこの図書本文中でのタイトルは「マニラへの降伏軍使」と変えられている）。
全文はこちら。

5-1-3　附属図書館での調査（井波和夫）：5月30、6月6日報告

附属図書館の書庫の地下2階の旧分類のところで資料を検索した。その結果、歴史のコーナーと戦史のコーナーで一冊ずつ本を見つけた。

(1)江口朴郎他編『戦後日本史1』1961年、青木書店（概説書）

マニラ会談に関する部分を抜粋する。

マッカーサー厚木進入：日本がポツダム宣言の受諾を表明するや、8月の16日、アメリカ政府から日本政府にあてて、降伏後最初の通告がきた。それは、正式降伏受理のため使者を直ちに派遣せよという指令で、あわせて、降伏の受理と実施のためにダグラス・マッカーサー元帥が、連合国最高司令官に任命されたことを伝えたものであった。ついでマッカーサーから、政府と大本営にあてて、代表者を天候の許す限り8月17日に出発させマニラに派遣せよという意味の指示が届いた。日本では、15日に鈴木首相が辞表を提出し、17日に東久邇内閣が成立するというあわただしいときであった。

日本側は、参謀次長河辺虎四郎を全権とし、海軍少将横山一郎、外務省調査局長岡崎勝男（のち外相）、外務省書記官湯川盛夫を随員とする使節団を任命した。使節団は、8月19日になって、木更津海軍航空基地から出発した。マニラでは、19日と20日の2日間にわたって会談がおこなわれた。この会談は主としてアメリカ軍の日本進駐についての要求書と天皇の出す勅語案と降伏文書案を受理するためのものであった。この時アメリカ側は23日に厚木航空基地に進駐することを要求したが、日本側の懇請で進駐は26日に延期された。

この本では、随員の一員に湯川盛夫の名が登場する。

(2)服部卓四郎著『大東亜戦争全史』1965年、原書房、初版は1953年

著者の服部卓四郎は、1941年7月～42年12月と1943年8月～45年2月までの二期にわたって参謀本部の作戦課長を務めた人物。マニラに飛んだ天野正一少将の前任者にあたる。戦後は1946年12月～1952年12月まで、第一復員局（旧陸軍省）の史実調査部長および資料整理部長であり、GHQの歴史課にも勤務した。そのため、この書物を編むにあたって日米双方の軍関係の根本資料を利用することができた。この書物は、服部の個人的著作というよりは旧陸軍の非公式の公刊戦史とみるべきである。その点で、いままで紹介された一般の通史・概説とは性格を異にする。

河辺全権のマニラ派遣

日本軍の即時停戦を要求する指令と同時に、米国政府は「連合国最高司令官の指令する打合を為すべき充分の権限を与えられたる使者をすぐに同官の許に派遣する様」通告し来り、又連合国最高司令官は、「天皇、日本政府および日本大本営の名に於て降伏条件実施に必要なる諸要求を受理する権限を有する代表者をマニラに派遣すべき」を命じて来た。それらはいずれも16日午前政府及び大本営に寄せられた。

これが代表には参謀次長河辺虎四郎中将が任命せられ、外務省調査局長岡崎勝男、海軍少将横山一郎、陸軍少将天野正一等が随員に命ぜられた。8月18日全権委任状を受けた河辺中将の一行１６名は、翌19日朝千葉県木更津飛行場を出発し、沖縄の伊江島において、海軍機より米国機に乗り移り、同日夕刻マニラに到着した。一行の搭乗機を降伏を肯んぜざる日本軍の特攻機が、途中において攻撃するかも知れぬとの配慮がなされたが、それは全くの杞憂に終わった。

全権一行は直ちにサザーランド参謀長に引見せられた後、連合軍の最初に進駐すべき地域たる東京湾及び鹿屋両地区の軍事施設並びに全俘虜収容所の所在地等に関する情報の提出を求められると共に、主として連合軍の本土進駐日程についての若干の討議が行われ、翌20日進駐に伴う最高司令官の要求文書、降伏調印後交付すべき天皇の布告文、降伏文書及び連合国最高司令官陸海軍一般命令第一号を受領した。この降伏文書及び陸海軍命令第一号も降伏調印後一般に布告する如く要求されていた。

河辺全権の折衝－進駐三日延期

河辺全権の任務は、出発にあたり大命により「連合国最高指揮官に対し帝国陸海軍の配置に関する情報を提供し且帝国陸海軍に対する正式の要求を受領する目的を以て連合国最高指揮官の指定する地点に出張すべし」と定められていた。即ち河辺全権は、もとより敗者の勝者に対する単なる命令受領者に過ぎなかったのである。しかし河辺中将は連合側との会議において、我が方は一切の要求を誠実に実行する用意があるが、我が方の切望することは連合軍の進駐が些かの事故もなく順調に実施せられることである旨を述べ、これがために適当な準備期間を与えられたいと特に強調した、我が方が準備期間として要求した期間は、約十日間であった。

これに対し先方は、空輸部隊及び海軍部隊の進駐開始日時の原案8月25日を8月28日に変更し、先遣隊の厚木到着を8月26日と指定した。即ち3日間の延期に応じたのである。降伏調印の日次は8月31日と指定されていた。全権一行は前記文書を受領するや、8月20日マニラを出発し、21日帰京復命した。その搭乗機は、20日夜燃料が尽きて浜松附近海浜に不時着したが、一行は全員無事であった。一行の帰京により連合国最高司令官の意図が明らかになり、大本営及び政府はこれに即応する準備を鋭意進めることができた。

上記の記述を、いままで紹介された他の文献のそれと比べてみると、内容はより詳細であり、原史料に依拠してかかれていることがうかがえるので、事実関係の記述に関しては信頼できると判断できる。よってこの本の上記の記述をマニラ会談に関する説明の底本として、フィルムの検証に利用すべきであるとの結論に達した。

(3)防衛庁防衛研修所戦史部編『戦史叢書85　本土方面海軍作戦』1975年、朝雲新聞社

『戦史叢書』とは、防衛庁防衛研修所戦史部によって著された公式の戦史である。朝雲新聞社から出版され、附属図書館書庫の地下２階に置いてある。シリーズ中、「マニラ会談」について記述のあった本は２冊見つかった。

1冊目は『戦史叢書102 陸海軍年表』（1980年出版）。年表の1945年8月20日のところに「参謀次長河辺虎四郎中将、マニラで連合軍と停戦交渉（22日以降一切の戦闘行動停止）。」（319ページ）とある。この記述の横に85巻を参照せよというようなことが書かれていたので、2冊目は『戦史叢書85 本土方面海軍作戦』（1975年出版）を調べた。

その「第４章本土決戦態勢と本土方面作戦」、「第３章本土決戦期における海上作戦 1本土周辺海上作戦概要終戦」の部分に「８月２０日マニラにおいて停戦交渉が行われ、２２日以降は一切の戦闘行為は停止となり、昭和１６年１２月８日開戦以来３年８ヶ月に及んだ激戦は終わりを告げた。」（401ページ）とある。

「マニラ会談」についての記述はこれだけある。「マニラ会談」という言葉すら出てこない。『戦史叢書』は戦争中のことが中心に書かれていて、終戦後のことはついでに付け足したという印象である。なお、記述の際に使用された史料についての説明はなかった。

5-1-4文学部図書館での調査（田中泉吏）：6月6、20、27日報告

OPACで「マッカーサー」、「太平洋戦争」、「占領政策」、「敗戦」、「河辺虎四郎」、「岡崎勝男」、「天野正一」、「横山一郎」、「サザーランド」、「ウィロビー」、「伊江島」、｢マニラ（会談）｣をキーワードに検索（文学部限定）したところ、以下の2つが見つかった。（1）は現在調査中。（2）は本が見つからなかった。

（1）マッカーサーレポート / GHQ参謀第2部編集：現代史料出版　東出版(発売) 、1998.10

（2）太平洋戦爭後期 / 歴史学研究会編　東洋經濟新報社、1954.3

次に文学部図書室書庫の現代史専修のコーナーで調査したところ、次の2冊が見つかった。

（3）E.B.ポッター著、南郷洋一郎訳『提督ニミッツ』1979.5、フジ出版社（伝記）

ｉ）伊江島についての記述（p.518）

工兵たちは沖縄に十八ヶ所の飛行場をつくり、陸軍第七七師団が占領したばかりの伊江島にさらに四つ建設できると踏んでいた。これらの飛行場はヨーロッパから転送されてくる連合軍航空兵力のすべてを吸収でき、一部の飛行場はB－29を収容できるだけの大きさがあった。

ii）マニラ会談についての記述（p.537）

マッカーサーは、占領軍受け入れの指示を与える目的で、日本政府代表をマニラに呼び出した。席上、サザーランドとフォレスト・シャーマンが、それぞれマッカーサーとニミッツの代理を務めた。日本代表団の要請で、占領軍の日本進駐は八月二十八日まで延期された。日本軍の熱しやすい軍人の頭を冷やし、これ以上抵抗してもむだだと悟らせるためであった。

この記述から、岡崎勝男の手記に出てくる「シャーマン海軍大将」がアメリカ太平洋艦隊司令長官の代理としてマニラ会談に出席したフォレスト・シャーマン（Forrest P. Sherman、当時は海軍少将、のちに海軍大将となり、朝鮮戦争時の海軍作戦部長 Chief of Naval Operations　02 Nov. 1949-22 July 1951）であったことが判明した。マニラ会談には、アメリカ陸軍だけでなく海軍の代表も参加していたのであった。

（4）C･W・ニミッツ、E・B・ポッター著、実松譲、冨永謙吾訳『ニミッツの太平洋海戦史』1962.12、恒文社

i)伊江島についての記述（p.438、439）

この半島（本部半島…沖縄北部、田中註）の占領は、すぐそばの伊江島の攻撃にあたって、その支援砲撃上の高地を提供してくれることになった。第七七師団は飛行場を手に入れるために伊江島を攻略したのである。

伊江島攻略を完了した第七七歩兵師団は第九六師団の任務を引き受けることになった。

陸軍側でも、沖縄、慶良間（沖縄西部の列島、田中註）、伊江島にできるだけ迅速に対空砲弾の砲床を据えつけ、占領した飛行場からは間もなく海兵隊戦闘機群が行動をはじめることになった。

(5)マッカーサーレポート　第1巻　1998年　現代史料出版、東出版（公刊戦史）

『マッカーサーレポート』の補足報告（本文はこちら）

竹前栄治の「解説」には、この書物の性格と特徴について、次のように記されている。

第１巻の編纂がマッカーサー司令部参謀第３部（作戦担当）内において着手されたのは1943年であった。戦後、この編纂作業は連合国最高司令官兼米極東軍総司令部参謀第2部（諜報担当、部長・チャーチル・A・ウィロビー少将）の部員と休暇中のメリーランド大学教授W・プランゲ（戦史室主任）によって引き継がれ、1950年に完成した。マッカーサー元帥は帰国後の1953年、この資料を陸軍省に引き渡したが、編集上の手直しと若干の不正確な箇所の訂正を必要と考えていたので、そのままの形で刊行することには承認を与えなかった。しかし、マッカーサー元帥の死後、陸軍省はこの資料がそのままの形でも実質的、且永続的価値があり、アメリカ人がこの資料を政府刊行物として広く利用する権利があると信じたので、訂正なしのままで公刊することにした。ただし｢正確性を欠くところがあっても陸軍省は責任を負わない｣（第1巻｢はしがき｣）と付言した。このようにして、1966年、この2巻に｢前書き｣と｢索引｣を付して4分冊の形で復刻された。

第1巻第1分冊は、日本軍がルソン島を攻撃する1941年12月から、日本が降伏する1945年8月までのマッカーサー旗下の米軍の作戦・戦闘の記録である。この資料は実際に作戦を企画し、戦闘に参加した参謀たちによって叙述されているところに真実味がある。

また、竹前栄治の「解説」では、マッカーサーについて次のような記述がある。

ダグラス・マッカーサーは、1880年1月26日、米アーカンソー州リトルロックに生まれた。父アーサーは、1898年、米西戦争で第１師団第2旅団長としてフィリピンに赴任し、1900年、フィリピン派遣軍司令官兼軍事総督に任命される。ダクラスは、1899年6月、ウェストポイント陸軍士官学校に入学し、4年間首席、1903年6月、優等（平均点98．14）で卒業。直ちに第３工兵大隊少尉に任官。1903年10月、太平洋軍管区司令官であった父アーサーの任地サンフランシスコで夏を過ごした後、フィリピンのビサヤ軍管区技術部長ジャクソン大尉の助手となる。1904年3月、マ＝ラ軍管区に勤務し、マニラ湾の改築、コレヒドール要塞の構築、バターン半島の道路建設の指導にあたる。同年9月、マラリアでマニラ勤務を免ぜられ、サンフランシスコ港の防衛の任務に就く。

他方、父アーサーは1905年、日露戦争観戦武官、駐日アメリカ大使館付武官となる。同年10月、父アーサーの副官に任命され、父母とともに極東情勢視察旅行に出掛げ、翌年6月、日本に帰る。ここで乃木、大山、黒木将軍と知己になる。父アーサーは同年8月、アメリカに帰国し、太平洋軍管区司令官に復帰、12月、セオドア・ルーズベルト太統領付武官となる。ダグラスは1907年8月、ミルウォーキー地区司令官の助手として着任、1911年2月、大尉に昇進し、野戦工兵学校軍事技術主任となる。1912年、パナマ運河の恒久防衛工事計画の指導にあたる。同年9月、父アーサー死去。

1913年9月、参謀本部付となる。1915年12月、少佐に昇進。1916年6月、陸軍長官付軍事補佐官として陸軍省広報部に勤務。1917年8月、第１次世界大戦に参戦するため欧州派遣軍（25州の州兵で構成する第42師団）参謀長（大佐）に任命され、翌18年2月のフランス戦線で時々たる武勲をあげ、フランス政府より戦功賞を授与される。同年6月、准将に昇進。8月、第84歩兵旅団長となる。さらに、11月、第42師団長に任命される。1919年6月、ウェストポイント陸軍士官学校校長に就任。1922年6月、マニラ軍管区司令宮に任命。翌1923年9月の関東大震災に際し、マニラより救援物資1万6000トンを送る指揮をとる。1925年1月、米陸軍史上最年少で少将に昇進。1928年7月、第9回オリンピック大会（アムステルダム）派遣のアメリカ選手団団長を務める。1930年8月フーバー大統領により陸軍参謀総長に任命され、10月、マニラから帰任。11月、大将待遇で参謀総長に就任。

1932年5月、第1次世界大戦の退役軍人による軍務補償債券（ボーナス）の即時支払いを要求するワシントンヘのデモ行進（「ボーナス・マーチ」）に対し、7月28日、陸軍参謀総長として軍隊を指揮し催涙ガスでデモ隊を鎮圧する。1935年10月1日、参謀総長のままフィリピン国民軍創設のため軍事顧間としてマニラに赴任。同月2日、参謀総長を解任ざれ少将に降格。1937年8月、フィリピン連邦議会が軍事顧問マッカーサーに元帥の称号を与え、ケソン大統領から黄金の指揮棒を授与。同年12月、本国召還を避げ、軍事顧間としてフィリピンに留まるため、陸軍を退役。

1941年7月、少将として現役に復帰、翌日、中将（待遇）に昇進。12月、ケソン大統領にバターン半島への戦略的後退について作戦会議開催を要請。大将（待遇）に昇進。マニラを非武装都市と宣言し、司令部をコレヒドールに移転。1942年3月、ルーズベルト大統領の厳命によりＰＴボートで家族、側近とともにコレヒドールを脱出し、ミンダナオ島デルモンテ飛行場からＢ-17機でオーストラリアに向かう。3月21日、鉄道でアリススプリング、アデレードを経てメルボルンに到着。20日、アデレード駅で待ち受けていた新聞記者たちに有名な「I shall return」を言明。米・蘭・豪の連合軍としての南西太平洋軍総司令官に就任。1944年7月、ルーズべルト大統領、ニミッツ提督、マッカーサー大将がホノルルで会談し、ニミッツとマッカーサーの共同作戦でレイテを攻略した後、マッカーサーはルソン、ニミッツは硫黄島、沖縄に進撃する作戦を決定。同年12月、アメリカで新しく制定された元帥の位に昇進。1945年4月、米太平洋陸軍総司令官に任命される。同年8月大平洋陸軍総司令部設置。

1945年8月15日、日本降伏。南西太平洋軍解体。同年9月、東京湾米戦艦ミズーリ号上において降伏文書調印式。以降、ポツダム宣言の履行に伴う数々の日本「非軍事化」・「民主化」政策を実施。とくに農地改革は占領政策のなかでももっとも成功した例として日本の農民から感謝される。1949年6月30日で軍政機構が廃止され、7月1日より民政機構に移行。1950年1月１日から「民政」は第8軍の管轄からはずされ、直接、GHQ民事局（CAS）の管轄となった。1950年6月、朝鮮戦争勃発、同年7月、トルーマン大統領により国連軍最高司令官に任命。同年12月、米統合参謀本部により琉球列島米民政府長官に任命。

1951年4月、米統合参謀本部マッカーサー元帥の解任決定、トルーマン大統領解任書に署名、後任にマシュー・リッジウェイ中将を任命。ここにおいてマッカーサー元帥は、連合国最高司令官、国連軍最高司令官、米極東軍総司令官、琉球列島米民政府長官の職を解かれ、元帥の身分のまま退任。4月15日、天皇から最後の訪問を受け、翌16日、羽田飛行場から専用機バターン号で帰国。沿道に見送りに出た都民は20万人。衆・参両院は感謝決議を可決。4月19日、米上下両院合同会議で「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」の演説。4月20日、ニューヨークの帰国歓迎パレードに750万の人出、市はこの日を「マッカーサー・デー」と決定する。5月3日、米上院軍事合同外交委員会による「極東情勢およびマッカーサーの解任を審議する秘密聴聞会」で証人となる。

1960年6月、日米修好100年を記念して、日本政府より勲一等旭日桐花大綬章を授与。1963年9月、『マッカーサー回想記』脱稿。1964年1月、バージニア州ノーフォークに「マッカーサー記念館」開館。4月5日、ウォルターリード陸軍病院で死去。享年84歳（主な出典袖井林二郎・福島鑄郎編著『マッカーサー：戦後日本の原点』日本放送出版協会、1982年）。

竹前栄治の「解説」では、本書の価値について次のように指摘されている。

本資料の価値には、第1に、作戦の企画、戦争がいかに進められ、いかなる失敗や誤りがあったのか、教訓は何か、戦闘の終結・講和のタイミングなどの戦史的価値、第2に、占領の軍事的側面、本土侵攻作戦の「ダウンフオール」作戦（「オリンピック」および「コロネット」）と本土進駐計画の「ブラックリスト」計画、占領軍の構成、占領諜報などの「占領」の実態解明に不可欠な資料的価値、第3に、自分たちの親族や友人がどのような戦間で戦死したのかを知る手掛かりを提供するという情報的価値などがあると思われる。

ともあれ、戦争中はアメリカの敵国であった日本が、戦後、日米安保条約を通して戦略的同盟国となり、戦後アジアにおけるスタビライザー（安定要素）としての日・米・中の3極の一端を担うようになった。21世紀には、この3 局にさらに露・印の２国が加わって、5極となり、平和維持の機能を担うことになるであろう。今、21世紀の平和を考えるとき、「核時代」という新しい視角から、第2次世界大戦を再検討する必要があるように思われる。本資料がいささかでも、その目的に資するところがあれば幸いである。

5-1-5文学部図書館での調査結果（山口匠）：6月6日報告

(1) 芦田均著『第2次世界大戦外交史』時事通信社、1959年（研究書）

著者の芦田均は、外交官出身の外交史家、政治家。戦後、幣原内閣の厚生大臣、片山内閣の外務大臣兼終戦連絡中央事務局総裁、芦田内閣を組閣。芦田自身はマニラ会談には直接関係していないが、外務大臣・総理大臣として占領軍との交渉にあたった経験を有する。P.684にマニラ会談にいたる経緯について記載がある。要約すると、

ポツダム宣言受諾後、米国務省は、ただちに日本政府に対して、戦闘の即時停止、軍の配置状況の報告ならびに降伏式打ちあわせのための使節派遣を要求、マッカーサーを連合国最高司令官に任命したことを通告した。マッカーサーも、上の使節をマニラに派遣するよう通告。

8月19日、河辺中将が全権委員となり、外務省調査局長岡崎勝男（後の外務大臣）らとともにマニラへ出発。21日に、詔書案文並びに降伏文書と一般命令第1号を持ち帰る。

P.688に9月2日に発出された詔書の全文が掲載されている。内容はポツダム宣言の受諾、帝国政府及び大本営に連合国最高司令官の指示に従って陸海軍に対する一般命令を発することを命じたものである。詔書の全文はこちら。

P.690に一般命令第1号の説明あり。これはトルーマン大統領が1945年8月14日にマッカーサーにあてて交付したものであり、マッカーサーから日本帝国政府および大本営に対して、全日本陸海軍に発令するよう指示された。内容は各地の日本軍が誰に投降すべきかについての指示であり、日本国軍隊の無条件降伏と完全武装解除、兵器、弾薬、戦争用具の製造・分配終止などを命じている。
全文はこちら。

5-1-6 文学部図書館での調査結果（田中哲也）

調査方法

1.マニラ会談出席者の名前をOPACで検索（文学部のみ）。田中泉吏君による検索済みの人物名は除く。

「湯川盛夫」｢山本新｣「松田正雄」「高倉盛雄」「南清志」「大竹貞雄」「竹中春海」「大前敏一」「吉田英三」「寺井義守」「杉田主馬」「溝田主一」全て見つからず。

2.書庫の現代史コーナーにて直接調査したところ、マニラ会談に関連すると思われる次の3冊が見つかった。

1．ハリー・Ｓ・トルーマン著『トルーマン回顧録１』恒文社、1966年

この本は、マニラ会談当時アメリカ大統領であったトルーマンによる回顧録であり、「マニラ会談」という単語は見られないが、それらしき記述がある。該当部分を史料集に収録した。本文はこちら。

2.大村立三著『日本の外交家３００人の人脈』読売新聞社、1974年　

これは明治時代から昭和後期までの日本の代表的な外交家の活躍を、それぞれについて述べたものである。この中に「湯川盛夫」の項がありマニラ会談についても触れられている。

昭和二十年八月十五日、ポツダム宣言受け入れのための作業を終えた鈴木貫太郎内閣は総辞職した。同十七日には東久邇宮稔彦を首班とする“皇族内閣”が発足した。この内閣には五年前の日独伊三国同盟の当事者で、その後東条と合わず、しばらく政治の表面から消えていた近衛文麿が無任所相、それに東条改造内閣の外相、重光葵が再び外相として入閣した。これより先、アメリカ政府は日本軍の降伏に必要な諸要求を受諾する権限を持つ“特使”のマニラ派遣を求めていた。だからこの特使の送り出しが新内閣の外交上の初仕事であった。

こうして同月十九日には、参謀次長・河辺虎四郎中将を全権とする使節団一行十四人がマニラに向かった。これには外務省から岡崎勝男（のち三、四、五次吉田内閣外相）と湯川盛夫（現(当時)式部官長）が加わった。剣道五段の湯川が語るところによれば“敵地に乗り込むのでさすがに緊張した。文官の私でさえも、もしはずかしめを受けたらすぐにハラを切れるよう短刀を用意した”という。だがそうしたこともなく一行は無事使命を終え二日後に帰国した。これをうけて重光外相、松本俊一次官は、占領軍の受け入れ機関として外務省の外局に終戦連絡中央事務局（初代長官は岡崎調査局長）などを設置した。（190、191ページ）

他に｢岡崎勝男｣の項もあるが、マニラ会談に関する記述はほとんど無し。

3.『写真ドキュメント空白の昭和史 14　日本降伏の様子』エムティ出版、1999年

この本は、授業で使用しているアメリカ軍撮影の記録フィルムを写真に起こし、1枚ごとに解説を加えたものである。マニラ会談に関する写真は18ページ47枚が掲載されており、この章のタイトルは「緑十字機、平和への飛行」となっている。

伊江島の降伏連絡使節（1945年8月19日撮影）9枚
降伏連絡使節、マニラ到着（1945年8月19日撮影）24枚
無条件降伏（1945年8月19日～20日撮影）13枚

なお、授業で見たフィルムは｢伊江島の降伏連絡使節｣と｢降伏連絡使節、マニラ到着｣の部分である。

5-1-7総合人間学部図書館での調査結果（丸岡加奈子）

OPACで「伊江島・マニラ会談」等のキーワードで検索してみた所それと思しき文献が総合人間学部の図書には見当たらなかったため、開架室で戦争および国際条約についてふれた図書に目を通していった結果、『占領史録　第一巻「降伏文書調印経緯」』と『日本の戦争・図録とデータ』を見つけた。

(1)江藤淳編著『占領史録第一巻「降伏文書調印経緯」』（講談社）

(2)桑田悦，前原透著『日本の戦争･図解とデータ』（原書房）

なお、『占領史録』は昭和五十一年五月以来外務省が数次にわたって公開してきた占領期の文書のなかで重要と思われるものに解説と注を加えて刊行した文献である。

上記二つの文献からマニラ会談について以下のことがわかった。

目的：日本占領の際に必要な情報の提供をすることと降伏調印の為の進駐に必要な打ち合わせを行うため

会議の内容：日本側からの要求としてアメリカ軍の進駐の開始日程の繰り下げが認められたが　それ以外はアメリカ軍の要求事項を述べた書類を日本側は持ち帰るのみ，といったものであった。

1.アメリカ軍からの要求事項

【1】アメリカ軍の進駐行動予定

8月26日先遣隊の厚木到着，海軍部隊の東京湾進入。
8月28日最高司令官の厚木到着，海軍部隊の横須賀上陸。
8月31日降伏調印。
9月1日先遣隊鹿屋到着。
マニラ使節は帰国後，直ちに厚木，鹿屋進駐に関する要求事項を上奏し，かつ降伏文書，天皇布告文，一般命令第一号を奉呈する。

【2】「第一次撤退地域」に到着する先遣隊の安全保障，宿舎，情報，通訳，警護，輸送などの便宜供与。厚木飛行場地域における日本軍戦闘部隊の撤退，飛行場の維持。

【3】8月24日を期し，軍，民間を問わず一切の航空機，艦船の行動を停止させ，確実に保存，維持する。連合国側の捕虜，被抑留者の保護。25日を期して，東京湾進入の連合軍に対する安全保障を講ずる。27日横須賀湾の占領，これに伴う港の準備，安全措置，占領軍への便宜供与など。

【4】鹿屋進駐に関する準備事項。

上記要求文書の原文はこちら。

2.日本側使節団の構成

　　　/tr>

全権代表	陸軍中将	河辺虎四郎	参謀次長
主席随員	海軍少将	横山一郎	軍令部出仕
随員
外務省	調査局長	岡崎勝男
	外務書記官	湯川盛夫	政務局第ニ課長
陸軍	陸軍少将	天野正一	参謀本部第一部作戦課長
	陸軍大佐	山本　新	参謀本部第二部欧米課長
	陸軍中佐	松田正雄	参謀本部第一部作戦課員
	〃	高倉盛雄	軍務局課員
	〃	南　清志	軍務局課員
	陸軍少尉	大竹貞雄	通訳
	〃	竹中春海	通訳
海軍	海軍大佐	大前敏一	軍令部第一部第一課長
	〃	吉田英三	軍務局第三課長
	海軍中佐	寺井義守	軍令部第一部第一課員
	海軍書記官	杉田主馬	官房
	海軍嘱託	溝田主一	通訳
	海軍少尉	藤原	伊江島に残留

3.到着した日本の軍用機について

機種：一式陸攻（海軍一式陸上攻撃機）
所属：海軍
出発地：木更津
経路：　午前６時頃：羽田飛行場
　　　　　　　　　　　↓（海軍の準備したDC３型輸送機にて）
　　　　　　　　　　木更津基地
　　　　　　　　　　　↓（一式陸攻２機に分乗、沖縄本島の北方からは十数機の誘導機により誘導）
　　　　午後１時半：伊江島　　　　　　　
十字マークの理由：安導権（Safety　Conduct）を示す緑十字のマークをつけ機体を白く塗るように，との米軍の指示によるもの

5-1-8総合人間学部図書館での調査結果（中塚千恵）

1.OPACで「マニラ会談」を検索した。　　　結果は「なし」

2.図書館内の歴史、日本史分野の書棚を探索したら、以下の文献がみつかった。

『一億人の昭和史４（9月号）空襲,敗戦,引揚』（雑誌） 1975,9月1日発行、毎日新聞社（概説）

これに原文保「キュメント玉音放送から一週間」が収録されていた。以下にその内容を紹介する。

特使河辺の動き

8月18日午後岡崎勝男、湯川盛夫（外務省書記官）横山一郎少将と会合。その後、東久邇宮を訪ね天皇の信任状を渡される。
夕刻外務省の2人をのぞく一行は参謀本部に集合。正式に命令を受ける。

8月19日午前5時45分特使一行16人は羽田空港到着。午前6時ダグラスDC3型機に乗り込み、10分後、木更津の海軍第三航空艦隊基地に到着。朝食後、海軍の陸攻機二機に分乗し、午前7時15分離陸。
午後1時30分米軍機の誘導を受け、伊江島着陸。ダグラスDC4型に乗り換え、午後5時45分ニコラス空港に到着。（東京時間）。ウｲロビーの出迎えを受ける。夕刻会議のための書類が日英両文で届けられる。それによれば、占領軍の計画は以下のようであった。

プログラム；8月23日、先発部隊厚木到着、26日マッカーサー厚木に到着、28日東京湾内米国軍艦船上で正式降伏調印）

午後9時30分最初の会合：米７人、日本側は外交官2人をのぞく14人。河辺は進駐の延期を求める。第2回目の会同でサザランドの妥協案がだされる。河辺、さらに再考を求めるが、つっぱねられる。

8月20日午前10時30分第3回会同（予定より1時間遅れる。外交官の2人も参加。）午後6時特使一行伊江島到着

3.上記の記事に付記されていた参考文献をOPACで検索したがみつからなかった。検索文献のリストは以下のとおり。

河辺虎四郎『市ケ谷台から市ケ谷台へ』
下村海南『終戦秘史』
相良俊輔『夏の雲』
深井英五『枢密院重要議事覚書』
東久邇稔彦『私の記録』
細川護貞『情報天皇に達せず』」

5.記事中の人名で検索したが、結果は該当する文献なし。

6.総合人間学部図書室にある事典類について、マニラ会談で検索してみたが該当する項目はなかった。河辺虎四郎でしらべたら、『昭和ニュース事典8』（1994年、毎日コミュニケーションズ）に、昭和20年8月22日付の『朝日新聞』に「連合側と日本全権、進駐問題で会談」との見出しで報道記事が掲載されていたことがわかった。

5-1-9総合人間学部図書館の資料から（渡辺祥子）

主に終戦時の日本側の外交文書を扱った文献を調べました。それらに収録の資料自体は丸岡さんの報告（『占領史録』講談社）にあるものと、ほとんど重なっていますが、以下の3つはいずれも外務省が編纂した公刊史録および史料集、もしくは執筆に外交官が加わっているという特色ある文献です。

(1)鈴木九萬監修『日本外交史』26巻（全34巻）鹿島平和研究所、1973年

明治から戦後に至る日本外交の記録。監修者鈴木九萬は1945年8月30日マニラから進駐してきたマッカーサーを横浜に迎え、その後第八軍司令官アイケルバーガー中将などと連絡折衝を行った外交官。大正から戦後にかけての期間をおさめた後編(14～32巻)は佐藤尚武元外相を最高顧問とし、堀内謙介元駐米大使を委員長とする編集委員会のもとで、百余名の元公使など外務職員の協力を得てつくられた。

　戦後史を扱う部分の趣旨は明らかだ。「終戦直後、わが外交権がいかにして停止されたか、また国際情勢の関係で、講和条約成立前にも部分的ながら外交権がいかにして回復したかを叙し、政治・社会・経済等の諸問題に関する管理政策そのものについては、一々詳細の記述は避け、その実施に際し、わが方がどこまで発言権を持ち得たかの点を、またそれが講和後のわが外交と国家再建にいかに影響したかを、主として叙述しようと試みたものである」（鈴木による「序言」、1948年）。

マニラ会談についての記述(第二章第一節。執筆は鈴木)は簡潔に片付けられているが、この章に引かれた唯一の資料がポツダム宣言受諾時に日本政府が出した四か条の希望通達（日本本土占領を最小限にとどめること、武装解除は｢天皇陛下の御命に基づき、帝国軍自らこれを実施｣すること、負傷兵輸送の援助要求、などの内容）であることに鈴木の意図(日本外交の積極的な評価)が現れている。

(2)外務省編纂『第二次世界大戦終戦史録』下巻（上・中・下）山手書房新社、1990年（原著の刊行は19年）

昭和26年外務省大臣官房文書課において作られた省内資料『終戦の経緯とその資料』およびその改訂版『終戦史録』を底本としている。各編本文(史実)とその関連資料とに分かれ、資料には手記、回想録の類も多い。

　マニラ会談前後の記述そのものは、昭和20年9月4～6日の第八十八臨時会議に際し、政府によって作成された冊子｢大東亜戦争終戦に関する資料｣からの転記。手記等はない。マッカーサーの大本営宛電報、書簡等を多く収める。下記＜ポツダム宣言受諾からマニラ会談まで＞はそれをもとに渡辺がつくったもの。

(3)外務省編『日本占領重要文書』全六巻、日本図書センター、1989年

『日本占領及び管理重要文書』（外務省特別資料部、1949）を復刻したもの。占領の開始から1951年初頭までの、政治・軍事・文化・経済等に関する広範囲にわたる占領関係の重要文書の原文が、事項別・日付順に分類して収録されている。書式は見開きで左側に英語の原文、右側にそれを訳した日本側の外交文書というかたちを取っている。英語の文書に関しては（すべて草稿ではなく日本側に提出された完成形で）マッカーサーレポートなどの米軍側の資料集の密度とは比べられないが、おのおのの文書が当時どのように訳されていたかが旧字体、カナ書きのまま読める。

＜ポツダム宣言受諾からマニラ会談まで＞

８・１４: 「ポツダム宣言受諾に関する詔書」; スイス政府を通じ連合国政府に通告
８・１５　: 枢密院における東郷外相の説明; 玉音放送; 鈴木内閣総辞職
８・１６　
※電報「停戦実施に関する米政府通告分」（15日ベルン発、東郷外相宛）: 停戦命令の発出; フィリピンへの使者派遣要求; マッカーサーの連合国軍最高司令官任命　
※マッカーサーからの無電連絡（15日付、日本天皇・日本政府・日本大本営宛）: (1)戦闘の即時停止を命ず; (2)マニラへの代表団派遣を命ず; 「連合国軍最高司令官は更に日本政府に対し、「フィリピン」「マニラ」市にある連合国軍最高指揮官司令部に日本国天皇、日本国政府、日本国大本営の名において降伏条件を遂行するため必要なる諸要求を受領するの権限を有する代表団を派遣することを命ず。」; 代表は到着とともに天皇の委任状を提示; 「日本国陸軍、日本国海軍及び日本国空軍（←「東京区の飛行場施設を十分熟知」）を夫々代表する権限ある顧問を帯同する」「右一行は日本飛行機により伊江島の飛行場に至り同地より米国の飛行機により「フィリピン」「マニラ」に輸送せらるるものとす。; 右一行の日本への帰還も同様の方法によるものとす。; 一行は武装なき飛行機を使用し方は零二二型、Ｌ二型及D三型とす。; 右飛行機全体は白色に塗られ、飛行機の胴体両側並びに各翼の上下部に五百｢ヤード｣より容易に認識せられる緑色の十字（複数）を付すものとす。」; 8月17日東京時間８時より１１時のあいだに出発; 米陸軍の誘導機　
※「マッカーサー元帥に対する八月十六日付け帝国政府及び大本営通知」　　: 16時即時停戦の大命; マニラ使節―17日は「我方代表者の飛行方を取計らうことは」不可能
８・１７
※マッカーサー発大本営宛電報　: 降伏条項に署名はマニラ代表団の任務ではない
８・１８　: マニラ代表団に天皇より全権委任状下される
※ 大本営発連合国軍最高司令部宛電報: 19日7時木更津飛行場発、11時佐多岬上空通過、13時20分伊江島着
８・１９　: 7：18木更津発; 17：54マニラ到着; 夜―連合国軍の本土進駐（23日→26日）、日本武装解除について会談
８・２０: 午前中会談　
※受領文書: (1)天皇詔書; (2)降伏伏文書; (3)「陸海軍一般命令第１号」　; 13:03マニラ発

5-1-10経済学部、法学部図書館での調査結果（山田律子）

経済学部

書庫には入ることができなかったので、開架図書の歴史関係のところを調査した。その結果、1冊、マニラ会談についての記述のある本があった。

荒敬著『日本占領史研究序説』柏書房 1994年（研究書）

マニラ会談で、日本側が終戦連絡事務局の設置を要求されたことが記されている。以下にその要約を示す。

8月19日、参謀次長河辺虎四郎中将を主席とする軍事使節団が、進駐に関する連合国の命令を受領するためマニラに派遣され、命令書3通（降伏詔書案、降伏文書、一般命令第一号）・要求書1通を受け取った際、占領にあたっては占領軍と日本政府との間に連絡機関を設置せよとの要求も受けた。この要求は要求事項第3号の別紙甲第7項に記されている。

21日、河辺使節団が帰国し、進駐の日程と場所が明らかになると、政府は、翌22日最高戦争指導会議を廃止し、代わって｢終戦処理会議｣と、その下部機構としての｢終戦事務連絡委員会｣の設置を決定した。

終戦処理会議は、7人(東久邇宮首相、下村陸相、米内海相、重光外相、梅津参謀総長、豊田軍令部総長、近衛国務相)で構成され、降伏後日本政府の政策に責任を持った。また、終戦事務連絡委員会は、各省庁の次官・局長で構成され、その中心的な役割は、終戦処理会議が決定した政策実施に際しての国内事務の処理と各省間の連絡にあった。この2つの機関は、日本側独自の政策を決定し実施することに責任を持っていた。

また、マニラで受領した要求書には、占領軍と日本政府との連絡にあたるべき中央機関を8月31日までに設置するという要求があったため、政府は、この機関の設置にとりかかることになった。しかし、閣内では、連絡機関を内閣直属とするか、外務大臣の監督下において外務省の一機構とするかで意見の対立が生じた。この問題は、結局、重光葵外相の主張が容れられ、1名の長官(勅任)の元に、内務、大蔵、商工など各省からの要員を正規のポストに配置することで一応の決着を見た。

8月24日、定例閣議で外務省外局としての｢中央事務局｣と地方機関を設置するとの終戦連絡事務局制が決定された。26日、終戦連絡中央事務局(長官：岡崎勝男)が設置され(勅令第496号)、同事務局は、占領軍当局(後の連合国最高司令部)と直接折衝する唯一の機関とされた。

この本では、マニラ会談関係の記述に以下の参考文献が利用されている。
・『横浜市史Ⅱ 資料編1 連合軍の横浜占領』横浜市 1989年
・『日本外交史26』鈴木九萬監修鹿島研究所出版会 1973年
・『占領軍調達史ー調達の基調』調達庁 1956年
・『朝日新聞』1945年8月25日、26日、27日

終戦連絡事務局について

終戦連絡事務局に関する『朝日新聞』の記事を掲げる。

｢朝日新聞｣1945年8月25日
・政府は、連合国側との戦争終結に関する折衝を行う機関として、｢終戦連絡事務局｣を設置することとし、24日の定例閣議でこの機関を官制とすることを決定した。
・｢終戦連絡事務局｣は連合国側の要求する｢中央事務局｣に該当するもので、外務省主管のもとに戦争終結に関する各事項に関して折衝し、連合国側と帝国政府とを連絡する機能をもつものである。
・｢終戦連絡事務局｣は、東京に中央機関1つと地方に地方機関3つを設けることが決定した。

｢朝日新聞｣1945年8月26日
・終戦連絡中央事務局は、連合国軍最高司令部と直接折衝に当たる唯一の政府機関であった。
・終戦連絡中央事務局の機構は4部15課からなり、外務省その他関係各省および民間経験者で組織された。その編成は次のとおりである。
　　　　第1部第1課：総務第２課：連絡、通訳第３課：翻訳第４課：庶務
　　　　第2部第１課：軍事第２課：政治第３課：警備、内政第４課：文化、教育
　　　　第3部第１課：産業第２課：通貨賠償第３課：経理調弁第４課：運輸、通信
　　　　第4部第１課：在外邦人に関する事務第２課：在外権益第３課：在本邦外国人
・なお、３局地方分局が設置されることになっていたが、さしあたりは鹿児島市近辺１箇所のみに限られることとなった。

[朝日新聞]1945年8月27日
終戦連絡中央事務局の長官に、外務省調査局長である岡崎勝男が任命された。

法学部

こちらも書庫には入ることができなかったので、開架図書の、政治・歴史関係のところを調査した。しかし、マニラ会談についての記載のある本はなかった。

5-1-11国立国会図書館のOPAC及びNACSIS-WebCatでの検索結果（谷岡信宏）

インターネットを通じて利用できる文献情報検索システムで、国立国会図書館の所蔵図書と全国の大学の所蔵図書を調査した。結果は以下のとおり。

1.マニラ会談関係者の回想録・記録・著書がないかを調べるため、著者名で検索をおこなった。

【日本側】
所属	入力データ	結果
外務省	岡崎勝男	著書『戦後二十年の遍歴』中公文庫、1999、6 これは、私家版で出された岡崎勝男の回想録が後になって公刊されたもの。マニラ会談について詳細な記録があるが、内容は「マニラへの降伏軍使」（政界ジープ」所収）とほぼ同一。
外務省	湯川盛夫	見つからず
陸軍	河辺虎四郎	著書『市ヶ谷から市ヶ谷台へ』時事通信社、1962
	河辺虎四郎	著書『河辺虎四郎回想録』毎日新聞社、1979、7
	天野正一	見つからず
	山本新	見つからず
	南清志	見つからず
	竹中春海	見つからず
	松田正雄	見つからず
	高倉盛雄	見つからず
	大竹貞雄	著書『国際紛争の展望冷戦はいずこへ』民主日本協会、1954
海軍	横山一郎	著書『海へ帰る横山一郎回想録』原書房、1980、3
	横山一郎	著書『大海のごとくわが生涯の回想録』日本クリスチャン・ペンクラブ出版部、1984
	大前敏一	戦史関連の訳書有るも、記録は見つからず
	吉田英三	見つからず
	寺井義守	空母、Uボート、神風特攻隊の訳書あり
	杉田主馬	見つからず
	溝田圭一	見つからず

【アメリカ側　訳書にかぎる】
入力データ	結果
ウイロビー	延禎監訳『知られざる日本占領　ウイロビー回想録』番町書房、1973年
ウイロビー	大井篤訳『マッカーサー戦記』時事通信社、1956年、朝日ソノラマ新戦史シリーズ3、4、1988年
マッカーサー	津島一夫訳『マッカーサー回想録』朝日新聞社、1964年
サザーランド	無し

2.伊江島での沖縄戦に関する文献

伊江島教育委員会編『伊江島での戦中・戦後体験記録』伊江島教育委員会、1999年
山田有昂『私の戦記　伊江島での戦闘　屋嘉捕虜収容所』山田有昂、1997年
思想の科学研究会編『日本占領　共同研究』徳間書店、1972年（「占領と沖縄伊江島の島ぐるみの闘い」）

「沖縄戦」での検索は、資料数が膨大なため、省略。

3.「マニラ会談」をキー・ワードで検索したが、該当資料はなかった。

4.「終戦」「外交」その他のキーワードで検索、マニラ会談に関する記述があると思われるもの

河原匡喜『マッカーサーが来た日　8月15日からの20日間』新人物往来社、1995年
五百旗部真、北岡伸一編『開戦と終戦　太平洋戦争の国際関係』星雲社、1998年
外務省編『終戦史録』新聞月鑑社、1952年

河原匡喜『マッカーサーが来た日　8月15日からの20日間』新人物往来社、1995年（研究書）

三部構成のうち第一部が「マニラへ飛ぶ」であり、マニラ会談について詳しい記述がある。しかし、主に河辺回想録や、横山回想録をもとにかかれており、とくに報告すべき事は、あまりない。マニラ会談時の写真が、収められていること、防衛庁戦史室保存文書「連合国との折衝関係事項」の一部が引用されていること、大竹貞雄陸軍少尉が後に共同通信ニューヨーク支局長、リーダーズ・ダイジェスト編集長になったこと、伊江島からの復路で不時着後に浜松の飛行場から乗ったのが、陸軍四式重爆撃機「飛竜」であったことぐらいが新しい事実といえる。
第二部には、降伏に反対し抗戦を訴えた、厚木航空隊が連合国を受け入れるまでを記述している。この航空隊は、試験飛行中の、白塗り緑十字の一式陸攻に発砲し機体を穴だらけにした。

5-2横山一郎について（田中智洋）

略歴

高知生（1900.3.1-)、1945.5.1海軍少将、1940.11.15海軍大佐、海大28期優等卒業
1939.12.12第二遣支艦隊首席参謀
1940.10.9駐米大使館付海軍武官
1942.8.26帰国
1942.11.14球磨艦長
1943.10. 5海軍省高級副官
1945.5.20軍令部出仕
1945.8.14兼海軍省出仕
1945.8.18在マニラ連合国最高司令官の下に派遣せらるる全権委員随員を命ぜられる。
1945.8.31連合国最高司令官に対し派遣する全権委員随員を命ぜられる。
1945.11.30予備役、充員召集
1945.12.1第二復員官（高等官二等）第二復員大臣官房連絡部長
1950.8.16GHQ命令により退職
以上は「海へ帰る」、「日本陸海軍総合事典」、「陸海軍将官人事総覧」によった。

参考文献について

OPACで調べた結果本人の回顧録『海へ帰る』が附属図書館にあった。その他経歴などについて『日本陸海軍総合辞典』、『陸海軍将官人事総覧』に記載がある。横山一郎関連の事項が載っていそうなものとして『日本陸海軍人名辞典』、『海軍参謀』、『帝国陸海軍辞典』、『日本陸海軍辞典』が検索でみつかっているがまだ調べていない。その他の附属図書館一階人名辞典には記載が無い模様。三国軍事同盟、日米交渉、野村吉三郎などの関連で記載があるかもしれない（個人で持っている阿川弘之著『井上成美』新潮社に叙述があった。回顧録からの引用も多い）。

横山一郎著『海軍少将横山一郎回顧録/海へ帰る』原書房、1980年（回想録）

作者の生まれ育った環境から海軍教育、アメリカ駐在、海軍次官、マニラ会談・降伏調印式時体験など述べてある。特にアメリカ駐在武官時の日米交渉、マニラ会談の推移が詳細。野村吉三郎大使らとの写真、マニラ会談の際の写真、作者略歴つき。関連する本文はこちら

附属図書館二階の旧分類書架に配架。

秦郁彦編『日本陸海軍総合辞典』東京大学出版会、1995、第四版（人名辞典）

陸海軍軍人名辞典と時事辞典の二部から成る。第一部人名辞典に横山一郎の記載あり。第二部時事辞典にはマニラ会談の項はなかった。『海へ帰る』にない記載事項として「明治33.3.1生（没年記載無し）」。「回顧録『海へ帰る』」との記載あり

外山操編集『陸海軍将官人事総覧』芙蓉書房、1981年（人名辞典）

陸海軍の佐官以上の将官の略歴を記載。『海へ帰る』にない記載として「海大28優」とある。附属属図書館一階、参考図書、人名辞典のコーナーにある。

5-3ウィロビー少将について（仲村和代）

ウィロビーCharles A. Willoughby(1892.3～1972.10)

★経歴について

ドイツ生まれ。1941年よりマッカーサーの参謀を務める。日本占領後、GHQ参謀第二部（G2）部長。

★人物像

徹底した反共主義者。ナチス礼賛者で、みずから「小ヒトラー」と呼ばれるのを好む。日本国内の共産主義者、リベラリストの活動を常に警戒し、GHQ内部の左翼的人々の監視も行っていた。共産党非合法化を主張し、のちのレッドパージや、1949年にだされた「団体等規正法」に大きな影響を及ぼす。GHQ内の進歩派の人々とは対立し、特にホイットニー率いる民生局（GS）との対立抗争は有名である。

○「団体等規正法」：「反民主的」とにらまれた団体組織に対し、日本政府が責任者を尋問に呼び出す権利と資料を提出させる権利を定めたもの。

MacArthur Reportの編纂者はウィロビー少将であった。占領終了後にウィロビーはチェンバレン(John Chamberlain)と共著で戦争中のマッカーサー軍の戦記を執筆した。それが、MacArthur 1941-1951,McGraw-hill, 1954。京大では経済学部と法学部に所蔵されている。マニラ会談について書かれた部分はこちらを参照

5-4マッカーサーについての文献調査報告（小島千絵）

1．調査の方法

京都大学OPACで入力して検索し、得られた文献を実際に調査する
付属図書館のカード目録で探す
付属図書館の開架図書の新分類・歴史の書架で、マッカーサーに関連のありそうな本を探す
文学部図書館現代史の書架でマッカーサーに関連のありそうな本を探す
文学部図書館の目録でマッカーサーで検索
ここでは洋書は省いた。

2.調査結果

他の人によってすでに紹介されている本は割愛した。

パシフィカス著・高田元三郎訳『マッカーサー元帥の日本再建構想』毎日新聞社、1947年

文学部図書館現代史の書架で発見。
帯には「原著者は開戦より現在まで終始元帥と行を共にせる米国新聞界の巨頭である」と書かれている。訳者によれば、この本の著者は「職務上の理由から」本当の名を明らかにしていない。
この本の目的は敗戦直後の日本国民に対してマッカーサーの生い立ち、軍での活躍などに触れつつ、日本占領政策について知らせようとするものである。その性質上、マッカーサーをひたすら称えるような文章が目立ち、さらに出典の明らかでない引用が多いの上著者までが名前を伏せているので信憑性にはかけるが、マニラ会談について詳しく紹介されている。この記述をMacArthur Reportsの会談に関する部分と読み比べてみると、この本がGHQの関係者とくにG2関係者によって執筆されたものであると、推測できる。少なくともアメリカ軍の資料を利用できる立場になければ、以下のような叙述は不可能である。
本文96pから106pにかけてマニラ会談についての記述あり。
日本の条件付受諾に至るまでの関係外交文書の紹介
マニラ会談の進行の様子
部屋の紹介
日本代表の着席の順序（ここで紹介されているのは8月19日夜の会談の席次であり、翌日の会議の席次ではない。ただし、MacArthur Report の注記の着席順とは異なる。出席者の顔ぶれは横山一郎の回想録と異なっているが、アメリカ側の着席順は横山回想録のそれと同じなので、MacArthur　Reportsのほうがまちがいと思われる。）

『マッカーサー元帥の日本再建構想』パシフィカス著より抜粋（94pから106p）注）旧字体は新字体に直した。（人名を除く）。また、ルビは（）内にいれて後ろにおいた。

八月十四日、天皇が敗北のやむなき事実を認め、日本の指導権を彼自身の手におさめた時、戦争は了つた。

七月二十六日のポツダム宣言による無條件降伏の要求を受諾して、天皇は退位の用意あることを明らかにした。ポツダム宣言の諸条件は、トルーマン大統領がこれに絶対的指示を与え、本宣言書を太平洋における大闘争を終局せしめる基本として提供することに指導的役割を果し全連合軍によつて承認されたもので、すでに示された通り、マッカーサー元帥並びに米国の最高指導者たちの賢明なる政治性を反映したものだ。

日本の降伏は正式に第二次世界大戦に終止符をうつた。天皇は劇的環境の下に、親しくこれを日本国民に声明した。勅語はラジオを通じて国民に放送された――まことに天皇の最初の放送であつた。

マッカーサー元帥が日本占領連合軍の最高司令官となることは当然であつた。彼は連合軍のいづれの指導者よりもアジアに関し、広範な知識を持つていたし、彼こそは太平洋戦争における勝利の建設者であつたことは全世界の認むるところであつた。世界の文明圏はことごとく彼の就任の報を祝福したが、しかしいかなる軍事評論家も、彼が現在彼の上にもたらされた驚異的成功を収め得ようとは夢想だにしなかつた。

連合軍の政治的指導家の中には、元帥がほとんど不可能に近い任務を引きうけようとしていると考えたものも少くなかつたようだ。日本はなお武装した数百万の兵力をもつていたから、もしかれらが天皇の命令に従わなければ、長期的な激しい抵抗をつづけることも可能だつた。連合軍の指導者は、多数の狂信的日本人が降伏に反対していたことも知つていた。またかれらの多くが、天皇の命令を聞かなかつたと称して、戦闘を継続するだろうということも、ありうることとして想定していた。過去幾ヵ月にわたり、連日連合国に向つて放送された日本帝国主義者の宣伝は、日本国民が降伏よりむしろ死を選ぶ決意のもとに完全に団結していることを伝えていた。だから多くの連合国側の観測者は、元帥はきわめて有難くない仕事にとりかからなければなるまいと考えたのだ。しかし元帥自身は、日本人の大多数が戦争につかれ、降伏して再び世界の前に復興する機会を得ることを希つていることを察知し、その信念の下に行動した。果して諸多の事実は、元帥がいかに賢明であつたかを証明するのみだつた。日本人は彼の堅い正義の指導に服するであろうという彼の信念の正しさが、時のたつに従つて明らかになつたのだ。元帥は最高司令官の任命を受けて後、ポツダム宣言の規定する降伏条件の実施を推進すべき指令を受けた。

元帥は、降伏の瞬間から、天皇はよし在位を許されるとしても、天皇および日本政府は最高司令官としての彼の権威に服従するという事実の重大さを認識した。彼に対するこの任命は、彼に最大の責任を課すると共に、きわめて大きな権力をも与えたものである。彼は、海外に出ている米国官吏として前例のない最高の責任を負わされたわけだが、これによつて彼は史上最大の国際劇における花形的存在となり、軍人出身の政治家としての地位がはつきり確立された。

しかしながら、占領が非常な危険性を包蔵していたことはいうまでもない。元帥はこの問題に独特の洞察力と勇気と決意とをもつて臨んだ。

彼はまず日本政府に、ルソン島制圧後に設けた米軍司令部の所在地マニラに、その代表者を空輸すべきことを命じた。これらの代表者は、占領に伴う要務について彼の指令を受けるためのもので、最高司令官およびその部下が日本の土に足跡を印する前に処置されねばならない多くの事項があつたからである。

天皇は元帥の指令に基き、日本使節の首席として陸軍中将河邊虎四郎を選んだ。河邊は十五名の日本人を帯同して八月十九日、空路マニラに到着した。彼は日本の武装軍隊並びに船舶に関し、司令部の要求する処置の梗概を指示され、翌日東京へ帰還した。

元帥は日本の事情を正しく判断していた。日本における連合軍捕虜および抑留者の保護、並びに最初の陸上部隊と連合軍海軍部隊の安全を確保するための警備に関して、彼の命令がその通りに実施されるということは、元帥の判断が正しいかどうかを裏書する事になるのである。ところが果然、元帥の要求受諾の報が東京から時を移さず届いた。

日本の条件付受諾に至るまでの関係外公文書を次にかかげる。

スイス公使館、ワシントンD. C.　一九四五年八月十日
拝啓　本使は駐瑞西日本公使が日本国政府の指令に基き、合衆国政府に対し、別項の通告をなすべきことを瑞西国政治部に依頼し来りたる事実を通告するの光栄を有し候
世界平和の大義を昂揚し、戦争継続のため蒙るとあるべき人類の災害を防止するの見地より、戦闘の急速なる終焉を希求し給える天皇陛下の優諚に基き、日本政府は数週間前より中立関係にありたるソヴィエト政府に対し、敵国との平和回復のために仲介の労をとらるべく要請仕り候。不幸にして平和のためのかかる努力が失敗せるにより、日本国政府は、全般的平和を回復し、戦争による言語に絶する苦悩を可及的急速に終息せしめんことを希い給える陛下の優渥なる思召を体し次の如く決定致候
『日本国政府は、合衆国、大英帝国、中華民国の首脳により一九四五年七月二十六日ポツダムに於て発せられ、その後ソヴィエト政府の参加せる共同宣言が、主催者としての天皇陛下の大権を毀損するいかなる要求をも規定せざることの諒解において、同宣言に掲げられたる諸条件を受諾する用意あり』
日本政府は右の諒解事項が諒承せられ、該諒承の明らかなる指示が速に来らんことを切望致候
右通牒を交付するに当り、日本国公使は、日本政府が合衆国政府に対し、瑞西国を経由し右回答を寄せられんことを希う旨付言致候。同一の要請スエーデン政府を通じて大英帝国並にソヴィエト社会主義共和国政府に、瑞西国政府を通じて中華民国政府に伝達され、ベルン駐剳の中華民国公使は瑞西国政治部によつて上記事項につき通告を受理され居候
本使は合衆国政府の回答を幣国政府のために受け幣国政府に送達すべくつねに貴意に任ずるものなることを申入れ度、本使は茲に閣下に対し重ねて最高の敬意を表するものに御座候
　　合衆国国務長官　ジェームス・F・バーンズ閣下
　　　　　　　　　　　　　　　　　　瑞西臨時公使
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　S・グラスリ

次の文書は、国務長官よりの日本の条件付受諾に対する回答である。

　一九四五年八月十一日
　拝啓　八月十日付貴翰正に落手致候。右の回答に関し、米国大統領は予に対し貴国政府が合衆国、大英帝国並にソヴィエト社会主義共和国および中華民国の政府のため、貴官に送付するよう命じ来り候「主催者としての天皇の大権を毀損するいかなる要求をも規定せざることの諒解において」日本政府がポツダム宣言の諸条項を受諾するといえる通告に関する連合国の立場は次の如くに御座候
降伏の瞬間より、天皇および日本政府は、降伏条件履行に必要と認めらるる手段を講ずる連合軍最高司令官の指示に従ふこと
天皇は、日本政府並に日本大本営によるポツダム宣言の条項実施に必要なる降伏条件に対する署名を認め、且つ全日本軍に対し命令を発することを要求せらるべし
　　瑞西臨時公使
　　　　　マックス・グラスリ閣下

翌日マッカーサー元帥は、連合軍最高司令官として、天皇、日本政府および大本営に対しつぎの通告を発した。

予は連合軍（合衆国、中華民国、ソヴィエト社会主義共和国）最高司令官に任ぜられ、可及的速かに敵対行為の停止のため、直接日本当局と協議する権限を附与せられたり。
我軍司令部と貴国司令部の無線通信の継続的使用に充当するため、東京地区放送局が正式に指定さるることを希望す。本通告における貴国の回答において、呼出記号、周波数、放送局の位置を通告せられたし。
マニラにおける我司令部との無線通信には英語の使用を望む。
右に指定せる東京地区放送局の指定が貴国側において決定するまで、波長一六一二キロサイクルのJNR放送局が本目的のために使用せらるべし。本通告受理確認のこと。

この連合軍最高司令官マッカーサー元帥から天皇並びに大本営に対し発せられた元帥の司令官任命、降伏条件履行の予備処置に関する通告が、東京地区放送局によつて受理されたことが、マニラ時間八月十五日夜十一時ごろ無線によつて伝えられた。だが、それまでにはずいぶん手間どつた。というのは、十五日正午過ぎから、信号対は通信第一号（上記の通告）を数個の日本波長で送り始めたが、数時間たつても何の返事もなかつた。そこで米国の諸無線局に援助を頼んだのだ。その日の夕方頃には、米国から、そして世界の他の首都から、この通告をのせた電波が、日本へ殺到した。そして午後九時にようやく第一号が、十一時には第二号の受理が確認されたのである。

元帥は日本降伏の広報をうけ、ついで連合軍最高司令官に任命された時つぎの如く述べた。

「予はこの大戦争がまさに終らんとすることを慈悲深き神に感謝する。予は直ちに敵対行為をやめ、これ以上の出血を停止する手段を講ずるであろう。勝利のために敢闘した多数の男女は、今や適当な時期に故国へ帰還し、再び市民としての日常生活に入ることができるのである。かれらは戦争中は立派な兵士であつた。同様にかれらが平和な良き市民たらんことを祈るものである」

　マニラ時間、八月十六――十七日の真夜中をすぎた頃、元帥はつぎの通信を日本政府及び日本大本営から受けた。

「瑞西政府を通じ送達ありたる合衆国政府の通牒、並に東京無電局に達したるマッカーサー元帥の通牒を受理せるにつき、つぎの連絡をいたしたし。
一、天皇陛下は八月十六日十六時全軍に対し、直ちに敵対行為を中止すべく勅令を発せられたり。
二、右勅令はつぎにかかぐる時間の経過をもって前線に達し、充分なる効果を発すべし。
a、日本全土――四十八時間
b、ブーゲンビル、ニューギニヤ、比島を除き、中国、満州、朝鮮、南方地域――六日間
c、ブーゲンビル――八日間
d、ニューギニヤ及び比島に於ける各地方司令部の場合は十二日、ただし右指令が第一線部隊に達する日時、乃至達するや否やを知ることは困難なり。
三、戦争の終結と右勅令を関係機関に徹底せしめんとする陛下の聖旨を伝達するため、皇族が勅使として中国出征軍、広東部隊及び南方地域の各部隊に派遣せらるべし。行程、飛行機の型及び標機は後に通報いたすにつき、右機の安全なる飛行を許可されんことを希望す。
四、軍事顧問と共に資格ある代表者を八月十七日九州佐多岬を出発せしめて派遣すべしとの貴要請に関しては、時間切迫のため当方の飛行機準備不可能にして誠に遺憾に堪えず。但し当方においてもただちに必要なる準備を整え、可及的迅速に右代表出発の期日をマッカーサー元帥に通報すべし。
五、連合軍最高司令部との通信方途はつぎの如く提案す。
a、日本側の通信発信並に受信者は大本営並びに政府
b、日本側放送局は東京放送局、コールサインはJNP、波長一三七四〇KCS
c、通信方法――無線電話
d、用語――英語
六、マッカーサー元帥の通牒に示されたる飛行機の型の諒解つかざるにつき、右型の明示を重ねて要請す。
七、マッカーサー元帥よりの全通牒の受理を確実にするため、現在5の頭書を有する特定通信ルートを通ぜられんことを重ねて要請す。

八月十九日夜、戦禍を蒙ったマニラ市庁舎において、日本の陸海軍使節は、最高司令官並びにその部隊の日本進駐に必要なる情報を提供するため、元帥の幕僚と会見した。

午後正九時、日本代表は参謀長リチャード・K・サザーランド中将の部屋に案内され、かれらの信任状を提出した。五分後かれらは三階のG３参謀次長ステファン・J・チェムバレン少将の部屋に列をなして進み、米陸軍代表が長い黒いテーブルをはさんで対坐した席上で、必要なる情報の提供を命ぜられた。

会議室唯一の装飾は戦争地域の大型掛地図と、この部隊の数々の戦功を記録した「南太平洋の梯」（サウスパシフィックのラダー）として知られている壁掛けトロフィであつた。このトロフィは、木彫の鷲の爪から射撃賞についている棒のような三十本の棒が吊るされ、その各々に一九四二年八月二十五日ミルン湾から、一九四五年五月一日タラカンに至るまでの勝利の名と日付が刻みこまれるという趣向にできている。これはチェムバレン少将の創意になるもので、これまで紹介されたことがなかつたが、日本代表達は右方に眼を向ければこのトロフィを見ることができた。

この会談で日本代表はつぎの順位で着席した。海軍軍務局吉田秀實大佐、海軍参謀大前敏一大佐、同横山一郎少将、首席使節陸軍参謀次長河邊虎四郎中将、陸軍参謀本部第一課長天野正一少将、及び陸軍参謀本部軍務局課員山本新大佐。吉田大佐と向かい合つてG2参謀次長チャールズ・A・ウイロビイ陸軍少将、これにつづいてG4参謀次長レスター・J・ホイットロック陸軍少将、太平洋地域最高司令官付企画参謀次長フォレスト・P・シャーマン海軍少将、参謀長リチャード・K・サザーランド陸軍中将、参謀次長スティーヴン・J・チェムバレン少将、極東空軍参謀長ドナルド・R・ハッチンソン准尉、そして一名宛の通訳がテーブルの両端に着席した。各代表は自席に用紙と鉛筆の包を持つていた。会議は数時間かかるものと考えられた。

日本将校たちはロザリオ・アパートメントの宿舎から市庁舎までチャールズ・ウイロビイ少将に付添われてきて、まづ会議手続についての訓示をうけた。代表たちはみな灰緑色の制服を着用し勲章をつけていた。かれらは市庁舎までは儀式用の刀剣を制服の一部として帯びることを許されたが、ピストルの携帯は許されなかつた。

午後八時五十七分護送のサイレンが市庁舎の外で鳴りひびいた。少数の兵士の群は歓声をあげた。しかし参謀たちをのせた自動車の列が市庁舎の庭に入つてきた時にはもう静かになつていた。日本代表たちは、気をつけの姿勢の警備兵の間をぬけて、市庁舎の階段をあがつて行つた。ここで六ヶ月前、日本の陸海軍兵士がアメリカの砲銃弾に倒れたのだ。

カーキ色の制服にヘルメット帽をつけた警備兵たちは、騎銃または四十五ミリ口径短銃で武装し、短銃は布バンドから吊り下げていた。かれらはE中隊、第二歩兵大隊、司令部並びに特別部隊から集つてきたものである。E中隊は去る五月、十七ヶ師団の中から選抜して編成された名誉警備中隊（オーナー・ガードコムパニイ）である。ほとんど全員が戦闘歩兵章（コムバツト・インファントリー・バッヂ）をつけていた。

ウイロビイ少将は日本代表をサザーランド中将の控室に案内し、そこの机の上に軍帽及び剣をおくように命じた。まず第一に河邊中将が入室、他の代表は階級順にこれにつづいた。サザーランド中将は三つの星だけついたカーキ色制服をつけていた。日本代表が列をなして室に入り、将軍と向かいあつて気をつけの姿勢をとつた時、彼もまたいかめしく同じ気をつけの姿勢をとつた。

河邊中将は代表団の信任状を取り出した。彼は二度固苦しく頭を下げた。彼の制服の四条のリボンがきらめいた。そして信任状をサザーランド中将に提出すると、将軍は二度うなづいてこれを受理し、室を出て階上の協議室に入つた。六名の日本代表が将軍に従って情報提供の会議に臨むよう命ぜられ、他は宿舎にかえされた。信任状提出の場面は、サウンド版映画、従軍新聞記者写真班、および信号隊のカメラマンによってフィルムにおさめられた。信任状の提出された室には二つの地図がかけてあつた。戦闘地域の十万分の一縮図と北大西洋の六百万分の一縮図であつた。

翌日元帥はつぎの声明をなした。

「日本軍使は総司令部に報告をした。かれらは要求せられた一切の情報を提供し、連合軍側の指令はかれらによって日本政府並びに大本営に伝達されつつある。連合軍最高司令官の資格をもつて、予は陸・海・空軍からなる部隊と共にまもなく日本に進駐するであろう。上陸に適する天候次第で、降伏書の署名は十日以内に終了するものと予期される。
合衆国、中華民国、大英帝国、ソヴィエト社会主義共和国、並に日本と交戦せる爾余の連合国家のために、日本武装部隊の全面的降伏が行なわれた時、余は大本営に命じて、いかなる地域にある日本軍司令官といえども、かれら並にその指揮下にある全部隊が適当なる戦場司令官の前に無条件降伏せよとの全般的命令を発せしむるであろう。比島以南の西南太平洋地域に対する責任は、英国及び豪州軍司令官によってとられるであろう。
降伏書の作成が正式に完了するまで、前戦線は完全なる休戦状態に入り、無血降伏の実の挙げられんことを予は熱望してやまない。」

杉捷夫等訳『日本再登場』1952年

（OPACでの検索により発見）
フランスの月刊誌「レ・タン・モデルヌ」より編訳したもの。
書架には見つからず

林茂雄『マッカーサーへの手紙』図書出版社、1986年（研究書）

付属図書館２階新分類歴史
占領時の日本人がマッカーサーに宛てて書いた手紙を取り上げ、書き手の現在について、また当時の状況について触れたもの。
マニラ会談に関する記述はなし

西鋭夫『國破れてマッカーサー』中央公論社、1998年（研究書）

付属図書館２階新分類歴史
占領時の日本とマッカーサーについて述べたものである。
マニラ会談に関する記述は見つからず。

ダグラス・マッカーサー著、津島一夫訳『マッカーサー回想記』朝日新聞社、1964年（回想記）

総合人間学部図書館書庫　文学部図書館　
マッカーサー本人が記した自伝。朝日新聞に半年間連載された。マニラ会談に関する詳しい記述はないが、少し触れているところがあるのでここに引用しておく。

マッカーサー回想記（下）106ｐより

降伏に関する最初の交渉には、むろん私は関係しなかったが、日本政府が降伏条項を受諾したのち、その実行に当るのは私の仕事になった。私は放送で東京に対して、日本側代表団をマニラにさし向けて降伏式に関する指令を受け取るよう、はっきりした指示を与えた。日本側は厚木飛行場を修理し、飛行場にあるすべての日本機のプロペラをはずし、飛行場から横浜までの輸送を用意し、同市のニューグランド・ホテルを連合国に提供するよう指令された。私の総司令部は臨時に横浜に置き、降伏式は東京湾内で「ミズーリ」号艦上において行うこととなった。日本側が出した反論はただ一つ、私の到着予定場所に厚木飛行場を使用することに熱心に反対しただけだった。日本側は明らかにそれは危険が多過ぎると感じていたようだ。

袖井林二郎『マッカーサーの二千日』中央公論社,1976年
（研究書）

総合人間学部図書館書庫
マッカーサーの幼少期・青年期などにも触れつつ、マッカーサーが日本で最高司令官をつとめた二千日を明らかにしようとする研究書。引用・出典が示されている。
以下マニラ奪還からマニラ会談へと至る状況を解説した部分を抜粋する。（本文68ページから73ページ）途中に（略）とあるのは私小島の判断で略したものである。

マッカーサー進駐の日

一九四五年二月六日、「マニラ奪還なる」と声明したとき、マッカーサーは「次は東京だ」と叫んだ。だが「蛙飛び作戦」最後の大ジャンプとなるべき日本本土攻略作戦「ダウンフォール」では、まず九州上陸の「オリンピック」作戦が十一月に行なわれ、ついで翌四六年春の「コロネット作戦」で本土上陸という手順になっていた。東京までの長い道が前途にあった。

彼はこのころルーズベルト大統領の特使としてマニラの前線を訪れたロバート・シャーウッドに、日本占領の哲学を次のように語っている。

「日本の軍隊が完全に潰滅すれば、ヒロヒトの神聖も国民の前で潰滅してしまう。そうすれば精神的虚脱が生じ、新しい考えをうけ入れる機会ができよう。日本国民は彼らに敗北をもたらした多くの手段に対して、恐怖と尊敬をあわせ持つことは避けられないだろう。彼らは力が正義をつくることを信じて、われわれアメリカ人こそ正義の士であると結論するだろう。」（Robert E. Sherwood, Roosevelt and Hopkins Vol.2）

四月五日に行なわれた太平洋の米軍部隊の再編成で、マッカーサーは太平洋の全地上部隊を指揮することになったが、海軍部隊がニミッツ提督のもとに、また新設の第二十戦略空軍がアーノルド将軍のもとにおかれ、三軍が分立するかたちとなったのは気にいらなかった。彼は太平洋の全米軍を統轄する司令官の必要を感じていたのである。ヨーロッパ戦線ではアイゼンハワーがすでにそのポストについており、それは成功だった。だから八月四日に、沖縄の第八空軍のドーリットル司令官が、単一の総司令官のもたらす利点を強調し、マッカーサーをその候補にあげていたのは、多いに彼のエゴをくすぐったことであろう。だが結局マッカーサーは、戦闘を指揮するためでなく、占領を指揮するために、念願の総司令官に任命されることになる。その日は考えていたよりも早く到来した。八月六日広島に、そして九日長崎と投下された二発の原子爆弾と、ソビエトの参戦が、瀕死の日本に止めをさしたのである。フォールダウン倒壊した日本にもはや、「ダウン・フォール」作戦は無用だった。

（マッカーサーが原爆の投下とソ連の参戦についてどのような見解を取っていたかの考察が九行にわたって続くが略）

原爆投下とソ連の参戦によって事態が絶望的になったことは、日本の指導部も認めざるを得なかったが、彼らの最後の関心は日本の国体、つまり天皇の地位の存続にあった。八月十日、日本政府はポツダム宣言の受諾について、スイス政府を通じて次のような条件付回答を寄せる。

「･･…右宣言ハ　天皇ノ国家統治ノ大権ヲ変更スルノ要求ヲ包含シ居ラザルコトノ了解ノ下ニ受諾ス」

これに対し翌十一日アメリカ合衆国が連合国を代表して送った回答は次のようなものであった。

「降伏の時より、天皇および日本政府の国家統治の権限は連合軍最高司令官に従属し、同司令官は降伏条項の実施のため必要と認める措置を取る。･･…日本の最終的な政治形態はポツダム宣言に従い、日本国民の自由に表明する意思によって決定する･･…」（傍点筆者）

この回答の中の傍点部分を日本政府が公式の訳文で「ノ制限ノ下ニ置カレルモノトス」と曲訳したのは有名な事実だが、やがて任命されるべき連合軍最高司令官が、天皇および日本国民の上に位し全権をふるうということは、そうした小細工では動かしようもなかった。

その最高司令官の権限と栄誉を担うものは誰か――スペキュレーション推測がさっそく始まった。ある雑誌記事は次のようにいう。「大統領新聞係秘書チャールズ・Ｇ・ロスは、先週、日本の降伏提案に対する連合国の回答の中に挙げられた最高司令官にはアメリカ人が任命されるということを確認した。三千マイルの大洋を越えてアメリカ軍を勝利に導いた人々が偉大なきら星の如く並ぶ中で、そのうちの一人が、かつては神聖だった日本の天皇を通じて、平和を達成するという至高の権限を手にするのだ。推測される何人かの候補者の中で一人ぬきん出ているもの、それはマッカーサー陸軍元帥である。アメリカの戦時指導者すべての中でこの将軍は、ジャップと最も長期間にわたって戦い、最もいまいましい敗北を初期に喫し、しかも最も輝かしい再起をなしとげたのだ。他の司令官の誰にもまして、マッカーサーの生々とした個性はこのモダン・ショーグンの役割に適することであろう。」（米国立公文書館所蔵切りぬきより。封筒番号０００７５、誌名、日付なし）

天皇を通じて日本国民を支配する、それこそまさに将軍家の機能にほかならなかった。明治維新によって最後の将軍が廃絶されて以来、七十余年ぶりで、日本は将軍を戴くことを強制される。しかも史上初めて戦いに敗れての結果であってみれば、乗り込んで来るショーグンが紅毛碧眼の偉丈夫であることは是非もなかった。（将軍の説明･中略）

トルーマン大統領は八月十四日の午後七時、ホワイトハウスに集まった記者団に対し、日本が正式にポツダム宣言を受諾したこと、および日本の降伏を受け入れる連合軍最高司令官としてマッカーサーを任命することを発表した。ソ連はその前にハリマン米駐ソ大使に対し、マッカーサーとソ連極東軍司令官ワシレフスキー元帥からなる複数の最高司令官の制度を提案したが、ハリマンはそれは絶対に認められないと答えた。ポツダムの会談でソ連側の対日要求がかなり大きいものであることを見てとったトルーマンは、日本占領は決して分割占領であってはならず、アメリカ政府の任命する司令官の下に行なわれなければならないという決意を固めていたのである。スターリンはソビエト軍による北海道半分の占領も主張したが、結局は譲歩した。日本本土の占領に関しては、ソビエトが「正当な権利」を持たなかったことは、スターリンといえども認めざるを得なかった。この場合「正当な権利というのは、ある国がその国民の生命を犠牲にした場合、それがどのようなものであろうと、その国が勝利を得たのちは、支配する権利があるという伝統的意味においてである」（ハーバート・ファイス著、赤羽竜夫訳『日本占領秘史』）

アメリカ側がこのように周到な決意で占領を開始しようとする中で、日本は歴史始まって以来の敗戦による虚脱の中にあった。総司令官マッカーサーがそのような覚悟で日本に乗り込んで来るのか、それにどう対処しようとするのかという考えも浮かばなかったのは当然である。八月十六日の新聞には「ストックホルム特電十三日発」として、次のようなどこか間のびした記事がのっている。「四ヶ国政府による日本政府の回答受理に続くものは彼我軍最高司令官による休戦交渉であるが、米側新聞報道によれば交渉は数日中に或ひは米国軍艦上において或ひは沖縄島において行はれるべく、連合国代表はマッカーサーが指名されたといはれる･･…」（読売報知新聞）これだけ読んだのではどちらが敗けたのかわからない。

実際には、日本国民が天皇のラジオ放送で敗戦を知った十五日の正午すぎから、マニラの米軍信号隊はマッカーサー最高司令官の名で、降伏条件履行のため日本側代表団をマニラに送るよう指令を送りつづけていた。八月十九日参謀次長河辺虎四郎中将を団長とする一行は、白塗りの「一式陸攻」機で沖縄の伊江島へ、そしてそこから米軍機でマニラに到着する。マニラでの会議のアメリカ側の代表はサザーランド参謀長であり、マッカーサーは会議に顔を見せなかった。主役の出番はまだだというわけである。『ニューヨーク･タイムズ』は十六日の社説で、マッカーサーが最高司令官として適任であるとし、任命後最初にとった処置を次のように誉めた。

「マックアーサーが日本代表者を呼び寄せたことは第一着手として好適であつた。それによつて日本国民、就中その指導者たちに日本が単に戦争において一時的に後退せしめられたくらいの生やさしいものではないとの事実、ならびに日本が参加を許された最後の戦争において敗北したといふ苛烈な事実を印象付けようとしたものであつた」（『朝日新聞』八月十九日）。

河辺中将ら一行が帰国の途についた翌二十日、それを追いかけるようにマッカーサーは次のような声明を発した。「日本軍使は総司令部に報告をした。彼らは要求せられた一切の情報を提供し、連合国の指令は彼らによって日本政府並に大本営に伝達されつつある。連合軍最高司令官の資格を持って、予は陸･海･空軍からなる部隊と共にまもなく日本に進駐するであろう」（パシフィカス、高田元三郎訳『マッカーサー元帥の日本再建構想』より）。

マッカーサーの進駐の日は八月三十日、場所は神奈川県厚木基地とされた。特攻隊の訓練基地であり、敗戦を受け入れぬ特攻隊員がつい先日まで反乱を叫んでいたこの厚木へ米占領軍が進駐することに、日本側は最後まで反対したが、サザーランド参謀長は頑としてゆずらなかった。それがマッカーサーの意思だったからである。

日本国際政治学会編『日米関係の展開』日本国際政治学会、1961年（研究書・学術雑誌）

幕末から1960年くらいに至る日米外交の展開を追ったもの。
マッカーサーに関する記述は、『トルーマン･マッカーサー論争と朝鮮戦争』という本の書評以外には見当たらなかった。

ジョン･ガンサー著、木下秀雄、安保長春訳『マッカーサーの謎―日本･朝鮮･極東―』時事通信社、1951年（ルポルタージュ）

新聞記者、ジョン･ガンサーによるマッカーサーの人物像。
記述は時系列には沿っていない。
マニラ会談に関する記述は見当たらなかった。

高桑幸吉著『マッカーサーの新聞検閲―掲載禁止･削除になった新聞記事―』読売新聞社、1984年（研究書）

日本占領時に掲載禁止･削除になった新聞記事を集めたもの。
マニラ会談には関係なし。

6授業再開にあたって9月26日

1.現在の到達点の確認

夏休み前に、課題を設定し、7月末までにそれぞれ報告を出してもらった。その報告は、基礎演習のWebページとマニラ会談関係史料集にまとめた。最近提出されたものが２本あるが、それはまだWebページには載せていない。

Webページに掲載されたものが、現時点でのわれわれの成果といえる。マニラ会談については、かなりの程度基本的な情報やデータを収集できた。

2.今後の課題

さらに情報・データを取集する。何を収集すべきか、方針をたてる。
それを整理し、Webページ、史料集に掲載する。決定版史料集を作成する。
集めた情報・データをもとにマニラ会談の全体像を記述する。マニラ会談史の作成。
集めた情報・データをもとにビデオ映像の説明原稿を作成する。
文献資料からは得られない情報・データを映像から読みとる。
特殊研究（個別的なテーマについて研究を深める）
1. マニラ会談で日本側に手交された文書の作成過程の研究（JCS文書、SWNCC文書、GHQ文書）
2. マニラ会談で日本側がアメリカにわたした文書の分析（JCS文書）
3. マニラ会談関係GHQ文書の研究
4. ブラックリスト作戦の研究
5. 沖縄戦・伊江島の戦闘の研究

3.いままでに報告された重要文献・史料

公刊戦史

1.マッカーサーレポート　第1巻、第2巻　1998年　現代史料出版、東出版（公刊戦史）Reports of General MacArthur, Vol.1,2 (U.S.Government Printing Office, Washington D.C. 1966, pp.447-450).

2.服部卓四郎著『大東亜戦争全史』1965年、原書房、初版は1953年

公刊史料集

3.外務省編纂『第二次世界大戦終戦史録』下巻（上・中・下）山手書房新社、1990年（原著の刊行は1951年）

　昭和26年外務省大臣官房文書課において作られた省内資料『終戦の経緯とその資料』およびその改訂版

『終戦史録』を底本としている。昭和20年9月4～6日の第八十八臨時会議に際し、政府によって作成された

冊子｢大東亜戦争終戦に関する資料｣からの転記。

4.外務省編『日本占領重要文書』全六巻、日本図書センター、1989年

『日本占領及び管理重要文書』（外務省特別資料部、1949）を復刻したもの。占領の開始から1951年初頭ま

での、政治・軍事・文化・経済等に関する広範囲にわたる占領関係の重要文書の原文が、事項別・日付順に

分類して収録されている。

5.江藤淳編著『占領史録』第1巻

　（外務省史料中心）

6.Records of the Joint Chiefs of Staff, Part 1: 1942-1945, The Pacific Theater（Micro　Film）

7.SWNCC/SANACC Records（Micro　Film）

8.GHQ/SCAP Records, Top Secret Records of Adjutant General's Section（reprint）

回想録

9.パシフィカス著・高田元三郎訳『マッカーサー元帥の日本再建構想』毎日新聞社、1947年

10.岡崎勝男「降伏軍使マニラへの旅」河辺虎四郎日記抄録（1945年8月16日～）

11.河辺虎四郎日記・回想『河辺虎四郎回想録』毎日新聞社、1979年

12.横山一郎『海軍少将　横山一郎回顧録/ 海へ帰る』1970年、原書房

13.ダグラス・マッカーサー著、津島一夫訳『マッカーサー回想記』朝日新聞社、1964年

14.ハリー・Ｓ・トルーマン著『トルーマン回顧録１』恒文社、1966年

研究書

15.鈴木九萬監修『日本外交史』26巻（全34巻）鹿島平和研究所、1973年

16.袖井林二郎『マッカーサーの二千日』中央公論社,1976年

17.荒敬『日本占領史研究序説』柏書房 1994年

現代文化学基礎演習２（2000年度：永井）

映像で見る占領期の日本

－占領軍撮影フィルムを見る－

1945年8月のマニラ会談の映像

目次

1.受講者名簿

2.演習のテーマ

3.映像の第一次説明原稿（谷岡、飯島）

3-1.第35巻の1

Roll#1のキャプション

シーン1

シーン2

シーン3

シーン4

Roll#2のキャプション

シーン5

シーン6

シーン7

シーン8

シーン９

4.要調査項目

どのように調べるか

調査項目の分担（5月16日分）（記録：谷岡）

要調査項目･追加分（5月23日分）（記録：飯島）

要調査項目・第二次追加分（6月27日）

5.調査結果の報告

5-1マニラ会談について

5-1-1.附属図書館（山田梨津子）：5月23日報告

(1)毎日新聞社編『最新昭和史事典』1986年、毎日新聞社（事典）

(2)辻清明著『図説日本の歴史 18 戦後日本の再出発』1976年、集英社（概説書）

(3)朝日ジャーナル編『昭和史の瞬間 下』1974年、朝日新聞社（概説書）

5-1-2 附属図書館での調査（市川裕子）：5月23日報告

(1)袖井林二郎・福島鑄郎編『マッカーサー記録 戦後日本の原点』1982年、日本放送出版協会（概説書、写真集）

(2)安田武・福島鋳郎編『ドキュメント昭和二十年八月十五日占領下の日本人』1984年、双柿舎 （史料集）

5-1-3 附属図書館での調査（井波和夫）：5月30、6月6日報告

(1)江口朴郎他編『戦後日本史1』1961年、青木書店（概説書）

(2)服部卓四郎著『大東亜戦争全史』1965年、原書房、初版は1953年

(3)防衛庁防衛研修所戦史部編『戦史叢書85 本土方面海軍作戦』1975年、朝雲新聞社

5-1-4文学部図書館での調査（田中泉吏）：6月6、20、27日報告

（3）E.B.ポッター著、南郷洋一郎訳『提督ニミッツ』1979.5、フジ出版社（伝記）

（4）C･W・ニミッツ、E・B・ポッター著、実松譲、冨永謙吾訳『ニミッツの太平洋海戦史』1962.12、恒文社

(5)マッカーサーレポート 第1巻 1998年 現代史料出版、東出版（公刊戦史）

5-1-5文学部図書館での調査結果（山口匠）：6月6日報告

(1) 芦田均著『第2次世界大戦外交史』時事通信社、1959年（研究書）

5-1-6 文学部図書館での調査結果（田中哲也）

1． ハリー・Ｓ・トルーマン著『トルーマン回顧録１』恒文社、1966年

2.大村立三著『日本の外交家３００人の人脈』読売新聞社、1974年

3.『写真ドキュメント 空白の昭和史 14 日本降伏の様子』エムティ出版、1999年

5-1-7総合人間学部図書館での調査結果（丸岡加奈子）

(1)江藤淳編著『占領史録第一巻「降伏文書調印経緯」』（講談社）

(2)桑田悦，前原透著『日本の戦争･図解とデータ』（原書房）

5-1-8総合人間学部図書館での調査結果（中塚千恵）

『一億人の昭和史４（9月号）空襲,敗戦,引揚』（雑誌） 1975,9月1日発行、毎日新聞社（概説）

5-1-9総合人間学部図書館の資料から（渡辺祥子）

(1)鈴木九萬監修『日本外交史』26巻（全34巻）鹿島平和研究所、1973年

(2)外務省編纂『第二次世界大戦終戦史録』下巻（上・中・下）山手書房新社、1990年（原著の刊行は19年）

(3)外務省編『日本占領重要文書』全六巻、日本図書センター、1989年

＜ポツダム宣言受諾からマニラ会談まで＞

5-1-10経済学部、法学部図書館での調査結果（山田律子）

経済学部

荒敬著『日本占領史研究序説』 柏書房 1994年 （研究書）

終戦連絡事務局について

法学部

5-1-11国立国会図書館のOPAC及びNACSIS-WebCatでの検索結果（谷岡信宏）

河原匡喜『マッカーサーが来た日 8月15日からの20日間』新人物往来社、1995年（研究書）

5-2横山一郎について（田中智洋）

略歴

参考文献について

横山一郎著『海軍少将横山一郎回顧録/海へ帰る』原書房、1980年（回想録）

秦郁彦編『日本陸海軍総合辞典』東京大学出版会、1995、第四版（人名辞典）

外山操編集『陸海軍将官人事総覧』芙蓉書房、1981年（人名辞典）

5-3ウィロビー少将について（仲村和代）

5-4マッカーサーについての文献調査報告（小島千絵）

パシフィカス著・高田元三郎訳『マッカーサー元帥の日本再建構想』毎日新聞社、1947年

『マッカーサー元帥の日本再建構想』パシフィカス著より抜粋（94pから106p）注）旧字体は新字体に直した。（人名を除く）。また、ルビは（）内にいれて後ろにおいた。

杉捷夫等訳『日本再登場』1952年

林茂雄『マッカーサーへの手紙』図書出版社、1986年（研究書）

西鋭夫『國破れてマッカーサー』中央公論社、1998年（研究書）

ダグラス・マッカーサー著、津島一夫訳『マッカーサー回想記』朝日新聞社、1964年（回想記）

マッカーサー回想記（下）106ｐより

(3)朝日ジャーナル編『昭和史の瞬間　下』1974年、朝日新聞社（概説書）

(1)袖井林二郎・福島鑄郎編『マッカーサー記録戦後日本の原点』1982年、日本放送出版協会（概説書、写真集）

(2)安田武・福島鋳郎編『ドキュメント昭和二十年八月十五日占領下の日本人』1984年、双柿舎（史料集）

5-1-3　附属図書館での調査（井波和夫）：5月30、6月6日報告

(3)防衛庁防衛研修所戦史部編『戦史叢書85　本土方面海軍作戦』1975年、朝雲新聞社

(5)マッカーサーレポート　第1巻　1998年　現代史料出版、東出版（公刊戦史）

1．ハリー・Ｓ・トルーマン著『トルーマン回顧録１』恒文社、1966年

2.大村立三著『日本の外交家３００人の人脈』読売新聞社、1974年　

3.『写真ドキュメント空白の昭和史 14　日本降伏の様子』エムティ出版、1999年

荒敬著『日本占領史研究序説』柏書房 1994年（研究書）

河原匡喜『マッカーサーが来た日　8月15日からの20日間』新人物往来社、1995年（研究書）

袖井林二郎『マッカーサーの二千日』中央公論社,1976年
（研究書）